災害危険区域とは何なのか|調べ方・住宅を建てることができるのかも解説
災害発生の危険度が著しく高い場所にある場合、「災害危険区域」として指定し、建築制限が設けられます。
担当物件の所在地やお客様の居住地が「災害危険区域」の指定を受けた場合、不動産営業としてどのように対応すべきでしょうか。万が一の時には、迅速で適切な対応が求められます。
今回は、「災害危険区域」の概要や法令における規定をまとめました。さらに、「災害危険区域」の住民が受けられる助成制度を定めた「防災集団移転促進事業」と災害危険区域と対照的な「居住誘導区域」についてご説明します。
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「災害危険区域」とは
「災害危険区域」とは、水害などによる危険度が著しく高い区域として、地方自治体(都道府県または市町村)の条例で定めるものです(建築基準法第39条)。
「災害危険区域」では、住居用建物(戸建て住宅、マンションなど共同住宅、福祉施設など)の建築が原則禁止されます。
ただし、各自治体が定める条件を満たすことで建築が許可される場合があります。また、住居用以外の建物(店舗・事務所・工場・倉庫など)は、基本的に建築可能です。
「災害危険区域」に指定される条件
「災害危険区域」の指定基準・適用条件や規制内容などは、各地方自治体が独自に定めるため、それぞれに異なります。以下のような条件で指定されることが一般的です。
- 地震による津波の危険性が著しく高い
- 台風による高潮・大雨による出水(洪水や浸水)などの危険性が著しく高い
- 急傾斜地崩壊(がけ崩れ・土石流・地すべりなど)の危険性が著しく高い
「災害危険区域」の指定は無期限
「災害危険区域」は、一度指定されると、原則解除されることはありません。
「災害危険区域」が指定される流れ
「災害危険区域」は、地方自治体の担当部課によって、以下の流れで指定されます。
- 災害が起こったら、被害状況や範囲を調査する
- 「災害危険区域」指定の検討を開始する
- 学識者などで危険度の調査を行う
- 居住地移転または住居の再建について被災者や住民の意向を把握する
- 「災害危険区域条例」を作成する
- 「災害危険区域」を指定する
「災害危険区域」の確認方法
「災害危険区域」の指定を行うのは主に都道府県ですが、指定区域図面の取り扱いは、主に市区町村が行っています。そのため、「災害危険区域」を確認するには、市区町村の役所・役場の窓口に問い合わせる必要があります。
インターネットで閲覧できる自治体もあり、公式サイトから指定区域図面や都市計画図にて確認できます。
「防災集団移転促進事業」について
「防災集団移転促進事業」とは
「防災集団移転促進事業」とは、国民の居住地として不適当と認められる災害危険区域や災害発生地域において、防災の目的で集団的移転を促進する事業です。
事業を行う市町村(または一部の都道府県)は、国土交通大臣と協議し、経費の助成を受けることができます。
「移転促進区域」として指定される
「災害危険区域」または災害発生地域のうち、住民の生命・身体および財産が脅かされる危険度が特に高く、集団的に移転を促進すべきであると認められる区域は、「移転促進区域」として指定されます。
国による助成金の対象となる事業経費
「防災集団移転促進事業」実施における自治体負担の経費のうち、次の項目に対して国から助成金が支払われます。下記の建築事業・不動産取引に関わるには、助成金を受けられるか確認しましょう。
- 住宅団地の用地取得造成
- 移転者の住宅建設・土地購入に対する補助(借入金の利子相当額)
- 住宅団地の公共施設の整備
- 「移転促進区域内」の農地などの買い取り
- 住宅団地内の共同作業所など
- 移転者の住居移転に対する補助
※助成金額は、経費の3/4となります。
※住宅団地の助成要件は、①住宅団地の規模が10戸以上、かつ②移転住戸の半数以上が住宅団地に移転することと定められています。
自宅が「災害危険区域」に指定されたら
①そのまま住み続ける
自宅が「災害危険区域」指定前に建築された住宅であれば、引き続き住み続けることができます。ただし、その後の増改築・建て替えはできなくなります。
②移転促進事業の助成を受ける
災害危険区域や被災自治体では、「防災集団移転促進事業」の支援制度を行う場合があります。自治体が整備した住宅団地を移転希望者に譲渡または賃貸したり、住宅再建世帯に対して助成金を支払うといった支援です。
この制度を利用すれば、経済的なハードルのある方でも、移転や住宅再建を検討しやすくなります。
担当物件が「災害危険区域」に指定されたら
①自治体の条例を確認する
「災害危険区域」の建築条件や禁止事項などは、自治体ごとに異なります。まずは、担当物件の所在する自治体の関連条例・法令を確認します。
②不動産価値の暴落を想定する
「災害危険区域」では、常に災害発生の危険がある上、新築・増改築・建替えができません。そして、一度「災害危険区域」の指定を受けたら、原則として解除されることはありません。
そのため、区域内の不動産価値は暴落することが予想され、最悪の場合、価値がゼロになってしまいます。
③お客様に重要事項説明を行う
担当物件が「災害危険区域」に指定されたら、不動産売買や貸借契約などの取引にあたり、宅建業者が重要事項説明をする義務を負います。指定区域である旨を買主様や借主様に説明し、重要事項説明書を交付する必要があります。
◆買主様・借主様に説明しておくべき項目
- 今後も災害発生の危険度が高い
- 増改築・建て替えができない
- 不動産価値がない
- 過疎化が予想される など
「災害危険区域」条例に従わなかった場合
防災危険区域に建物を新築するなど、各自治体の「防災危険区域指定条例」に従わなかった場合、罰則を受ける可能性があります。
建築基準法第106条の罰則規定によると、「防災危険区域指定条例」を定める第39条2項などに違反した者には、50万円以下の罰金を課すことができるとしています。
現在「防災危険区域指定条例」に罰則を設けている自治体は、35府県+28市町村です。罰則の内容は、急傾斜地崩壊に関する条例違反がほとんどです。
防災危険区域と対照的な「居住誘導区域」とは
災害危険区域や移転促進区域と対照的なのが、「居住誘導区域」です。
国は、少子高齢化・人口減少社会における都市生活の利便性を向上させる目的で、好立地・好条件の「居住誘導区域」に住民が集まって居住することを推進する「都市再生特別措置法(コンパクトシティ法)」を施行しました。
「居住誘導区域」に住民が集まることで、交通や公的サービスが行き届きやすくなり、持続可能な都市・市街地を形成していく狙いがあります。
「居住誘導区域」に指定しない場所
「居住誘導区域」では、利便性・安全性を確保し、コンパクトシティ化を推進するため、以下の場所には指定しないこととされています。
- 災害危険区域
- 土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域
- 津波災害特別警戒区域・津波災害警戒区域
- 急傾斜地崩壊危険区域・地すべり防止区域
- 都市洪水想定区域・都市浸水想定区域・浸水想定区域
- 市街化調整区域
- 農用地区域
- 保安林区域・保安林予定森林区域
- 自然公園法による特別区域 など
まとめ:災害大国で不動産業に携わる意義
■まとめ
- 「災害危険区域」とは、水害などによる危険度が著しく高い区域として、地方自治体(都道府県または市町村)の条例で定めるもの
- 「災害危険区域」を確認するには、市区町村の役所・役場の窓口に問い合わせる必要があります
「災害危険区域」の指定は、常に非常事態の後に行われます。そのため、担当不動産が災害危険区域に指定されたときには、宅建業者は通常の業務とは違う対応を迫られることになります。
しかし、お客様の移転や住宅再建のサポートなど、宅建業者にしか担えない仕事がたくさん生じます。災害大国である日本で不動産業に携わるなら、いつでも適切に対応できるよう心づもりをし、知識を深めておきましょう。
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