「手付金等の保全措置」とは|保全の方法など宅建業者が理解するべき制度を詳しく紹介
プロである宅建業者と個人の取引の際、宅建業者が廃業した等の理由で手付金を取り戻せないケースがあります。そのような事態に個人の買主様を保護する制度が、「手付金等の保全措置」です。
ただし、売買物件の状態によって、保全が必要になるかどうかの条件が変わってきます。担当物件ごとに対応が変わってくることがあるため、制度の概要をしっかりと理解することが必要です。
今回は、手付金等の保全の制度の概要と保全の方法について紹介していきます。
手付金とは
手付金とは、契約締結時に買主様から売主様へ預けるお金のことを指します。
本来であれば売買代金の全額支払いの際に買主様へ返還されるべきものですが、手間を省くために売買代金の一部として充当するのが一般的です。
手付金の種類は、以下の3種類に大別されます。
- 解約手付=買主様、売主様いずれかが契約解除する際の保証金
- 違約手付=債務不履行があった場合の違約金
- 証約手付=購入の意思を示し、契約の成立を証明するためのお金
契約書に手付金の種類が記入されていない場合でも、手付金は「解約手付」であると推定されます。
解約手付は、相手方が債務の履行に着手するまでであれば、手付金を放棄・返還することで契約を解除できるものです。買主様からの契約解除であれば手付金の放棄、売主様からの契約解除であれば手付金の倍返しが条件です。
なお、手付金の金額は売買金額の5~10%が一般的とされています。
【併せて読みたい:売買契約書の重要事項「手付金と手付解除」の定め方】
手付金と申込証拠金の違い
手付金と混同してしまいがちなものに、「申込証拠金」があります。
申込証拠金とは、買主様が購入する意思があることを示して、売主様に払う金銭のことです。金額に決まりはなく、一般的には5~10万円ですが数千円の時もあります。
買主様の側からすると、申込証拠金を支払うことで物件が他の人に売られないようにできるのがメリットです。とはいっても長期間にわたって確保しておくことはできず、一般的には1週間から10日程度です。
手付金が契約の時に支払う金銭であるのに対し、申込証拠金は契約前の物件確保のために利用される点に違いがあります。
手付金と申込証拠金の違いを以下にまとめました。
手付金 | 申込証拠金 |
・契約時に買主様から売主様に支払う金銭
・買主様都合のキャンセルでは返還なし ・宅地建物取引業法で効力が保証されている |
・契約前に購入意思を示すもの
・契約が成立しない場合、売主様から買主様に返還される ・法的な拘束力はない |
【併せて読みたい:申込証拠金と手付金は違う|まぎらわしい2つの特徴と注意点を整理】
手付金等の保全措置とは
「手付金等の保全措置」とは、買主様が支払った手付金が、売主様側の倒産等があっても確実に買主様の手元に戻るための措置のことです。
宅地建物取引業法(第41条・第41条の2)において、手付金等の保全について必要な措置の内容を規定しています。
宅建業者は手付金の保全が必要
宅建業者は、買主様から預かった手付金を保全する義務を負います。具体的には、金融機関などの第三者に保管させる方法を取ります。
保全措置の対象となる手付金は、売買契約を結んだ日以降、不動産の引渡し前に支払われる金銭のことです。売買代金の一部又は全部として支払われる【内金】や、【手付金】の名義で支払われる金銭で、売買代金として充当されるものを指します。
目的は買主様の権利を守ること
手付金等の保全措置は「売主様側が宅建業者、買主様が宅建業者でない」という構図の際に義務付けられます。あくまでプロでない買主様を保護する措置のため、宅建業者同士の取引では適用されません。
手付金等の保全が必要な場合・不要な場合
宅建業者と個人の売買契約であれば、必ず保全措置が必要となるわけではありません。保全が必要な場合と、不要な場合があります。
手付金等の保全が不要な場合
不動産が以下に該当する場合、手付金等の保全措置は不要です。なお売主側の宅建業者が課税事業者であった時は、消費税込みの売買代金に対して手付金等の限度額を判定します。
1.未完成物件 | 受領する手付金等の額が売買代金の5/100以下、かつ1,000万円以下の時 |
2.完成物件 | 受領する手付金等の額が売買代金の1/10以下、かつ1,000万円以下の時 |
3.1又は2の手付金の受領以前に買主様への所有権移転登記がされるか、買主様が所有権の登記をした時 |
手付金等の保全が必要な場合
不要な場合の手付金の限度を超えている場合に、手付金の保全が必要になります。
例えば、売買価格4,000万円のマンション(未完成)に300万円の手付金を支払った場合、5%(200万円)を上回っているため保全が必要です。
手付金等の保全の方法
具体的に手付金等を保全する方法としては、「保証委託契約」「保証保険契約」「手付金等預託契約及び質権設定契約」の3種類があります。
物件が完成しているか未完成かで利用できる方法に違いがあり、完成物件であれば3つのどの方式でも保全可能です。一方で未完成物件の場合は、「手付金等預託契約及び質権設定契約」の方式を利用できません。
保証委託契約
画像引用:住宅比較株式会社|宅建勉強会
宅建業者が受領した手付金等の返還義務について、銀行や信託銀行と連帯して保証する契約です。宅建業者が一定の手数料を支払うこと形で、金融機関と契約を結びます。
また、通常の金融機関以外にも「国土交通大臣が指定した手付金等保証機関」と契約することもできます。
【国土交通大臣に指定を受けた手付金等保証機関】
保証保険契約
宅建事業者が保険事業者へ保険料を支払うことで、手付金等の返還義務に備える契約です。金融機関か保険事業者かの違いはありますが、制度の内容は「保証委託契約」と同様です。
手付金等寄託契約及び質権設定契約
売主の宅建業者、国土交通大臣指定の保管期間、買主様の三者の間で結ばれる契約です。契約は以下の流れで進みます。
- 買主様が指定保管機関へ手付金を預ける(寄託)
- 物件の引き渡しが確認出来たら、指定保管機関が宅建業者へ手付金等を支払う
この「売主に支払われる手付金等」に質権が設定されることで、買主様は万が一の時は質権を行使して手付金等を取り戻すことができます。
完成物件と未完成物件の判断基準
手付金等の保全措置においては、完成物件か未完成物件かで内容が変わってきます。そのため、どのように両者を区別するかが重要になります。定義の違いを確認しておきましょう。
法律においては、「工事の完了」が1つのキーワードになります。取引の対象となる部分が全ての工事が完了していない場合、完了していない部分については未完成であると定義されます。
工事の完了とは、単に外観として建物が完成しただけでは不十分です。人が住める状態になって初めて、工事が完了したと言えます。なお、工事完了の判断をするタイミングは「売買契約の締結時」です。
また、工事が完了しているかの判断は、「検査済証」が取得できているかを判断材料とします。土地においては、「宅地造成の検査済証の取得」が条件です。そのため、更地の取引は「完成物件」です。一方で土地建物の場合は、建物が未完成であれば「未完成物件」として扱います。
まとめ
今回は、不動産売買において重要事項証明書にも記載される「手付金等の保全措置」について説明しました。
関係物件か未完成物件かで保全の必要性が変わってくるため、担当する物件に応じた柔軟な対応をしていく必要があります。そのためには、根幹となる宅建業法をしっかり理解することが重要です。
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