囲繞地(いにょうち)とは|袋池との違いや通行券の拒否・トラブルをわかりやすく解説

投稿日 : 2020年05月09日/更新日 : 2023年04月10日

不動産や土地売買におけるルールは非常に複雑です。

特に建物を建てるのに制限があるような土地は、周囲の土地との兼ね合いもあり扱いが難しいと言えるでしょう。

その中でも争い事の種になりかねないのが「囲繞地」です。

土地の所有者同士がトラブルにならないよう、囲繞地がどのような土地なのか、さらに囲繞地に関わる用語として知っておきたい袋地や土地所有者の権利を詳しく理解しましょう。

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囲繞地(いにょうち)とは|わかりやすく解説

囲繞地(いにょうち)とは、公道に通じていない袋地(ふくろち)の周りを取り囲む土地のことを指します。

日本ではどのような土地にも建物を建てて良いわけではなく、その基準は法律で細かく決められています。

袋地は、道路(公道)と行き来するために囲繞地を通らなければなりません。

そのため、袋地の所有者は囲繞地の所有者に許可を得ることなく、囲繞地を通行できることが決められています。

囲繞地は、袋地から公道へ行き来するために通らざるを得ない土地ということです。

<囲繞地とは>

  • 囲繞地(いにょうち)と読む
  • 袋地と公道を行き来するために通行できる土地
  • 袋地の所有者は通行する際、囲繞地の所有者に特別な許可を得る必要はない

袋池と囲繞地の違い

次は、袋地(ふくろち)について見てみましょう。

建物を建てる際に重要な建築基準法では、道路(公道)に2メートル以上の幅がある道路からその土地に出入りできるかどうかで、建物を建てて良いかが決まります。

土地によっては道路に接しておらず、周りの土地に囲まれているために建物が建てられない他、公道に出るためには周囲の土地(囲繞地)を通らなければなりません。

公道から孤立したこの土地を、袋地と言います。

<袋地とは>

  • 袋地(ふくろち)と読む
  • 周りの土地に囲まれて公道に接していない土地のことを指す
  • 建築基準法上、建物が建てられない土地

袋地のように囲繞地に囲まれた土地であり、なおかつ公道に出られる道がある場合は、土地の形が旗のように見えることから「旗竿地(はたざおち)」と呼ばれることもあります。

旗竿地を含む路地状敷地については、『なぜ路地状敷地(旗竿地・袋地・敷地延長)は安いのか?定義やメリット・デメリットについて説明』でも詳しくご紹介しています。

囲繞地通行権とは

続いては、囲繞地と袋地に大きく関連する「囲繞地通行権」について見てみましょう。

囲繞地通行権とは、袋地の所有者が持つ権利のことです。

袋地から公道に出るために、袋地を囲んだ囲繞地を通る権利を指します。

通常、所有していない土地に無断で立ち入ることはできませんが、袋地から公道に出るために囲繞地を通らないといけない場合、囲繞地に立ち入らざるを得ません。

囲繞地通行権は法律によって許可されている通行権であり、囲繞地の所有者にとっては場合によって何らかの損害を受ける可能性があります。

囲繞地通行権の範囲

囲繞地通行権が適用される範囲について見てみましょう。

囲繞地通行権は、袋地から囲繞地を通り抜けて公道へ出るための権利です。

袋地の所有者から囲繞地の所有者に対して発生する、法律上の強制的な権利とも言えるでしょう。

そのため、袋地の所有者は囲繞地に広いスペースの通路を作るなど、囲繞地への負担(損害)を必要以上に大きくすることはできません。

袋地の所有者は囲繞地の所有者に対して、通行に際してできるだけ損害を小さくしなければならないことが義務付けられています。

この損害には、通路の位置・幅の候補のうち、囲繞地の所有者の損失が最も小さくなる方が選ばれます。

囲繞地通行権の登記

不動産や法人など、何らかの権利を社会に向けて示す方法として、登記があります。

囲繞地通行権も、袋地の所有者が囲繞地の所有者に対して持つ権利のため、登記が必要になると思われますが不要です。

囲繞地通行権は民法において定められている権利で、その効力は強制的と言えます。

袋地と囲繞地という関係性が立証できれば、登記をしなくてもその効力が発生するため登記が不要となります。

囲繞地通行権の支払方法

囲繞地通行権を持つ袋地の所有者は、囲繞地の所有者に対して通行料を支払うことが定められています。

金額はいくらと決められておらず、袋地・囲繞地双方の所有者が話し合って決めることが一般的です。

また、支払方法は1年ごとに償金を支払うことができます。

償金とは、他人に与えた損害に対して支払うお金のことで、賠償金と同じ意味を持ちます。

囲繞地に通路開設をした際に生じた費用を除き、その後の通行料として1年ごとに協議によって決められた償金を囲繞地所有者に支払う仕組みです。

囲繞地通行権の拒否

繰り返しになりますが、囲繞地通行権は袋地の所有者に対する権利です。

法律上当然に認められる権利であり、原則的に囲繞地の所有者は通行を拒否することはできません。

さらに、袋地から囲繞地を通る際、必要であれば通路を開設することも可能です。

その際の費用は袋地の所有者が負担をしますが、開設後は前述の通り1年ごとに償金を支払うことでさらに通行を続けることができます。

囲繞地通行権の車利用

囲繞地通行権は、袋地から囲繞地を通って公道へ出るための権利ですが、車を利用して通り抜けることは難しいとされています。

その理由として、囲繞地通行権が持つ権利は、囲繞地の所有者に対して「最小限の損害に留める」と決められているからです。

囲繞地通行権は袋地所有者に認められた権利ですが、車が通り抜けられるほどの大きな道を設けると、囲繞地の所有者にとって非常に大きな損害になると考えられます。

そのため、囲繞地通行権は徒歩や自転車など、最小限の道幅で済む方法で判断されるのが基本です。

ただ、中には自動車での通行を認める例もあり、周辺に駐車場がないことや以前から車を利用していたかなど、さまざまな理由が総合的に判断されることもあります。

袋地・囲繞地双方の所有者によるトラブルを防ぐには、まずお互いの関係性や車の有無などをチェックしておくと良いでしょう。

囲繞地通行権と通行地役権の違い

私道を通るための囲繞地通行権ですが、もうひとつ「運行地役権(うんこうちえきけん)」という権利があります。

ここまでご紹介しました囲繞地通行権は、囲繞地によって取り囲まれている袋地から公道に出るため、必要不可欠な権利であると言えます。

対する運行地役権は、囲繞地通行権とは違って強制的な権利ではありません。

他の所有者が持つ土地を通ることで自分にメリットがある場合、その土地の所有者と有償もしくは無償で契約を結ぶのが、通行地役権です。

土地の売買に大きく関わる運行地役権についても、詳しく見てみましょう。

通行地役権とは

運行地役権とは、他人が所有している土地を通ると、自分が持つ土地をより便利に利用できる権利のことを言います。

たとえば、自身が保有し生活している土地の裏に、大きな道に面した土地があるとします。

自分の土地から大きな道に行くためには、自分の土地に面した細い道を経由して、遠回りをしなくてはなりません。

運行地役権は、大きな道に面した土地の所有者と話し合いの結果、遠回りをせずともその土地を通らせてもらうことができる権利のこと、すなわち自身が保有する土地の利便性を高められるという権利を指します。

2つの違い

囲繞地通行権と運行地役権はさまざまな違いがあります。

まず、強制力です。

囲繞地通行権は、袋地の所有者に対して与えられる権利であり、その効力は強制的と言えるでしょう。

一方、運行地役権はこのような強い効力はありません。

ただ、囲繞地通行権は登記をしなくても済みますが、運行地役権は登記ができます。

運行地役権は不動産登記法によって決められているように、きちんと記録して公示できるためトラブルの火種になりにくいと言えるでしょう。

囲繞地通行権は基本的に通行を行う際の償金が必要になるため、有償ということになります。

一方の運行地役権は双方の土地所有者が協議を行うため、有償はもちろん無償での地役権とすることも可能です。

囲繞地通行権が無償になるケース

囲繞地通行権は原則として有償となり、袋地の所有者から囲繞地の所有者に対して支払いをします。

しかし、場合によって無償になるケースもあります。どのような時に囲繞地通行権が無償となるのかを見てみましょう。

これらの場合、通常は有償の囲繞地通行権が無償という扱いになります。

それぞれの項目をさらに詳しく見てみましょう。

既存の通路の場合

まず、以前から無償で通行が許可されていた通路があった場合。

すでに無償で利用されていることが知られており、新たにルールを設けて有償になるという不公平を避けるため、無償利用が可能です。

また、袋地・囲繞地双方で協議されているのが囲繞地通行権ではなく、あくまでお互いの合意の下で決められる「通行地役権」を用いた設定だとすることもあります。

土地の分筆があった場合

土地の分筆とは、登記されているひとつの土地を分けて登録し直すことを言います。

囲繞地を分筆したことで袋地が発生した場合、その袋地を購入した所有者は、囲繞地の所有者に対して囲繞地通行権を持ち、なおかつ通行のための支払いをしなくても良いと民法で定められています。

土地の一部を売買する際などに行われる分筆ですが、分筆によって発生した袋地は通常と違い、囲繞地通行権を持っても償金が不要であることを知っておきましょう。

囲繞地通行権におけるトラブルの判例

囲繞地通行権について、さまざまなところでトラブルが発生しています。

袋地・囲繞地どちらの言い分がそれぞれどのように認められているのかがわかりますが、土地や物件の売買に関わる判例についていくつかご紹介します。

囲繞地通行権におけるトラブルは、司法の場ではどのような判断が下されるのでしょうか。

トラブルの判例①

ひとつめは、袋地とその土地に建つ建物の所有者が、建物を人に貸す際のトラブルです。

以前から所有者は周囲の囲繞地に対して囲繞地通行権を行使し、通行していました。

その際に発生する償金も書面にて契約が交わされており、年額でいくらを支払うという内容が記されています。

しかし、土地所有者が建物を別の人に貸すことが決まると、囲繞地の所有者は「別の人に貸すのなら通行させられない」と言います。

これについて、囲繞地の所有者の言い分が正しいとは言えないということになりました。

囲繞地通行権は、袋地所有者の法律上当然の権利です。

そのため、いくら囲繞地の所有者が拒否をしても袋地の方は囲繞地を通り抜けることが可能です。

たとえ土地・建物の所有者が誰かに建物を貸しても、入居者は同じく囲繞地通行権を持つとされています。

トラブルの判例②

囲繞地通行権は法律上当然に認められる権利ではありますが、中には囲繞地通行権が認められないケースもあります。

公道に通じておらず囲繞地に囲まれた袋地ですが、袋地から何かしらの通路が続いている場合は囲繞地通行権が認められません。

すでに通行できる通路があるという実績があれば私道を公道とみなす考え方が取られ、囲繞地に対して通行権がなくなることもあります。

あらかじめ袋地からどのような通路が通じているのかをチェックしておくと、トラブルになりにくいでしょう。

囲繞地を高く売却する方法

袋地に対して通行における損失発生の可能性がある囲繞地ではありますが、囲繞地をできるだけ高く売却する方法がいくつかあります。

囲繞地を少しでも高く売却するためにできること、それぞれどのような方法なのかを見てみましょう。

袋地の買い取りをする

袋地から囲繞地を通り、道路へ出るための権利を囲繞地通行権と言いますが、囲繞地通行権を行使する際に通路の開設などでトラブルが発生する可能性があります。

これを避けて囲繞地を売却するためにも、まずは隣接する袋地の買い取りを行いましょう。

袋地を買い取って囲繞地とひとつの土地にまとめることで、公道に隣接した通常の土地と同じ扱いができるようになります。

もちろん、袋地を買い取った分、土地面積も広がって建物を建てやすくなることから、売却価格も袋地単体・囲繞地単体に比べて高くなると期待できるでしょう。

袋地の所有者と共同で売りに出す

囲繞地と袋地は切っても切れない関係です。

囲繞地のみを所有している場合、袋地の所有者より囲繞地通行権が行使される可能性があり、その際には必要最低限とは言え、通路が開設されることがあります。

そのため、囲繞地を売却したい場合には袋地の所有者と共に売りに出すことを検討してみましょう。

ポイントとしては、売却後の利益について事前に取り決めをしておくこと。

袋地・囲繞地それぞれの土地の広さから利益の配分を決め、トラブルが起こらないようにしておきましょう。

業者を選ぶ

土地・物件を取り扱う不動産会社の中には、囲繞地を積極的に買い取っている業者も存在しています。

たとえば、訳あり物件を取り扱う業者です。バリエーション豊富な土地・物件を取り扱うことで知られる業者であれば、囲繞地の買い取りを行っていることも少なくありません。

できれば買い取りの実績が多く、売却の価格交渉が粘り強くできる業者だと、少しでも高く囲繞地の売却ができるでしょう。

まとめ:囲繞地とは

囲繞地や袋地、これらに関わる囲繞地通行権などについて、ご説明しました。囲繞地通行権でトラブルが生じないようにするためにも、囲繞地と袋地や囲繞地通行権、運行地役権など関係する知識をしっかり身に付けておくことが大切です。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。