法律改正の置き土産?既存不適格建築物について詳しく解説します

投稿日 : 2020年06月02日

建築当初は基準に適合していたものの、時間が経って基準が変り、いつの間にか適合しなくなった建物のことを「既存不適格建築物」と言います。

今回は、この既存不適格建築物についてあらゆる視点から深く掘り下げます。これを機に建物への理解を深めていきましょう。

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この記事の監修者:
小林 紀雄
住宅業界のプロフェッショナル

某大手注文住宅会社に入社。入社後、営業成績No.1を出し退社。その後、住宅ローンを取り扱う会社にて担当部門の成績を3倍に拡大。その後、全国No.1売上の銀座支店長を務める。現在は、iYell株式会社の取締役と住宅ローンの窓口株式会社を設立し代表取締役を務める。

 

既存不適格建築物とは

既存不適格建築物とは、当初建築基準に適合していた建物がその後の法改正などによって最新の建築基準に適合しなくなった建物のことを指します。

建築基準に適合していない建物としては、他に違反建築物があります。

違反建築物

違反建築物は、既存不適格建築物と異なり最初から建築基準に違反している建物のことを指し、違反物件とも呼ばれています。

既存不適格建築物と違反建築物との違い

既存不適格建築物と違反建築物は、どちらも最新の法律や建築基準に適合していない建築物を指しますが、それぞれ全く異なった概念になっています。

違反建築物が建築当初から違法である建築物を指すのに対して、既存不適格建築物の場合、建築当初は適法でも、建築後の法改正などにより、結果として違法になってしまった建築物を指すという違いがあります。

違反建築物の場合は建物の価値が大幅に下落するだけでなく、住宅ローンが組めなくなるなどのペナルティが課せられます。

 

既存不適格建築物となる要因

 

既存不適格建築物となる要因として、以下の6つのケースが挙げられます。

  1. 用途地域
  2. 建ぺい率
  3. 容積率
  4. 高さ
  5. 防火地域・準防火地域
  6. 耐震基準

そのうち1~5については地方自治体による都市計画の影響を、6に関しては国の法律の影響をそれぞれ受けています。

 

①用途地域

用途地域とは、土地をどのように活用するかを定めた地域のことを指します。

用途地域は全部で13種類あり、それぞれ住居・商業・工業系のいずれかに分けられています。市街化区域では必ず策定されているものです。

また、建物に対して各用途地域ごとに建ぺい率・容積率・建物の高さといった制限を設けており、制限の内容は各用途地域ごとに異なります。

用途地域の指定は市町村などの各自治体が行いますが、一定期間ごとに見直しが行われます。用途地域の見直しにより、該当する建物の用途地域が変更になった場合、建ぺい率や容積率の基準をオーバーすることがあります。

また、用途地域が変更されることで建物自体がその地域に適合しないといったケースも発生します。

以下は兵庫県神戸市における用途地域の見直しの例になります。一度に変更するのではなく、説明会や審議会などそれぞれ段階を踏んで見直しを行っています。

画像引用:神戸市HP | 用途地域等の見直し

用途地域については以下のページをご参照ください。

あわせて読みたい:制限が多く複雑な用途地域についてわかりやすく解説します

 

②建ぺい率

 

建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積の割合で、その土地に対してどれだけの規模の建物が建築できるかを示す建築基準の1つです。

建ぺい率は用途地域ごとにそれぞれ数値が定められており、その地域に適さない建物が建設されないように制限を課しています。

よって、該当する建物が属する用途地域が変更になると、場合によっては建ぺい率の制限がより厳しくなり基準をオーバーしてしまうことがあります。

建ぺい率については以下のページをご参照ください。

あわせて読みたい:イメージが湧きにくい建ぺい率を具体例も含めてわかりやすく解説

 

③容積率

容積率とは土地の面積に対する建物の延べ床面積の割合で、その土地に対してどのくらいのサイズの建物が建築できるかを示す建築基準の1つです。

容積率も建ぺい率と同様、用途地域ごとにそれぞれ数値を定めることで、その地域に適さない建物が建設されないように制限を課しており、指定容積率と基準容積率のうち厳しい方が適用されます。

よって、容積率の場合も該当する建物が属する用途地域が変更になると、場合によっては制限がより厳しくなり、基準をオーバーしてしまうことがあります。

 

④高さ

 

・絶対高さ制限

第一種及び第二種低層住居専用地域の建物の高さは10~12mと定められており、建物が用途地域の変更などで基準をオーバーすることがあります。

しかし、既存の建物に関しては適用を除外するなどの特例を設けている自治体が多くあります。

絶対高さに関する説明は以下のページをご参照ください。

あわせて読みたい:絶対高さ制限とは|不動産営業事務マニュアル

 
・高度地区による制限

高度地区とは、最低及び最高高さ制限を定めている地区のことを指しますが、既存不適格建築物に該当する可能性があるのは最高高さ制限による規制です。

最高高さ制限は2004年に新たに定められた制限で、高さの基準も各自治体によってばらばらです。そのため、既存建物が高さ制限をオーバーしている可能性があります。該当地区の不動産については基準をクリアしているかをその都度確認する方がよいでしょう。

例)神戸市における高度地区は8種類あります。

参考:神戸市HP | 高度地区

 
・その他の制限

斜線制限や日影規制といった高さ制限に関しても、用途地域の変更などによって基準がより厳しくなり、建築基準を超えるケースが考えられます。

 

⑤防火地域・準防火地域

 

防火地域や準防火地域は、用途地域と同じく市区町村といった各自治体が制定を行います。一定期間ごとに見直しが行われる点も用途地域と同じで、見直しによって既存建物の基準が適合しなくなることがあります。

以下は北海道函館市による防火地域の見直しの内容です。

画像引用:函館市HP | 防火地域及び準防火地域の見直しについて(概要版)

 

⑥耐震基準

耐震基準は関東大震災後の1924年に定められ、何度かの改正を経て1981年(昭和56年)に大規模な改正が行われました。1981年以前の基準を「旧基準」、以降の基準を「新基準」と呼んで区別しています。

よって、1981年以前に建築された建物に関しては、新基準の内容を満たしていないため、既存不適格建築物とみなされる可能性が高いといえます。

 

既存不適格建築物になってしまったら

もし、建物が既存不適格建築物になってしまったらどうしたらよいのでしょうか。

既存不適格建築物の適用については建築基準法第3条2項によって「適用の除外」として規定されており、都市計画による用途地域などの変更があっても工事中の建物や既存の建物に関しては適用が除外されます。

参考:電子政府の総合窓口e-Gov | 建築基準法

 
よって、既存不適格建築物は引き続きそのまま利用することができます

ただし、一定規模以上の増改築などを行う場合は、是正命令などによって同時に不適格部分に関しても改修を行う必要が生じます。

 

是正命令

是正命令とは、違法状態を是正する命令のことです。基本既存不適格建築物に対して新たに増改築を行わない限り、下令されることはありません。

また「著しく保安上危険」・「著しく衛生上有害」なケースに限って建築基準法第10条3項によって命令できることが規定されていますが判断基準が曖昧なため、今までほとんど実行されることはありませんでした。

参考:電子政府の総合窓口e-Gov | 建築基準法

 
しかし、国土交通省が策定した「既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン」によって以下のような明確な是正命令を発令する基準が定められました。

参考:国土交通省HP | 既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン

 
・著しく保安上危険

  1. 建物の経年劣化や自然災害などによる倒壊の恐れがある
  2. 倒壊したときに通行人などに被害が及ぶ可能性がある
  3. 社会的必要性

 

具体的には建物の基礎部分の破損やシロアリによる食害などが該当します。

画像引用:国土交通省HP | 既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン

 

・著しく衛生上有害

  1. 建物における設備破損などによって通行人などに被害が及ぶ可能性がある
  2. 社会的必要性

 

具体的にはアスベストの飛散などが該当します。

画像引用:国土交通省HP | 既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン

 

現行法に合わせるタイミング

該当建築物の延べ面積のうち2分の1以上の増改築などを行う場合は、建築物自体を最新の建築基準法における基準に適合させる必要があります。

ただし、2009年(平成21年)の制限緩和によって当該建物が新耐震基準を満たしている場合で増築の規模が2分の1以下ならば、既存部分の改修工事は行わなくてもよいことになりました。

 

住宅ローンと売買について

 

住宅ローンに関しては、基本的に審査に通る可能性は高いですが、あまりにも現行の基準に対して数値が乖離している場合などは審査が通らないこともあります。

売買に関しては基本的に可能ですが、既存不適格建築物である旨の説明や書面の添付が必要になってきます。

また、購入後の増改築やリフォーム工事によっては最新の基準に適合させる必要が生じるなど、通常の物件とは異なるケースも多く、ローンを組んだり売買を行う前に一度不動産業者に相談することをおすすめします。

まとめ

建築基準法は改正の頻度が比較的多い法律です。より災害に強い建物の建築を促す側面もありますが、改正を行うことで時代の流れに合わせることも考慮されています。

その法律改正によって生まれたのが既存不適格建築物です。

新たに建物を設計・購入する前の時点で今後の建築基準の事も考えておく必要があるため、提案の際には注意しておきましょう。