壁面線の制限とは|調べ方や外壁後退との違いについて徹底解説
「壁面線の制限」と「外壁後退」はどちらも建物における距離の制限ですが、内容には大きな違いがあります。
今回はこの混同しやすい2つの制限について解説していきます。
これを機に2つの制限の違いを理解して不動産営業に役立てていきましょう。
壁面線の制限とは
壁面線の制限とは、道路境界線から一定の距離を後退させて建物を建築しなければならないという制限です。
壁面線の制限に関しては建築基準法第46・47条に規定されています。
壁面線の制限自体は、地区計画や高度利用地区などにおいて指定されることが多く、実際に制限が指定されると、建物における壁・柱及び高さ2mを越える門・塀に関しては、原則、壁面線を越えて建築を行うことはできません。
また、壁面線の制限は道路と建物との間に空間を確保することで、統一感のある街並みを形成するだけでなく、街自体の環境や景観を向上させることも目的としています。
壁面線とは
壁面線とは、直接的には道路側に面する建物の壁の並びのことを指しますが、法的根拠としては建築基準法第46条において以下のように規定されています。
特定行政庁は、街区内における建築物の位置を整えその環境の向上を図るために必要があると認める場合においては、建築審査会の同意を得て、壁面線を指定することができる。 |
地区計画
地区計画とは都市における一部の地域に対して、その地域に応じた街の計画を定めることをいいます。
地区計画の一環として壁面線の制限を指定したケースとして、道路と建物との間の均等な空間を歩道などに利用したりする場合が挙げられます。
画像引用:目黒区|地区計画 自由が丘南口地区
高度利用地区
高度利用地区とは、主に低層の建物が密集している地域一帯を、再開発によって大規模かつ高層の建物が建築できるようにする地区のことを言います。
高度利用地区における壁面線の制限との関係は、都市計画法第9条19項において次のように規定されています。
高度利用地区は、用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、建築物の容積率の最高限度及び最低限度、建築物の建蔽率の最高限度、建築物の建築面積の最低限度並びに壁面の位置の制限を定める地区とする。 |
実際に高度利用地区がその地域に適用されると、建築基準法第60条2項によって以下のように規定されます。
特定街区内においては、建築物の壁又はこれに代わる柱は、建築物の地盤面下の部分及び国土交通大臣が指定する歩廊の柱その他これに類するものを除き、特定街区に関する都市計画において定められた壁面の位置の制限に反して建築してはならない。 |
このように当該地域が高度利用地区に指定された場合は、都市計画法と建築基準法それぞれの観点から壁面線の制限が規定されています。
容積率の緩和
壁面線の制限において、建物が面する前面道路の幅員によっては、以下のようなケースで容積率が緩和されることがあります。
- 道路と壁面線との間の土地が均等に一定の距離が続いている
- 安全上の問題が生じない
ただし、前面道路と壁面線との間の土地は、容積率における敷地面積には含まれないため、その点には注意が必要です。
関連記事:「容積率」とは何かわかりやすく解説|調べ方・緩和特例・緩和要件なども紹介
外壁後退とは
外壁後退とは道路だけでなく、隣地も含めた敷地境界線から一定の距離を後退させて建物を建築しなければならないという制限です。
外壁後退に関しては建築基準法第54条に規定されています。
外壁後退は一部の用途地域においては必ず指定がなされ、地区計画や風致地区(自然美を維持保存するために創設された制度)などでも指定されるケースがあります。
実際に外壁後退が適用されると、敷地境界線と建物の外壁までの距離が1mまたは1.5m敷地から後退させなければなりません。
外壁後退を定めることによって建物の密集を防ぐことができ、また一定の空間を利用することで日照や通風を確保し、良好な住環境を形成するという側面を持っています。
指定が義務づけられる用途地域
用途地域とは、その土地や地域を用途に応じて住居・商業・工業系の13種類の中から選び、市街化区域では必ず何かしらの用途地域を定めることになっています。
用途地域について詳しいことは以下のページをご参照ください。
あわせて読みたい:制限が多く複雑な用途地域についてわかりやすく解説します
外壁後退の指定が義務付けられる用途地域は以下の3種類です。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
それ以外の用途地域
上記以外の用途地域においても、都市計画の一環である地区計画・風致地区の指定や、建築基準法に準拠する建築協定などの指定がなされた際に、外壁後退の指定を受けることになります。
緩和措置
外壁の要件が以下の内容に当てはまれば外壁後退が緩和されます。
- 外壁の長さの合計が3m以下
- 軒の高さが2.3m以下及び床面積合計が5㎡以内
壁面線の制限と外壁後退の違いを比較
壁面線の制限と外壁後退の違いをまとめたのが以下の表です。
壁面線の制限 | 外壁後退 | |
指定地域 | 地区計画
高度利用地区 その他 |
第一種低層住居専用地域
第二種低層住居専用地域 田園住居地域 地区計画・風致地区・建築協定など |
制限内容 | 建物の壁・柱
高さ2mを超える門・塀 |
建物の外壁または柱 |
後退の起点 | 道路境界線 | 道路境界線
隣地境界線 |
後退の距離 | 規定なし | 1mまたは1.5m |
緩和要件 | 容積率 | 外壁の長さの合計が3m以下
軒の高さ2.3m以下 床面積合計5㎡以内 |
外壁後退は壁面線の制限と異なり、制限内容に関しては建物の外壁及び柱のみが対象で、門や塀は含まれません。
壁面線の制限と外壁後退の調べ方
壁面線の制限と外壁後退の指定は、用途地域・地区計画・高度利用地区・風致地区・建築協定などの規定に基づいて行われます。
用途地域・地区計画・高度利用地区・風致地区などについては、都市計画法における都市計画の一環に該当し、それらの決定は原則、都道府県や市区町村が行います。
また、建築協定に関しては建築基準法に準拠し、特定行政庁(主に市区町村)が認可することで行われます。
よって、壁面線の制限と外壁後退について調べるには主に各市区町村の役所で調べることができます。
ここからはもう少し具体的にそれぞれの調べ方を見ていくことにしましょう。
壁面線
壁面線自体は建築基準法によって定められているため、市区町村の建築指導課などに問い合わせることで確認ができます。
壁面線の制限の確認は、地域地区と高度利用地区のどちらもが都市計画法に準拠しているため、都市計画課などに問い合わせるとよいでしょう。
外壁後退
外壁後退に関しては、インターネット等で前もって用途地域を調べた上で、該当する地域が指定を義務づけられている用途地域であれば外壁後退が行われているはずです。
参考として名古屋市では市内の用途地域の分布をインターネットで公開しています。
都市計画課などで確認するだけでなく、実際に現地へ赴き、外壁後退がなされているかを確認しておきましょう。
地区計画や風致地区に関する確認は都市計画課などで、建築協定については建築指導課などでできます。
気を付けるポイント
役所に2つの制限について問い合わせるときは、「壁面線」と「外壁後退」を混同しないようにしましょう。
外壁後退の距離を聞きたいのに壁面線と質問してしまうと、問い合わせした内容によっては全く別の答えが返ってくる場合もあります。
そのためにも2つの制限の違いをしっかりと覚えておきましょう。
まとめ:壁面線とは道路側に面する建物の壁の並びのこと
壁面線の制限と外壁後退はどちらも似通った制限ですが、基準の対象が道路境界線と敷地境界線という明確な違いがあります。
この違いを理解しておかないと、役所だけでなくお客様へ物件の説明などを行う際に、相手に間違った情報を伝えることになってしまいます。
そのようなことがないように、これを機に2つの制限の違いをきっちりと理解しておきましょう。
不動産営業実務マニュアルに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事