不動産競売の流れ|競売開始の決定から入札までのタイムスケジュール
不動産競売が任意売却と大きく異なるのは債権者の申し立てによって自動的に競売が進行することです。
また、入札から落札、引き渡しまで半年以上かかることも珍しくないため、債権者側としてもスケジュールの確認とスムーズな進行の手配が欠かせません。
今回は、不動産競売の流れとタイムスケジュールについて紹介します。
不動産競売が決定するまでの流れ
不動産の競売は、債務者側が住宅ローンを滞納する事から始まります。競売が決定されるまでは、以下のような手順で進んでいきます。
- 住宅ローンの滞納
- 期限の利益の喪失
- 代位弁済・一括請求
住宅ローンの滞納
住宅の競売は住宅ローンの支払いの滞納をした時の手続きですが、1回の滞納ですぐに手続きが始まるわけではありません。
競売に至るまでの滞納期間は短くて3ヶ月、最長でも6ヶ月と金融機関によって差があります。
3~6ヶ月の決められた期間においては「住宅ローン返済についてのご連絡」「最終通告書」という表題の督促状が届きます。表題や文言は金融機関によって違いますが、内容はほぼ同じです。
督促状の案内に沿って返信・返済を行えば競売は免れますが、返済が行われない場合は次の段階に移行します。
期限の利益の喪失
期限の利益とは、定められた期限が来るまでは返済をしなくても良いという債務者の利益の事です。つまり、いつまでに返済するのか債権者側と取り決めをすることを指します。これによって金融機関から突然全額の返済要求などが行われるのを防いでいるのです。
ローンの支払いの滞納が続くと、金融機関から期限の利益の喪失に関する通知が届きます。
この決定がなされたということは、債務者は借り入れした全額をただちに返済する必要があるということです。
期限の利益の喪失の通知を受けても全額返済をしない場合は、競売に向けた手続きに進むことになります。
代位弁済・一括請求
金融機関と住宅ローン契約を結ぶときは、保証会社と保証委託契約を結びます。これは、融資に対する保証を保証会社に依頼することが必須の条件になっているからです。
この保証契約によって、ローンの返済が滞った場合の金融機関への住宅ローン分の支払いは保証会社が行います(代位弁済)。
そして、債務者に対する住宅ローン分の債権が金融機関から保証会社へと移行し、保証会社、あるいは保証会社から依頼を受けた債権回収会社によって一括請求が行われるのです。
債務者がお金を一括で返済することはできないため、保証会社は地方裁判所に対して不動産の差し押さえの申し立てを行うことになります。
不動産競売の決定から開札までの流れ
債権者が不動産の差し押さえを行うと、債務者には不動産競売開始決定の通知が送付されます。その後の流れは以下のとおりです。
- 現況調査
- 期間入札通知
- 物件一般公開
- 開札
- 売却許可
- 所有権の移転
- 退去
現況調査
現況調査とは、不動産の競売を行う前に不動産の現況を調査する事です。「現地調査」と呼ぶ事もあります。裁判所から指定された「執行官」と「不動産鑑定士」によって不動産の価値を確認していきます。
この際、関係者への聞き取り調査も行われるため、債務者は現況調査を拒否する事はできません。
現況調査に拒否権はない
現況調査は、債務者の側から拒否する事はできません。執行官らの入室を拒否したり、妨害したりした場合は公務執行妨害として警察に連行される事もあります。
これは、裁判所の執行官が国によって認められた強い権限(自宅に立ち入る権利、カギを開ける権利)を持っているからです。
期間入札通知
期間入札通知とは、裁判所から送付される競売の開始日や競売の開札日といった情報を通知する書類です。
裁判所や市庁舎の掲示板にも期間入札の通知が公告されます。
物件一般公開
この段階で、一般の落札希望者の目に届くように各所で住宅の情報が公開されます。国が発行する官報のほか、インターネット上の不動産物件情報サイトでも閲覧が可能です。
現況調査で作成した不動産評価書も一般公開され、落札希望者を広く募集するのに利用されます。
開札
競売の期間入札が開始されると、落札希望者によって入札が始まります。買受可能価額以上の金額であれば参加することが可能です。
入札できるのは1度きりであり、他の参加者が提示する金額を閲覧することはできません。
そして、開札期日の時点でもっとも高額な買受金額を提示した落札希望者が、執行官によって最高買受申出人に認められます。
売却許可
最高買受申出人が決定しても、すぐに所有権が移転する事はありません。開札後に、裁判所によって、売却を許可するかどうかの審査が行われます。
なお、売却の許可に関する決定が行われる期限のことを売却許可決定期日と呼びます。
代金納付・所有権移転登記
売却が許可されると、裁判所は買受人に対して代金納付期限通知書を発行します。
概ね、1ヶ月が代金納付の期限として設定されています。
代金を納付する事で所有権の移転登記が実施され、売却された住宅は正式に買受人の所有となります。
配当
配当とは、売却代金を債権者に分配する事です。裁判所から各債権者に配分される形で実施されます。また、余剰分が出た場合は債務者にも配当があります。
債務者にも出頭要請が来ますが、余剰配当がないのなら応じる必要はありません。
退去
所有権の移転登記がされると、その物件は債務者のものではないため、債務者が住んでいる場合は、他人の家を不法に占拠している状態です。
物件の所有権が移転したら必ず退去しなければならず、仮に退去しない場合は後述する強制執行によって強制的に退去させられます。
期間入札開始までのタイムスケジュール
ここでは、債務者が住宅ローンの滞納を行ってから期間入札開始までのタイムスケジュールを解説します。
競売を阻止して任意売却に移行させるためには期間入札通知が届くまでに手続きを行う必要があります。任意売却を希望する場合は、期間入札通知までのタイムスケジュールを把握することが重要です。
競売の流れ | タイムスケジュール |
住宅ローンの滞納
期限の利益の喪失 代位弁済・一括請求 |
3ヶ月から6ヶ月 |
競売開始の決定
現況調査 |
1ヶ月から3ヶ月 |
物件明細書等の作成
売却基準額の決定 期間入札の通知 |
2ヶ月から4ヶ月 |
期間入札開始
開札 |
約1週間 |
このように、住宅ローンの滞納から開札までの期間は一定ではありません。
- 最短で約6ヶ月
- 最長で12ヶ月以上
任意売却にするのであれば、最短の6ヶ月で見積もって準備を進める必要があります。
任意売却に切り替えるための最終締め切り
物件が競売にかけられることが決定されても、任意売却に切り替える不可能ではありません。とはいえ、実際に入札が開始されてしまうと任意売却に切り替えることはできなくなります。
任意売却切り替えの最終締め切りは以下のとおりです。
- 法律上の期限は入札期日の前日
- 実務上の期限は期間入札の通知
法律上の期限は入札期日の前日まで
法律で定められている期限は入札期日の前日までです。法律上このタイミングまでは債権者による競売の取り下げが可能です。
しかし、ここまで手続きが進んでしまうと、実務上取り下げが不可能になります。
実務上の期限は期間入札通知が届くまで
実質的に競売を取り下げる事ができるのは期間入札通知が届くまでです。通知から入札までには2ヶ月以上かかるため、実務的にも引き返しが可能になります。
ただし、どのタイミングで任意売却が出来なくなるかは金融機関によって異なります。債権者との話し合いが難航することも予想されるため、可能であれば競売が決定してすぐのタイミングで任意売却に切り替える準備をするべきです。
債務者が住宅から退去しない場合の手続き
買受人に所有権が移転すると、債務者は物件から退去しなければなりません。
もし退去しない場合は、法的な手段で強制的に引き渡しが行われます。
- 引き渡し命令申し立て
- 執行官への強制執行の申し立て
- 執行官の面談
- 断行
引き渡し命令申し立て
裁判所では、不動産引き渡し命令を以下のように説明しています。
競売で取得した不動産に人が住んでいたり,家具などの動産が置いてあったりした場合,相手方に対して不動産を引き渡すように命令を出す手続です。命令が出ても問題が解決しない場合,最終的には強制執行をすることができます。 |
つまり、いきなり強制退去が執行されるわけではありません。「発令→送達→確定→執行文の付与」と手続きを踏み、それでも退去しない場合は強制執行の申し立てに移行します。
なお、申し立てから執行文の付与までの期間は2週間から1ヶ月です。
執行官への強制執行の申し立て
引き渡し命令の申し立てにも応じない場合は、強制執行の手続きに移ります。
こちらもすぐに実行されるわけではなく、以下のような手順を踏んで実施されます。
- 執行官の面談
- 断行
執行官の面談
執行官の面談とは、任意退去の催告を行うために執行官が債務者の自宅を訪問する手続きです。
居留守を使っても、執行官は合鍵で強制的に室内に入る権限があります。その場で退去期日を言い渡されるため、面談を拒否することはできません。
断行
面談で言い渡された退去期日になっても退去しない場合は、強制退去が断行されます。債務者と同居している家族は強制的に退去させられ、家財道具一式も全て撤去されます。
なお、催告から断行までは約1ヶ月の猶予が設けられています。
まとめ
今回は、不動産競売の流れとタイムスケジュールについて解説しました。
競売から任意売却に変更しようと思っても、期間入札の通知が届くと以降は申請を取り下げることが実質的に不可能です。そのため、競売を進める側も任意売却に切り替える側も、タイムスケジュールの把握が不可欠になります。
最善の方法で不動産を手放せるように計画しましょう。
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