建築規制への理解を深める|特定用途制限地域の概要を解説
不動産の販売においては、自治体ごとに定められた建築制限の内容を正確に理解することが必要です。
名称が似た制度があることから、買主様が誤解されているケースも考えられます。営業として、正確な情報を買主様に伝えられるようにしましょう。
今回は、特定用途制限地域に焦点を当てて解説していきます。似たような名称である特別用途地区と特別容積率適用地区についても紹介します。
特定用途制限地域とは
特定用途制限地域とは、自治体が定める一定の建築制限ができる地域のことです。用途地域が指定されていない非線引き都市計画区域、または準都市計画区域に指定されます。
自治体が特定用途制限地域を定める目的は、用途地域が定められていない土地の区域内において良好な環境を形成し、合理的な土地利用が行われるようにするためです。
市街化区域であれば用途地域が必ず指定されるため、無秩序な建物の建築を防止することができます。一方で非線引き区域や準都市計画区域においては、必ずしも用途地域を定める必要はありません。ゆえに用途地域の指定がない地域でパチンコ店や風俗店などが乱立してしまう恐れがあります。そうならないために自治体が条例で規制を定めるのが特定用途制限地域です。
担当の地域が特定用途制限地域であるかはインターネット上で検索ができますが、自治体の建築指導課に直接確認することをおすすめします。
画像引用:唐津市|特定用途制限地域
用途地域でない部分にも特定用途制限地域を指定することによって、制限すべき建築物を自治体が指定することができます。どのような規制を行うかは、地方自治体が独自に判断して定めることができます。
特定用途制限地域は、「都市計画区域」「準都市計画区域」「用途地域」「線引き区域・非線引き区域」について覚えると理解がしやすいです。あわせて解説していきます。
都市計画区域とは
全国の土地の中で、一体の都市として総合的に街づくりをしていく区域のことです。都市計画区域の中には、すでに市街地を形成しているか10年以内に優先的に開発を進める「市街化区域」と、市街化を抑制する「市街化調整区域」、どちらにも属さない「非線引き区域」があります。
都市計画区域内においては、「非線引き区域」が特定用途制限地域の規制対象になります。
市街化調整区域には、原則として以下で紹介する用途地域の指定はありませんが、特定用途制限地域を設定することはできません。自然を残しておきたいエリアのため、そもそも建物の建築について大きく制限されるためです。
準都市計画区域とは
都市計画区域外のエリアにおいて、高速道路やインターチェンジなどの建築が見込まれるために無秩序な開発を抑制するためのエリアです。
自治体の判断によって、特定用途制限を指定することが可能なエリアです。
用途地域とは
都市計画法に定められた地域の1つを指します。用途が違う建物が乱立しないよう、住居系、工業系、商業系と区別された以下の13種類の用途地域が存在します。
住居系 | 第1種低層住居専用地域
第2種低層住居専用地域 第1種中高層住居専用地域 第2種中高層住居専用地域 第1種住居専用地域 第2種住居専用地域 準住居地域 田園住居地域 |
商業系 | 近隣商業地域
商業地域 |
工業系 | 準工業地域
工業地域 工業専用地域 |
用途地域は、市街化区域であれば必ず定められます。特定用途制限地域は「用途区域が定められていない地域」に定めるものですから、市街化区域内に特定用途制限区域が指定されることはありません。
都市計画法で定められる用途地域とは|ジャンル別13種類の決めかた
線引き区域・非線引き区域とは
線引き区域とは、「都市計画区域内における、市街化区域と市街化調整区域を合わせた部分」を指します。
非線引き区域とは、「都市計画区域の中で線引き区域以外の部分」のことです。
特定用途制限区域は、都市計画区域の中では非線引き区域に設定することができます。
都市計画法の概念図
これまでの内容をまとめたものが以下の図になります。
画像引用:和歌山県|開発許可
特定用途制限地域の例
特定用途制限地域の規制内容の決定は、各自治体に任されています。ここでは、いくつかの市町村で実際に指定されている特定用途制限地域の規制の例を見ていきましょう。
佐賀県唐津市
佐賀県の唐津市の例です。「インターチェンジ周辺」「主要幹線」「田園住居地域」のほか、地域の主要な観光名所である「虹の松原周辺」についても無秩序な開発が行われないような規制が行われています。
風俗施設やパチンコなどの遊戯施設は4つのエリアとも制限があるほか、もっとも規制が厳しい虹の松原周辺エリアでは建物の高さ、敷地面積、床面積とさまざまな規制によって景観が守られています。
画像引用:唐津市|特定用途制限地域
名前が似ている他の制度との違い
都市計画法の規制の中には、名称が非常に似通っているものがあります。「特定用途制限地域」と「特別用途地区」「特定容積率適用地区」などがそれに当たります。
以下に「特別用途地区」「特定容積率適用地区」の概要を紹介していきます。3つの違いを正確に把握して、買主様に正しい説明ができるようにしてください。
特別用途地区とは
特別用途地区とは、地域の特性に合わせて規制を強化したり、緩めたりできる地域のことです。特別用途地区の概要は以下の通りです。
- 用途地域が指定されているエリアに指定できる
- 特別用途地区単独での指定はできず、用途区域内の地区に限定される
- 制限をより厳しくすることも、緩めることもできる
一定の地域に制限を設ける特定用途制限地域とは異なり、用途地域の制限内容を自治体の裁量で変更できることが大きな特徴です。これによって、本来であればホテルを建築できない住居専用地域にホテルを建築できるように規制を緩くしたり、建築できる建物と厳しく規制したりすることができます。
制限あるいは緩和の条件は、自治体が条例で定めることで決定できます。
特定容積率適用地区とは
特定容積率適用地区とは、都市計画で定められた一定の区域内において、指定容積率の一部を他の敷地に移転することができる特定容積率適用地区制度によって指定された区域です。
通常であれば、建物に指定された容積率を他の建物に移すことはできません、この制度を利用することで隣り合っていない敷地であっても容積率の移転が認められます。
これによって、建物を建築する際に容積率が余っていれば売買することで資金を調達することができます。また容積率を購入した側は、その分だけ大きな建物を建築することができます。一般に「空中権の売買」と呼ばれる行為です。
このように、余った容積率を自由に売買することで効率的に高度な街づくりを行うことができます。
特定容積率適用地区は、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、工業専用地域以外の用途地域で指定することができます。
容積率を実際に移動するためには土地利用者から特定行政庁への申請が必要です。
まとめ
今回は都市計画法上の規制のうち、特定用途制限地域をメインに解説してきました。買主様が制度を理解できるよう、正しい知識を身につけることが不動産営業の責務です。
都市計画法について理解を深め、適切な説明ができるようにしましょう。
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