借地借家法「借地~中級編~」賃借権の譲渡・条件変更・定期借地権
今回は、借地権の譲渡や転貸、契約条件の変更のルール、定期借地権について解説します。宅建試験では、借地契約の基本的なルールも重要ですが、今回ご説明するような幅広いケースについても出題されます。
細かい規定が多いですが、建物の賃貸借=借家の規定と共通するところも多く、合わせて学習すると効率的です。
宅建受験者はここをチェック!
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」の試験科目
権利関係
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」が含まれる試験分野
借地借家法
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」の重要度
★★★★★ 高出題率の得点源
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」過去10年の出題率
70%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
借地借家法についての問題は毎年必ず出題され、ほとんどの年に複数問が出題されています。借地権についてもほぼ毎年出題されますので、2020年も100%に近い確率で出題されると考えていいでしょう。
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」の解説
借地契約の基本ルールを確認
まずは、借地借家法と借地契約の基本ルールを確認しましょう。
- 借地借家法が適用される借地権…建物の所有を目的とした地上権・土地賃借権(一時使用目的を除く)
- 借地の貸主を「借地権設定者」、借主を「借地権者」と言う
- 借地契約の存続期間…最短30年以上(期間の定めがない場合10年)
- 当事者の合意があれば更新可能
- 更新後の契約期間…初回20年以上、2回目以降10年以上
- 建物があれば借地権者の請求により更新が成立
- 契約満了後の借地権者による使用継続で法定更新される
- 借地権設定者の更新拒絶には正当事由が必要(期間の定めがある場合)
- 借地の上に借地権者所有の建物があれば、借地権について第三者に対抗できる
借地権の譲渡・転貸
借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡した場合、借地権は譲渡されるか転貸されることになります。
借地権のうち賃借権は、譲渡・転貸する場合に賃貸人=借地権設定者の承諾が必要です。一方、地上権は物件であるため、譲渡・転貸において承諾は不要です。
なお、借地上の建物を第三者に転貸する場合、借地権設定者の承諾は不要です。
借地上の建物の譲渡 | 賃借権の場合 | 借地権設定者の承諾が必要 |
地上権の場合 | 借地権設定者の承諾は不要 | |
借地上の建物の転貸 | 借地権設定者の承諾は不要 |
・借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可
借地権設定者が、自らにとって不利ではないにもかかわらず、借地権者からの借地権譲渡または転貸の申出に承諾しない場合、借地権者は裁判所に申立てることができます。
裁判所は、借地権の譲渡・転貸において借地権設定者に不利な要素はないと判断した場合、借地権設定者の承諾に代わる許可を借地権者に与えることができます。
・転借地権者を保護する規定
借地権者から土地の賃借権を転借している転借地権者にも、借地権者と同等の権利が認められます。
建物買取請求権について
借地契約が更新されず終了するとき、その上にある借地権者の建物はどうなるのでしょうか。まだ十分に利用価値・資産価値がある場合にもかかわらず、「全て取り壊して更地返還すべし」という一律ルールにすると、借地権者の財産を無駄にしてしまいます。
このような場合に、できるだけ既存の建物を取り壊さずに済むよう、借地借家法では「建物買取請求権」を認めています。
建物買取請求権は、借地契約の期間満了時に借地権者が借地権設定者に建物の買取を請求できる権利です。
◆建物買取請求権が認められる場合
- 契約期間が満了した場合(債務不履行による解約時は不可)
- 第三者への土地賃借権の譲渡・転貸を借地権設定者が承諾しない場合
借地上の建物の競落
借地権付き建物が競売に出され落札されたにもかかわらず、その借地権設定者が借地権の譲渡・転貸を承諾しない場合、競落人は裁判所に申立て、借地権設定者の承諾に代わる許可を得ることができます。
ただし、申立ての期限は、競落人が建物の代金を支払ってから2ヵ月以内です。
また、借地権の譲渡・転貸の許可が得られない場合には、建物買取請求権を主張することができます。
土地賃貸借契約の条件変更
・賃料増減額請求
土地の賃貸借契約は長期間の契約であるため、その間に経済状況の変動があった場合、契約当初に合意した地代(土地の賃料)の額が妥当ではなくなることがあります。そこで、契約当事者には、賃料の増減額請求が認められています。
ただし、一定の期間は地代を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従います。
◆賃料増減額請求の条件
- 土地に対する租税その他の公課の増減
- 土地の価格の上昇または低下
- 経済事情の変動
- 近傍類似の土地(近くの似たような条件の土地)の地代等に比較して不相当となった
・契約条件の変更において当事者間で合意に至らない場合
契約条件の変更において当事者間で協議したにもかかわらず合意に至らない場合には、裁判所に申立て、判決により確定します。
賃料増減額請求の場合 | 判決が出るまで賃料は、「相当と認める額」を支払う。判決確定後、不足分または超過分に年1割の利息を加えて支払う、または返還する |
増改築の制限の変更 | 土地の通常の利用上相当とすべき増改築である場合、裁判所は借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる |
建物の種類・構造・規模・用途の制限の変更 | 付近の状況や事情の変更により相当と認められれば契約条件を変更できる |
定期借地権
借地借家法は、借主である借地権者の権利を保護する目的があるため、借地契約の更新がしやすい規定になっています。しかし、当事者同士が初めから更新なしの条件で借地契約を結びたい場合もあります。
そのような場合には、更新のない「定期借地権」を結ぶことができます。定期借地権には、以下の3種類があります。
目的 | 期間 | 満了後の譲渡・買取 | 書面による契約の要否 | |
①一般定期借地権 | 制限なし | 50年以上 | 買取請求権なし | 必要 |
②建物譲渡特約付借地権 | 制限なし | 30年以上 | 満了後に譲渡 | 不要 |
③事業用定期借地権 | 事業用のみ | 10年以上50年未満 | 買取請求権なし | 公正証書が必要 |
①一般定期借地権
契約期間を50年以上とする長期の定期借地権です。建物の築造による存続期間の延長もありません。また、建物買取請求権もありません。
②建物譲渡特約付借地権
契約満了時に借地権設定者に建物を買い取ってもらう特約を定める定期借地権です。
ただし、借地権者や建物の賃借人が希望し請求すれば、契約満了後には建物を借家として賃借することができます。つまり、借地権は失われますが、建物は引き続き使用することが可能です。
③事業用定期借地権
事業用定期借地権は、事業用の建物の所有を目的とする場合にのみ設定できます。居住用に設定することはできません。
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
借地借家法 (平成三年法律第九十号)
地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下(中略)となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。 (以下省略)
建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、(中略)その借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。 (以下省略)
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。 (以下省略)
借地権を設定する場合(中略)、借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。 2 前項の特約により借地権が消滅した場合において、その借地権者又は建物の賃借人でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは、請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間で期間の定めのない賃貸借(中略)がされたものとみなす。 (以下省略) |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
定期建物賃貸借契約を締結するには、公正証書による等書面によらなければならない。(平成26年度本試験 問12より改題)
答え:〇
解説
定期建物賃貸借契約を締結するには、公正証書による等書面が必要です。
前述したように、一般定期借地権、事業用定期借地権は書面による契約が必要ですので、再度ご確認ください。
「借地権の譲渡・転貸・条件変更・定期借地権」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 土地の賃借権を第三者に譲渡・転貸する場合、借地権設定者の承諾が必要である
- 借地権設定者が借地権の譲渡・転貸を承諾しない場合、裁判所に申立てて許可を得ることができる
- 転借地権者にも、借地権者と同等の権利が認められる
- 借地権者は借地権設定者に対する建物買取請求権を有する
- 契約時の賃料が妥当ではなくなったら当事者は賃料増減額請求ができる
- 契約条件の変更で当事者が合意に至らない場合は裁判所に申し立て、判決により確定する
- 定期借地権には、一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権・事業用定期借地権の3種類がある
最後に
この範囲の学習は、合格するためには必須です。しかし、細かい規定が多く、法律独特の言い回しが難しいので、学習し始めたばかりのころは覚えにくく感じるかもしれません。
宅建試験の問題の中には、法律の文言を暗記していれば答えやすい問題も多く含まれます。勉強する際は、参考書だけでなく法律の原文も合わせて確認するのがおすすめです。
次の記事(【民法】不法行為・違法行為とは?|2つの違いや違反するとどうなるのかも徹底解説)を読む
前の記事(借地借家法と建物の賃貸借契約|更新解約のルールと賃借権の対抗力)を読む
スペシャルコンテンツに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
宅建に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事