建築規制への理解を深める|特定用途制限地域の概要を解説
不動産の販売においては、自治体ごとに定められた建築制限の内容を正確に理解することが必要です。
「総合設計制度」とは、建築基準法に規定されている建築制限の緩和が受けられる特例です。マンションやビルなど、一定以上の規模の敷地に建築する建物が適用対象となります。
「総合設計制度」の適用要件や緩和内容は、各自治体ごとに詳細に規定されています。そのため、適用を検討する担当不動産ごとに、毎回複雑な規定を確認したり緩和率の計算をすることになるのです。
「総合設計制度」は宅地宅建取引業者の業務の中でも、専門性が高いといえます。そこで今回は、複雑な「総合設計制度」をわかりやすく解説します。
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この記事の監修者: 小林 紀雄 住宅業界のプロフェッショナル某大手注文住宅会社に入社。入社後、営業成績No.1を出し退社。その後、住宅ローンを取り扱う会社にて担当部門の成績を3倍に拡大。その後、全国No.1売上の銀座支店長を務める。現在は、iYell株式会社の取締役と住宅ローンの窓口株式会社を設立し代表取締役を務める。 |
「総合設計制度」とは、建築基準法に規定されている「敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例」を指します。
この制度は、ビルやマンションなどの敷地に一定割合以上のオープンスペースを設けることにより、市街地の環境改善に貢献すると認められる場合、特別に建築制限を緩和するというものです。
このオープンスペースを「公開空地」と言って、建物の関係者以外の一般市民でも日常的に自由に出入りできる快適な空間である必要があります。
「総合設計制度」の緩和措置を許可するのは、特定行政庁(市町村長または都道府県知事)です。
「総合設計制度」が適用できる公開空地や建築物の条件は、各自治体によって異なります。ここでは、その例を紹介します。
◆「総合設計制度」の適用条件の例
「総合設計制度」における規制緩和の内容は、ほとんどが建築物の高さに関わる緩和です。前節と同様、緩和内容も各自治体が独自に定めますので、ここではその概要や目安をご紹介します。
「容積率」とは、敷地面積に対する建物の延べ面積(各階面積の合計)の割合のことです。値が大きいほど、階数が多いことを表します。
容積率の割増し率は、複雑な計算式により算出する自治体がほとんどです。その計算に必要な要素=割増し率を左右する要素としては、以下のようなものが挙げられます。
「絶対高さ」とは、容積率など間接的に建物の高さを規定するものではなく、「m」で示す高さの絶対値を指します。「総合設計制度」ではその緩和を受けられます。
「斜線制限」とは、対象の建物が道路や隣地などに面する一定部分の高さを制限するものです。道路や隣地との境界から建物に向かって一定比率の角度で斜線を引いたときに、その線を建築物がはみ出してはいけないという規定です。
これは、道路や隣地の採光や日照、通風を保つ目的で設定されています。
「斜線制限」には、「道路斜線制限」や「北側斜線制限」などがあり、「総合設計制度」ではその緩和を受けられます。
耐震不足などのマンションの建替えを促進する目的で制定されたのが、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」です。
この法律にも「総合設計制度」の規定があり、各自治体が定めた条件を満たすことで、マンションを建替える際の建築制限を緩和することができます。
各自治体では、「総合設計制度」の概要や利用できる緩和内容・適用条件などを定めた「総合設計許可要綱」を作成しています。公式ホームページにて公開している事が多いので、担当案件に応じて確認しましょう。
東京都では、「東京都都市整備局」が総合設計制度の運用を担当し、「総合設計許可要綱」を公開しています。
「総合設計制度」を利用したい場合には、対象物件が所在する自治体にて許可申請が必要です。申請方法や必要書類は、各自治体により異なります。ここでは、標準的な例として紹介します。
(基本計画書・計画図面・設計概要・日影図など)
また申請手続きには、自治体や建築物の規模によって数万円~数十万円の申請手数料がかかります。
「総合設計制度」と似た制度に、「総合的設計制度」があります。この2つは名称が似ていながら、全く異なる制度です。2つの制度を混同しないよう、概要と違いを確認しましょう。
建築基準法では、ひとつの敷地にひとつの建物しか建てることができません。これを「一敷地一建築物の原則」といいます。
この原則があるため、ある敷地に複数の建物を建てたい場合、通常は分筆を行い、土地の登記簿を建物の数だけ用意する必要があります。
しかし、これでは土地が細切れになってしまい、まとまった土地として整備するのに不向きです。複数棟の集合住宅を建設する場合には、不都合が多くなってしまいます。
そこで、建築基準法に定められた特例が、「一団地の総合的設計制度(略して「総合的設計制度」)」です。一定の条件を満たすと特定行政庁に認められるとこの特例が適用され、一団の敷地内に複数の建築物を総合的に建築できるようになります。
「総合設計制度」と「総合的設計制度」は両方とも建築規制の緩和特例を定めた制度です。
「総合設計制度」は敷地内にオープンスペースを設けることで容積率(=階数)の緩和を受けられる特例、「総合的設計制度」はひとつの敷地に複数の建物を建てられる特例です。2つの相違点を理解し、混同しないようにしましょう。
「総合設計制度」は、各自治体ごとに細かく規定されています。複雑な制度を理解するには、宅地宅建取引業者としての専門性が必要です。
「総合設計制度」だけではなく、都市計画法や建築基準法など宅建の業務にかかわる法令は、複雑なうえに似た名称や内容が多く、混同しやすいものです。それらを理解するには、ただ丸暗記するのでは非効率です。
業務のために法令を確認したり宅建の試験勉強をする際には、各法令の背景や制定目的から調べ始めることをおすすめします。煩雑に思える規定にも、秩序が見出しやすくなるでしょう。
今回は総合設計制度についてわかりやすく説明いたしました。
オープンスペース(公開空地)を作ることで、特例が適用されます。特例の適用条件や規制緩和の内容など知っておくと、実務にも役立ちます。
お勤めの地域の自治体の条件を調べてみると、より理解が深くなるのでおすすめです。ぜひ確認してみてください。
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