総合設計制度とは何かわかりやすく解説|デメリットや適用条件なども紹介

投稿日 : 2020年02月13日/更新日 : 2023年04月10日

「総合設計制度」とは、建築基準法に規定されている建築制限の緩和が受けられる特例です。マンションやビルなど、一定以上の規模の敷地に建築する建物が適用対象となります。

「総合設計制度」の適用要件や緩和内容は、各自治体ごとに詳細に規定されています。そのため、適用を検討する担当不動産ごとに、毎回複雑な規定を確認したり緩和率の計算をすることになるのです。

「総合設計制度」は宅地宅建取引業者の業務の中でも、専門性が高いといえます。そこで今回は、複雑な「総合設計制度」をわかりやすく解説します。

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「総合設計制度」とは何かわかりやすく解説

「総合設計制度」とは、建築基準法に規定されている「敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例」を指します。

この制度は、ビルやマンションなどの敷地に一定割合以上のオープンスペースを設けることにより、市街地の環境改善に貢献すると認められる場合、特別に建築制限を緩和するというものです。

このオープンスペースを「公開空地」と言って、建物の関係者以外の一般市民でも日常的に自由に出入りできる快適な空間である必要があります。

「総合設計制度」の緩和措置を許可するのは、特定行政庁(市町村長または都道府県知事)です。

「総合設計制度」の適用条件

「総合設計制度」が適用できる公開空地や建築物の条件は、各自治体によって異なります。ここでは、その例を紹介します。

◆「総合設計制度」の適用条件の例

  • 敷地面積が一定以上である(例:商業地域で500㎡以上)
  • 公開空地の割合が一定以上である(例:1.15-基準建蔽率)
  • 前面道路の幅員が一定以上である(例:6m以上)
  • 建物の後退(敷地境界線と建物の距離)が一定以上である(例:高さの平方根の1/2以上)
  • 公開空地内の一定割合に緑化を施す(例:20%以上)
  • 駐車・駐輪施設を一定台数分設ける(例:共同住宅で1戸当たり2台以上)
  • 集会施設を設ける
  • 敷地内をバリアフリーとする(例:段差の排除・スロープの設置)
  • 国交省の指針に基づく防犯性を確保する

「総合設計制度」の規制緩和の内容

「総合設計制度」における規制緩和の内容は、ほとんどが建築物の高さに関わる緩和です。前節と同様、緩和内容も各自治体が独自に定めますので、ここではその概要や目安をご紹介します。

①「容積率」の割増し

容積率」とは、敷地面積に対する建物の延べ面積(各階面積の合計)の割合のことです。値が大きいほど、階数が多いことを表します。

容積率の割増し率は、複雑な計算式により算出する自治体がほとんどです。その計算に必要な要素=割増し率を左右する要素としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 敷地規模
  • 敷地内の公開空地の割合
  • 公開空地の質を評価し、数値化したもの
  • 建築物の性能を評価し、数値化したもの
  • 建築用途・地域地区を数値化したもの
  • 基準容積率 など

②「絶対高さ制限」の緩和

「絶対高さ」とは、容積率など間接的に建物の高さを規定するものではなく、「m」で示す高さの絶対値を指します。「総合設計制度」ではその緩和を受けられます。

③「斜線制限」の緩和

斜線制限」とは、対象の建物が道路や隣地などに面する一定部分の高さを制限するものです。道路や隣地との境界から建物に向かって一定比率の角度で斜線を引いたときに、その線を建築物がはみ出してはいけないという規定です。

これは、道路や隣地の採光や日照、通風を保つ目的で設定されています。

「斜線制限」には、「道路斜線制限」や「北側斜線制限」などがあり、「総合設計制度」ではその緩和を受けられます。

「マンション建替え円滑化法」による総合設計制度

耐震不足などのマンションの建替えを促進する目的で制定されたのが、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」です。

この法律にも「総合設計制度」の規定があり、各自治体が定めた条件を満たすことで、マンションを建替える際の建築制限を緩和することができます。

各自治体の「総合設計許可要綱」をチェック

各自治体では、「総合設計制度」の概要や利用できる緩和内容・適用条件などを定めた「総合設計許可要綱」を作成しています。公式ホームページにて公開している事が多いので、担当案件に応じて確認しましょう。

東京都では、「東京都都市整備局」が総合設計制度の運用を担当し、「総合設計許可要綱」を公開しています。

東京都都市整備局|総合設計制度

「総合設計制度」の許可申請方法

「総合設計制度」を利用したい場合には、対象物件が所在する自治体にて許可申請が必要です。申請方法や必要書類は、各自治体により異なります。ここでは、標準的な例として紹介します。

申請手続きの流れ

  1. 関係部局に事前相談する(都市整備局・消防局・環境局・建設局など)
  2. 基本計画を提出し、事前協議・審査を受ける
  3. 事前審査通過後、正式に許可申請書と審査会用の資料を提出する
  4. 審査会の許可通知が来たら、「確認申請」(建築基準法に適用しているか確認)を行う
  5. 「確認済証」が交付されたら、工事に着手することができる

(基本計画書・計画図面・設計概要・日影図など)

申請に必要な書類

  1. 許可申請書
  2. 理由書
  3. 関連部局による協議の結果報告書
  4. 公開空地の維持管理に関する誓約書
  5. 近隣説明報告書
  6. 登記事項証明書
  7. 設計書・設計図
  8. 周辺環境資料(用途地域図・付近見取図・写真など)
  9. 委任状 など

また申請手続きには、自治体や建築物の規模によって数万円~数十万円の申請手数料がかかります。

「総合設計制度」と「総合的設計制度」は違う

「総合設計制度」と似た制度に、「総合的設計制度」があります。この2つは名称が似ていながら、全く異なる制度です。2つの制度を混同しないよう、概要と違いを確認しましょう。

「総合的設計制度」とは

建築基準法では、ひとつの敷地にひとつの建物しか建てることができません。これを「一敷地一建築物の原則」といいます。

この原則があるため、ある敷地に複数の建物を建てたい場合、通常は分筆を行い、土地の登記簿を建物の数だけ用意する必要があります。

しかし、これでは土地が細切れになってしまい、まとまった土地として整備するのに不向きです。複数棟の集合住宅を建設する場合には、不都合が多くなってしまいます。

そこで、建築基準法に定められた特例が、「一団地の総合的設計制度(略して「総合的設計制度」)」です。一定の条件を満たすと特定行政庁に認められるとこの特例が適用され、一団の敷地内に複数の建築物を総合的に建築できるようになります。

「総合設計制度」と「総合的設計制度」の違い

「総合設計制度」と「総合的設計制度」は両方とも建築規制の緩和特例を定めた制度です。

「総合設計制度」は敷地内にオープンスペースを設けることで容積率(=階数)の緩和を受けられる特例、「総合的設計制度」はひとつの敷地に複数の建物を建てられる特例です。2つの相違点を理解し、混同しないようにしましょう。

法令は制定目的や背景から覚える

「総合設計制度」は、各自治体ごとに細かく規定されています。複雑な制度を理解するには、宅地宅建取引業者としての専門性が必要です。

「総合設計制度」だけではなく、都市計画法や建築基準法など宅建の業務にかかわる法令は、複雑なうえに似た名称や内容が多く、混同しやすいものです。それらを理解するには、ただ丸暗記するのでは非効率です。

業務のために法令を確認したり宅建の試験勉強をする際には、各法令の背景や制定目的から調べ始めることをおすすめします。煩雑に思える規定にも、秩序が見出しやすくなるでしょう。

まとめ

今回は総合設計制度についてわかりやすく説明いたしました。

オープンスペース(公開空地)を作ることで、特例が適用されます。特例の適用条件や規制緩和の内容など知っておくと、実務にも役立ちます。

お勤めの地域の自治体の条件を調べてみると、より理解が深くなるのでおすすめです。ぜひ確認してみてください。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。