所有権保存登記とは|費用・必要書類、自分で申請する方法も徹底解説
新築住宅を建てたときなどに、所有権保存登記などの登記申請手続きを行う必要があることを知っていますか?所有権保存登記を行うことで、所有権を法的に明確にすることができます。
所有権保存登記とは何か、所有権保存登記が必要な理由や準備が必要な書類、発生する費用などについて解説していきます。
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所有権保存登記とは
所有権保存登記とは、不動産登記の一つで、まだ所有権の登記がされていない不動産において、誰の所有であるかを公にするために最初に登記することをいいます。
不動産登記とは
不動産登記とは、土地や建物などの不動産が誰のものなのか、権利関係を明確にするために法務局で公に記録して管理する制度です。所在地や面積、用途、所有者の住所、氏名など情報が記録されています。法務局で登記情報が記録された帳簿は、登記記録や登記簿と呼ばれています。
登記内容は一般に公開され、誰でも手数料を支払うことで閲覧したり、登記内容が記載された登記事項証明書の交付を受けたりすることが可能です。登記事項証明書の交付手数料は、法務局の窓口で申し込む場合は600円、オンライン請求の場合は500円程度です。
新規物件の場合は所有権保存登記
所有権保存登記が必要になるのは、建物を新築したときです。ただし、所有権表示登記を行う前に、建物の所在地や種類、床面積など、どのような建物なのか物理的状況を示す、建物表題登記を行う必要があります。建物表題登記による情報は、登記記録の表題部に記録されます。
建物表題登記は、新築した建物の引き渡しを受けてから1ヶ月以内に申請することが義務付けられており、怠った場合には10万円の過料が課されるため、注意が必要です。
所有権保存登記は任意ではありますが、登記しないことによるデメリットがあります。建物を新築したときは二段階で、まず、建物表題登記を行うと表題部に記録され、次に所有権保存登記を行うと権利部に記録されるという流れになります。
登記を専門家に依頼する場合は、建物表示登記は土地家屋調査士、所有権保存登記は司法書士です。
所有権保存登記が記録される権利部(甲区)については、『登記簿謄本「甲区」の見方|所有権の確認ポイントと対処すべき記載とは』で解説しています。
中古物件の所有者が変わる場合は所有権移転登記
中古物件を購入したときなど、土地や建物の売買や相続、贈与などによって所有者が変わった場合には、所有権移転登記が必要です。所有権が変わる都度、所有権移転登記が行われると、登記記録の権利部に記録されていくため、不動産の所有者の履歴がわかります。
所有権保存登記のデメリット
所有権保存登記は任意であり、登記申請を行わないことによる罰則規定は設けられていません。しかし、所有権保存登記を行わないことには、以下のようなデメリットがあります。
<所有権保存登記をしないデメリット>
- 不動産の権利を主張できない
- 不動産を担保にした融資を受けられない
- 所有者が特定できない
- 相続時にトラブルになるリスクがある
不動産の権利を主張できない
所有権保存登記をしていない場合は、第三者に対して所有権を法的に主張することができません。売買を巡るトラブルになった場合、不動産売買では先に所有権移転登記を行った方が所有権を主張できます。表題登記を行っている場合は、原則として所有権保存登記は表題登記を行った人や相続人しかできません。
表題登記や所有権保存登記を行っていない未登記の場合は、所有者が知らない間に見知らぬ人が表題登記や所有権保存登記を行い、第三者に転売されて、所有権移転登記が行われるリスクがあります。たとえ裁判で争っても、第三者が登記を行っていると不利になるのです。
不動産を担保にした融資を受けられない
不動産は登記簿上の所有者でなければ、所有者ということを買主に証明できないため、通常、売却することは難しいです。まったく売却できないというわけではありませんが、信用性に欠けるリスクのある取引となるため、相場よりもかなり安い価格で売ることになります。
また、所有権保存登記をしなければ、買主が所有権移転登記を行うことはできず、住宅ローンを借り入れる際に金融機関が抵当権設定登記ができないため、当該の不動産を担保に融資を受けることもできません。
通常、住宅ローンの借入では金融機関が抵当権を設定して、返済が滞ったときに担保権を行使できるようにしています。そのため、未登記の不動産の売買では、買主は現金で購入できる人に限られてしまうのです。
所有者が特定できない
登記簿は一般に公開されているため、誰でも法務局で登記簿謄本や登記事項証明書を取得して、不動産の所有者の氏名や住所を知ることが可能です。通常、土地買収や賃借を行う場合、登記簿に書かれた情報に基づいて、所有者を特定して進めます。
所有者保存登記が行われていない場合、所有者が特定できず、不動産取引の交渉を行うことが難航します。これは民間企業との不動産取引に関わらず、行政による公共事業の用地取得の場合も同様で、公共事業の進捗に影響します。
また、「登記せずにいれば固定資産税の徴収を逃れられるのでは?」という誤った認識から、所有権保存登記を行わないケースもみられますが、実際のところは登記の有無に関わらず、固定資産税は課税されます。
相続時にトラブルになるリスクがある
登記をしないまま所有者が亡くなってしまうと、所有権などの権利関係が明確ではないため、たとえば、購入希望者が現れても、相続人の誰と話をしたらよいのかわからない状態になります。
また、遺産分割協議によって遺産を分割しても、未登記のままではほかの相続人が勝手に売却をするといったトラブルが起こるリスクも考えられます。
あるいは、未登記の場合、登記簿で確認できないことから、相続財産を調査した際に見落とすリスクもあります。
また、相続の発生後に未登記の建物の表題登記や所有権保存登記を行うこともできますが、通常よりも手続きが煩雑です。
所有権保存登記が必要になる場合
建物表題登記や所有権保存登記を行う必要があるときや、登記が行われていないと支障をきたすのは、以下のケースです。
- 建物の新築・増築・取り壊し
- 住宅ローンの利用・借換え・完済
- 不動産の購入・売却・相続・贈与
建物を新築した際には、建物表題登記を行った後、所有権保存登記を行います。増築したときには建物表題部変更登記、建物を取り壊したときには建物滅失登記を行うことが必要です。
通常、建物滅失登記によって、建物の取り壊しをしたことが法務局から市区町村に連絡がいき、建物に関する固定資産税が発生しなくなります。
未登記の建物にも固定資産税がかかりますが、未登記の場合は建物滅失登記が行えないため、市区町村に家屋滅失届を提出することが必要です。
住宅ローンを利用する際や借換えをする際には、金融機関が抵当権設定登記を行うため、所有権保存登記などによって、所有権の登記がされていることが前提となります。住宅ローンを完済した際には、抵当権抹消登記を行うことが必要です。
建売住宅を購入する場合、建売業者が建物表題登記や所有権保存登記を行わず、買主が行うのが一般的です。
建売業者が建物表題登記や所有権保存登記を行っている場合は、所有権移転登記を行います。また、売却や相続、贈与によって所有権移転登記を行うためには、所有権保存登記が必要です。
所有権保存登記登記にかかる費用
所有権保存登記登記を行うには以下の費用がかかります。
ただし、司法書士に依頼せずに、個人で登記の手続きを行う場合には司法書士費用は不要です。
それぞれについて解説していきます。
<所有権保存登記登記にかかる費用>
登録免許税
所有権保存登記を行う際には登録免許税が発生しますが、税額は一律に決められているわけではなく、新築した建物の不動産の価額をもとに算出されます。
登録免許税の税額の計算式は、「不動産の価額 × 税率 = 登録免許税額」であり、基本的な税率は0.4%です。
不動産の価額は建物完成からの期間によって、指標となる基準が以下のように変わります。
- 建物完成後1年経過・・・固定資産評価額
- 建物完成後1年以内・・・基準表をもとに算出
所有権保存登記を行うときに、建物の完成から1年経過している場合は、市町村が固定資産税の算出に用いる固定資産税評価額を決定しています。登録免許税の課税標準となる不動産の価額にも、固定資産税評価額が用いられます。
建物の完成から1年以内に所有権保存登記を行う場合には、まだ、市町村が固定資産税評価額を決定していません。そのため、登記官が認定した額となり、都道府県ごとに基準が決められています。
たとえば、平成30年度の「東京法務局管内新築建物課税標準価格認定基準表」によると、木造住宅の1㎡あたりの基準額は95,000円です。延べ床面積が150㎡の場合、登録免許税は以下の計算式になります。
不動産の価額:95,000×150=1,4250,000円
登録免許税:1,4250,000×0.4%=57,000円
必要書類の準備費用
所有権保存登記に必要な書類で費用が発生するのは、住民票の写しと住宅用家屋証明書です。市区町村の役所で交付を受けるときの手数料は、住民票の写しは300円程度、住宅用家屋証明書は1,300円です。
住宅用家屋証明書は必須ではありませんが、後述する住宅用家屋の軽減措置を受けるためには必要になります。
司法書士費用
所有権保存登記を司法書士に委託した場合の費用は20,000円~40,000円程度が目安です。
軽減措置を受けるために住宅用家屋証明書を取得する場合、通常、司法書士が代理申請するため、取得手数料の分費用がアップします。
登録免許税の軽減措置について
所有権保存登記に関わる登録免許税には、3種類の軽減措置があります。いずれも、時限措置であり、期限が異なりますので注意が必要です。
<軽減措置が受けられる条件>
住宅用建物
住宅用家屋として、所有権保存登記の登録免許税の軽減措置を受けるには、以下の条件があります。
- 自己居住用の住宅
- 新築又は取得後1年以内に登記されたもの
- 床面積(登記床面積)50m2以上
条件をすべて満たしている場合、市町村で住宅用家屋証明書の発行を受けて、軽減措置の適用を受けることができます。
居住用を前提としているため、住宅用家屋証明書の申請にあたっては、未入居の場合は申し立て書などが必要です。
また、マンションなどの区分所有建物の場合は、耐火建築物又は準耐火建築物に限られます。
住宅用家屋として軽減措置受けられる場合、登録免許税の税率は0.15%になります。住宅用家屋の所有権保存登記の軽減措置は、2年間延長されて2022年3月までになりました。
認定長期優良住宅
画像引用:特定の住宅用家屋に係る登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ
認定長期優良住宅として、所有権保存登記の登録免許税の軽減措置を受けるには、以下の条件があります。
- 自己居住用の住宅
- 新築又は取得後1年以内に登記されたもの
- 床面積(登記床面積)50m2以上
- 認定長期優良住宅
住宅用家屋の軽減措置の条件に、認定長期優良住宅であることが加わります。
認定長期優良住宅とは、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」による認定を受けた住宅です。
行政官庁による認定にあたっては、劣化対策や耐震性、バリアフリー性、省エネ性などの性能項目が定められています。
認定長期優良住宅の場合、所有権保存登記の登録免許税は税率が0.1%になります。また、2020年3月31日までに取得した住宅が対象です。
認定低炭素住宅
画像引用:特定の住宅用家屋に係る登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ
認定低炭素優良住宅として、所有権保存登記の登録免許税の軽減措置を受けるには、以下の条件があります。
- 自己居住用の住宅
- 新築又は取得後1年以内に登記されたもの
- 床面積(登記床面積)50m2以上
- 認定低炭素住宅
住宅用家屋の軽減措置の条件に、認定低炭素住宅であることが加わる形です。
認定低炭素住宅とは、都市の低炭素化の促進に関する法律に基づいて、行政官庁に低炭素建築物と認定された住宅です。
省エネ基準よりも一次エネルギー消費量がマイナス10%以上となること、低炭素化に役立つ措置が2つ以上講じられていることなどの条件があります。
認定低炭素優良住宅は、所有権保存登記の登録免許税の税率が0.1%に軽減されます。また、2020年3月31日までに取得した住宅が対象です。
所有権保存登記登記の必要書類
所有権保存登記に必要な以下の書類について紹介していきます。
<必要書類>
ただし、委任状は必ずいるわけではなく、司法書士などに登記申請を委託する場合に必要です。
住民票
建物の所有者になる人全員の住民票の写しが必要になります。
所有者が同一世帯の家族の場合を除き、所有者が複数人の場合は、複数の住民票が必要です。
住宅用家屋証明書
住宅用家屋証明書は建物表題登記を行った後、市町村の役所で入手できます。
発行申請にあたっては、登記事項証明書または登記完了証と、建築確認通知書または検査済証、住民票の写しなどを添付します。
発行にかかる手数料は1,300円です。
登記申請書
登記申請書は、登記申請にあたって所有権保存登記に必要な情報をまとめたものです。
引用元:不動産登記の申請書様式について:法務局 記載例PDF
所有者には、所有権保存登記を行う所有者の氏名、住所、住所コード、電話番号を記入します。
課税価格は固定資産税評価額が決定している場合は固定資産税評価額、決まっていない場合は都道府県ごとに決められた基準表によります。
登録免許税の金額は課税価額に税率の0.4%をかけたものですが、軽減措置が適用される場合もあります。
不動産の表示には登記記録にもとづいて記載が必要ですが、不動産番号を記載することで、所在や家屋番号、種類、構造及び床面積は記載を省くことが可能です。
委任状
所有権保存登記は申請者本人以外に、司法書士などの第三者が行うことも可能です。代理人による所有権保存登記の申請には委任状が必要です。
所有権保存登記の申請方法
所有保存登記を行うには、不動産の所在地を管轄する法務局へ書類などを提出して申請します。申請方法は以下の2つの方法があります。
持参
法務省の業務取り扱い時間である平日の8時30分~17時15分の間に必要な書類を持参する方法です。
持参による方法は、その場で書類の確認が行われ、不備がある場合は内容によってはその場で修正ができるため、確実な方法です。
郵送
郵送の場合は、必要な書類や返信用の切手を貼った封筒を封筒に入れて、封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と赤字で記載して、書留郵便で郵送します。
登記が完了すると、登記完了証と登記識別情報が、本人限定郵便で送付されます。
手続きを個人で行うことは可能だが、おすすめできない
所有保存登記の手続きを個人で行うことは可能ですが、以下のような注意点があります。
- ネットでは嘘の情報が多いこと
- 法務局での相談窓口は平日の17:15までで、相談時間に制限があること
- 書類に不備があると、修正に時間がかかること
自分で申請すると書類の不備などから、迅速に登記申請を行うのが難しいことや、申請手続きは平日に限られることなどを踏まえましょう。
まとめ
所有権保存登記は任意で行うものであり、義務付けられてはいませんが、所有権を法的に明確にするために行うべきです。
売却や相続の際に所有権保存登記を行っていなければ支障をきたします。
注文住宅を建てたり、建売住宅を購入したりした場合には、建物表題登記を行った後に、所有権保存登記が必要です。
不動産営業実務マニュアルに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
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