【宅建問題】物権変動の対抗問題とは|権利主張の条件や判例を使ってわかりやすく解説

投稿日 : 2020年03月11日/更新日 : 2023年06月03日

「物権変動の対抗問題」とは、不動産の権利を複数の人が主張した場合にどのような結論となるか、というテーマです。

宅建業では、ほとんどの業務で何かしらの物権変動を扱うため、対抗問題への知識は必須となります。権利を主張できる条件はケースごとに細かく分かれているので注意が必要です。

宅建試験の学習を始めたばかりでこのテーマに取り組むと、難易度が高く感じる人もいるでしょう。

しかし、出題方法はある程度パターン化しているため、攻略すれば正解しやすい分野です。焦らず勉強しましょう。

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「物権変動の対抗問題」の試験科目

権利関係

「物権変動の対抗問題」が含まれる試験分野

物権変動

「物権変動の対抗問題」の重要度

★★★★☆  宅建の業務に深く関わるテーマ

「物権変動の対抗問題」過去10年の出題率

50%

 

2022年宅建試験のヤマ張り予想

「対抗問題」だけなら過去10年の出題率は5割ですが、「物権変動」分野全体の出題率は80%と高く、特に直近の5年では100%となっています。

そのため、2022年も出ることを前提に学習を進めた方がいいでしょう。

 

「物権変動の対抗問題」の解説

物権変動における「対抗問題」とは

物権変動とは、物権(物を直接支配する権利で、所有権、占有権、抵当権など)が契約などを原因として発生・変更・消滅することです。

物権変動における対抗問題とは、不動産(など取引の目的物)について物権を主張できる人が複数いた場合に、相手に対抗できるのはどのような条件においてか、という問題です。

所有権の移転時期について

宅建試験に出題される「物権変動の対抗問題」を理解するために、まずは不動産売買において物権変動がいつ起こるのかを確認しましょう。

不動産売買における物権変動とは、「所有権の移転」です。

民法では、両当事者の「売ります」「買います」という意思表示が合致した時に売買契約が成立し、その時点で所有権も自動的に移転するとされています。

このとき、契約書を交わしたり登記手続きを行わなくても、当事者間の合意のみで所有権の移転まで成立する点が重要です。

売買契約が成立し所有権が移転すれば、買主は売主に代金を支払う義務を負い、売主は買主に目的物(土地など)を引き渡す義務を負います。

この義務は相続が起こった際の財産分与の対象となります。そのため、もし当事者が死亡した場合には、その義務は相続人が負うことになります。

 

 

対抗問題の判断基準は「登記」

1つの不動産について所有権を主張できる人が複数いる「対抗問題」が生じている場合、原則的には「登記」に従います。

登記とは、不動産などの所有者や権利関係の法的な記録です。

そのため、先に登記を行った方が、法的に正式な所有者となります。

つまり、登記を備えていなければ、登記を先に済ませた「第三者」に対抗できません。

対抗問題において登記を先に行った者が勝つという原則は、売買契約だけでなく取引すべてに適用されます。

また、賃借契約の場合には、借地借家法による対抗力も認められます。

 

登記の備えにより対抗できるケース

登記がなければ対抗できない「第三者」には要件があり、「相手に登記がないことを主張する正当な利益を有する者」とされています。

この要件に当てはまる以下のような両者においては、登記を備えている方が勝ちます。

  1. 二重譲渡における2人の買主
  2. 「賃貸借物件の新しい所有者」と「対抗力のある賃借人」(対抗力:①借地の場合は建物の登記を備えていること、②借家の場合は入居など引渡しが住んでいること)
  3. 「不動産の新しい買主」と「既存の抵当権者」

 

また、「登記がないことを主張する正当な利益を有する者」は、善意か悪意かは問われません。

民法における「悪意」とは事実を知っているという意味で、「善意」とは事実を知らないという意味です。

そのため、悪意ある取引とは、単に取引相手の不利になることを知っていた上での取引ということになり、自由取引競争の範囲内であるとして認められます。

そのため、単なる悪意者であれば、正当な利益を有する者として認められます。

 

 

登記の備えがなくても対抗できる相手

以下の場合は、「正当な利益を有しない者」として、対抗力がない第三者と判断されます。

  1. 売主(売買契約は意思の合致のみで成立するため)
  2. 売主の相続人(売主の債務を承継するため)
  3. 不法占拠者
  4. 無権利者(虚偽表示など無効な法律行為による取得者など)
  5. 詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた第三者
  6. 他人のために登記を申請する義務を負う第三者
  7. 背信的悪意者(嫌がらせや妨害など信義に背く目的で行為した者)
  8. 背信的悪意者からの転得者

 

「物権変動の対抗問題」に関連する法律

この項目に関連する法律は以下のとおりです。

民法(施行日:令和2年4月1日)

第176条(物権の設定及び移転)

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

 

第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

第605条(不動産賃貸借の対抗力)

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

 

 

借地借家法(施行日:令和2年4月1日)

第10条(借地権の対抗力)

借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。

(以下省略)

 

第31条(建物賃貸借の対抗力)

建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

 

実際に過去問を解いてみよう

問題:

AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述について、民法の規定及び判例によれば、正しいかまたは誤りか答えなさい。

AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。

(令和元年度出題)

答え:○

 

解説

CはBの詐欺を認識していたため、「相手に登記がないことを主張する正当な利益を有する者」には該当しません。そのため、AはCに対して甲土地の所有権を主張できます。

 

まとめ:物権変動の対抗問題とは

  1. 物権変動の対抗問題とは、物権を主張できる人が複数いた場合に、相手に対抗しうるかという問題である
  2. 売買契約における所有権移転は、当事者間の合意のみで成立する
  3. 対抗問題において権利を主張できるのは、原則的には「登記」を備えている方である
  4. 不法占拠者や無権利者、背信的悪意者に対しては、登記を備えていなくても権利を主張できる

 

はじめはシンプルにとらえて理解する

民法の目的は、当事者の権利を守ることです。

しかし、物権変動の対抗問題では、正当な利益を有する人が2人存在し、どちらかの権利を棄却しなくてはいけません。

そのため、初心者にとって難易度が高く感じてしまいます。

はじめは、「登記を備えた者が勝つ」という大原則や、「もとから正当性がない人には対抗できる」というシンプルな大枠から捉えるようにすると、理解しやすくなります。

そして、学習が進むうちに詳細な条件や個別の事例を学ぶようにすると、覚えやすいでしょう。

物権変動の対抗問題とは何なのか

物権変動における対抗問題とは、不動産(など取引の目的物)について物権を主張できる人が複数いた場合に、相手に対抗できるのはどのような条件においてか、という問題です。

イメージできた方は下記の記事にも挑戦してみてください。

あわせて読みたい:物権変動と登記|契約取消し・解除・時効取得・相続における所有権

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。
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