不動産の差押における対応|法的位置づけや競売の流れ・解除方法など
不動産業に携わっていると、「不動産の差押」事案に関わることがあるかもしれません。
「差押」は、不動産の持主様が住宅ローンを返済できないときや、債務不履行に陥ったときに生じます。ネガティブな状況のため、差押不動産についての業務を担当する場合には、宅建業者は難しい対応を迫られることもあるでしょう。
また、差押不動産を商品として取扱う機会も考えられます。
そこで今回は、不動産の差押についてご説明します。
不動産の「差押」とは
「差押」とは、債務者が債務不履行に陥った場合に、裁判所や行政が債務者の財産である不動産などを確保し、債務者の不動産に関する権利を没収することです。
差押えた不動産は「競売」や「公売」によって現金に換価し、債権者に配当することで債権を回収させたり、税金の滞納分を徴収したりします。
不動産の「差押」3つのパターン
差押には、大きく分けて3つのパターンがあります。
ローン返済の遅滞(抵当権の行使)
抵当権とは、住宅ローンなどの返済が滞った場合に、契約時に指定した債務者の財産を差押えることができる権利です。実際に債務者が債務不履行となった際には、債権者は裁判所に申し立て、抵当権を行使することができます。
裁判による判決や和解(強制執行)
裁判の判決や和解により金銭の支払いや不動産の明渡しが決まっているにもかかわらず、その債務を履行しなかった場合に、債務名義を有する人(債権者)の請求により、裁判所が強制的に差押を行います。
税金や社会保険料の滞納
税金や社会保険料の滞納が起こった場合、行政や自治体が滞納者の財産である不動産を差押えることができます。行政が差押えた不動産を換価するときには、「公売」によって行います。
「抵当権行使」と「強制執行」の違い
「抵当権の行使」と「裁判による強制執行」は、どちらも債権者からの申し立てにより、裁判所が強制的に差押を行うものです。この2つの違いは、「債務名義」が必要かどうかにあります。
「債務名義」とは、執行機関(裁判所など)の強制執行によって実現されるべき債権の存在と範囲、債務者・債権者を証明する公的文書です。
「抵当権の行使」による差押の場合、債権者が抵当権を持っていれば、債務名義を提示することなしに差押を実行させることができます。
一方、裁判や和解による「強制執行」は、債務名義によって債権を証明することで差押が行われます。
差押・競売の流れ
差押と競売は、以下のような流れで行われます。
- 債権者が差押を申立てる
- 法務局が差押登記を行う
- 債務者に差押の通知が届く
- 裁判所が競売の準備をする
- 競売情報が公開される
- 買受希望者が入札・落札する
- 裁判所が所有権移転登記を行う
- 債務者は不動産を明け渡す
- 債権者に売却金が配当される
①差押の申立て
差押を実行するには、債権者(金融機関など)が裁判所に申立てを行います。差押(不動産執行)の申立ては、不動産の所在地を管轄する地方裁判所にて、書面により行います。
◆差押の申立ての必要書類
- 競売申立書
- 不動産登記事項証明書(発行後1か月以内)
- 債務名義(強制執行の場合)
- 公課証明書または評価証明書
- 住民票 など
②差押登記
債権者の申立てが認められると、裁判所は不動産差押(不動産執行)開始を決定します。そして、管轄法務局に嘱託して、不動産登記簿に「差押」登記を行います。
③差押・競売開始通知
差押開始を決定すると、裁判所は債務者に対して「競売開始決定通知」を送付します。
④競売の準備
裁判所は、差押えた不動産を競売により売却するために、「売却基準価額」を設定します。また、買受希望者が閲覧するための「競売情報3点セット」を用意します。
◆競売情報3点セット
- 現況調査報告書…土地の地目・建物の種類・構造など不動産の現況、不動産の写真、現在の占有者とその権利など
- 評価書…競売不動産の周辺環境や評価額、不動産の図面など
- 物件明細書…引き継ぐ必要のある賃借権などがあるか、土地または建物のみの買受けが可能かなど
⑤競売情報の公開
競売の準備が整ったら、裁判所が売却の日時・場所・売却方法を決定し、「不動産競売物件情報サイトBIT」にて競売情報を公開します。その他、地方によって住宅情報誌や新聞に広告を掲載する場合もあります。
⑥入札・落札
買受希望者は、競売情報に記載された保証金を納付し、入札書にて希望買受価格を提示します。入札期間が終わった段階で最高額を提示した入札者が落札します。ただし、裁判所が設定した売却基準価額の80%以上の金額でなければ、認められません。
⑦所有権移転登記
所有権移転登記が行われ、所有権が落札者に移転します。手続きは裁判所が行い、登録免許税などの登記費用は落札者が負担します。
⑧不動産の明渡し
売却された不動産に占有者がいる場合、占有者に居住権がなければ、新しい所有者から退去を請求できます。占有者が退去請求に応じない場合には、購入後6ヵ月以内に執行裁判所に申立てを行い、「引渡し命令」を出してもらいます。引渡し命令があれば、執行官に「強制退去手続き」の申立てを行うことができます。
⑨売却金の配当
法律上の優先順位に従い、裁判所が債権者へ売却金額を配当します。
「差押」の不動産登記
裁判所が差押を決定すると、法務局を通じて差押登記が行われます。差押登記とは、当該不動産が差押られたことを記載するもので、「権利部(甲区)」欄に記載されます。
◆差押登記の内容
- 登記の目的・原因…差押
- 受付年月日・受付番号
- 順位番号
- 権利者その他の事項…差押を行った行政・自治体名(債権者として)
「仮差押」とは
「仮差押」とは、正式な差押が完了するまでの間に債務者が不動産を売却処分しないよう、先行して行う登記です。差押手続きは数ヵ月程度かかるため、債権者は仮差押を申立てることができます。
「参加差押」とは
税務署や地方自治体が租税滞納者の財産を差押るときに、すでに他の行政などによって差押が行われていた場合に、重ねて差押を行うことを言います。登記簿の「権利部(甲区)」欄に「登記の目的・原因」として記載されます。
「差押不動産」の取扱い方
賃貸不動産が差押を受けたら
賃貸不動産差押を受けた場合、裁判所から借主様のもとへ「債権差押命令」という書面が送付されます。債権差押命令が下されると、借主様は「第三債務者」として扱われ、以降は家賃を支払わないよう求められます。
ただし、すでに支払い済みの家賃については、具体的な指示がない限り裁判所から問題にされることはないでしょう。
また、「債権差押命令書」には、現在の契約と賃料の支払い状況を確認するための「陳述書」が同封されています。借主様はその「陳述書」に必要事項を記載し、裁判所に返送しなくてはいけません。
差押えられた賃貸不動産は、競売に出され落札される可能性があります。そして、抵当権の行使による差押・競売であれば、債権者から退去請求されれば、6ヵ月以内に引き渡さなければいけないとされています(電子政府の総合窓口e-Gov|民法第395条)。
ただし、強制執行や仮差押登記以前からの入居者は、落札者の権利と対抗できるとする判例もあります。
差押の解除方法
差押を解除するためには、債務者が債権者に対して残債務を一括返済する必要があります。ローン返済の遅滞であっても、一度差押を受けると、それまでのような分割による返済はできなくなります。
ただし、債権者との交渉次第では、今後の返済計画と債務履行の確実な見通しを示すことにより、引き続き分割返済に応じてもらえる場合があります。
また、債務者が自己破産の申立てを行うことで、差押が中止または失効される場合があります。
関連法の理解と丁寧な対応が大切
差押は法的措置であるため、差押不動産を取扱う可能性のある宅建業者は、関連法について十分理解しておく必要があります。専門的な対応が求められるケースには、弁護士などの専門家との連携も大切です。
お客様が差押にあってしまった場合には、難しい業務の中でも、今後の生活をサポートできるよう丁寧に対応したいものです。
不動産営業実務マニュアルに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事
- 不動産業務効率化
- 不動産DXサービス特集
- 不動産DX導入インタビュー
- 不動産業界DX
- 不動産営業とは?仕事内容と成約率アップのポイントを解説
- 賃貸管理会社はどこが良い?管理戸数ランキングと選び方を紹介