債務不履行による同時履行の抗弁権とは|履行不能と履行遅滞の違いを学ぶ
不動産売買をすると、売主と買主にはそれぞれ守らなくてはいけない約束事が発生します。
それはどんな約束事であり、どちらかが約束を守らなかったときにはどんな事態が起きるのでしょうか。
今回は債務不履行とは何なのか、債務を履行できないときにはどうなるのかについて学びましょう。
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「履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権」の試験科目
権利関係
「履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権」が含まれる試験分野
債務不履行・解除
「履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ | 他の分野でも出題される可能性が高い項目です |
「履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権」過去10年の出題率
50%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
債務不履行に関する問題はこれまでの宅建試験でも多く出題されています。
債務不履行分野の単独で出題されるときもあれば、時効や弁済などの他の分野とからめて出題される場合もあり、しっかりと内容を把握しておかなければ正答できません。
できるだけ過去問を多く解き、債務不履行が関連する判例にも目を通しておきましょう。
債務不履行・履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権の解説
債務不履行とは文字通り「課せられた債務を履行できないこと」の意味です。
しかし債務の意味をよくわかっていない人も多いと思いますので、そもそも債務とは何かからしっかり理解していきましょう。
債務・債権とは
債務もしくは債権には、以下のような意味があります。
債務 | 相手に対して負う義務 |
債権 | 相手に対して請求できる権利 |
債務者とは相手に対する債務(義務)がある人、債権者とは相手に対する債権(権利)を持っている人を指します。
同時履行とは
不動産売買では債務と債権は相関関係にあり、売主側と買主側はそれぞれ以下の義務と権利が発生しています。
売主 | 債務 | 建物を引き渡す義務 |
債権 | 代金をもらえる権利 | |
買主 | 債務 | 代金を支払う義務 |
債権 | 建物を受け取る権利 |
一般的に不動産売買契約では、書面上の建物引き渡しと代金支払いは同時に行われます。これを同時履行と言います。
片方は債務を履行しているのに、もう片方が債務の履行ができなければ、履行できなかった側は債務不履行ということになります。
履行不能と履行遅滞の違い
債務不履行は、不履行の種類により履行不能と履行遅滞とに分けられます。
履行不能 | 債務の履行が不可能になること
(例)売主のタバコの火の不始末で建物が全焼した |
履行遅滞 | 履行が約束の期日よりも遅れること
(例)建築工事が遅れて期日までに引き渡しできなかった |
また、契約内容によっては履行遅滞となる時期が変わってきます。
確定期限(明確な期日が決まっている)の契約 | 期限が到来した日 |
不確定期限(特定の期日はないが履行条件が決まっている)の契約 | 期限が到来した日の後に履行の請求を受けた日、または期限が到来したことを知った日 |
期限の定めのない契約 | 債務者が債権者から履行の請求を受けた日 |
同時履行の抗弁権とは
債務と債権は、それぞれ独立しています。
もし債務者として債務が履行できなかったとしても、債権者としての権利は別扱いになるため、相手に対する履行の請求はできるわけです。
つまり売主側が期日までに建物の引き渡しができなかった(履行遅滞)としても、売主は買主に対して代金を請求できます。
しかし、それは買主にとってあまりにも理不尽です。いくら代金支払いの債務があるとしても、建物の引き渡しがされていないのにお金だけ払うのは納得できません。
そのため、同時履行の契約では同時履行の抗弁権の主張が認められています。相手方が債務を履行しない限りは、自己の債務の履行も拒むことができるという権利です。
ただし同時履行の抗弁権を主張するためには、自分自身が履行の提供をしておく必要があります。上記の例では、買主側の代金の支払いが履行の提供に当たります。
これは実際にお金を振込む(現実の提供)必要はなく、銀行の融資証明や預金高の証明を提示しての催告(口頭の提供)でも主張が可能です。
「履行不能・履行遅滞・同時履行の抗弁権」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 ↓ 【改正後】 第541条(催告による解除) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 ↓ 【改正後】 第542条(催告によらない解除) 1.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 一 債務の全部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。 2.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。 一 債務の一部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 ↓ 【改正後】 第533条(同時履行の抗弁) 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
同時履行の抗弁権に関する以下の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはいくつあるか。
- マンションの賃貸借契約終了に伴う賃貸人の敷金返還債務と、賃借人の明渡債務は、特別の約上のない限り、同時履行の関係に立つ。
- マンションの売買契約がマンション引渡し後に債務不履行を理由に解除された場合、契約は遡及的に消滅するため、売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、同時履行の関係に立たない。
- マンションの売買契約に基づく買主の売買代金支払債務と、売主の所有権移転登記に協力する債務は、特別の事情のない限り、同時履行の関係に立つ。
(令和27年度本試験にて出題)
答え:1つ
解説
1.は×です。明渡完了までは敷金の返還請求権は発生しないため、明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係になりません。
2.は×です。債務不履行を理由に売買契約が解除された場合、代金返還債務と目的物返還債務とは同時履行です。
3.は〇です。所有権移転登記に協力する債務と売買代金支払債務は同時履行の関係になります。
「債務不履行」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 契約で定めた約束事を守らない場合は債務不履行となる
- 不動産売買では売主と買主の債務・債権は同時履行の関係にある
- 同時履行の契約で一方の履行がされない場合、同時履行の抗弁権が主張できる
- 債務不履行は履行不能と履行遅滞に分けられる
最後に
不動産売買契約では債務と債権が同時に発生しているため、どちらの立場で債務不履行になるかどうかわかりません。
債務不履行とはどのようなものかを知り、いざお客様が相手方の債務不履行で損害を受けそうになったときにはどうすれば良いかを理解しておきましょう。
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