契約解除と手付解除の違い|解除は何が原因で起こり何が義務になるか

投稿日 : 2020年03月07日/更新日 : 2023年02月01日

本来であれば、いったん締結した契約は遂行されなければいけません。

しかし相手方が約束を守らない場合には、はじめから契約を無かった状態にしたいと意思表示をすることができます。

契約当事者の意思で契約前の状態にすることを解除と言います。

また、契約時に手付金の授受がある場合には、その手付金または手付金の倍額を支払って契約解除することができます。これを手付解除と言います。

同じ解除ではありますが、宅建の試験勉強をする上では違いを明確にしておく必要があります。

今回は契約解除と手付解除について順番に解説していきます。

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「契約解除」「手付解除」の試験科目

権利関係

「契約解除」「手付解除」が含まれる試験分野

債務不履行・解除

「契約解除」「手付解除」の重要度

★ ★ ★ ★ ★  出題率は低くても無視できません

「契約解除」「手付解除」過去10年の出題率

5%

 

2020年宅建試験のヤマ張り予想

「契約解除」に関する問題は、これまでの傾向として他の分野とからめて出題されることが多くなっています。

過去10年の出題率が5%とはいえ、他の分野とあわせて確実に点数を取っていくためには、契約解除の概念的なところから押さえておく必要があります。特に解除権が発生する要件と効果についてはしっかり覚えておきましょう。

手付解除については、解除できるタイミングを把握できるようになれば大丈夫です。

 

「契約解除」の解説

 

契約を解除するためには、解除に正当な理由があることの証明とともに、いくつかの条件をクリアする必要があります。

まずはどうなったら契約解除となるか、契約解除のタイミングから確認しましょう。

 

契約解除のタイミング

〇履行不能な場合

債務者が債務を履行できない(履行不能)場合には、相手側は直ちに契約解除の意思表示ができます。事前の催告は必要ありません。

〇履行遅滞の場合

債務の履行が遅れている(履行遅滞)場合、相手側は相当の期間を定めて履行を催告します。催告した期間内に履行がされなければ、契約解除の意思表示ができます。

ただし客観的に見て相当の期間が経過している場合には、催告と同時、または催告しなくても契約解除が可能です。

〇ローン特約の場合

土地建物の購入で住宅ローンを借りる必要がある場合には、買主がローンを組めなかった事態に備えて、所定の期日までにローンが借りられなかった場合には自動的に契約が解除になるというローン特約を結ぶことがあります。

 

契約解除になると

契約が解除されると、当事者双方は原状回復義務を負います。

双方ともに債務が履行されていない場合には、履行する必要はありません。いずれか一方が債務を履行している場合には、元の所有者への変換義務があります。

また金銭の返還を請求する際には、受領の時からの利息分も合わせて請求できます。

 

契約解除に第三者が関係する場合

 

契約解除による原状回復では、第三者の権利を侵害することはできません。

例えば土地建物がすでに第三者に転売されていた場合、その土地建物を取り戻すことはできなくなります。ただしその場合には、第三者が所有権変更登記を完了させていることが条件となります。

 

相手が契約解除に同意しないとき

契約解除の意思表示にあたっては、相手方の承諾は不要です。もし相手が契約解除に同意しなくても、解除は有効となります。

 

解除権の撤回

いったん解除権を行使すると、その意思表示を撤回することはできません。また解除権を有している者であっても、相手方が相当の期間をおいて解除権の行使について催告し、その期間内に行使しなければ解除権が無効となります。

 

「手付解除」の解説

手付金には解約手付証約手付違約手付損害賠償額の予定としての手付などの種類があります。これらの手付金を相手方に変換するのが手付解除です。

手付金を返還(手付解除)すると、自動的に契約も解除になります。

不動産売買契約の場合、買主側は手付金を放棄すれば契約を解除することができ、売主側は手付金の倍額を支払えば契約解除ができます。

 

手付解除ができる時期

手付解除ができるのは、相手方が契約の履行に着手する前までです。

相手方がすでに着手を開始している場合には、たとえ自分が履行前であっても手付解除をすることはできません。

 

手付解除と損害賠償の関係

手付解除によって契約が解除された場合、その当事者は相手に対して損害賠償請求を行うことはできません。

 

「契約解除」「手付解除」に関連する法律

この項目に関連する法律は以下のとおりです。

民法 (令和2年3月1日時点)

第545条(解除の効果)

当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。

3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

【改正後】

第545条(解除の効果)
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない

3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。

4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 

第557条(手付)

買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。

【改正後】

第557条(手付)

買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。

実際に過去問を解いてみよう

問題:

Aは中古自動車を売却するためBに売買の媒介を依頼し、報酬として売買代金の3%を支払うことを約した。Bの媒介によりAは当該自動車をCに100万円で売却した。

売買契約が締結された際に、Cが解約手付として手付金10万円をAに支払っている場合には、Aはいつでも20万円を償還して売買契約を解除することができるか。

(平成29年度本試験 問5より改題)

答え:×(できない)

 

解説

契約の履行に着手した後には手付金倍額の償還をしても契約を解除することはできません。「いつでも」ではないため、答えは×となります。

 

「契約解除」「手付解除」ポイントのまとめ

この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。

  1. 契約当事者の意思により契約前の状態にするのが契約解除
  2. 手付金または手付金の倍額の支払いにより契約解除するのが手付解除
  3. 契約が解除になると当事者双方は原状回復義務を負う
  4. 契約解除は第三者の権利を侵害できない
  5. 手付解除できるのは相手が履行に着手する前
  6. 手付解除による契約の解除では損害賠償請求ができない

 

最後に

 

契約の解除は、その原因・やり方・タイミングによって行使できるかできないかが変わってきます。

多くの問題や判例に目をとおして、解除の事例に慣れておきましょう。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。