がけ条例とは|建築基準法の制限と緩和の条件を解説
崖(がけ)のある場所に家を建てる、建て替えるためには、自治体ごとに定められた「がけ条例」の規制をクリアする必要があります。
今回はがけ条例の概要や、要件を緩和させるための条件などを解説します。
がけ条例とは「崖の上や下に建築する場合の制限」のこと
がけ条例は、一定の高さのがけの「上」または「下」に建物を建築する場合の制限のことです。
がけが崩れるとがけの上部なら崖と一緒に地盤沈下するリスクがあり、下部にある場合には土砂崩れで押しつぶされる・流される危険があります。
こういった危険を回避するため、各自治体が条例として規制を定めているのががけ条例です。
「がけ条例」の内容は都道府県や自治体によって細かく決められています。実際に土地をお探しの場合は、各自治体にがけ条例に関する規制内容を確認してください。
不動産での「がけ」の定義
がけの定義は都道府県の建築安全条例で定められています。
不動産における一般的な定義は「2m(3m)を超える硬岩盤以外の土質で、傾斜が30°を超える土地」です。
例えば、千葉県ではがけについて以下のように定義されています。
がけ(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外の土地で高さ2メートルを超えるものをいう。以下同じ。)
がけ条例に引っかかるかの調査・確認方法
実際にがけがある土地に建物を建てる場合、「気になったら確認する」というのが基本的な考え方です。
土地の付近にあるがけの高さが2mまたは3mあると感じた場合、すぐに工務店や住宅メーカーに確認します。
すでに擁壁(ようへき)が設置してある場合も、劣化の程度によっては建物が建てられない可能性があります。
- 擁壁(ようへき)が建築された年度
- 劣化状況
- きちんとした確認申請がされた擁壁(ようへき)か
- 検査済証の有無
法令に照らして問題ない擁壁かどうか、建築士などの専門家に依頼して確認が必要です。
検査済証の有無等については、住宅メーカーや工務店でも調査できます。
不明点はすぐに相談しましょう。
がけ条例の規制内容
がけの上または下に居室を有する建築物を建てる場合、がけから一定の距離を離して建築する必要があります。
がけの下に建てる場合
がけの上端から「水平距離ががけの高さの2倍に相当する距離以内の位置」について居室がある建物を建ててはいけません。
がけの上に建てる場合
がけの下端(かたん)から「水平距離が、がけの高さの2倍に相当する距離以内の位置」については居室がある建物を建ててはいけません。
がけの上に建てる場合も下に建てる場合も、がけの高さの2倍の距離を建物とがけの間に設けることが必要な点で共通しています。
がけ条例には緩和の条件がある
前述したがけ条例の規制に関しては、絶対の決まりではありません。
一定の条件を満たすことで、がけ条例の規制が緩和される場合があります。
擁壁(ようへき)を設置した場合
がけの崩壊を防ぐために、擁壁(ようへき)を設置して安全を確保した場合に規制が緩和されます。
がけ条例の規制を緩和するには、当然ながら建築士によって安全性が確認されているなど、適法に作られていることが条件です。
過去に作られて劣化が激しい場合、規制の緩和は受けられません。ただし、保存状態が良好で劣化が見られない場合は新設せずに建てることも可能です。
また隣の敷地に入っているなど所有者が明確でない場合は、建て替え工事の際に費用の負担でトラブルに発展する可能性があります。
擁壁(ようへき)があるといっても、安易に手続きが進まない可能性があることも考えておきましょう。
擁壁(ようへき)とは
擁壁(ようへき)は、がけや盛土の側面が崩れないように築く壁のことです。
「鉄筋コンクリート造」「間知石練積造」などいくつかの種類があります、
参考:横浜市|擁壁のはなし
土壌の安息角(自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度)を超える高低差を地面に設ける場合に設置することで、横圧に抵抗して崩壊を防ぐことが目的です。
宅地造成等規制法の区域内(宅地造成工事規制区域)かつ高さ1m以上の盛土の場合で、その他の区域は盛土・切土に関係なく壁高2m以上の場合に必要とされます。
ただし、高さや範囲によっては多額のコストがかかります。数百万円になることもあるでしょう。
自重で損壊しない構造にした場合
がけが崩壊しても建物が壊れたり沈下したりしないよう、建物の下に杭を打って強固にする対策も可能です。
崖の下端から安息角の角度で立ち上げた斜め線より下に届く地盤まで深く基礎を作ることで、擁壁なしでも建築できるようになります。
基礎の下に杭を打ち、その杭の下端を安息角で結んだ線より下の地盤に届くようにする方法もあります。この方法では基礎を深くしないでも規制緩和させることも可能です。
ただし、地盤調査に加えて専門家による杭の設計・選定など安全性の確認が欠かせません。
土砂の流入を防ぐ対策をした場合
がけと家のあいだに土留(とどめ)を設置し、土砂が流入してもその部分で食い止める対策を施した場合でも緩和の対象に含まれる場合があります。
紹介したように、がけ条例の規制緩和にはさまざまな対策があります。いずれも「擁壁を作る」「杭を打つ」など建築士などの専門家の助力が必須で、場合によっては数百万円のコストが発生するのがネックです。
専門家と連携することや、費用や工事内容について相談は欠かせません。
がけに建物を建てることはメリットもある
がけの上部や下部に建物を建てるには安全面でのデメリットがあるため、平地に建てるのが望ましいと考える方は多いでしょう。
ただ、がけに住宅を建てることはデメリットだけではなくメリットもあります。
- 眺望が良い
- 日当たりが良い
- 地価が平地と比較して安くなりやすい
がけ付近に建物を建てれば他にさえぎるものが少なくなり、見晴らしが良くなります。また、高い位置に面していれば日あたりも良くなります。
人気で言えば平地には劣るため、地価が安くなることが多い点もメリットです。できるだけ低予算で家を建てる際は選択肢になるでしょう。
一方で「擁壁工事にお金がかかる可能性」「天災で影響を受けやすい」などデメリットもあります。
メリットとデメリットの両方に目を向けて、平地よりメリットが大きいと判断した場合にはがけに建築するのも選択肢の1つです。
まとめ
今回はがけ条例の概要や、要件を緩和させるための条件などを解説しました。
がけ近辺は天災に弱い等のデメリットがある反面、「見晴らしが良い」「地価が安い」などのメリットもあります。人によっては非常に魅力的に映ることもあるでしょう。
ただし、がけ条例の規制をクリアできるかどうかは、事前に必ず確認を済ませましょう。
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