北側斜線制限とは|違反回避のために知っておきたい緩和条件
自由な間取りを決められる注文住宅と言っても、どんな建物でも自由に建てられるわけではありません。住宅を建てる際にはさまざまな規制があり、ルールの範囲内で建築を進める必要があります。
特に全国共通の規制である「斜線制限」は、家を建てるなら誰もが知っておきたい制限内容です。今回は斜線制限のなかでも「北側斜線制限」について、制度の概要と緩和の条件について紹介します。
北側斜線制限とは
北側斜線制限は、北側隣地にある住宅の日当たりを考慮した規制です。北側隣地境界線を起点として「高さ」と「斜線の勾配」によって規制されます。
建物を建てる際に敷地の北側にある道路や隣地から発生させた架空の斜線を超えないようにすることで、北側の日照を確保することが目的です。
画像引用:東郷町|高さ制限・斜線制限の概要(第一種低層住居専用地域の例)
具体的には隣地の境界線から垂直に5メートルまたは10メートル上がった基準の高さから、北側境界線までの距離の1.25倍以下の「傾斜勾配」に建物の高さが制限されます。
北側に面した建物上部が三角形に切り取られた建物を見かけたことがある人もいるでしょうが、あれは北側斜線の範囲内で目いっぱいの容積を確保しているものです。
中高層住居地域のマンション北側がルーフバルコニーになっている物件も、北側斜線に関係しています。規制に配慮しつつ、できるだけ容積率いっぱいに建物を建てるための工夫です。
北側斜線制限の「北」の意味
北側斜線制限は文字通り北側の建物に配慮した規制ですが、北といっても「磁北(じほく)」と「真北(しんぼく)」に分かれています。
真北とは北極点、つまり地球の自転軸の北端(北緯90度)を指す方位のことです。地図の上方向が「真北」にあたり、方位磁石がN極を指す「磁北」とは若干のずれが生じます。
北側斜線制限は北側の住宅に対して日当たりを確保するための規制であり、「真北(しんぼく)」に対して算定します。
敷地の真北が左右に振れている場合は、一方向からではなくに方向から規制を考慮しないといけません。
制限がかかる用途地域
北側斜線制限がかかる用途地域は、「第一種低層住居専用地域」「第二種低層住居専用地域」「第一種中高層住居専用地域」「第二種中高層住居専用地域」の4つです。
第一種低層住居専用・第二種低層住居専用地域では、それぞれ以下の通り高さが制限されます。
- 第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域の場合
→真北方向の水平距離×1.25+5メートル - 第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域の場合
→真北方向の水平距離×1.25+10メートル
第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域の詳細については以下の記事を参照してください。
【リンク】いえーる住宅研究所|第一種低層住居専用地域とは|この地域に家を建てるメリット・デメリットや建物の制限は?
【リンク】いえーる住宅研究所|第二種低層住居専用地域について不動産営業マンが知っておくべきこと|第二種低層住居専用地域についてのまとめ
【リンク】いえーる住宅研究所|第一種中高層住居専用地域」の建築制限まとめ|メリット・デメリットも解説
日影規制など別の規制がある場合の取扱い
斜線規制には北側斜線規制以外にも複数の規制があり、複数の制限の条件を満たす場合があります。その場合の取扱いは、重複する規制の内容によって異なります。
たとえば第一種低層住居専用地域に日影規制がかかってくる場合、北側斜線制限が適用されません。
また「高度地区」が指定されている地域では、1.25よりもさらに厳しい数値が求められ、厳しい斜線内で建物を建てないといけない場合があります。一例として東京都の第一種高度地区では北側境界線から垂直に5メートルの高さをとり、その地点から購買0.6/1の中に建物を収めて計画する必要があります。
ただし、高度地区は北側斜線制限のような全国共通の規制ではなく、都市計画法で定められたものです。制限の内容は各自治体で異なる点に注意が必要です。
北側が道路に面している場合の取扱い
建物の真北に道路がある場合、「道路の反対側の境界線」が北側斜線制限の基準になります。道路の反対側の境界線から計測することで、その分だけ高い建物を建てることが可能です。
ただし、道路からの斜線制限には「道路斜線制限」もあります。どちらか厳しいほうが適用される点に注意が必要です。幅員8メートル以上の広い道路が真北にある場合、北側斜線制限がほとんど影響しない場合もあります。
北側斜線制限違反の回避のために知っておきたい緩和条件
斜線制限は厳格な決まりではなく、条件次第では緩和措置が適用されることもあります。ここでは北側斜線制限が緩和される条件について紹介します。
水面・線路敷による緩和
敷地が水面(河川等)、線路敷きなどに接する場合は「水面緩和」が適用され、それらの幅の1/2だけ外側に隣地境界線があるとみなします。
ただし、北側斜線制限の場合は公園や広場は緩和の条件に含まれません。
高低差による緩和
北側の隣地が敷地の地盤面より1メートル以上高い場合に、「高低差緩和」が適用されます。敷地の地盤面よりも北側の隣地が高い場合、建築可能範囲が不利になってしまうためです。
高低差から1メートル引き、残りの1/2だけ敷地の地盤面が高い位置にあるとみなして算定を行います。
天空率による緩和
天空率は平成14(2002)年の建築基準法の改正で「斜線制限の適用除外制度」として導入されたもので、斜線制限に関係なく高い建物が建築できる条件のことです。
法律に則って建築することが難しい立地での緩和策として生まれたもので、斜線ではなく、建物と空の比率で判断します。ある位置から建物を見たときの全天に対する「空の面積の比率」を表しています。
一定の基準を満たせば道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限に関係なく、本来の規制よりもより高い建物を建築できます。
道路斜線制限や北側斜線制限で適合になってしまったケースでも、天空率の基準に合えば建物を建てることができるようになる場合があります。天空率で比較し、計画建物のほうが採光や通風を確保できると判断された場合、天空率による緩和措置が取られます。
まとめ
今回は建物に関する斜線規制のうち、「北側斜線制限」について解説しました。
北側斜線制限によって各住宅が南からの日当たりを確保することができ、良好な暮らしが実現できています。低層・中高層住居専用地域のみに適用される制限なので、該当する地域に建築する施主の方はぜひ制限の内容を理解しておきましょう。
今回の北側斜線制限で登場しなかった用途地域は以下でまとめているので、こちらも併せてご覧ください。
【リンク】いえーる住宅研究所|近隣商業地域とは|住宅を建てるメリット・デメリットや建物の制限内容も紹介
【リンク】いえーる住宅研究所|商業地域とは|近隣商業地域との決定的な違いとメリット・デメリットを解説
【リンク】いえーる住宅研究所|準工業地域とは|制限や騒音についてわかりやすく解説!
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