不動産にもクーリングオフ制度がある|適用条件・対処法を詳しく解説
「クーリングオフ」は一度購入した商品・契約したサービスを返品・解約できる制度で、一般の方にも耳馴染みのある言葉でしょう。このクーリングオフは、不動産業界にもある制度です。
不動産業者としては、せっかく契約をとっても解約されてしまうのは大きな負担となります。そこで今回は、クーリングオフをきちんと理解し、クーリングオフを受けないためにどうすればいいかをご説明します。
不動産業界におけるクーリングオフ
そもそも「クーリングオフ制度」とは
訪問販売やキャッチセールスなど、不意打ちで受けた勧誘による契約に関して、一定の条件のもと消費者から一方的に契約を取り消すことができるのが、「クーリングオフ制度」です。
本来、商品を買ったり有料サービスを受けたりする売買契約は、一度成立してしまった後では取り消すことができません。しかし、不意打ちを狙った悪質な勧誘による契約では、消費者は冷静に検討できない不利な状況で購入を決断させられる危険性があります。
そんな消費者の権利を守るのが、クーリングオフ(Cooling-off:頭を冷やす)制度なのです。
宅建業法におけるクーリングオフ
不動産業界にも、クーリングオフ制度があり、「宅地建物取引業法(宅建業法)」に定められています。
宅建業法によるクーリングオフ制度でも、一定の条件を満たすことで、買主様が一方的に不動産の売買契約を解除できます。一般の制度と同様、買主様が冷静に判断できない状況における売買契約において、買主様の権利を保護する目的で制定されています。
不動産におけるクーリングオフの適用条件
不動産業界のクーリングオフ制度では、不適切な営業行為による売買契約において買主様の権利が保護されるよう、以下のような適用条件が定められています。
売主が宅建業者で買主は一般消費者である
不動産業界のクーリングオフ制度の適用対象は、宅建業法により定められている通り、宅建業者の営業による売買契約です。宅建業者によって不適切な営業行為があった場合に、その不利益から一般消費者を守る目的があります。
そのため、売主は宅建業者で買主様は一般消費者である場合にのみ、クーリングオフの適用が可能です。つまり、宅建業者同士の取引や宅建業者以外の一般人同士の取引には適用されないのです。
◆クーリングオフ適用の組み合わせ
売主 | 買主 | 適用の可否 |
宅建業者 | 宅建業者 | クーリングオフできない |
宅建業者 | 一般人(宅建業者以外) | クーリングオフできる |
一般人(宅建業者以外) | 一般人(宅建業者以外) | クーリングオフできない |
事務所等以外の場所で契約・申込みをしている
不動産業者の事務所は、専任の宅地建物取引士が常駐するなど、営業形態においてさまざまな法的制約があります。それは、不動産業者が適切な業務を遂行するよう定められているのです。
そのため、不動産業者の事務所やそれに準ずる場所であれば、不適切な営業行為は起こらないものとみなされます。
クーリングオフ制度の適用条件で「事務所等以外での契約・申込み」とあるのは、そのためです。
では、「事務所等以外」とは具体的にどのような場所のことでしょうか。以下にまとめました。
◆クーリングオフが適用となる契約・申込み場所
- 喫茶店・ファミリーレストランなど(買主都合の場合を含む)
- 仮設的な営業所や窓口(モデルルームの仮設テントなど)
- 買主様の自宅または職場(買主都合の場合を除く)
◆クーリングオフ適用外の契約・申込み場所
- 事務所・営業所・店舗
- 10区画以上の宅地または10戸以上の建物の分譲をする案内所
- モデルルーム・住宅展示場(仮設・テント等ではないもの)
- 買主様の都合による自宅または職場
引き渡しまたは代金全額支払いを終えていない
引き渡しを終え、代金を全額支払い終わっていれば、買主様が冷静な検討をできない段階を終えていると判断されます。
逆に、引き渡し・代金全額支払いを終えるまでであれば、冷静な判断を保障できる段階ではないとして、クーリングオフを適用できることになっています。
クーリングオフの説明を受けてから8日以内である
宅建業法の知識を有する宅建士とは違い、一般の方はクーリングオフ制度について知らない可能性があります。不適切な契約・申込みを撤回したいと考えても、クーリングオフ制度を知らなければ、その権利を行使することができません。
そのため、不動産業者からクーリングオフ制度についての説明がない間は、無期限にクーリングオフの申し出をできることとされています。
クーリングオフ制度についての説明があった後であれば、「8日間以内(説明日を含む)」という適用期限が設けられています。
お客様がクーリングオフをする方法
買主様がクーリングオフをする場合、売主である不動産業者に対して、書面にて契約解除の通知を行います。
クーリングオフの通知書を送る際は、「内容証明郵便」を使用することが奨励されています。「内容証明郵便」とは、「誰が・誰宛てに・いつ・どんな内容の」文書を送ったかを証明できるサービスです。
クーリングオフ通知書の内容
令和◯◯年◯◯月◯◯日
株式会社◯◯◯◯ 代表取締役 ◯◯ ◯◯ 殿 買主様氏名 ◯◯ ◯◯ 契約解除通知書 記 1. 契約日 令和◯◯年◯◯月◯◯日 2. 物件名 ◯◯◯◯ 3. 金額 金◯◯万円(税込)
|
宅建業者によるクーリングオフへの対応方法
クーリングオフを受けないために
クーリングオフを受けないためには、クーリングオフについての説明義務を果たすことと、クーリングオフ適用条件に合致しないことが大切です。そのためには、以下のような点に気をつけましょう。
◆クーリングオフ防止策
- クーリングオフの概要や条件などについて説明し、書面を交わす。
- 買主からの購入の申込みや契約は、事務所などクーリングオフ適用条件外の場所で受ける。
- 買主の都合で自宅や職場などで契約する場合は、その旨を書面に残しておく。
お客様からクーリングオフを受けたら
買主様からの契約解除通知書を受け取ったら、まずはその契約がクーリングオフの適用条件に当てはまるかどうか検証します。適用していれば契約は無効となりますので、買主様から受け取った手付金などを速やかに全額返金します。
クーリングオフ以外の解約方法は「手付金の放棄」
クーリングオフは、悪質な営業行為を規制する目的の制度です。そのため、宅建業者が行う通常の業務では、クーリングオフの適用条件に当てはまることは稀でしょう。
しかし、宅建業者に落ち度はなかったとしても、お客様としてはどうしても購入を考え直したい場合があります。
そんな場合に取りうる手段としては、「手付金の放棄」があります。手付金とは契約締結時に買主から売主へ支払うもので、買主様の購入意志を証明する役割があります。手付金は決済時に購入代金に充当されますが、万が一契約を解除したくなった場合には、解約金として手放すことも可能です。
誠実な営業が契約解除防止になる
クーリングオフ制度の基本的な理念は、悪徳業者の故意による不適切な勧誘から買主様を保護することにあります。そのため、クーリングオフの条件を理解していれば、契約を解除される事態は防げます。
また、お客様の利益を考え、誠実に営業することでも、お客様の満足度の高い契約につながり、クーリングオフの予防になるでしょう。
不動産契約のクーリングオフ|ややこしい解約条件と宅建業者の説明義務を解説
不動産営業実務マニュアルに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事