不動産売買契約書にかかる印紙税|金額・軽減税率や貼らない場合の罰則を解説
不動産取引においては、不動産売買契約書には収入印紙を貼る必要があり、領収書にも収入印紙が必要なケースがあります。
収入印紙によって納付を行う印紙税とは、どのような税金なのでしょうか。
不動産売買契約書にかかる印紙税を中心に、税金の金額や罰則規定などについて解説していきます。
不動産売買契約書には印紙が必要
不動産売買契約書は、印紙税法の課税文書に該当します。
通常、印紙税は収入印紙の貼付によって納税するため、収入印紙を貼る必要があり、印紙税による国の税収は約1兆円程度となっています。
課税文書とは、印紙税法別表第1にある20種類の文書のことです。
課税文書に該当する文書の例として、次のようなものが挙げられます。
- 不動産売買契約書や不動産交換契約書、不動産売渡証書
課税文書の「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」に該当します。契約金額が1万円未満の場合は非課税です。
- 土地賃貸借契約書や土地賃料変更契約書
課税文書の「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」に該当します。契約金額が1万円未満の場合は非課税になります。
- 工事請負契約書
課税文書の「請負に関する契約書」に該当します。たとえば、住宅などの建設工事やリフォーム工事などの工事請負契約書が挙げられます。契約金額が1万円未満の場合は非課税です。
- レシートや領収証
課税文書の「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」に該当する文書です。請求書や領収書に「済」や「了」と表示している場合も課税文書に該当するケースがあります。受取金額が5万円未満の場合は非課税です。
- 保険証券
「保険証券」は課税文書とされています。保険証券とは、保険を契約すると保険会社から契約者交付される証書のことをいい、契約内容が記載されています。
個人間契約において印紙税は誰が負担するのか
印紙税の納税義務者は課税文書の作成者であり、共同作成した場合は連帯して納税の義務を負います。
ここでいう作成者とは、課税文書に記載された作成名義人となるため、不動産売買契約書においては売主と買主の双方が連帯して印紙税を納付する義務を負います。
不動産売買契約書では、個人間契約の場合、通常は契約書原本を2通作成して、売主と買主のそれぞれが負担することが一般的です。
不動産売買契約書に、「印紙代は、各自が平等に負担する」と記載しておくケースが多くみられます。
印紙を貼るタイミング
収入印紙を貼るタイミングは、契約者の合意を証明するとき、つまり、契約が成立したときになります。
不動産売買契約を締結する場合は、契約を結ぶ場にあらかじめ必要な額の収入印紙を用意しておいて、契約が成立したときに不動産売買契約書に収入印紙を貼付します。
印紙が不要な場合
不動産売買契約書を2通作成して、売主と買主が保管する場合は、それぞれが収入印紙代を負担します。
しかし、不動産売買契約書は必ずしも2通必要なわけではなく、原本を1通作成して、もう一方はコピーを保管する場合は、原本1通分の収入印紙代で済みます。
ただし、コピーした契約書に署名や押印をした場合や、コピーが原本と相違ないことを証明する文言が記載されている場合は、コピーの分の収入印紙も必要になるため、注意が必要です。
不動産売買契約書を1通のみ作成するのは、売主が不動産会社、買主が個人というケースが多いです。
これは、買主は住宅ローンの利用や確定申告などで、不動産売買契約書が必要になることがあるのに対して、売主は通常は不動産売買契約書が必要になるシーンがないことが理由です。
買主が原本を保管し、売主はコピーを保管する場合は、買主のみ収入印紙代を負担します。
印紙を貼る場所
印紙税法では、課税文書に収入印紙を貼る場所については規定されていません。
通常、収入印紙は不動産売買契約書の表紙、又は1枚目の上部の契約書の文字の横に貼ります。
印紙の金額
不動産売買契約書の印紙の金額は以下の表の通りです。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
10万円以下 | 非課税 | 非課税 |
50万円以下 | 400円 | 200円 |
100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
1千万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
5千万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
10億円以下 | 200,000円 | 160,000円 |
50億円以下 | 400,000円 | 320,000円 |
50億円以上 | 600,000円 | 480,000円 |
記載金額のないもの | 200円 | 200円 |
不動産売買契約書に関わる印紙税は、契約書に記載された契約金額が1万円未満の場合は非課税です。
また、不動産売買契約書の印紙税の税額は契約金額の区分ごとに決められていますが、契約金額の記載がない場合は一律で200円です。
契約金額が50万円以上の場合は、2020年3月31日までの間に、不動産売買契約書が作成される場合に限り、軽減税率が適用されます。
たとえば、1,000万円を超えて5,000万円までの売買契約の場合、本来であれば印紙税は2万円ですが、軽減税率の適用によって1万円になります。
不動産売買契約書については、『不動産売買契約の締結|売買契約書の内容や注意点・契約時に用意するものを確認』で詳しく解説しています。
印紙の軽減税率
印紙税の一部は軽減税率の適用によって、税負担が軽減される措置がとられています。
対象となるのは不動産売買契約書と工事請負契約書で、2020年3月31日までの時限措置となっています。
不動産売買や工事請負契約書は契約金額が大きく、税負担が重くなることが多いため、取引の際に金銭的な負担を軽減するのが目的です。
印紙の入手方法
収入印紙を購入できるのは、郵便局と法務局、郵便切手類販売所や印紙売りさばき所です。
郵便切手類販売所や印紙売りさばき所になっているのは、コンビニエンスストアやタバコ屋のほか、官庁の窓口です。
コンビニエンスストアで売っているのは、一般的に200円の収入印紙のみです。
郵便局や法務局では、1円や2円、5円、10円といった少額の収入印紙から、5万円、6万円、10万円といった高額のものまで全種類を取り扱っています。
収入印紙はネットオークションサイトや金券ショップで割引価格でも販売されていますが、偽造品が混じっているリスクがあるため、注意が必要です。
不動産売買の領収書
不動産売買では、売買代金を銀行振込で支払った場合、売主から買主に対して領収書の発行が行われないことがあります。
銀行の振込票で代金の支払いの事実が確認できることや、不動産売買で領収書が印紙税の課税対象となる場合、売主は領収書を発行しないことによって印紙税の負担を避けられることがその理由です。
しかし、民法上では買主は売主に対して領収書の発行を請求することができます。
そのため、売主が領収書の発行を免れるためには、売買契約書に特約事項として、「銀行の振込票をもって売主の領収書の発行に代える」と盛り込んでおくことが必要です。
また、不動産売買の領収書で印紙税の対象となるのは、営業に関わるものに限られます。
個人が売主として自宅や別荘を売却した場合の領収書の印紙税は非課税です。
一方、売主が株式会社などの営利法人の場合や個人であっても自宅や別荘以外で、駐車場の土地の売買など営業に関する場合は、印紙税が課税されます。
領収書の印紙額は以下の通りです。
記載金額 | 印紙税額 |
5万円未満 | 非課税 |
100万円以下 | 200円 |
200万円以下 | 400円 |
300万円以下 | 600円 |
500万円以下 | 1,000円 |
1,000万円以下 | 2,000円 |
2,000万円以下 | 4,000円 |
3,000万円以下 | 6,000円 |
5,000万円以下 | 10,000円 |
1億円以下 | 20,000円 |
2億円以下 | 40,000円 |
3億円以下 | 60,000円 |
5億円以下 | 100,000円 |
10億円以下 | 150,000円 |
10億円以上 | 200,000円 |
記載金額のないもの | 200円 |
領収書の印紙税も金額区分ごとに税額が決められており、領収書に記載金額がない場合は200円です。
また、領収書の記載金額が5万円未満の場合は非課税となっています。
たとえば、売主が3,000万円を超えて5,000万円以下の金額を受け取った場合に、領収書に貼る収入印紙の額は1万円です。
印紙を貼らない場合の過怠税とは
不動産売買契約書に収入印紙を貼らなかった場合も、契約書の有効性には影響しないため、契約書は無効にはなりません。
ただし、不動産売買契約書など課税文書に収入印紙を貼らない行為は、印紙税法に違反となります。印紙税も税務署による税務調査の対象です。
不動産売買契約書などの課税文書に収入印紙を貼っていなかった場合は、過怠税が徴収されます。過怠税は本来納付するべき印紙税額の2倍に相当する金額となるため、本来の印紙税額と合わせると、3倍の負担になります。
ただし、税務調査を受ける前に、自主的に納付していなかったことを申告した場合には、過怠税は本来納付するべき税額の1.1倍に減額されます。
また、収入印紙に適切な方法で消印をしなかった場合も過怠税の対象となり、税額は収入印紙を貼っていない場合と同額です。
過怠税は、法人税の損金や所得税の必要経費に参入することはできない点にも注意が必要です。
消印・割印の方法
印紙税法などで、課税文書に貼った収入印紙は、課税文書と収入印紙の彩文にかけて、契約者や代理人、使用人の印鑑や署名によって消印をすることが義務付けられています。
消印とは収入印紙や切手が使用済みであることを示すために行うものです。
似た言葉に割印がありますが、二つ以上の文章にまたがって印鑑を押すことで、文章の改ざんを防ぐことを目的とするもので、消印とは異なります。
売買契約書に貼った収入印紙と売買契約書自体にまたがって押印されていれば、会社の角印や担当者の印鑑のほか、日付印でも使用が可能で、シャチハタやゴム印も使用できます。
契約書に使用した印鑑でなくても構いません。
また、ボールペンによる氏名や商号などの署名の記入も有効です。
一方で、「印」と書く、斜線を記入するといった方法は、印鑑や署名による消印ではないため認められず、また、鉛筆など簡単に消せるものでの署名も消印と認められません。
複数人で作成した課税文書であっても、いずれか1人が消印をすればよいことになっています。
不動産売買契約書の消印も、売主と買主のいずれかが消印を行えば問題ありません。
契約書のコピーの効力
不動産売買契約などの契約書を1通のみ作成し、売主と買主のいずれか一方は契約書のコピーを保管していることは法律的には問題はありません。
また、契約書のコピーであっても、契約内容を証明するための一定の効力はあります。
しかし、「契約書に署名や押印をしていない。偽造されたものだ」と裁判で相手に主張された場合、コピーは改ざんの余地があることから、契約書よりも効力は劣ります。
不動産取引では、契約に不備がないつもりでいても、当事者間で思わぬ思い違いをしていることや、後から隠れた瑕疵(かし)が見つかることも起こり得ます。
万が一、トラブルが起きたときに備えるためには、不動産売買契約書を2通作成し、売主と買主の双方が保管しておくことが望ましいです。
契約書の消費税の記載方法
売買契約書の印紙税は、消費税の税額が明示されているかによって課税金額が変わります。
ただし、不動産取引において、土地の売買は消費税が非課税です。
また、建物の売買にかかる消費税は、法人の場合と個人が事業者として行う場合以外は非課税です。例えば、個人が自宅を売却する場合は非課税になります。
- 消費税が記載されている場合
売買代金と消費税が区分されて記載されている場合は、税抜金額が印紙税の課税対象です。「売買代金3,000万円、消費税が300万円」と記載されているケースのほか、「売買代金3,300万円、うち消費税300万円を含む」と記載されているケースも含まれます。
- 税込金額のみ記載されている場合
売買代金が税込金額のみ記載されている場合は、税込金額が印紙税の課税対象になります。「売買代金3,300万円(税込)」と記載されているケースだけではなく、「売買代金3,300円(消費税10%を含む)」と記載されているケースも含まれます。
不動産売買契約書にかかわる印紙税は高額になることが多く、消費税を明記することで売主の費用負担を抑えられます。
印紙の金額を間違えた場合
不動産売買契約書や領収書など課税文書に、印紙税の納付のために貼った収入印紙の金額が多すぎる場合は、印紙税の過誤納金として還付の対象になります。
また、課税文書に該当しないもの(委任契約書など)に収入印紙を貼ってしまった場合も、印紙税の過誤納金として還付の対象になります。
ただし、印紙税の過誤納金の請求ができるのは、収入印紙の金額が間違っている文書を作成した日から5年を経過する前までです。
なお、収入印紙は、印紙税の納付のみでなく、登録免許税や国への手数料の納付などにも使用されています。印紙税の納付以外の目的で収入印紙を貼った場合は、収入印紙の額が誤っている場合でも、印紙税法による還付の対象外です。
印紙税法による過誤納金の還付の手続き方法は、納税地を管轄する税務署長に印紙税過誤納確認申請書を提出して行います。
申請にあたっては収入印紙を貼り過ぎている課税文書と印鑑が必要であり、法人は代表者印が必要です。
後日、銀行や郵便局への振込で還付を受けることができます。
また、収入印紙を汚してしまった場合、収入印紙1枚につき5円の手数料で郵便局で交換することができますが、現金への交換はできません。
まとめ
不動産売買契約書には収入印紙を貼り、適切な方法で消印を行うことが必要です。
印紙税の対象となる課税文書に収入印紙を貼っていない場合や、消印を行っていない場合は過怠税の対象になります。
不動産売買に関わる印紙税は高額になるため、諸費用の一部として把握するようにしましょう。
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