遺言の効力と遺留分の確保|相続人が承認・放棄をするとどうなるか
相続には基本となる相続人の規定や遺産分割の割合がありますが、被相続人の家庭状況により、必ずしも規定どおりに相続がなされるとは限りません。
法定相続人とは違う人物を遺言書で指定したり、逆に法定相続人の中の1人が財産をいらないと放棄するかもしれません。
今回は相続人が相続を承認もしくは放棄する手続きと遺言書の効力、そして遺言書に納得がいかない相続人が主張できる遺留分について解説します。
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「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」の試験科目
権利関係
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」が含まれる試験分野
相続
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ 2020年宅建試験では特に注意
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」過去10年の出題率
30%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
過去の宅建試験でも相続は頻出項目のひとつでしたが、平成31年(2019年)の相続法改正により、2020年度の宅建試験ではさらに重要性が高まっています。出題される率が高いと考えてポイントをしっかり押さえましょう。
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」の解説
相続財産は預貯金・不動産・有価証券・貴金属などのプラス財産もあれば、借金などのマイナスの財産もあります。そのため相続人として指定された人は、財産を受け取るか受け取らないかを自分で決定できます。
財産を受け取ると決めることを相続の承認、財産を受け取らないと決めることを相続の放棄と言います。
相続の承認
相続の承認については、被相続人が残した財産を全て受け取ることを単純承認、相続により得た財産の範囲内で遺贈・債務を弁済することを限定承認と言います。
限定承認の場合、相続人に指定された者全員が揃って限定承認をする必要があります。相続人の1人が限定承認を選択した状態で、他の相続人が単純承認をすることはできません。
限定承認ができる期間
限定承認を選択する際には「相続の開始を知ったとき」から3ヶ月以内にその旨を宣言する必要があります。「相続の発生時」ではない点に注意してください。
この期間内に宣言をしないと、相続は自動的に単純承認したものとして扱われます。
相続の放棄
被相続人の財産を一切貰わないと宣言するのが相続の放棄です。
一度宣言した放棄は、その後撤回することができません。また相続を放棄した際には、その子供(被相続人の孫)への代襲相続もできません。
相続の放棄ができる期間
相続の放棄は「相続の開始を知ったとき」から3ヶ月以内に行う必要があります。放棄の際も「相続の発生」から3ヶ月ではありません。
相続の承認・放棄の手続き
相続の限定承認や放棄をするには家庭裁判所に申し立てを行います。
しかし家庭裁判所では「まだ存在していない相続」に対して申し立てを受け付けられないので、相続が発生する前に承認・放棄を行うことはできません。
「遺言・遺留分」の解説
被相続人が財産の行方について特に意向がない場合には、遺産は法律で定められた通りの相続人と相続分で分けられます。
しかし被相続人が、法定相続人以外の人物に財産を遺したいと希望している場合や、法定相続分以外の割合で分割させたいと希望した場合には、その意思を書面によって残す必要があります。これを遺言と言います。
遺言は満15歳以上の人であれば、財産の多い少ないに関係なく誰でも行えます。
遺言書
遺言書の書き方にはさまざまな決まりがあります。法律上の形式にのっとった書き方でないと、正式な遺言書として認められません。
遺言書は作成方法により自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言に分かれます。自筆証書遺言の例は以下のとおりです。
画像引用:税理士検索フリー|自筆証書遺言(遺書)の書き方&2020年改正ポイント
遺言書の検認
封印してある自筆証書遺言もしくは秘密証書遺言を見つけたときは、たとえ相続人でも勝手に開封して中を見てはいけません。原則として家庭裁判所に提出し、検認を受ける必要があります。
ただしこの検認は、遺言書の形式などが正しいかどうかを検査するものです。遺言書の内容が有効か無効かを判断するものではありません。
遺留分
遺言書の内容に納得がいかない場合、相続人は遺留分の請求を行うことができます。
法律上認められている遺留分の割合は以下のとおりです。
画像引用:弁護士法人アルテ|遺留分の割合
兄弟姉妹には遺留分の請求権はありません。
また、遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分の放棄による共同相続人への影響
共同相続人の誰かが遺留分を放棄すると、他の共同相続人の遺留分は増えるのでしょうか。
その答えは×です。共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の共同相続人の遺留分が増えるわけではありません。ただし遺産分割の対象となる財産自体は増えますので、取り分に関しては増加することになります。
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点)
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
自筆証書の内容を遺言者が一部削除する場合、遺言者が変更する箇所に二重線を引いて、その箇所に押印するだけで、一部削除の効力が生ずる。(平成27年度本試験 問10より抜粋)
答え:×(無効となる)
解説
二重線の訂正と訂正印だけでは認められません。自筆証書の変更を行う場合、遺言者がその場所を指示して変更した旨を付記して署名し、かつ変更箇所に押印する必要があります。
「相続-承認・放棄・遺言・遺留分」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 相続財産にはプラスとマイナスの財産がある
- 相続人は財産を受け取るか(承認)受け取らないか(放棄)を選択できる
- 承認には単純承認と限定承認がある
- 限定承認・放棄いずれも家庭裁判所への申し立てが必要
- 被相続人は遺言により法定相続人・法定相続分以外の財産分与を指定できる
- 遺言の内容に納得いかない場合は遺留分が請求できる
最後に
2020年の宅建試験では相続に関する出題がされる可能性が高いことは先ほどお伝えしたとおりですが、実際にも相続に関するお客様のご相談は大変多く、実務上で無視できない内容のひとつです。
試験対策として相続を学ぶだけでなく、実務に活かせる勉強を心掛けましょう。
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