虚偽表示・錯誤による契約の有効無効と第三者への対抗|宅建試験の頻出項目
不動産売買の契約が、そもそも「あるはずのない」契約である場合があります。
そのひとつは売却する人と購入する人が、本来は売買の必要がない物件を共謀して売買契約したことにする虚偽表示。もうひとつは、売却する人と購入する人のどちらか、もしくは両方がカン違いしたことが原因で売買契約してしまう錯誤です。
意思表示に関連する宅建試験の問題では、虚偽表示と錯誤のどちらの項目でも、第三者への対抗要件をからめて出題される可能性があります。
今回は虚偽表示と錯誤について、混乱しないように整理しておきましょう。
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「虚偽表示」「錯誤」の試験科目
権利関係
「虚偽表示」「錯誤」が含まれる試験分野
意思表示
「虚偽表示」「錯誤」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ かなり出題率の高い項目です
「虚偽表示」「錯誤」過去10年の出題率
50%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
意思表示に関連する宅建試験の問題でも、虚偽表示と錯誤は毎年ほぼどちらかの問題が出題されています。
特に錯誤に関する問題は「表意者」の錯誤の内容によって契約の取り消しができる・できないが変わってきますので、うっかりミスを誘発する問題が作りやすくなっています。確実に正しい回答ができるようにしておきましょう。
「虚偽表示」「錯誤」の解説
まずは2つの契約がどのようなものかを説明します。ここでは、契約があったのか・なかったのかについてよく確認してください。
虚偽表示による契約とは
虚偽表示の契約とは、つまりは「見せかけ」の契約です。
例えば、借金で不動産の差し押さえを受けそうになっている人物Aが、差し押さえの前にBに不動産を売却したことにして、借金の取立人には財産がないように偽装するものです。
この見せかけだけの取引を、仮想譲渡もしくは架空契約と言います。そして、見せかけの契約をするためにAB双方がする意思表示が虚偽表示です。
見せかけの契約ですから、虚偽表示による契約では実際に契約はなされていません。
錯誤による契約とは
錯誤とは、勘違いのことです。
簡単に説明すると、1個100円の価値があるリンゴを所有者Aが「このリンゴは1個30円だ」と間違えてBに販売し、Bが30円で購入したとします。
本来の価格である100円でリンゴを販売していたら、もしかしたらBはリンゴを購入しなかったかもしれません。そのためこの取引は、錯誤による契約だと考えられます。
上記の「虚偽表示」と違う点は、錯誤を原因としていても実際に契約が行われているということです。
表示上の錯誤と動機の錯誤
同じ錯誤でも、上記のリンゴ販売のケースでは、売却者Aと購入者Bではそれぞれ違う錯誤をしています。
錯誤の分類 | 錯誤している内容 | |
リンゴを販売したA | 表示上の錯誤 | 1個30円だと思いBに表示した |
リンゴを購入したB | 動機の錯誤 | 30円なら安いと購入動機に至った |
虚偽表示・錯誤の契約は有効か無効か
では虚偽表示と錯誤の契約は、それぞれの契約は有効なものとして認識されるのでしょうか。
虚偽表示による契約の場合、実際には契約自体が行われていないのですから、当然その契約は無効です。
錯誤による契約の場合には、取り消しになる場合と取り消しができない場合があります。民法では、表意者(意思表示をした人)に重大な過失があった場合には、錯誤による契約であっても取り消すことができないとしています。
ただし、そのときでも以下2つの例外があるときは、取り消しが認められています。
- 表意者が錯誤していることを相手方が知っている(悪意)、または善意でも重大な過失がある場合
- 表意者と相手方が双方とも同じ錯誤をしていた場合
なお、相手方が錯誤を認識していて表意者にその旨を伝えていたとしても、表意者が自分の勘違いを認めない限り「錯誤」にはなりません。
表示上の錯誤を原因として意思表示の取り消しを行うには、相手方に錯誤の旨を表示する必要があります。
第三者との関係
虚偽表示もしくは錯誤による契約に第三者が関係してきた場合にはどうなるでしょうか。
結論としてはいずれの場合も、善意の第三者には対抗できません。虚偽表示の場合はもちろん、重要な錯誤で契約が取り消しになったときでも、いったん第三者が現れた後では原状回復ができなくなります。
1点だけ違うのは、善意の第三者に何らかの過失があったときの対抗要件です。虚偽表示と錯誤ではそれぞれ違っています。
虚偽表示による契約 | 善意の第三者に過失がある | 対抗できない |
善意の第三者に過失がない | 対抗できない | |
錯誤による契約 | 善意の第三者に過失がある | 対抗できる |
善意の第三者に過失がない | 対抗できない |
虚偽表示による契約のときには、善意の第三者に過失があろうとなかろうと、対抗することができなくなっています。
「虚偽表示」「錯誤」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 ↓ 【改正後】 第95条(錯誤) 1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。 4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。
(平成30年度本試験 問1より抜粋)
答え:〇(できない)
解説
これは虚偽表示のひとつ「仮想譲渡」に関する問題です。
虚偽表示による契約はAB間では当然無効ですが、一度善意の第三者が現れた場合には、Aは第三者Cに対して対抗することはできません。
「虚偽表示」「錯誤」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 虚偽表示による契約は無効となる
- 法律や社会通念上で重大な錯誤があった場合の意思表示は取り消すことができる
- 錯誤をした表意者に重大な過失があったときには、2つの例外を除き、表意者は契約の意思表示を取り消せない
- 虚偽表示および錯誤による契約は、善意の第三者には対抗できない
- 動機の錯誤を原因とする契約は、表意者が錯誤を認めて相手方に表示しない限り取り消せない
最後に
今回は虚偽表示もしくは錯誤を原因とした契約について解説しました。
「本来あるべきでない契約」は宅建試験の問題として出てくるだけでなく、不動産業界の実業務でも多くの例が見られます。
これからの業務にも役に立つ知識をしっかり身に付けましょう。
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