土地権利形態が「所有権のみ」とは|権利種類の違いや疑問を解決
不動産広告でときどき見かける文言に、「土地権利形態:所有権のみ」があります。この「所有権のみ」とは、具体的にどのような権利形態の物件なのでしょうか。
この疑問を解くには、まずは土地の権利形態のさまざまな種類と概要、それぞれの違いを知る必要があります。
Table of Contents
土地権利形態が「所有権のみ」とは何なのか
不動産広告で「所有権のみ」とある場合は、所有権つまり土地全体の権利を買い取れることを言います。権利形態の項目に「所有権」とだけ書かれている場合もあります。
所有登記を自分の名前で行うことができることが特徴です。
土地の権利形態は所有権の他にも借地権などさまざまな種類があり、「所有権のみ」と書かれている場合は「借地権では取引しない」という意味合いが強いようです。
土地の権利形態の種類
それではまず、土地の権利形態の種類を整理しましょう。
所有権
土地の「所有権」とは、土地のすべてを所有者帰属のものとして所有し、自由に使用することができる権利です。
所有権を持っていれば、その土地の上に自由に建物を建てられますし、増改築もできます。他人に売却したり贈与したりすることで、所有権を移転することもできます。地主としてその土地を人に貸すことも可能です。
また、土地の所有権は固定資産となりますので、「固定資産税・都市計画税」を納付する義務が課せられます。
所有権の権利形態として確認しておきたいのが、「所有権は2つの権利が合わさることで成り立っている」ということです。所有権を成立させる2つの権利とは、地主としての権利「底地権」と、土地の上に建物を建てられる権利「借地権」です。
◆所有権の構成
所有権=底地権+借地権 |
底地権
「底地権」とは、地主として土地を人に貸すことができる権利です。土地を人に貸した場合でも、貸主様にはこの「底地権」が残ります。
このとき、地主様(貸主様)のことを「借地権設定者」といいます。
借地権
「借地権」とは、地主様から土地を借り、その上に建物を建てられる権利です。
借地権は、さらに細かく種類が分かれており、主に「地上権」と「賃借権」の2種類の権利形態があります。
通常、土地を借りるには、月毎に「地代(賃借料)」を支払います。
「借地権」とは|借地権付き建物の調査方法とメリット・デメリットを解説
賃借権
「賃借権」とは、月々の地代を支払うことで土地を利用できる権利です。あくまで間接的に土地を使用する権利であるため、増改築や転貸・売却などの場合には、地主様に承諾を得なくてはいけません。
また、賃借権の登記義務はないため、記載されないのが一般的です。
地上権
「地上権」とは、賃借権と同じく土地を借りて使用する権利ですが、賃借権よりも強い支配権を有する権利形態です。そのため、地主様の承諾を得ずに、自由に増改築や転売・転貸が可能です。
また、地上権については地主様に登記義務が生じるため、登記簿に記載されます。
敷地権
「敷地権」とは、マンションなどの「区分所有建物」が建っている土地の所有権(または地上権)です。区分所有建物では、土地の所有権を区分所有権者全員で持分とする権利形態をとっています。敷地権とは、その場合の1住戸における土地所有権の持分をいいます。
また、敷地権は建物の所有権と一体になっており、建物の登記簿に記載されます。
抵当権
抵当権とは、融資を行う金融機関が有する権利です。ローンの債務者が返済不可能に陥った場合に、金融機関が担保である不動産などを取り上げ、売却することで返済金に充てることができる権利をいいます。
それぞれの土地権利形態の違い
所有権と地上権の違い
所有権と地上権の大きな違いは、「権利を得るときに存続期間や地代に関する取り決めが必要か」ということです。
「地上権」は、借りる際に地主様と借主様の間で、契約条件の取り決め・合意がなされます。借りる期間(存続期間)や地代の支払い方などを定めるのです。
地上権は賃借権と違い、存続期間や地代の設定をしないことも可能です。しかし、その場合でも地主様との合意が前提となるのです。
一方「所有権」には、はじめから存続期間や地代を定める必要はありません。
所有権者から所有権が移転するのは、自主的に譲渡したり借地権を貸したりする場合や、死亡により相続したり、債務不履行で抵当にとられたりする場合に限られます。そのような事由が起こらない限り、所有権は無期限に存続します。
また、地上権を貸借する場合の固定資産税等は、基本的には地主様が負担します。ただし、100年以上の存続期間を定めている場合には、地上権者(借主様)の負担となります。
地上権と賃借権の違い
地上権と賃借権の大きな違いは、物権であるか債権であるかの違いです。
物権である地上権は、もの(土地)を直接的に支配できる権利です。一方、債権である賃借権は、「借りる」という行為に与えられる権利です。
そのため、地上権では増改築や譲渡・転貸が自由にできますが、賃借権では地主の承諾が必要となります。また、地上権においては抵当権を設定できますが、賃借権では設定できません。
敷地権と地上権の違い
「敷地権」は、区分所有建物が建つ土地の権利です。区分所有建物に入居している所有者全員で、土地を共有持分とする権利形態をとります。そのため、敷地権は建物の所有権と一体化されています。
一方、地上権は土地だけに設定される権利で、建物の権利と分けて扱うことが可能です。
また、敷地権にも所有権と地上権が存在します。「敷地権」というと「敷地所有権」を指すことが一般的ですが、敷地地上権もあり、その場合は「借地権付マンション(土地の敷地地上権とマンション建物1戸の所有権)」として売り出されます。
借地権と賃貸借契約の違い
賃貸借契約は「民法」に規定された契約形態で、一般的な賃貸借に適用されます。
一方、借地権の契約は「借地借家法」により規定されています。不動産の賃貸借においては、民法の規定では公平性を保つのが不十分とされ、民法より優先される特別法として「借地借家法」が適用されます。
「土地の権利」比較表
土地の権利形態についての疑問を解決
物件の「土地権利形態:所有権のみ」とは
不動産物件の広告を見ていると、「土地権利形態:所有権のみ」という文言を見かけます。これは、「土地の権利形態を借地権として貸し出すつもりはない」という意味です。
建物を売り出す方法として、土地・建物ともに所有権を売る場合と、「借地権付き建物」として売る場合の2パターンがありえます。しかし、「土地権利形態:所有権のみ」として売り出す場合には、借地権の形態で売る気はない、ということす。
ただ、「土地権利形態:所有権のみ」という表現は、一般の方にはわかりにくいため、使用する際は慎重に検討するべきでしょう。
地上権が設定される事例とは
地上権が設定される事例として一般的なのは、地下鉄やトンネルなどを開通・使用する場合です。地上権は、地面の上だけでなく地下に設定することも可能です。
鉄道事業者は、地上権を取得することで、地下を部分的に支配する権利を得ます。賃借権では地主様の承諾が必要な増改築や譲渡ですが、地上権であれば承諾なく自由にできます。そのため、地下鉄やトンネルの補修・改築工事などもスムーズに行うことができます。
この場合、地代は月毎・年毎では支払われず、地上権設定契約時に一括で支払われるのが一般的です。
土地の権利形態に関する注意点
借地権は所有権より土地の資産価値が低い
「借地権付き建物」は「所有権を有する土地・建物」よりも不動産価値が低くなります。そのため、買主様にとっては割安の物件を選べたり、予算よりも好立地・好条件の建物を購入しやすくなります。
ただし、購入後に自己所有財産となった場合にも、資産価値が低くなるということです。つまり、売却する際には「所有権を有する土地・建物」より利益は低くなります。将来売却する可能性がある場合には、慎重に検討しなくてはいけません。
そのため、購入を希望するお客様には、借地権と所有権それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明する必要があります。
まとめ:土地の権利は大枠から部分を理解する
■土地の権利形態の種類
- 所有権:土地のすべてを所有者帰属のものとして所有し、自由に使用することができる権利
- 底地権:地主として土地を人に貸すことができる権利
- 借地権:地主様から土地を借り、その上に建物を建てられる権利
- 賃借権:月々の地代を支払うことで土地を利用できる権利
- 地上権:賃借権と同じく土地を借りて使用する権利
- 敷地権:「敷地権」とは、マンションなどの「区分所有建物」が建っている土地の所有権(または地上権)
- 抵当権:抵当権とは、融資を行う金融機関が有する権利
土地の権利形態は、それぞれの種類の特徴を個別に理解しようとするのでは、うまく捉えることができません。「所有権」という大枠を踏まえたうえで、それぞれの部分的な権利へと分解しながら捉えていくと、理解が深まりやすいでしょう。
また、一般のお客様にとっては、もっと理解しにくいものです。しかし、土地売買の契約をする当事者はあくまでお客様です。宅建業者が仲介業者としてわかりやすく説明できるように心がけましょう。
質の高い不動産業務を提供するためにも業務効率化は必須といえます。「いえーるダンドリ」なら住宅ローンに関する業務を代行することができ、業務効率化を図ることができるので、ぜひご活用ください。
不動産営業実務マニュアルに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事