共同不法行為と土地の工作物責任の損害賠償請求先|不法行為の定義を確認
不法行為の被害者は、加害者に対して損害賠償の請求ができます。しかし状況によっては「どこに」損害賠償の請求をすれば良いのか迷ってしまうケースも考えられます。
今回は不法行為の中でも特殊なケースとなる「共同不法行為」と「土地の工作物責任」について解説します。
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「共同不法行為」「土地の工作物責任」の試験科目
権利関係
「共同不法行為」「土地の工作物責任」が含まれる試験分野
不法行為
「共同不法行為」「土地の工作物責任」の重要度
★ ★ ☆ ☆ ☆ 選択肢のひとつとして出題されることが多い内容です
「共同不法行為」「土地の工作物責任」過去10年の出題率
10%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
今回解説する「共同不法行為」と「工作物責任」は、宅建試験の問題では単独で出題されることがあまりなく、選択肢のひとつとして登場することが多くなっています。
比較的出題率の低い内容ではありますが、勉強をおろそかにすると選択ミスをしやすくなり、貴重な1点を失ってしまいかねません。
過去の出題率にとらわれずに、きちんと理解しておくよう務めましょう。
「不法行為」とは
特殊な不法行為について学ぶ前に、民法上の不法行為の定義に関しておさらいしましょう。
よく違法行為と不法行為は混同されがちですが、法律に違反している=不法行為ではありません。
違法行為が行われた場合、以下3つの要件を満たすと民法上の不法行為となり、被害者は加害者に損害賠償請求ができます。
- 加害者に故意または過失があった
- 被害者に何らかの損害があった
- 当該行為に法律違反があった
逆に言えば、万が一犯罪の被害者になったとしても、いずれかの要件がなければ被害に対する損害賠償請求はできないのです。
「共同不法行為」の解説
不法行為が複数名によって行われたとき、被害者は誰に対して損害賠償請求をすれば良いのでしょうか。
このとき、被害者はいずれの不法行為者にも損害賠償が請求できます。
複数名が共同して第三者に損害を与えることを共同不法行為と言い、共同不法行為に加担した加害者は連帯して損害賠償義務を負います。
共同不法行為では、複数の加害者に共謀する意思があったかどうかは関係ありません。また、加害者それぞれが行った不法行為の重要性によって責任の割合を分けることもありません。
さらに、共同不法行為は実際に行為を行った者だけでなく、教唆や幇助を行った者にも責任が問われます。
「土地の工作物責任」の解説
被害者に損害を与えたのが「人」ではなく「モノ」だったときにはどうなるでしょうか。
民法上の不法行為要件
- 加害者に故意または過失があった
- 被害者に何らかの損害があった
- 当該行為に法律違反があった
上記の不法行為の要件から考えると(2)「被害者に何らかの損害があった」ことと、その原因が(3)「当該行為に法律違反があった」ことが明らかだとしても、残る(1)「加害者に故意または過失があった」かどうかは、すでに出来上がったモノからは判別することができません。
そのため、土地の工作物により他人に損害が生じたときは、故意過失の有無に関わらず損害賠償請求が行えるようになっています。
責任を負う順番
土地に設置・保存してあった工作物が他人に損害を生じさせたとき、まず一次的な責任を負うのは土地の占有者です。
その後、占有者が損害発生を防止するために適切な対策をとっていたと認められた場合には、二次的に土地の所有者が責任を負います。所有者責任は損害発生のための対策をとっていたとしても免れることはできません。
なお工作物責任を負った占有者・所有者ともに、損害発生の原因が第三者による場合は、その者に対して損害賠償分の求償権を行使できます。
「共同不法行為」「土地の工作物責任」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。2 行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
第三者が債務者を教唆して、その債務の全部又は一部の履行を不能にさせたとしても、当該第三者が当該債務の債権者に対して、不法行為責任を負うことはない。(令和元年度本試験 問4より抜粋)
答え:×
解説
不法行為を教唆した者も共同不法行為の責任を問われます。
「共同不法行為」「土地の工作物責任」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 不法行為は「故意・過失により」「違法に」「他者に損害を与える」行為
- 複数名で行われた共同不法行為は全員の連帯責任となる
- 土地の工作物責任は故意・過失の有無を問われない
- 工作物責任の一次的責任は土地の占有者、二次的責任は土地の所有者となる
最後に
今回は不法行為の定義について再確認しながら、特殊な不法行為責任のケースについて解説しました。
共同不法行為・土地の工作物責任ともに、日常生活や宅建業の実務上でもよく見かけるケースであり、すべての人が守らなければいけないルールでもあります。
宅建試験の勉強としてだけでなく、社会生活を営む上での基本的なルールとして覚えておきましょう。
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