特殊な建物賃貸借契約|定期建物賃貸借・賃料の増減額請求・転借人との関係
借地借家法は主に賃借人を守るための法律ですが、状況によって賃貸人、賃借人、そして第三者のうち、どの人物を守るかが変化します。
借地借家法は、イレギュラーな建物賃貸借契約にどのような対応をしているのでしょうか。
今回は建物賃貸借契約が定めている特別ルールについて解説します。
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「借地借家法の特別ルール」の試験科目
権利関係
「借地借家法の特別ルール」が含まれる試験分野
借地借家法
「借地借家法の特別ルール」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ 毎年2問程度出題されています
「借地借家法の特別ルール」過去10年の出題率
100%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
借地借家法に関する問題は、過去10年の宅建試験では毎年2~3問登場しています。
全体で50問しかない宅建試験の中でも、特に重要視しなければいけない項目のひとつです。
ここをおろそかにすると試験問題の5%程度を失ってしまうことになりますので、確実に正答できるようにしましょう。
「借地借家法の特別ルール」の解説
今回は借地借家法の特別ルールのうち「定期建物賃貸借」「取壊し予定建物の期限付き賃貸借」「賃料の増減額請求」「転借人に対する保護」について説明していきます。
契約を終了する時期が決まっている建物賃貸借契約
基本的な借地借家法の考え方は、「賃借人がいかに長く建物を借り続けられるか」が根底にあるため、契約終了や解除は賃貸人側からは行いにくくなっています。
しかし賃貸人の立場に立ってみれば、賃貸借契約の終了時期が決められていないと困るケースが多々あります。
そのような場合に認められているのが、以下2つの期限付き契約です。
定期建物賃貸借
あらかじめ建物を貸し出したい期間が決まっているときや、転勤等のやむを得ない事情により一定期間だけ建物を貸したいときには、定期建物賃貸借契約(定期借家権)の制度が利用できます。
定期建物賃貸借契約で契約終了が申し入れできるのは以下の状態のときです。
契約状態 | 契約終了日 |
契約期間が1年以上の賃貸借契約 | 期間満了の1年前から6ヶ月前までに賃貸人が賃借人に通知した日付 |
転勤・療養等のやむを得ない事情による賃貸借契約
(床面積200㎡未満の居住用建物に限る) |
解約申し入れ日の1ヶ月後 |
定期借家権の特約がある契約の場合、契約書は更新をしない旨の特約を設けた公正証書にします。
取壊し予定建物の期限付き賃貸借
都市計画法などの法令により一定期間の経過後に取壊しが決まっている建物は、当該建物を取壊す際に賃貸借契約が終了する旨を定めた契約ができます。
賃料の変更をしたくなった場合
物価の変動や地価の高騰により、これまでの賃料が周辺相場と比べて明らかに安すぎる場合には、賃貸人は家賃の値上げを要求することができます。
反対に家賃が高すぎると賃借人が考えた場合にも、賃借人は家賃の値下げを要求できます。
ただし、値上げの要求に関して、契約時に一定期間の賃料増額をしない旨の特約を設けた場合、賃貸人は期間内に増額請求を行うことはできません。
建物を又貸ししている場合
建物を借りている賃借人が、他の人に建物を又貸しすることは認められています。
借地借家法では又貸しされた転借人も守る観点から、転借人に対する以下のような保護策を設けています。
建物賃貸借契約終了に伴う建物転借人の退去
賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約が終了したとしても、転借人が直ちに建物の退去を求められてしまうと、転借人が路頭に迷う恐れがあります。
それを避ける観点から、契約終了の事由によって転借人の居住継続の可否が定められています。
期間満了・解約申し入れによる終了 | 転借人に終了の旨を通知していなければ転借人は退去しなくても良い |
合意解除による終了 | 原則として転借人は退去しなくても良い |
賃借人の債務不履行による終了 | 転借人は退去しなければならない |
転借人の造作買取請求権
賃借人に与えられている造作買取請求権は、転借人にもそのまま与えられます。
造作買取請求権とは
賃貸借契約が終了して賃借人が退去する際に、賃借人が自費で取り付けた造作(畳やエアコンなど)を賃貸人に買い取ってもらう権利 |
造作買取請求権を転借人が行使する際は、賃貸人に対して請求します。
相続関係にない同居人の保護
これは又貸しとは意味合いが異なりますが、賃借人が事実婚などをしていて内縁の妻(夫)と同居していた際、賃借人の死後には同居人は借家権を失ってしまうことになります。
その場合の同居人を保護する策として、転借人と事実上の夫婦関係(または養親子)だった同居人に対しては転借人と同じ扱いがされます。
貸借人の死後1ヶ月以内に賃借人の承継をしない旨の意思表示をしない限り、同居人には賃借人の義務・権利が承継されます。
ただしこの承継は、賃借人に法定相続人が存在しているときには行われません。
「借地借家法の特別ルール」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
借地借家法(平成三年法律第九十号)
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。 (以下省略)
法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物の賃貸借をするときは、第三十条の規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる。 (以下省略)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 (以下省略) |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
AがBに対し、A所有の甲建物を3年間賃貸する旨の契約をし、Bが適法に甲建物をCに転貸していた場合、Aは、Bとの賃貸借契約が解約の申入れによって終了するときは、特段の事情がない限り、Cにその旨の通知をしなければ、賃貸借契約の終了をCに対抗することができない。(令和元年度本試験 問12より改題)
答え:〇(対抗できない)
解説
AB間の賃貸借契約の終了原因が解約の申入れの場合には、建物の賃貸人である Aが転借人Cに通知しなければ、転借人Cに対抗することができません。
「借地借家法の特別ルール」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 期限や終了条件が決まっている建物は定期建物賃貸借契約ができる
- 土地計画法等の法令により取壊し予定が決まっている建物は期限付き賃貸借契約ができる
- 賃料の増減額請求は賃貸人・賃借人の双方からできる(賃貸人は例外あり)
- 建物を又貸しされた転借人に対する保護策がある
最後に
今回はイレギュラーな賃貸借契約の場合に、借地借家法がどのような特別ルールを設けているのかについて解説しました。
衣食住の中でも「住」は生活の根幹となる部分ですので、建物の所有者だけでなく借家の居住者、そして転借人に対しても、それぞれが極端に不利な状態にならないように借地借家法は考えられています。
賃貸人・賃借人・転借人の権利のバランスを考えながら、宅建試験の試験問題にも取り組みましょう。
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