敷金返済請求権について|2020年民法改正で宅建試験の重要項目に
不動産の賃貸借で支払う敷金について、アパートやマンションを借りる際などに、敷金を支払った経験がある方は多いかと思います。
これまで敷金の規定は基本的なものしかなく、多くは判例によって解釈されてきました。しかし、2020年の民法改正で、敷金の返還に関する具体的な法令が初めて明記されます。
タイムリーな問題であるため、宅建試験の勉強でぜひマスターしておきたい範囲です。
宅建受験者はここをチェック!
「敷金」の試験科目
権利関係
「敷金」が含まれる試験分野
賃貸借
「敷金」の重要度
★★★★☆ 2020年民法改正点です
「敷金」過去10年の出題率
20%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
敷金に関する問題の出題率は、例年それほど高くありません。しかし、2020年の民法改正で「敷金の返還」について初めて明記されるため、同年の宅建試験では出題される可能性が高いと考えられます。
覚えるべき知識はそれほど多くない範囲ですので、スピーディに習得したいところです。
「敷金」の解説
「敷金」とは
「敷金」とは、賃借人に生ずる賃貸人に対する債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭を言います。債務の内容は、いかなる名目かを問われません。
例えば、賃借人が賃料の支払いを遅延したとき、賃貸人は敷金を賃料に充当することができます。ただし、賃借人の方から債務の支払いに敷金を充当するよう請求することはできません。
賃借人の「敷金返還請求権」
敷金は、賃貸借契約期間中に生じる債務を担保する金銭のため、賃貸借契約が終了した時点で残額がある場合には、賃借人は敷金の返還を請求することができます(敷金返還請求権)。
ただし、敷金返還請求権は、目的物の明渡し後でなければ行使することができません。判例によれば、賃貸人の敷金返還債務と賃借人の建物明渡し義務は、原則として同時履行の関係には立たないとされています。
権利に変動があった場合の敷金の承継
賃貸人と賃借人の間で交わされる敷金ですが、権利の変動があり第三者が関係した際には、どのように取り扱われるよう規定されているのでしょうか。賃貸人が変わるケースと賃借人が変わるケースを、それぞれ解説します。
以下、賃貸人をAさん、賃借人をBさんとします。
・賃貸人の地位の移転があった場合
所有者である賃貸人Aさんが、賃貸借の目的物を第三者Cさんに譲渡し、賃貸人の地位もCさんに移転した場合、賃借人Bさんは、AさんとCさんのどちらに敷金返還請求すればいいのでしょうか。
この場合、敷金は賃貸人の債権を担保する役割がありますので、現在の賃貸人が管理するのが妥当です。そのため、新しい賃貸人Cさんは、賃貸人の地位の移転とともに、敷金も引き継ぎます。したがって、賃借人Bさんが敷金返還請求をする相手は、Cさんとなります。
ただし、前の賃貸人Aさんから新賃貸人Cさんに敷金を引き継ぐ際に、Aさんが債権を有していれば、引き継がれる敷金は、Aさんの債権額を差し引いた残額となります。
また、建物賃貸借契約が終了してから建物の明渡しをするまでの間に所有権が移転した場合、敷金に関する権利義務は、新旧の所有者同士で合意があったとしても新所有者に承継されないとした判例もあります。
・賃借権の譲渡があった場合
賃借人Bさんが、賃借権を第三者Dさんに譲渡した場合、すでに賃貸人Aさんに支払っている敷金について返還請求権を持つのは、BさんとDさんのどちらでしょうか。
BさんがAさんに敷金を支払ったのは、自分自身の債務を担保するためです。その時点では、Bさんは賃借権をDさんに譲渡する予定はないのが通常ですから、当然Dさんの債務を担保する意思はないものと考えられます。
そのため判例では、原則として、賃借権の譲渡人(前の賃借人)が敷金返還請求権を主張することができるとされています。
ですので、ここではBさんが敷金返還請求権を主張することができます。
「敷金」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年4月1日施行)
前条、借地借家法(中略)の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。 (中略) 4 第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。 二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。 2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
次の記述は、民法の規定または判例において正しいか誤りか。
Aは、自己所有の甲建物(居住用)をBに賃貸し、引渡しも終わり、敷金 50 万円を受領した。Aが甲建物をCに譲渡し、所有権移転登記を経た場合、Bの承諾がなくとも、敷金が存在する限度において、敷金返還債務はAからCに承継される。
答え:○(正しい)
解説
敷金は賃貸人の債権を担保する役割がありますので、現在の賃貸人が管理するのが妥当です。そのため、新しい賃貸人Cさんは、賃貸人の地位の移転とともに敷金も引き継ぎます。したがって、敷金返還債務もCさんに引き継がれます。
「敷金」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 「敷金」は、賃貸人に対する賃借人の債務を担保する金銭である
- 賃貸借契約が終了した時点で敷金に残額がある場合、賃借人は賃貸人に返還請求できる
- 敷金返還請求権は、目的物の明渡し後でなければ行使できない
- 賃貸人が賃貸物を第三者に譲渡したら、敷金も譲受人に承継する
- 賃借人が賃借物を第三者に譲渡した場合、敷金返還請求権を持つのは前の賃借人である
最後に
宅建試験では2時間で50問出題されます。敷金に関する問題が出題されたとしても1問です。試験範囲は膨大であるため、個々の分野に時間をかけることはできません。
しかし、2020年の試験では出題される可能性が高いうえ、敷金に関して覚えるべき知識はそれほど多くありません。そのため、効率よく確実に習得しておきたいところです。
次の記事(借地借家法は賃借人を守るための法律|存続期間と更新・解約などの保護策)を読む
前の記事(賃貸借の対抗力と転貸・賃借権の譲渡における債務|宅建試験の重要点)を読む
スペシャルコンテンツに興味がある方は下記の記事をご覧ください。
宅建に興味がある方は下記の記事をご覧ください。
不動産業務実務の基本関連記事