工業地域とは|住宅の購入に向いている理由と特徴
用途地域の中で、工業系の用途地域の中でも、準工業地域は意外と住宅が多いエリアです。お客様がマイホームの購入を検討しているエリアの用途地域の種類を調べることで、エリア内に建てられる建物がわかり、周辺に将来建つ可能性があるものを伝えることができます。
工業系の用途地域について詳しく解説していきます。
工業地域とは
都市計画法による用途地域では、工業地域は第9条で「主として工業の利便を増進するため定める地域」と定義づけられています。
工業地域では、敷地面積に対する建築面積の割合である「建ぺい率」は50%または60%、敷地面積に対する建物の延床面積を示す「容積率」は200%、300%、400%のいずれかに定められています。
日本の主な工業地域
日本で有名な工業地域の特徴について解説していきます。ここでいう工業地域は前述の都市計画法による用途地域とは異なります。
● 京葉工業地域
京葉工業地域は東京湾を埋め立ててできた工業地域で、東京の「京」と千葉の「葉」から名付けられました。石油コンビナートや製鉄所などが立地し、生産額の半数ほどを化学製品が占めるの特徴です。
● 瀬戸内工業地域
瀬戸内工業地域は、海上交通の便の良さから石油や鉄鉱石を大量に運び込みやすく、工業用地を埋め立てによって確保しやすいことから発展しました。重化学工業が盛んで、岡山県倉敷市水島地区には石油コンビナートや製鉄所が立地し、山口県周南市も石油コンビナートがあります。また、広島県呉市は造船業、広島県広島市は自動車工業、山口県宇部市はセメント工業が盛んです。
● 北九州工業地域
北九州工業地域は、かつては北九州工業地帯として日本の四大工業地帯と呼ばれていました。もともと、北九州工業地帯は、筑豊炭田の豊富な石炭を背景に、1901年に北九州市に官営の八幡製鉄所が開業し、鉄鋼業を中心に発展していました。しかし、エネルギー源が石炭から石油中心に変わったことや、東京や大阪といった大消費地からは距離があることなどにより、衰退しています。
世界の主な工業地域
世界の主な工業地域として、ヨーロッパやアメリカの工業地域を紹介します。
● ルール工業地域(ドイツ)
ドイツにあるルール工業地域はヨーロッパ最大といわれる工業地域です。19世紀以以降、ルール炭田の開発が進み、ライン川の水運を利用した鉄鉱石や製品の運搬の利便性の高さからも、鉄鋼業や機械工業、化学工業を中心に発展してきました。主な工業都市として、ドルトムントやデュッセルドルフ、デュースブルクが挙げられます。
● ラストベルト(アメリカ)
ラストベルトはアメリカの北東部、インディアナ州やオハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州、イリノイ州、ニューヨーク州、ペンシルバニア州に位置するエリアです。ペンシルバニア州や隣接するテネシー州などで採掘される石炭をもとに重化学工業が発展し、デトロイトは自動車工業の街として栄えました。しかし、貿易の自由化や製造拠点を海外に展開する動きなどにより衰退し、錆びついた地帯という意味を持つラストベルトと呼ばれています。
● サンベルト(アメリカ)
アメリカのサンベルトとは、北緯37度以南の地域のことを指します。サンベルトは1970年代以降、温暖でエネルギーコストが抑えられることや賃金水準が低いことに加えて、政府が積極的に企業の誘致を進めたことを背景に発展しました。特にICT産業や先端産業が発展し、サンフランシスコ郊外のシリコンヴァレーが代表的な街です。
工業地域と工業地帯の違い
工業地域と工業地帯の違いには、明確な基準は設けられていません。地域内で工業が集積しているエリアの地域的な連続性や企業間の連携などがより顕著エリアを工業地帯とする考え方もあります。また、かつては工業生産額から、京浜工業地帯、中京工業地帯、阪神工業地帯、北九州工業地帯の4つの工業地帯があり、四大工業地帯と呼ばれていました。しかし、北九州工業地帯が衰退して工業生産額が落ち込み、北九州工業地域と呼ばれるようになってきたことからも、明確な差がなくなってきています。
工業地域の種類
13種類ある用途地域のうち、次に挙げる工業系の3つの用途地域について解説していきます。
準工業地域
準工業地域は周辺環境を悪化させる恐れがない工場の立地を許容している地域です。準工業地域は建てられる建物の用途の制限が緩く、環境を悪化させる恐れのある工場や一定の風俗店以外は建てることができます。昔ながらの街工場が立地しているエリアを想定した用途地域で、住宅や店舗も混在しているのが特徴です。
<準工業地域に建築できる>
<準工業地域に建築できない>
<建ぺい率> 50%、60%、80%
<容積率> 200%、300%、400%
|
準工業地域は、環境を環境を著しく悪化させる施設や危険物を多く貯蔵する施設は立地できず、住宅地も形成されているため、居住に向いた立地条件のエリアもあります。
工業地域
工業地域は工業の利便性を増進するための地域で、建てられる工場に制限がなく、周辺に悪影響を及ぼす恐れのある業種の工場や、多くの危険物の貯蔵や処理を行う施設も立地することができます。
一方で住宅と工場が混在する地域ではありますが、学校や病院、ホテルなどは建てられないといった制限があります。
<工業地域に建築できる>
<工業地域に建築できない>
<建ぺい率> 50%、60%
<容積率> 200%、300%、400%
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工業地域は工場からの煙や騒音などの影響を受ける恐れがあるため、居住することを推奨できるエリアではありません。工場跡地の再開発でマンションが建てられることもありますが、周辺環境を確認することが大切です。
工業専用地域
工業専用地域は13ある用途地域の中で、住宅を建てることができない唯一の地域です。工業専用地域は石油コンビナートや工業団地といった規模の多い施設が立地することを想定しています。
居住できないことに加えて、学校や病院、ホテル、老人ホームのほか、遊戯施設の多くも建てられないなど制限が多いです。
<工業専用地域に建築できる>
<工業専用地域に建築できない>
<建ぺい率> 30%、40%、50%、60%
<容積率> 200%、300%、400%
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工業専用地域はそもそも住宅を建築できないため、マイホームを購入するときの選択肢にはできません。
用途地域の種類
用途地域とは、都市計画法の市街化区域などで定められているもので、同一地域内で用途が異なる建物が混在しないことを目的としています。
用途地域によって建てられる建物の種類や建ぺい率、容積率などが制限されています。工業地域を含む用途地域は13種類あり、以下の3種類に分類できます。
用途地域の3つの分類について、それぞれ詳しく解説してきます。各用途地域に建てられる建築物や建てられない建築物の詳細は、東京都都市整備局の用途制限の概要から確認することができます。
また、用途地域に関しては『市街化区域の用途地域を確認する|住居系・商業系・工業系の違いとは』でも取り上げています。
工業系
前述したように、工業系の用途地域は工場が多く立地する地域です。
工業系の用途地域の中でも、準工業地域と工業地域は住宅を建てることができます。
準工業地域や工業地域は住居系の用途地域よりも、土地の価格が比較的安く、広々とした住まいを手に入れやすいことがメリットです。湾岸に建つタワーマンションの中には工業地域に立地する物件もあります。
一方で、近くに工場が立地していると、騒音やホコリが気になる可能性があり、工業地域では危険物を扱う工場が周辺に立地しているケースがあることがデメリットです。また、工業地域は学校が建てられないことから、子供がいる場合、離れた場所まで通学することになります。
工業系の用途地域の中でも、工業地域は居住に向いているエリアとはいいにくいでしょう。
住居系
住居系の用途地域は住みやすい環境を整備することを優先したエリアで、商業施設や工場などの立地が制限されています。2019年4月に田園住居地域が加えられ、住居系の用途地域は8つになりました。
住居系の用途地域は静かで住み心地のよい環境が得られやすいことがメリットです。
一方で、大規模な商業施設は建てられず、第一種低層住居専用地域ではコンビニなどの小規模な店舗を建てることができないため、立地によっては不便に感じる可能性もあります。
商業系
商業系の用途地域は、商業などの利便性を重視した地域で、大規模な商業施設のほか、周辺に悪影響を及ぼす恐れのない工場も建てることができます。
商業系の用途地域は利便性が高いことがメリットであり、賑やかな地域になりやすいことはメリットでもあり、デメリットでもあります。騒音などが気になる恐れがある反面、夜でも人通りが多い傾向がある地域です。
用途地域の見分け方
マイホームなどの不動産の購入を検討しているとき、用途地域を見分けるのに便利なものとして、用途地域マップがあります。任意の地域を選択して、用途地域を調べることができるサイトです。
用途地域ごとに色分けがされていて、たとえば、渋谷区役所周辺のピンクのエリアは商業地域、松濤のあたりの緑のエリアは第一種低層住居専用地域ということがわかります。
準工業地域が住宅の購入に向いている理由
準工業地域は工業系の用途地域のため、居住には向いていない印象を持つお客様が多いかもしれません。
しかし、実は住宅の購入に向いているエリアで、住宅のほか、大型の商業施設や学校、病院などが周辺に立地していたり、住宅地が形成されていたりいていて、住みやすいエリアがあります。また、住居系の用途地域よりも価格が安い傾向にあります。
ただし、近くに工場が立地していると、騒音などの影響を受ける可能性があるため、準工業地域に住む場合は、近隣やよく通ることが想定される道路の近くに、大規模な工場がないかなどを、事前に確認することをお勧めしましょう。
また、工場の跡地などの場合は、土壌汚染調査が行われていて、問題がないかを確認することで、安心感が生まれます。
工業地域の道路斜線制限
道路斜線制限とは、日照や採光、通風を確保するため、前面道路の反対側の境界線から一定の勾配の高さの範囲内に建築物を建てなければならないというルールです。
ただし、適用距離を超える部分は高さ制限を受けません。
工業系の用途地域の斜線の勾配は1:1.15と定められています。
工業系の用途地域の適用距離は、容積率が200%以下の場合は20m、200%を超えて300%以下は25m、300%を超えて400%以下は30m、400%を超えると35mです。
まとめ
工業地域の中でも準工業地域は、利便性が高く、住みやすい居住環境が得られる可能性があるエリアです。工場がまとまって立地するエリアがある一方で、住宅地が形成されているエリアもあります。
周辺環境をよく確認し、住居系の用途地域だけではなく、準工業地域も含めた幅広いエリアから住まい探しをお手伝いしましょう。
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