民法の賃貸借契約と賃貸人・賃借人の権利義務|宅建の試験範囲を整理

投稿日 : 2020年04月28日/更新日 : 2023年02月01日

今回は、民法における賃貸借契約の概要と、各当事者の権利義務について解説します。

不動産の賃貸借においては、民法の規定より借地借家法の規定の方が優先されます。そのため、宅建士の実務で賃貸借を取扱う際には、主に借地借家法にのっとることになります。

しかし、借地借家法は民法を補強する目的で制定されているため、まずは民法を理解することが大切です。

また、2020年の民法改正において賃貸借に関する変更点があり、同年の宅建試験では重要視される可能性が高まりますので、しっかり確認しましょう。

 

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「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」の試験科目

権利関係

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」が含まれる試験分野

賃貸借

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」の重要度

★★★★☆  借地借家法の基礎知識となるテーマ

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」過去10年の出題率

80%

 

2020年宅建試験のヤマ張り予想

今回のテーマは「民法における賃貸借契約」であり、賃貸借全般についての知識です。不動産専門の賃貸借に関する法律は「借地借家法」ですが、今回のテーマはそれを学ぶ上での基礎となります。過去10年間の出題率は80%と高くなっています。

2020年の民法改正点に賃貸借契約の最長存続期間が含まれるため、出題される可能性はより高まるでしょう。

 

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」の解説

民法の「賃貸借契約」とは

民法が規定する「賃貸借契約」とは、貸主が借主に目的物を貸し、それに対して借主が貸主に賃料を払う契約のことです。不動産だけでなく、DVDレンタルなどあらゆる貸し借りに適用されます。

賃貸借契約は、借主が貸主に対して契約終了時に目的物の返還を約束することで初めて成立します。また、口頭での契約も有効とされます。

なお、賃料を支払わない貸借については、「使用貸借契約」と言い、賃貸借契約とは異なる規定が適用されます。

 

 

不動産の貸主・借主の呼び方

宅建試験において、不動産の貸主・借主は、以下のように表現されます。

◆土地の賃貸借契約の場合

  • 貸主…借地権設定者(または賃貸人)
  • 借主…借地権者(または賃借人)

◆建物の賃貸借契約の場合

  • 貸主…賃貸人
  • 借主…賃借人

 

不動産の賃貸借では「借地借家法」を優先

前項の通り、あらゆる賃貸借についての基本ルールを定めているのは、民法です。しかし、土地や建物など不動産の賃貸借に関しては、「借地借家法」の規定が民法より優先されます。

不動産は生活の基盤であり、賃借人の生活を十分に保護する必要があるため、より賃借人の権利保護を重視した借地借家法が優先されます。

借地借家法のもと結んだ賃貸借契約において、民法と異なる特約を定めた場合、その特約は原則として有効とされます。

借地借家法の規定と異なる特約を定めた場合は、賃借人に有利な契約のみ有効で、賃借人に不利な契約は原則として無効となります。

 

民法における賃貸借の存続期間

賃貸借契約(不動産以外)は、あくまで有限の貸し借りであり、その存続期間は最長でも50年間とされています。これは、2020年の民法改正で規定された新しいルールです。

ちなみに、存続期間の規定は最長期間のみで、最短期間の規定はありません。

 

賃貸借契約の更新・解約

・契約期間の定めがある場合

期間の定めがある賃貸借契約の場合、原則として期間満了により契約終了となりますが、更新も可能です。

期間満了後も、賃借人が賃借物の使用(または収益)を継続し、賃貸人がこれを知りながら意義を述べないときは、同じ条件で契約を更新したものとみなされます(黙示の更新)。ただしこの場合、各当事者から解約の申入れをすることは可能です。

 

・契約期間の定めがない場合

契約期間の定めがない賃貸借の場合には、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができます。この場合、契約終了日は次のように決まります。

◆契約期間の定めがない場合の契約終了日

  • 土地の賃貸借の場合…解約の申入れ日から1年
  • 建物の賃貸借の場合…解約の申入れ日から3ヵ月(借地借家法では6ヵ月)

賃貸人・賃借人の権利義務

賃貸借契約において各当事者に生じる基本的な権利・義務は、以下となります。

権利 義務
賃貸人 賃料の支払いを請求する権利 目的物の使用・収益をさせる義務
賃借人 目的物の使用・収益をさせるよう請求する権利 賃料を支払う義務

 

上記の他にはどのような場合に、各当事者に権利・義務が発生するのでしょうか。

賃貸借物の一部が破損した場合

賃貸借物の一部が破損した場合、賃借人は賃貸人に対して、破損部分の修繕を請求する権利を有します。賃貸人は賃料を受け取って目的物を貸している以上、目的物を修繕する義務を負います。

ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で(賃借人の責任で)修繕が必要な状態になった場合には、賃貸人は修繕義務を負いません。

賃貸人による修繕は、義務であると同時に権利でもあります。そのため、賃貸人が賃貸借物の保存に必要な修繕を行いたい場合、賃借人は拒否することができません。

ただし、賃貸人が賃借人の意思に反して修繕などの保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は契約を解除できます。

 

・賃借人が賃借物を修繕する場合

賃借物の修繕が必要である旨を賃貸人に告知したにもかかわらず、賃貸人が一向に修繕に応じない場合には、賃借人が自ら修繕することができます。また、緊急に修繕する必要がある場合にも、賃借人の判断で修繕することができます。

修繕費など賃借物の使用に必要な費用(必要費)で、賃貸人が支払うべき費用を賃借人が支払った場合、賃借人は賃貸人に対して直ちに費用を返済するよう請求できます。

 

・賃借人による改良で価値が上がった場合

賃借人が有益費(賃借物の価値を増加させるための費用)を支払った場合、賃貸借契約の終了時に価値の増加が現存していれば、賃貸人は費用または増価額のどちらかを選択して支払う義務を負います。

 

 

・賃借物を使用できなくなった場合

賃貸借物の一部が滅失するなどの理由で、使用(または収益)することができなくなった場合、それが賃借人の責めに帰すべき事由ではないのであれば、使用できなくなった部分の割合に応じて賃料は減額されます。

さらに、残存する部分のみでは賃借人が賃借した目的を達成できない場合、賃借人は契約を解除することができます。

 

・賃貸借契約が終了した場合

賃貸借契約が終了し目的物を返還するときには、賃借人は賃借期間中に目的物に付属させた物を除去・撤収し、期間中に生じた損傷を元の状態に回復する義務を負います(原状回復義務)。

ただし、損傷が通常の使用によって生じた損耗・経年変化である場合、または賃借人の責めに帰することができない事由である場合には、原状回復義務は生じません。

 

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」に関連する法律

この項目に関連する法律は以下のとおりです。

民法(令和2年4月1日施行)

第604条(賃貸借の存続期間)

賃貸借の存続期間は、五十年を超えることができない。(中略)

2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。

(以下省略)

 

第606条(賃貸人による修繕等)

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

 

第607条の2(賃借人による修繕)

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

二 急迫の事情があるとき。

第608条(賃借人による費用の償還請求)

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

(以下省略)

 

第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)

当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合(中略)、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。

一 土地の賃貸借 一年

二 建物の賃貸借 三箇月

(以下省略)

 

第619条(賃貸借の更新の推定等)

賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。

2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金については、この限りでない。

 

第621条(賃借人の原状回復義務)

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

 

実際に過去問を解いてみよう

建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払いを拒絶することができる。(平成25年度本試験 問8より改題)

答え:✖

 

解説

判例によると、「建物の破損、腐蝕等の状況が、居住の用に耐えない程、あるいは、居住に著しい支障を生ずるに至っていない場合」という程度でないと、支払いを拒絶するまでに至らないとあります。

 

「賃貸借契約の概要/賃貸人・賃借人の権利義務」ポイントのまとめ

この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです

  1. 賃貸借契約は、口頭での契約も有効である。
  2. 不動産の賃貸借では「借地借家法」の規定が民法より優先される
  3. 借地借家法の規定と異なる特約を定めた場合、賃借人に不利な契約は無効
  4. 賃貸借契約の存続期間は、最長でも50年間である
  5. 期間満了後も賃借人が使用を継続し、賃貸人が異議を述べないときは、契約更新とされる
  6. 契約期間の定めがない賃貸借の場合、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる
  7. 修繕などの保存行為は、賃貸人の義務であり権利である
  8. 賃貸人が一向に修繕に応じない場合には、賃借人が自ら修繕でき、その費用を賃貸人に請求できる
  9. 賃貸借契約が終了し目的物を返還するときは、賃借人は原状回復の義務を負う

 

 

最後に

 

今回のテーマである「民法の賃貸借契約」に関する問題が宅建試験で出題される際には、1つの問題として出題されるパターンと、借地借家法に関する問題の選択肢の1つとして登場するパターンとがあります。

そのため「民法の賃貸借契約」と「借地借家法」の勉強を連続して行うと効率がよく、習得が早いでしょう。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。
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