【宅建】無権代理行為とは何かわかりやすく解説|条件と本人・相手方の権利保護
無権代理に関する問題は宅建試験での出題率が高く、「権利関係」科目・「代理」分野の中でも重要度が高いテーマです。
また、2020年の民法改正で変更された部分があるなど、タイムリーなテーマでもあるため、例年よりも出題される確率は高いと思われます。
しかし、無権代理となる条件や本人と相手方の権利保護など、複雑で難易度の高いテーマです。
そこで、試験問題を解く上での必要な基礎知識やポイントをまとめました。
宅建受験者はここをチェック!
「無権代理」の試験科目
権利関係
「無権代理」が含まれる試験分野
代理
「無権代理」の重要度
★★★★☆
「無権代理」過去10年の出題率
70%
2022年宅建試験のヤマ張り予想
「代理」分野は、宅建士試験の「権利関係」科目の中でも重要度が高い分野の1つです。特に「無権代理」に関する問題は、頻繁に出題されています。
さらに2020年4月には民法が改正され、「無権代理人の責任」について変更されます。
そのため、宅建試験の中でも、代理に関する知識を試す問題が出題される可能性が高まります。このテーマについては、例年以上にしっかりと学習しておきたいものです。
「無権代理」とは何かわかりやすく解説
まずは「代理行為」について確認
「代理」とは、本人以外の者が本人のために意思表示・法律行為を行うことです。本人に代わって意思表示・法律行為を行う者を「代理人」といい、その権利を「代理権」といいます。
代理人が本人の代わりに行った行為における法的効果は、本人に帰属します。
代理権には、本人が任意の者に依頼することで成立する「任意代理権」と、法律の規定に基づく「法定代理権」の2種類があります。
「無権代理」とは
「無権代理」とは、代理権を持たない者が他人の代理人として法律行為をすることです。代理権がないのに代理人として行為したものを「無権代理人」といいます。無権代理人が代理人となり締結した契約は、原則として本人に効力を生じません。
無権代理となるパターンは、以下のいずれかに該当します。
- もとから代理権がない
【例】本人所有の不動産を無断で売却した - 与えられた権限の範囲を越えた行為をした
【例】本人所有の不動産について賃貸借契約を締結する権限を与えられた代理人が、その不動産を売却した - 与えられていた代理権が消滅した
【例】代理人が破産したにもかかわらずその後も代理行為を続けた
無権代理行為の追認
無権代理行為がすべて無効となるわけではありません。本人がその行為を追認すれば、法的効力を発生させることができます。
つまり本人は、追認したり追認を拒絶することで、無権代理人の代理行為を有効にも無効にもできるのです。
追認する場合は、無権代理人に対して行うことも契約相手に行うことも可能です。ただし、追認された事実を相手方が知るまでは、相手に対して法的に対抗することはできません。
また、追認した場合の法的効力は、契約時に遡って発生します。
無権代理行為の相手方を保護する制度
無権代理行為があった場合に本人が追認すれば、相手方としては既に納得して締結した契約が進行するだけです。逆に本人が追認を拒絶すれば、その契約は無効となり、相手方にとっては契約を破棄されるのと同等の損害を被ってしまいます。
そこで民法では、無権代理行為の相手方を保護する制度をいくつか設けています。
①催告権
無権代理行為の相手方は本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に「追認するか追認を拒絶するか」を確答するよう請求(催告)することができます。この権利を「催告権」といいます。
この権利は、相手方の善意・悪意に関わらず認められます。
また、定められた期間内に確答しない場合は、本人が追認を拒絶したとみなされます。これは、相手方の催告権を認めつつ、無権代理行為をされた本人の立場も考慮した規定です。
②取消権
無権代理による契約に納得できない場合には、本人の追認前であれば、相手方は契約を取消すことができます。ただし、契約時に無権代理行為であったと知っていた場合には取消権は認められません。
③履行または損害賠償の請求
本人が追認しない場合、相手方は、無権代理人に契約の履行または損害賠償を請求することができます。ただし、相手方が無権代理だと承知していた場合や過失により知らなかった場合には、無権代理人の責任を追及できません。
つまり、相手方が善意かつ無過失であった場合にのみ、この請求権を行使できます。
また、無権代理人が制限行為能力者である場合には、無権代理人は責任を追及されません。
④表見代理制度
表見代理とは、無権代理人に代理権があるかのような外観をしていて、相手方が無権代理人に代理権があると信じて取引してしまった場合、一定の条件を満たせば、代理権があるのと同等の責任が本人に生じるという制度です。
◆表見代理の要件
- 本人に何らかの過失・責任があり、代理権があるように見せかける行為に加担している
- 相手方は善意かつ無過失であり、信じるに足る正当性がある
表見代理には、次の3種類があります。
◆表見代理の種類
- 代理権授与の表示による表見代理…本人が代理権を与えていないにも関わらず、与えたと表示した
- 権限外の行為の表見代理…本人から与えられた代理権の権限を越える行為を行った
- 代理権消滅後の表見代理…代理権は消滅したにも関わらず、あるように行為した
無権代理人が関わる相続の事例
①無権代理人が本人を相続した後追認拒絶できるか
無権代理人Aさんが親であるBさんから代理権を与えられていないにも関わらず、Bさんの代理人としてBさん所有の不動産を売却したとします。その後Bさんが死亡し、AさんはBさんの不動産を単独で相続しました。
このとき、Aさんは売却を無権代理行為として追認拒絶できるでしょうか。
この場合、Aさんは追認拒絶できません。無権代理行為とはいえ、Aさん自身が自分の意思で行った行為だからです。
ただし、他の相続人との共同相続であった場合は、他の相続人の追認がない限り、無権代理行為が有効になることはありません。
②無権代理人を相続した場合追認拒絶できるか
Aさんは親であるBさんから代理権を与えられていないにも関わらず、Bさんの代理人としてBさん所有の不動産を売却しました。その後Aさんが死亡し、BさんがAさんから単独で相続しました。
このとき、BさんはAさんの行った無権代理による売却を追認拒絶できるでしょうか。
この場合、Aさんが行った無権代理行為はBさんの過失によるものではないため、Bさんは追認拒絶できるとされます。
ただし、Aさんの責任は相続によりBさんに承継されますので、相手方が善意かつ無過失であれば、履行や損害賠償など相手方に対する責任を負うことになります。また、さらにBさんが死亡し、二次相続が起こった場合も、新たな相続人に無権代理行為の責任は承継されます。
「無権代理」に関連する法律
無権代理に関する条文を確認しておきましょう。
無権代理を理解するには代理権に関する条文も読んで、いろんなケースを想定しておく必要があります。
民法(施行日:令和2年4月1日)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。 2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。 |
「無権代理」ポイントのまとめ
- 「無権代理」とは、代理権を持たない者が他人の代理人として法律行為をすることである
- 本人は無権代理人の行為を追認することも追認拒絶することもできる
- 無権代理行為の相手方は、催告権、取消権、履行・損害賠償の請求権、表見代理を適用する権利を有する
- 無権代理人を相続した者は追認拒絶できるが、相手方への責任は承継される
個別の判例を学習し正解率を高める
無権代理に関する問題を解くうえでポイントとなるのは、無権代理となる条件と本人・相手方の権利保護制度です。また、個別のケースでどのような判例が出ているか、しっかり確認することも、正解率をアップさせるためには重要です。
そのためには、過去問や模試をできるだけたくさん解いて、法解釈の妥当性を理解することが大切です。
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