「詐欺・強迫」契約に第三者が関与したら取消は可能?宅建出題内容を解説

投稿日 : 2020年03月02日/更新日 : 2023年09月15日

契約が成立するには申込者と承諾者の間で互いの意思表示が合致すれば良いのですが、契約のために相手を騙す詐欺や、強迫する行為は認められていません。

民法では、詐欺や強迫の被害者が契約の取り消しをすることが認められています。

しかし詐欺と強迫では、被害者が同じように契約取り消しの意思表示をしたとしても、ある1点において結末が変わってくるのです。

今回は詐欺や強迫による契約が無効となった後で、どのような点が変わってくるのかを学びましょう。

 

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「詐欺」「強迫」の解説

詐欺による契約と強迫による契約、2つに共通する事項を最初に説明します。

犯罪被害者を守る観点から、民法では詐欺や強迫による契約の取り消しはできるものとしています。

契約が取り消されると、双方の当事者は原状回復義務を負います。つまり不動産売買で考えれば、土地建物の所有権と売却代金が契約前の所有者に戻ります。

これにより詐欺や強迫によって土地建物を売却したとしても、その土地建物を取り戻すことが可能になります。

 

取消権

詐欺や強迫により契約をさせられたことがわかると取消権が得られます。ここで得られた権利は、被害者がその後に追認(契約を確定させること)すると失効します。

 

取り消しできる期間

取消権を行使できるのは、詐欺・強迫の行為が行われてから20年を経過するまで、もしくは追認ができるようになったときから5年間を経過するまでです。

 

第三者が関わった詐欺・強迫による契約はどうなる!?対抗可能なのか

 

二者間で行われた詐欺・強迫であれば、話は簡単です。犯罪被害者を守るために契約を無効にするというのは、常識的に見てもわかりやすい話だからです。

しかし当該契約の締結や、契約後に第三者が関係した場合はどうなるでしょうか。

これを知るには、第三者が詐欺や強迫の事実を知っているかどうかを確認する必要があります。

 

「悪意」と「善意」

民法では、ある事実を知っているか否かについて悪意・善意という呼び方をします。

悪意 ある特定の事実について知っている
善意 ある特定の事実について知らない

 

つまり悪意の第三者とは、ある特定の事実を知っている第三者ということです。それに対して特定の事実を知らない人は善意の第三者と呼ばれます。

一般的に使われる道義的な意味合いの悪意・善意とは、法律上では異なる意味を持ちます。混乱しないように注意しましょう。

 

契約後に第三者が関係した場合

 

土地の所有者AがBから詐欺・強迫により土地を売却して、Bがそのまま第三者に土地を転売したとします。

AB間の契約が無効になったとしても、すでに土地は第三者の手に渡っています。こういう場合はどうなるでしょうか。

Aが土地を取り戻せるかどうかは、契約の原因が詐欺か強迫か、そして第三者は悪意か善意か、さらに第三者に過失があるかによって異なります。

 

契約の原因 第三者の認知(および過失) 原状回復の可否
詐欺 悪意 できる
善意(過失がある) できる
善意(過失がない) できない
強迫 悪意 できる
善意(過失がある) できる
善意(過失がある) できる

 

Aが詐欺にあって土地を失ったとしても、転売された第三者が善意かつ無過失の際には土地を取り戻すことができません。

逆に強迫を原因とする契約は、どんな場合でも土地を取り戻すことができます。詐欺被害に比べて、強迫の被害者はより一層守られるべき存在だとみなされるからです。

 

契約が第三者の詐欺・強迫により行われた場合

 

上記と同じようなケースとして、今度は詐欺や強迫をしてきたのがBではなく第三者だったときのことを考えてみます。

この場合は第三者でなく、土地の購入者Bが悪意か善意かを確認する必要があります。

考え方の基本は同じです。AがBに土地を売却する原因となったのが第三者の詐欺か強迫か、Bは悪意か善意か、Bには過失があるかどうかが判断基準となります。

 

契約の原因 Bの認知(および過失) 原状回復の可否
詐欺 悪意 できる
善意(過失がある) できる
善意(過失がない) できない
強迫 悪意 できる
善意(過失がある) できる
善意(過失がない) できる

 

この表を見てわかるように、第三者がどのような形でAB間の取引に関わっていたとしても、詐欺を原因とする場合には善意かつ無過失が取り消しの焦点となり、強迫を原因とする場合には無条件取り消しとなります。

 

「詐欺」「強迫」に関連する法律

この項目に関連する法律は以下のとおりです。

民法 (令和2年3月1日時点)

第96条(詐欺又は強迫)

詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

【改正後】

第96条(詐欺又は強迫)
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

実際に過去問を解いてみよう

問題:

AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
(令和元年度本試験 問2より抜粋)

答え:〇(できる)

 

解説

この問題で焦点となるのは、第三者Cが「詐欺」の事実を知っているか否かです。CはBが詐欺により土地を取得したことを知っている(悪意)ですので、AはCから土地を取り戻せます。

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「詐欺」「強迫」の試験科目

権利関係

「詐欺」「強迫」が含まれる試験分野

意思表示

「詐欺」「強迫」の重要度

 ★ ★ ★ ★ ☆ 重要度の高い項目です

「詐欺」「強迫」過去10年の出題率

35%

 

2023年宅建試験のヤマ張り予想

詐欺と強迫については、過去本試験ではどちらかが必ず出題されています。そのため、2023年の宅建試験でも、出題される確率は非常に高いと考えられます。

試験問題はほとんどの場合、事例の正誤を問う出題形式です。問題文を読んで登場人物の関係と善意・悪意の区別がすぐにできるようになっておきましょう。

宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。

「詐欺」「強迫」ポイントのまとめ

この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。

  1. 詐欺や強迫を原因とする契約の意思表示は取り消すことができる
  2. 契約が取り消しとなった場合には双方が原状回復義務を負う
  3. 詐欺が原因の契約は、善意かつ無過失の第三者が関係した場合には取り消せない
  4. 強迫を原因とする契約は、善意かつ無過失の第三者がいても取り消せる

 

最後に

契約の意思表示に関する問題は「民法では一番誰を守りたいか」を考えると分かりやすいです。

宅建の過去問などにチャレンジするときには、問題文に出てくる登場人物を比較して「一番守りたい人」を保護するにはどうしたら良いのかを考えながら解いてみましょう。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。