不動産業界なら知っておきたい|相続土地国庫帰属制度の利用条件や申請方法を解説

投稿日 : 2023年07月24日/更新日 : 2023年07月25日

相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を抑えるために創設された制度です。

土地の売買取引に携わる不動産事業者であれば、お客さまから相談されることがあるかもしれません。

不動産取引のプロとして、知っておきたい制度の一つです。

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相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度とは、相続で取得した不要な土地を国へ引き渡すことができる制度です。「土地を手放したいが、売りに出しても引き合いがない」とお悩みの方による利用が想定されます。

  • 制度開始:2023年4月27日
  • 制度の対象:相続・遺贈で取得した土地の所有者

相続土地国庫帰属制度は、「所有者不明土地」の増加を抑えるために創設されました。所有者不明土地とは、「登記簿上で所有者が判明できない土地」または「所有者が判明しても連絡が取れない土地」です。

そういった土地は、公共事業や復興事業などのために活用したくても、所有者の捜索に時間・費用がかかり、土地の利活用の妨げになります。また、管理が行き届かずに雑草が生えたり、ゴミが放置されたり、隣地所有者へ悪影響を及ぼす恐れもあります。

相続によって望まない土地を取得する方が増えていることが、所有者不明土地を発生させる原因の一つと考えられており、制度の創設に至りました。

ただし、相続土地国庫帰属制度は、全ての土地に利用できる制度ではありません。制度を利用できない方へ案内してしまわないように、ポイントを把握しておきましょう。

相続土地国庫帰属制度のメリット

所有者が相続土地国庫帰属制度を利用するメリットは、維持費の負担や管理の手間から解放されることです。

固定資産税や都市計画税は、長期的に見れば高額な費用です。国庫帰属によって納税義務がなくなることは、大きなメリットでしょう。ただし、申請時に手数料や負担金がかかる点に注意が必要です。費用については後ほど解説します。

また、土地を放置すると草木が生い茂ってしまうため、定期的な手入れが必要です。遠方の土地の場合、管理が難しいケースもあるでしょう。国へ引き渡せば、煩わしい管理の負担から解放されます。

相続土地国庫帰属制度のデメリット

相続土地国庫帰属制度のデメリットは、以下3つです。

  • 土地の条件によっては利用できない
  • 申請時や引き渡し時に費用がかかかる
  • 承認までに時間がかかる

国庫に帰属した土地の維持費は国が負担することになるため、管理・維持が大変な土地は制度を利用できません。制度の対象となるかどうかは、申請前に確認が必要です。

また、国が引き取るといっても、無償ではありません。申請時には手数料、承認後には負担金がかかります。申請から審査承認までの目安は半年から1年です。

相続土地国庫帰属制度の対象者

相続土地国庫帰属制度の主な対象者は、「相続・遺贈(法定相続人のみ)で土地を取得した方」です。ただし、相続・遺贈以外(売買など)で取得した方でも制度を利用できる場合があります。

【ケース別の対応可否】

相続、遺贈によって取得した場合
  • 単独名義→対象
  • 共有名義→共有名義人全員で申請すればOK
相続、遺贈以外で取得した場合
  • 単独名義→対象外
  • 共有名義→共有名義人の中に相続、遺贈で取得した方がいる場合、全員で申請すればOK
    ※制度施行日(2023年4月27日)以前に取得した土地も制度の対象です

相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を抑えるために創設された制度です。

土地の売買取引に携わる不動産事業者であれば、お客さまから相談されることがあるかもしれません。不動産取引のプロとして、知っておきたい制度の一つです。

相続土地国庫帰属制度の利用条件

相続土地国庫帰属制度を利用するには、法務局による審査で承認されなければなりません。制度で定められた「却下要件」と「不承認要件」の各要件に該当しない場合は、承認となります。

  • 却下要件:該当する場合に、申請段階で却下される要件
  • 不承認要件:審査段階で個別に判断され、該当すれば不承認になる要件

制度を利用できない土地の要件を大まかにお伝えすると、「管理に費用や手間がかかる土地」です。却下要件と不承認要件の具体的な内容について順番に解説します。

却下要件

以下のいずれかに該当する土地は「却下要件」となり、制度の対象外です。

  1. 建物が建っている
  2. 抵当権や賃借権、地上権など他者の権利が設定されている
  3. 他人の使用が予定されている(墓地、境内地、通路・水道用地に使用されているなど)
  4. 特定有害物質により汚染されている
  5. 境界が明らかでない、または隣地所有者などと権利や境界について争いがある

不承認要件

以下のいずれかに該当する土地は「不承認要件」となり、承認されません。

1.崖がある土地のうち、過分な管理の費用や労力を要するもの

崖とは、勾配30度以上かつ高さ5m以上あるものを指します。

例:放置すると近隣住民に被害を及ぼす恐れがあり、擁壁工事が必要。

2.管理や処分を阻害する工作物や有体物などが地上にある土地

例:放置されている車両がある。枯れ木の倒木などで近隣住民がケガをする危険性があり、定期的な伐採が必要。

3.除去しなければ土地の管理または処分ができない有体物が地下にある土地

例:井戸や大きな石、古い水道管などがある。

4.民法上の通行権利が妨げられている土地、または所有権に基づく使用・収益が妨害されている土地

例:袋地。不法占拠者がいる。

5.通常の管理または処分に過分な費用・労力が必要な土地

例:土砂崩れの危険性があり、発生防止のための工事が必要。土地にクマが生息しており、周辺住民に被害を及ぼす恐れがある。

ただし、項目によっては不承認要件に該当するかどうかを一概に判断できないケースがあります。

例えば、「3」の「有体物が地下にある土地」であっても、広大な敷地の片隅にあるケースなど、土地の条件によっては不承認要件に該当しないことがあります。

法務省へ事前相談の上、申請可否を確認していただくようにご案内するとよいでしょう。また、上記は不承認要件の一部です。詳細は法務局の公式サイトをご確認ください。

相続土地国庫帰属制にかかる費用

相続土地国庫帰属制度の利用にかかる費用は「手数料」と「負担金」の2種類です。

  • 手数料:申請書に貼付する収入印紙代(1.4万円)
  • 負担金:審査承認後に収める費用(20万円~)

手数料は審査にかかる費用であるため、不承認の場合でも返還されません。

負担金とは、国が土地を引き取った後にかかると想定される10年分の管理費相当額です。基本は20万円となり、地目や面積によって増額します。

また、負担金には納付期限がある点に注意が必要です。負担金の通知後30日以内に納付しなければ承認が失効します。

相続土地国庫帰属制度の申請方法と必要書類

相続土地国庫帰属制度の申請方法と必要書類について4つのステップで解説します。

ステップ1 法務局へ相談

お客さまから相談を受けた際、「制度の対象かどうか」を確認することが大切です。

個別の判断が難しい場合、法務局へ相談いただくように案内しましょう。法務局への相談は事前予約制です。法務省公式サイトの「法務局手続き案内予約サービス」から予約できます。

相談先:土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)※
※土地が遠方にある場合、近くの法務局への相談もOK

相談できる方:家族や親族など、所有者以外の相談も可

【必要書類】
・相続土地国庫帰属相談票(法務省の公式サイトから印刷可)
・チェックシート(法務省の公式サイトから印刷可)
・土地の状況等を確認できる資料や写真

例:登記事項証明書、登記簿謄本、土地の測量図、土地の現況を確認できる画像・写真

「土地が制度の対象となりそうか」「作成した書類に不備がないか」など、個別の相談にも対応してくれます。ただし、相談時の回答は、あくまでも相談段階での情報のみを基にしたものです。承認されるかどうかは別の問題になる点にご注意ください。

ステップ2 申請書類の作成提出

法務局へ必要書類を提出します。

必要書類は以下の通りです。

必要書類 詳細
申請書 相続土地国庫帰属制度を申し込むための書類
添付書類(必須)
  • 土地の位置や範囲が分かる図面
  • 申請対象の土地と、隣接する土地の境界を確認できる写真
  • 申請対象の土地の形状を確認できる写真
  • 申請者の印鑑証明書
その他の添付書類(任意)
  • 固定資産評価証明書
  • 土地の境界等に関する資料

上記の他、遺贈で土地を取得した場合など状況に応じて別途書類が必要になります。

【書類の提出方法】
・法務局の窓口へ持参する
・郵送

ステップ3 実地審査

申請された書類の審査や現地調査が行われます。実地調査の同行は原則不要ですが、「案内がないと現地にたどり着けない」など、同行を依頼されることがあります。

ステップ4  負担金納付・国庫帰属

審査承認後に法務局から送付される「納入告知書」で負担金を納付します。納入先は日本銀行ですが、各金融機関(都市銀行、ゆうちょ銀行、信用組合など)でも手続き可能です。負担金を納付した時点で国庫帰属となります。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、「不要な土地を相続した方」が検討できる制度です。通常の売買取引とは異なり、不動産事業者の売上に直結する制度ではありません。

とはいえ、将来的に他の案件獲得へつながる可能性はあるため、「信頼関係構築」の観点からプロとして理解を深めておくことも大切です。

また、お客さまから書類の作成代行を依頼されることがあるかもしれません。承認申請の作成代行には士業(弁護士・司法書士・行政書士)の資格が必要な点にご注意ください。