賃貸管理はクレーム産業?発生率が高い6つのトラブルと対策
賃貸管理業務の中でも、入居者からのクレーム対応に悩む事業者は少なくありません。適切に対処しないと入居者の満足度が下がるだけでなく、オーナー様からのクレームにもつながる恐れがあります。
オーナー様の大切な資産を預かる事業者として適切に対応するために、賃貸住宅で生じやすいクレームの事例や対策について把握しておきましょう。
賃貸管理業者の8~9割がクレーム対応に苦戦!
国土交通省の調査によると、クレーム対応を受託している賃貸管理業者の割合は8~9割です。
参考:国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査(2019年)」
オーナー様は、ご自身の専門知識が不足していること、適切なクレーム対応に不安があることから、賃貸管理業者へ委託します。業務を請け負うプロとして、適切に対応したいところです。
賃貸住宅のクレームは多岐にわたりますが、その中でも事業者の多くが困難だと認識しているトラブルは以下2つです。
- 入居者間や近隣住民とのトラブル
- 退去時における原状回復の修繕箇所や費用に関するトラブル
一方、入居者の立場からすると、以下2つのトラブルに悩む方が多い傾向にあります。
- 設備の不具合に関する対応の遅延
- 退去時の原状回復に関する費用の負担(入居者が支払う必要がないと感じるもの)
賃貸管理業務のクレームにおいて、住民同士のトラブル、設備の不具合が生じた場合の対応、退去時の費用に関するトラブルは深刻化しやすい問題です。対応に苦労している事業者も多いでしょう。
賃貸管理に多いクレーム6選と対応策
賃貸管理のクレームにはさまざまな種類があり、状況によって対応策が異なります。
ここでは、発生率の高いクレームと対策について解説しましょう。
騒音
騒音といっても、建設・工事現場から生じるもの、近隣の公共施設・道路から生じるものなど複数の種類があります。ここでの騒音とは、家庭生活から生じる「生活騒音」です。
【トラブルが生じやすい生活騒音の例】
- 早朝や深夜における電化製品(テレビ、洗濯機、掃除機など)
- ドアの開閉音
- 楽器
- ペットの鳴き声
- 足音
上記はほんの一例ですが、ささいな生活音でさえ騒音トラブルに発展しかねません。
とはいえ、対象の音が迷惑な行為と感じるかどうかには個人差があり、法律による規制がない点に注意が必要です(条例で配慮するように定められているケースはあります)。
生活騒音のクレーム対応は、騒音計などを用いて客観的な事実を確認するようにしましょう。発生時間や発生場所、頻度などをていねいに聞き取り、慎重に対応することが大切です。
該当の音が常識的な範囲であれば物件全体へ周知し、常識的な範囲を超える場合は個別に注意しましょう。
また、騒音トラブルに備えて、賃貸借契約書に「迷惑行為禁止特約」を設けておくことも手段の一つです。
設備の不具合
「浴室のお湯が出ない」「エアコンが効かない」など、設備の不具合に関するクレームは賃貸管理業者の悩みのタネです。緊急性が高く、相手方がイライラしているケースも多いため、迅速な対応が求められます。
とはいえ、修繕の手続きを独断で進めるとオーナー様からのクレームにつながる恐れがあります。状況確認をていねいに行うことも大切です。
設備の不具合に関するクレーム対応では、以下3点を確認しましょう。
- 緊急性の高さ
- 発生原因
- 費用の負担者(借主の故意・過失によるもの、備え付け設備でないものは入居者負担※)
※上記はあくまでも一般的な解釈であるため、自社の方針や契約内容などに沿ってご対応ください
緊急事態であれば、修理業者の連絡先を伝えるなど早急な対応が必要です。修繕工事を要する場合は、費用の負担者であるオーナー様の許可を得なければなりません。トラブル防止の観点から必ず確認しておきましょう。
「賃貸管理業者の判断で発注できる費用の限度額」を定めておくなど、オーナー様との事前協議で入居者の不安を和らげることもできます。
水漏れ
水漏れに関するクレームは、建物の管理不足が招くものや、入居者の不注意が原因のものがあります。
【水漏れに関するトラブル事例】
- 事例A:排水管の老朽化による水漏れで、修繕が必要
- 事例B:入居者が浴室の水栓を閉め忘れて、下の階が水浸しに
- 事例C:水道の蛇口から水が止まらなくなり、通常よりも水道代が高額に
設備の不具合と同様、緊急性が高い場合は工事業者の連絡先を伝える必要があるでしょう。ただし、費用が必ず発生するため、発生原因や度合いなどを確認の上、冷静に判断しなければなりません。
費用負担者の判断はケースバイケースです。通常の生活の範囲内で生じた水漏れは、一般的にオーナー様が費用負担者となります。水漏れの原因が「入居者の不注意」などの場合は、費用負担者についてオーナー様と協議が必要です。
事例Bのように、入居者の不注意で他の入居者の居室が水浸しになった場合などは、水漏れの原因となった入居者が負担するケースもあります。事例Cのケースでは、通常料金との差額をオーナー様が負担するケースがあるでしょう。
水漏れの被害が大きく、修理期間中に仮住まいが必要な場合は、オーナー様がそれらの費用を負担することもあります。
ゴミ出しなど共用部分の使い方やマナー
集合住宅では、入居者のマナー違反がクレームにつながります。
【共用部分のマナー違反によるトラブルの例】
- ゴミ出しのルールを守らず、美観が損なわれる
- 廊下に置かれた私物が、通行の妨げになっている
該当者が特定できない場合は管理規約を確認し、掲示板などを利用して全体に周知するとよいでしょう。該当者が特定できる場合は、個別の注意で改善を促します。
また、「不要になった自転車やバイクの放置」も集合住宅で生じやすいトラブルです。とはいえ、他人の所有物を勝手に撤去すると、トラブルの原因となります(所有者による放置ではなく、盗難被害にあった可能性もあるため)。
放置自転車などに関するトラブル発生時は、以下4つのステップで対応するとよいでしょう。あくまでも一例ですが、ぜひ参考にしてください。
- 一定期間後に撤去する旨の通知
※全入居者のポストへ周知する、または対象のサドルに文書を貼り付けるなど - 通知した旨の記録(日付けや、通知を実施した証拠となる写真を撮影)
※後のクレームに備えるため - 一定期間後に警察へ相談
※盗難届などを元に、所有者を特定できるかどうかを確認 - 警察の指示に従って撤去
※独断での判断は避ける
におい
タバコやペットなど「におい」に関するクレームは、騒音と同様に個人で感じ方が異なるため、状況確認や対応を慎重に行うことが大切です。
「におい」のトラブルで社会問題化しているのが、ゴミ屋敷から生じる悪臭です。早急に対応したいところですが、他人の私物を勝手に処分することはできません。
早急に退去してもらうことも難しく、根気のいる対応が必要です。退去してもらうまでのステップを以下にまとめました。あくまでも一例ですが、参考にしていただければと思います。
- 当事者へ注意換気
※改善されるまで何度も注意換気 - 内容証明郵便で記録
※「~日までにごみを処分してください。対処していただけない場合、契約解除となります」などと記載 - 任意の明け渡しに応じるように交渉
- 明け渡し訴訟
ごみ屋敷の問題は、地方自治体が取り組んでいるものの、簡単に改善できるものではありません。その背景には、所有者が「ごみと認識していない」「処分費用を準備できない」といった事情があります。
対応が難しい場合、地方自治体へ相談してみてはいかがでしょうか。
退去時の原状回復
退去時の原状回復に関するクレームは、消費生活センターにも多く寄せられます。
よくあるトラブルは、貸主側が「入居者の故意・過失による修繕のための費用」と主張する一方、借主側は「(傷などが)入居前から存在していた」と主張するなど、双方の認識のずれによって生じます。
退去時のクレーム対応において難しい点は、入居から長期間経っており、入居時の状況を確認できる記録が残っていない点です。
対象の傷などが経年によるものなのか、借主の責任なのかの判断が難しくなります。
退去時のトラブルを防ぐために、契約時に具体的な費用負担に関する説明を十分に行うことが重要です。入居のタイミングで入居者と一緒に室内を確認するのも、選択肢の一つです。
クレーム対応する際に気を付けること
クレームを受けた際、初回の対応が肝心です。相手のストレスに配慮し、さらなるクレームを生まないように先を見越して対応しなければなりません。ここでは、クレーム対応時の注意点について解説します。
公平な状況把握と原因特定
クレームを受けた際、あくまでも「公平な視点」で対応しましょう。例えば、騒音やにおいに関するクレームは、人によって感じ方が異なります。一方の話のみを鵜呑みにすると、判断を誤る恐れがあるでしょう。
また、相手がイライラしていると、すぐに非を認めたくなるかもしれません。
しかし、原因を特定せずに下手に出ると、自社が不利益を被るリスクがあります。相手が貸主側の過失だと主張していても、本来は対応が不要なケースもあるためです(入居者が所有する設備の修繕など)。
初回の対応で、できる限り細かく状況を確認しましょう。
迅速で誠意のある対応
クレームには多くの種類がありますが、生活に必要な設備の不具合など緊急性の高いものが少なくありません。対応が遅れるとさらなるクレームにつながるため、迅速に対応しましょう。緊急時に備えて、社内マニュアルで対応を統一しておくことも大切です。
また、相手が理不尽な要求をしてきた場合、強く言い返してしまうことがあるかもしれません。深呼吸をして、誠意ある対応を心掛けましょう。
契約内容・管理規約の確認
どのように対応するべきかは、契約内容や管理規約によって異なります。例えば、Aさんが「Bさんは規約違反をしている」と主張しても、Aさんの勘違いであることもあり得ます。
Aさんの言葉を鵜呑みにして、誤った対応をしてしまわないように、必ず契約内容や管理規約を確認しましょう。
まとめ
クレーム対応に悩む賃貸管理業者は少なくありません。クレーム発生時に迅速に対応できるように、発生率の高いクレームの事例と対応策を把握しておきましょう。
ただし、適切な対処法はケースバイケースであるため、契約内容や管理規約、オーナー様の方針などを確認の上、慎重に進めることが大切です。