弁済とは|第三者への弁済と「受領権者としての外観を有する者」への弁済の違いも解説
契約をすると、その当事者には弁済の義務があると言います。
契約で生じる義務を果たすことを履行とも言いますが、はたして履行と弁済とは何が違うのでしょうか。
また、弁済は債務者本人ではなく、第三者が義務を果たしても良いのでしょうか。
今回は弁済の意味を説明するとともに、第三者弁済、それに関連して「受領権者としての外観を有する者」への弁済についても解説します。
「弁済」とは|簡単に言うと果たさなければならない義務
弁済とは
契約を締結すると、当事者はそれぞれ果たさなければならない義務を負います。この義務のことを弁済と呼びます。
弁済は履行とほとんど同じ意味を持ちます。弁済だと金銭支払の義務に限る、などの限定は本来設けられていませんが、不動産業界では弁済というと金銭支払いとして扱われることが多いです。
第三者弁済
弁済は、本来は契約した当事者間で果たすべきものです。しかし何らかの理由により、第三者が債務者もしくは債権者の代わりとして登場する場合があります。
このときの考え方は、「第三者への弁済」であるか、「第三者からの弁済」であるかがカギとなります。
第三者への弁済
債務者が債権者ではなく第三者に弁済をしたとしても、原則としてその弁済は有効だとは認められません。その弁済をしても債権者には何の利益もないからです。
ただし債権者から債権受領の代理権限を与えられた受領権者への弁済であれば有効となります。
第三者からの弁済
債務者以外の第三者が債権者に弁済をした場合には、原則として有効です。債権者にとってみれば誰が弁済しても得られる利益には変わりないからです。
ただし、以下3つの場合には弁済が無効となります。
- 債務の性質が第三者の弁済を許さない場合
- 当事者が反対の意思表示をした場合
- 法律上の利害関係のない第三者の弁済が債務者の意思に反する場合
上記3の「法律上の利害関係のない第三者」とは、債務者の親や友人などのことです。
逆に「法律上の利害関係がある第三者(物上保証人・抵当不動産の第三所得者等)」であれば、債務者の意思に反しても第三者弁済することができます。
受領権者としての外観を有する者への弁済
上記では債権受領の代理権限を与えられた受領権者以外の第三者弁済は無効だとご説明しました。では、本当は受領権者ではないのにも関わらず、受領権者のフリをしている第三者の場合にはどうなるでしょうか。
受領権者のフリをしているとは、例えば債権証書や受取証書を保持していて、債務者に対して「私が代理人として委任されている」と名乗ったときなどです。
この場合には特例として第三者弁済が認められます。社会通念に照らして「受領権者としての外観を有する者」だと考えられる第三者であれば、債権者に利益がなくても弁済したことになるのです。
ただしその際には、債権者が「受領権者としての外観を有する者」に対して善意かつ無過失の場合に限ります。
債務者からの弁済を債権者が拒んだ場合
弁済するのが第三者ではなく債務者本人であったとしても、もしかしたら債権者が弁済を拒否するかもしれません。または何らかの事情により直接弁済を受けることができない状況にある可能性もあります。
そのようなときに債務者は、債務の目的物を法務局などの供託所に供託して債務をまぬがれることができます。
また、供託は債務者が過失なく債権者を確知することができないときにも行えます。
「弁済」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法
債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。 ↓ 【改正後】 第478条(受領権者としての外観を有する者に対する弁済) 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。 ↓ 【改正後】 第494条(供託) 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。 一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。 2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
建物の売買契約を締結した買主Bが、売主Aの代理人と称するDに対して代金債務を弁済した場合、Dに受領権限がないことにつきBが善意かつ無過失であれば、Bの弁済は有効となる。
(令和元年度本試験 問7より改題)
答え:〇(有効)
解説
第三者に弁済を行った際、その相手に受領権限がなかったとしても取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有しており、弁済者Bがそれに対して善意かつ無過失であれば有効になります。
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3%
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第三者の弁済は抵当権などにからめて出題される可能性がありますが、単独ではほぼ出題されてはいません。
弁済の意味や効果をしっかり理解できていれば、他の分野の試験問題には対応できます。
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「弁済」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 弁済とは履行とほとんど同じ意味がある
- 第三者への弁済は原則として無効
- 第三者からの弁済は原則として有効
- 「受領権者としての外観を有する者」への弁済は債務者が善意かつ無過失であれば有効
最後に
今回は弁済および第三者弁済について解説しました。
第三者弁済について押さえておくべきポイントは、民法が債権者・債務者の利益をどのように守っているかという点です。
第三者が登場する弁済に関する問題が出たときには、債務者もしくは債権者にとってどのような利益があるかを念頭に置いて回答しましょう。
宅建士資格取得については以下の記事もご参照ください。
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