時効の完成猶予とはわかりやすく解説|更新、援用と放棄や2020年改正後の法令も確認
2020年4月に、民法改正が施行されました。その変更内容の中に、今回取り上げる「時効の完成猶予および更新」に関することも含まれます。
そのため2022年の宅建試験でも、タイムリーな話題として出題される可能性が高まります。また、他分野と関連した問題に選択肢として登場する場合もあり、「時効」分野全体の出題率は例年高めです。
そこで、このテーマをきちんと学習し、確実に得点に結びつけられるよう、重要ポイントをわかりやすくまとめました。
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」をわかりやすく解説
時効制度とは
時効制度とは、一定の事実状態において一定期間が経過した場合、それまでの権利関係より事実状態が尊重され、権利の取得・消滅を法的に認める制度です。
時効には、一定期間の経過によって権利を取得する「取得時効」と、一定期間の経過によって権利が消滅する「消滅権利」の2種類があります。
時効の完成猶予・更新
「時効の完成猶予および更新」についての規定は、従来の「時効の中断および停止」に該当する部分として、2020年4月の民法改正で変更された法令です。
「時効の完成猶予」とは、時効期間経過前に一定の事由が発生した場合に、その事由が終了するまで(または一定期間)時効が完成しないことです。
「時効の更新」とは、一定の事由において確定判決または確定判決と同等の効力のある決定がなされたときに、時効期間の経過が一旦ゼロにリセットされ、新たに時効期間が進行し始めることです。
一定の事由には、以下のようなものが挙げられます。
◆時効の完成猶予・更新の対象となる事由
- 裁判上の請求・支払督促
- 強制執行・抵当権の実行
- 和解・調停
- 破産・再生・更生手続参加
- その他、天災等による裁判所業務の停止など
◆時効の完成猶予のみ適用される事由
- 仮差押え・仮処分
- 催告
- 協議を行う旨の合意(2020年改正点!):当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面で交わされている場合、時効の完成が猶予されます。
◆時効の更新のみ適用される事由
- 債務者による債務の承認(債務の一部支払い・書面・口頭での表明など)
時効の援用
一定の条件のもと時効期間が経過すると、当事者は時効の成立を主張できます。このように時効を主張することを「時効の援用」と言います。
時効の援用ができる人を「援用権者」といいます。援用権者になれるのは、時効によって直接利益を受けられる人です。
◆援用権者になれる人
- 契約・行為の当事者
- 連帯保証人
- 物上保証人※1
- 抵当不動産の第三取得者※2※1 現金以外の財産(土地や建物など)で他人の債務を担保する者※2 任意競売などで抵当権付きの不動産を取得した人
時効の遡及効
時効が完成した場合の法的効力は、時効完成日に生じるのではなく、起算日に遡って発生します。これを「時効の遡及効」といいます。
例えば、20年間占有した不動産を時効取得した場合、占有を始めた20年前から所有者であったことになります。
時効の利益の放棄
時効を主張するかどうかは本人に委ねられます。そのため、時効を援用しないと決めて意思表示することを「時効の利益の放棄」と言います。時効の放棄は、時効完成前にはできません。
時効を放棄する意思を表明したとみなされる行為として、書面や口頭での表明のほか、債務の一部支払いによる承認も該当します。
【判例】時効完成を知らずに債務を承認してしまった場合
それでは、時効完成後に債務者が承認してしまうなどして、時効成立を知らずに放棄をしてしまった場合は、どうなるのでしょうか。後で時効成立を知ってから援用を希望した場合に認められるのでしょうか。
この場合、一度放棄してしまうと、後から援用することはできないとされています。
なぜなら、相手側からすると、一度は債権を取り戻せることになったのであり、それによって財産管理・資産計画を進める可能性があるからです。
そのため、知らなかったとはいえ一度時効の利益を放棄してしまうと、後から撤回することはできません。
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」に関連する法律
時効に関する法律はどのようにかかれているのでしょうか?
新たに改正される部分に注意して、民法で定められている条文を見ていきましょう。
民法(施行日:令和2年4月1日)
第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新) 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 一 裁判上の請求 (中略) 2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予) 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。 一 その合意があった時から一年を経過した時 (以下省略)
第152条(承認による時効の更新) 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。 (以下省略) |
実際に過去問を解いてみよう
【問題①】
AがBに対して金銭の支払を求めて訴えを提起した場合の時効の更新に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- 訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効更新の効力は生じない。
- 訴えの提起後に当該訴えの却下の判決が確定した場合には、時効更新の効力は生じない。
- 訴えの提起後に請求棄却の判決が確定した場合には、時効更新の効力は生じない。
- 訴えの提起後に裁判上の和解が成立した場合には、時効更新の効力は生じない。
解説
答え 4
1-○:時効の更新は確定判決または確定判決と同等の効力のある決定がなされたときに適用されます。この選択肢ではそもそも訴えを取り下げており、確定判決は出ませんので、効力は生じません。
2-○:訴えが却下されたため、時効の更新は適用されません。
3-○:2と同様、請求が棄却されたため、時効の更新は適用されません。
4-×:和解が成立した場合、和解によって権利が確定したことになり、確定判決と同等の効力があるため、時効は更新されます。
宅建受験者はここをチェック!
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」の試験科目
権利関係
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」が含まれる試験分野
時効
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」の重要度
★★★☆☆ 直近2年連続で出題中(2018年・2019年)
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」過去10年の出題率
20%
2023年宅建試験のヤマ張り予想
このテーマの2022年の出題確率は、かなり高いといえます。なぜなら、同年に施行される民法改正の変更点に「時効の完成猶予および更新」に関する内容が含まれるからです。
過去10年の出題数は少ないですが、法改正に向けて出題されている傾向があります。
また、「時効」分野全体の出題率は70%と高めですので、通して学習しておくといいでしょう。
宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。
「時効の完成猶予・更新・援用・放棄」ポイントのまとめ
- 「時効の完成猶予」とは、一定の事由が終了するまで時効が完成しないこと
- 「時効の更新」とは、確定判決などが決まったときに、時効期間がリセットされて新たに進行すること
- 時効の成立を主張することを「時効の援用」という
- 時効を援用しないと表明することを「時効の放棄」という
- 援用権者が時効成立を知らずに債務の承認をした場合、後から援用できない
宅建試験では結論を解答できるようにする
時効の法規定は、当事者の利益・損益に大きく関わるため、宅建士の知識として重要です。
ただ、法解釈まで深く理解しようとすると、時間がかかってしまいます。問題解答においてネックになるのは、「どのケースで完成猶予・更新が適用されるか」「どのような法的結果となるか」という点です。
そのため、該当する法令の適用条件と判例をよく確認することが大切です。
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