【図解付き】「天空率とは」 わかりやすく解説|緩和される制限と計算方法を学ぼう
建物の建築設計をする際に、斜線制限を緩和する方法として天空率が使用されることがあります。
天空率はこれまでマンションやオフィスビル等の集合建物の設計時に多く使用されてきましたが、最近では一般の注文住宅の設計でも使われることが多くなりました。
土地を購入された買主様が少しでも大きな家を建てられるように、宅建業者としても天空率について理解しておきましょう。
天空率とは|わかりやすく解説
天空率とは魚眼レンズで空を見上げたときに、円の面積に対してどれだけ空が見えるかの割合を示したものです。天空率が大きければ大きいほど空が多く見えます。
天空率を計算した結果、斜線制限による計算結果と同じかそれ以上に空が見えれば、すなわち採光や通風も確保できると判断され、建物の建築が可能になります。
天空率の適用により住宅デザインの自由度が上がる
天空率を使用することにより、これまで斜線制限のために高さがある建物が建てられなかった土地でも、希望どおりの高さに近づけることができるようになりました。
斜めにカットしたような形状の建物をまれに見かけることがありますが、あれは斜線制限の回避策として設計されたものです。違和感を覚えるようなデザインであるだけでなく居住性にも難があり、斜線制限は必ずしも実情に結びついていないと取り沙汰されていました。
天空率で敷地を有効活用することにより、住宅設計のデザインがこれまでよりも自由にできるようになり、美観と居住性を向上させるメリットがあります。
天空率を定めた法律
天空率が定められたのは2003年の建築基準法改正時です。従来の高さ制限を定める第56条の7項目として追加されました。
建築基準法 第五十六条
7 次の各号のいずれかに掲げる規定によりその高さが制限された場合にそれぞれ当該各号に定める位置において確保される採光、通風等と同程度以上の採光、通風等が当該位置において確保されるものとして政令で定める基準に適合する建築物については、それぞれ当該各号に掲げる規定は、適用しない。 |
天空率で緩和される高さ制限
天空率の適用により、下記の斜線制限が緩和されます。
緩和対象にならない制限
建物の高さを決める際には斜線制限以外にも日影規制や高度地区、絶対高さ制限などによる規定を守らなければいけません。
天空率によって緩和される制限は斜線制限だけなので、日影規制などの他の規定は緩和対象になっていません。
天空率の使用の有無に関わらず、建物の建築時には他の規定を順守する必要があります。
天空率の計算方法
天空率は以下の計算式によって導き出せます。
Rs=(As-Ab)/As
Rs:天空率 As:想定半球の水平投影面積 Ab:建築物および敷地をAsと同一の想定半球に投影した水平投影面積 |
画像引用:生活産業研究所|はじめての天空率
とはいえ天空率の計算は大変複雑なため、紙と鉛筆だけで簡単に計算するのはほぼ不可能です。通常はJw-cadやAutoCADなど天空率計算に対応しているCADソフトや、専用の天空率解析ソフトを使って計算します。
測定点
天空率を算出するためには、建築を予定している敷地を既定のポイントで正しく計測する必要があります。
計画建築物(建築を予定している建物)の前面道路の反対側に道路巾2分の1以内の間隔で測定点を均等に配置し、上空に向けて魚眼レンズカメラや全天球カメラで撮影します。
画像引用:株式会社カク企画設計|天空率の概要
なお北側斜線については測定点の配置の仕方が道路斜線や隣地斜線と異なり、用途地域によって以下の位置での撮影が必要です。
低層住居専用地域内 | 敷地4m外側から1m以内の間隔で均等に配置 |
中高層住居専用地域 | 敷地8m外側から2m以内の間隔で均等に配置 |
合否判定
計画建築物と同立地で建てることができる最大サイズの建物を適合建築物と言います。
天空率が適用できるかどうかは、計画建築物の大きさと適合建築物の大きさを比較して合否判定します。計画建築物のサイズが適合建築物のサイズよりも小さければ、天空率の使用が可能になります。
画像引用:生活産業研究所|はじめての天空率
審査基準(東京都方式・JCBA方式)
天空率の計算を行う上では、2つの審査基準のどちらかを設定する必要があります。
日本建築行政会議(JCBA)が規定している「JCBA方式」と、東京都独自の「東京都方式」があり、どちらの審査基準を採用するかは各自治体の判断によります。
画像引用:How to use ARCHICAD|ArchiCADで天空率計算を行う方法~天空率制度「JCBA方式と東京方式」2つの例~
東京都方式とJCBA方式では計算結果が変わってきますので、天空率の計算を行う上では必ず確認しなければいけません。
2015年時点での東京23区の採用基準は以下のとおりです。
画像引用:Yakushima-Tonbo|東京都・23区 天空率審査基準
なお、大阪市・横浜市・名古屋市・仙台市では別途「JCBO方式」を採用している地区もありますが、民間確認検査機関などでは東京都方式と併用して扱われるのが一般的です。
天空率の計算は複雑
これまでの説明でもわかるとおり、天空率の計算は非常に難解です。斜線制限の計算であれば比較的簡単にできますが、天空率は設計士でも計算に苦労している人が多くいます。
天空率計算や合否判定を専門に行ってくれる業者もありますので、懇意の設計士が天空率計算に難儀している場合には依頼してみるのも良いでしょう。
ADS等のシステムを開発している生活産業研究所では、CADのデータから天空率を1回に限り無料判定してくれるサービスもあります。
天空率は建築計画概要書への記載が必要
天空率は土地を購入された買主様にとってだけでなく、これから中古住宅を購入しようと考えているお客様にとっても重要な要素です。
天空率を使用して建築した建物は建築計画概要書にその旨を記載する義務があります。もし既存住宅が斜線制限に引っかかっていて、建築計画概要書に天空率の使用の旨を記載していなければ、その建物は違法建築物となってしまいます。
天空率が使用されたと考えられる中古住宅を取り扱う際には必ず建築計画概要書を取得し、記載の有無を確認しましょう。
まとめ
高さ制限の決まりに天空率が使えるようになったことで、建築デザインの自由度が高まりました。
買主様にとっては、購入した土地を最大限有効活用できる大変ありがたい制度です。
日照などを近隣にも配慮しながら居住面積を増やし、お客様が最大限満足できる結果となるように適切なご提案を行いましょう。