弁済業務保証金の還付と取り戻し|営業保証金との制度の違いを確認
営業保証金と同じように弁済業務保証金にも、還付や取戻しの制度があります。
しかし、弁済業務保証金の還付または取戻しに際しては、営業保証金の場合と条件や方法が若干異なりますので、宅建士を目指す人は2つの違いについても十分に理解しておかなければいけません。
今回は、弁済業務保証金の還付と取戻しについて解説します。
「弁済業務保証金の還付」の解説
弁済業務保証金の還付とは、保証協会の社員が行った取引によって取引相手が損害を受けた際、保証協会が供託所から弁済を行うよう手続きを行うことです。
弁済業務保証金の還付を受けられる者
弁済業務保証金の還付の対象者は以下の通りです。
- 社員(宅建業者)と取引をした者(宅建業者を除く)
- 社員(宅建業者)に取引の媒介・代理を依頼した者(宅建業者を除く)
上記(1)(2)とも対象者は営業保証金と同様です。また還付の時点で「取引により生じた債権を有している」ことが条件になるのも営業保証金と同じです。
宅建業者が保証協会の社員になる前に行った取引に対しても還付の対象になります。
弁済業務保証金の還付額
還付される金額は、社員(宅建業者)が社員でない場合に供託すべき営業保証金に相当する額の範囲内が上限金額です。分担金が上限金額とはなりません。
例えば社員が90万円の分担金を納付していて、営業保証金として供託すべき金額が1,500万円だった場合には、還付額の上限は1,500万円となります。
弁済業務保証金の還付方法
還付請求は損害を受けた者自身が、保証協会に認証申出書を提出して請求します。
保証協会は認証申出書の内容を精査した上で、弁済する必要があると判断して認証すると、供託所に対して還付請求を行います。
その後、供託所が還付請求者へ還付額相当の弁済をします。
弁済により保証協会の円滑な運営に支障をきたす恐れがある場合には、保証協会は当該社員に対して担保の提供を求めることができます。
弁済業務保証金の還付により弁済業務保証金が不足した場合
供託所が弁済したことにより弁済業務保証金が不足した場合には、保証協会は供託所に対して、還付額相当の弁済業務保証金を新たに供託しなければいけません。
供託期限は、弁済業務保証金の還付を行ったとの通知を保証協会が受けた日から2週間以内です。
また、保証協会は新たな供託と共に、社員(宅建業者)に対して還付額に相当する還付充当金の請求をします。社員は保証協会から請求を受けた日から2週間以内に納入しなければいけません。
還付充当金を期限までに納入しなかったときには、社員はその地位を失います。
宅建業者が保証協会の社員でなくなってからも引き続き宅建業を営む場合には、社員の地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託所に供託し、その旨を免許権者に届け出る必要があります。
「弁済業務保証金の取戻し」の解説
弁済業務保証金の取戻しとは、社員(宅建業者)が分担金を保証協会に預け入れる必要がなくなったときに返還を受けることができる制度です。
このとき取戻し請求を行うのは、宅建業者ではなく保証協会です。
取戻しを請求する状況
保証協会が取戻しを請求する状況は以下の事由が発生したときです。
- 社員(宅建業者)が保証協会から脱退して社員でなくなったとき
- 社員(宅建業者)が一部の事務所を廃止して分担金の額が法定の額を超えたとき
取戻し方法
取り戻し方法は、請求事由が上記の(1)(2)のいずれかによって異なります。
事由(1)の場合
事由(1)が発生した際には、保証協会はまず還付請求者に対して6ヶ月以内に認証を受けるための権利を申し出るよう公告を行います。
期間内に権利を申し出る者がいなかった場合、保証協会は当該宅建業者に対して弁済業務保証金分担金相当額を返還します。
事由(2)の場合
公告は不要となり、保証協会は当該宅建業者に対して取戻し額に相当する分担金を返還します。
「弁済業務保証金準備金」の解説
弁済業務保証金準備金とは、還付充当金が社員(宅建業者)から納入されない場合に備えて保証協会が積み立てておくことが義務付けられている金銭等のことです。
供託している弁済業務保証金で利息や配当金が生じたときには、その相当額は弁済業務保証金準備金の一部に繰り入れられます。
「特別弁済業務保証金分担金」の解説
弁済業務保証金の還付が多額で、弁済業務保証金準備金をもってしても足りない場合は、保証協会は全社員(宅建業者)に特別弁済業務保証金分担金を請求し、不足金の充当を行います。
社員(宅建業者)は特別弁済業務保証金分担金の請求を受けた日から1ヶ月以内に、請求された額の特別弁済業務保証金分担金を納付しなければいけません。
特別弁済業務保証金分担金を期限までに納入しなかったときには、社員はその地位を失います。
宅建業者が社員でなくなってからも引き続き宅建業を営む場合には、社員の地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託所に供託し、その旨を免許権者に届け出る必要があります。
「弁済業務保証金の還付・取戻し」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
宅建業法(施行日 令和2年4月1日)
宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者は、その取引により生じた債権に関し、当該社員が社員でないとしたならばその者が供託すべき第二十五条第二項の政令で定める営業保証金の額に相当する額の範囲内において、当該宅地建物取引業保証協会が供託した弁済業務保証金について、当該宅地建物取引業保証協会について国土交通大臣の指定する弁済業務開始日以後、弁済を受ける権利を有する。
宅地建物取引業保証協会は、第六十四条の八第一項の権利の実行により弁済業務保証金の還付があつたときは、当該還付に係る社員又は社員であつた者に対し、当該還付額に相当する額の還付充当金を宅地建物取引業保証協会に納付すべきことを通知しなければならない。 2 前項の通知を受けた社員又は社員であつた者は、その通知を受けた日から二週間以内に、その通知された額の還付充当金を当該宅地建物取引業保証協会に納付しなければならない。
宅地建物取引業保証協会は、社員が社員の地位を失つたときは当該社員であつた者が第六十四条の九第一項及び第二項の規定により納付した弁済業務保証金分担金の額に相当する額の弁済業務保証金を、社員がその一部の事務所を廃止したため当該社員につき同条第一項及び第二項の規定により納付した弁済業務保証金分担金の額が同条第一項の政令で定める額を超えることになつたときはその超過額に相当する額の弁済業務保証金を取り戻すことができる。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
宅地建物取引業保証協会(以下この問において「保証協会」という。)の社員である宅地建物取引業者Aが、その一部の事務所を廃止したときは、保証協会が弁済業務保証金の還付請求権者に対し、一定期間内に申し出るべき旨の公告をした後でなければ、弁済業務保証金分担金の返還を受けることができない(平成30年度本試験 問44より改題)
答え:×(取り戻しができる)
解説
一部の事務所を廃止して供託済の弁済業務保証金が超過した場合には、保証協会は還付請求権者に対して公告することなく超過分を取戻すことができます。
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「弁済業務保証金の還付・取戻し」の試験科目
宅建業法
「弁済業務保証金の還付・取戻し」が含まれる試験分野
弁済業務保証金
「弁済業務保証金の還付・取戻し」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ 分担金と還付額との差により生じる影響に注意
「弁済業務保証金の還付・取戻し」過去10年の出題率
90%
2023年宅建試験のヤマ張り予想
営業保証金の還付または取り戻しをするときと、弁済業務保証金の還付または弁済金の取戻しをするときでは条件や手順が異なるため、営業保証金制度と弁済業務保証金制度の違いをしっかり把握しておかなければ正答することはできません。
また、弁済業務保証金で還付される金額は分担金の額とは違うため、それにより生じる影響についても理解しておく必要があります。
宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。
「弁済業務保証金の還付・取戻し」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 「弁済業務保証金の還付」は損害を受けた取引相手が供託所から弁済を受けるために保証協会が認証し手続きをすること
- 還付額は社員が社員でなかった場合に供託すべき営業保証金の範囲内
- 還付により不足した供託金は2週間以内に保証協会が新たに供託し、社員からは通知後2週間以内に還付相当額の還付充当金の納入を受ける
- 「弁済業務保証金の取戻し」は宅建業者の分担金が必要なくなった場合に保証協会が供託所から取戻し宅建業者に返還すること
- 取戻しに際して6ヶ月以上の公告が必要な場合と必要でない場合がある
- 保証協会は弁済業務保証金準備金の積み立てが義務
- 還付により弁済業務保証金が不足した場合は全社員が特別弁済業務保証金分担金を通知後1ヶ月以内に納付する
最後に
今回は弁済業務保証金の還付あるいは取戻しについて解説しました。
弁済業務保証金の還付・取戻しともに、その手続きを行うことになる主体者は誰になるのかが理解のポイントです。
宅建試験の設問として弁済業務保証金の還付や取戻しが登場してきたときは、社員(宅建業者)・保証協会・供託所との関係性を見極めて解答しましょう。
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