営業保証金とは何かわかりやすく解説|供託の目的や方法、期限なども紹介
宅建業者は高額な不動産を取り扱いますので、万が一トラブルが起こった際に取引相手がこうむる損害額も大きなものになります。
その損害を担保するために、宅建業界では営業保証金制度が設けられています。
今回は、営業保証金制度の説明と、宅建業を開業する際に必要となる営業保証金の供託について解説します。
「営業保証金制度」とは何かわかりやすく解説
営業保証金制度とは、宅建業者があらかじめ供託所に一定の金額を供託しておき、取引で損害をこうむった相手に対して供託所が代わって弁済を行う制度です。
なお、営業保証金は直接供託所に供託するのではなく、宅建業者が加入する宅地建物取引業保証協会に弁済業務保証金分担金を納付して代えることもできます。
画像引用:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会|入会のメリット
事業開始時の必須届出事項
宅建業の開業には営業保証金の供託が必須です。
例え免許を受けた者でも、営業保証金を供託してその旨を免許権者(国土交通大臣もしくは都道府県知事)に届け出ないと、事業を開始することができません。
もし、免許交付後3ヶ月経過後も営業保証金を供託した旨の届出がない場合には、免許権者から催告があります。
催告の後さらに1ヶ月たっても営業保証金の供託の届出がないときには、免許は取り消しとなります。
「営業保証金の供託」とは何かわかりやすく解説
それでは実際に営業保証金の供託をするにはどうするかを確認しましょう。
先ほど、営業保証金は弁済業務保証金分担金の納付によっても代えられると申しましたが、今回は宅建業法で基本となる通常の供託に限って説明します。
供託所
営業保証金を供託する先は、主たる事務所の最寄りの供託所です。
供託所とは供託事務を取り扱う国の機関です。宅建業の開業に伴う営業保証金を供託する先は、法務局・地方法務局及びこれらの支局となります。
供託する営業保証金の額
事業開始時に宅建業者が供託する営業保証金の額は事務所数で決定されます。
主たる事務所 | 1,000万円 |
その他の事務所 | 500万円×事務所数 |
一例として、本店と2つの支店にて開業する宅建業者は、主たる事務所1,000万円+その他の事務所500万円×2=合計金額2,000万円を供託する義務があります。
供託方法
営業保証金は金銭・有価証券いずれでも供託できます。
ただし有価証券はどれでも認められる訳ではありません。例えば株券や手形などは供託の対象外です。さらに有価証券の種類によっては、供託額が有価証券の評価額より減額されます。
供託できる有価証券の種類と評価額の割合は以下のとおりです。
国債 | 評価額の100% |
地方債証券・政府保証債証券 | 評価額の90% |
その他国土交通省令で定める有価証券 | 評価額の80% |
事業開始後の営業保証金の変更
会社の引っ越しなどで、宅建業者の事務所が移転する場合があります。
また事業を続ける間には、会社規模の拡大や縮小により、事務所数が変化することもあるかもしれません。
そのような場合には供託済の営業保証金はどうなるか確認しましょう。
新たな事務所を新設したとき
事業開始後に宅建業者が新たな事務所を開設したときには、その事務所の数だけ営業保証金も追加で供託しなければいけません。
供託額は前表の「その他の事務所」に該当する500万円×開設する事務所数です。
主たる事務所が移転したとき(保管替え・取り戻し)
主たる事務所が移転すると、元の地域から最寄りの供託所が変更になる場合があります。この場合は、既に供託していた営業保証金を新たな供託所に移す保管替えの手続きを行います。
金銭のみで供託していた場合
従前の供託所に対して手数料を支払い保管替えを請求します。
金銭と有価証券、または有価証券のみで供託していた場合
有価証券を含む場合は保管替えが請求できないため、新たな供託所にもう一度営業保証金を供託する必要があります。
その後、従前の供託所で不必要となった営業保証金を取り戻します。この場合に公告は必要ありません。
「営業保証金」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
宅地建物取引業法(令和2年3月1日時点)
宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない。 2 前項の営業保証金の額は、主たる事務所及びその他の事務所ごとに、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して、政令で定める額とする。
3 第一項の営業保証金は、国土交通省令の定めるところにより、国債証券、地方債証券その他の国土交通省令で定める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項に規定する振替債を含む。)をもつて、これに充てることができる。
4 宅地建物取引業者は、営業保証金を供託したときは、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して、その旨をその免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
5 宅地建物取引業者は、前項の規定による届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない。
6 国土交通大臣又は都道府県知事は、第三条第一項の免許をした日から三月以内に宅地建物取引業者が第四項の規定による届出をしないときは、その届出をすべき旨の催告をしなければならない。
7 国土交通大臣又は都道府県知事は、前項の催告が到達した日から一月以内に宅地建物取引業者が第四項の規定による届出をしないときは、その免許を取り消すことができる。
8 第二項の規定に基づき政令を制定し、又は改廃する場合においては、その政令で、営業保証金の追加の供託又はその取戻しに関して、所要の経過措置(経過措置に関し監督上必要な措置を含む。)を定めることができる。 |
宅地建物取引業法施行令(令和2年3月1日時点)
法第二十五条第二項に規定する営業保証金の額は、主たる事務所につき千万円、その他の事務所につき事務所ごとに五百万円の割合による金額の合計額とする。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
宅地建物取引業者は、宅地建物取引業の開始後1週間以内に、供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して、営業保証金を供託した旨を免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。(平成30年度本試験 問43より抜粋)
答え:×
解説
営業保証金を供託した旨の届出をしなければ、そもそも宅建業を開業することができません。「宅建業の開始後1週間以内」の届出では罰則が適用されることがあります。
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「営業保証金」の試験科目
宅建業法
「営業保証金」が含まれる試験分野
営業保証金
「営業保証金」の重要度
★★★★★ 営業保証金の目的を理解しましょう
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営業保証金制度については覚える内容も多く混乱しがちですが、営業保証金が何のために設けられている制度なのか理解すると試験問題への対応がしやすくなります。
営業保証金を供託する時期に関する問題は過去問でもよく登場してきますので、営業保証金の目的を考えながら取り組みましょう。
宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。
「営業保証金」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 営業保証金制度とは宅建業者が開業前に一定金額を供託し、取引により損害を受けた相手に供託所が弁済を代行する制度
- 営業保証金を供託した者はその旨を免許権者に届け出ないといけない(免許交付後3ヶ月の後催告、その後1か月後に免許取り消し)
- 営業保証金の額は主たる事務所1,000万円・その他の事務所ごとに500万円
- 営業保証金は金銭・有価証券で供託できる
- 主たる事務所が移転した際は供託金の保管替えもしくは再供託後の取り戻しを行う
最後に
今回は、万が一の際に取引相手へ損害を弁済する営業保証金制度と、営業保証金の供託について解説しました。
営業保証金は損害を受けた取引相手を守るための制度ですが、逆に、損賠賠償をしなければならなくなった宅建業者の立場を守るためのものでもあります。
営業保証金の目的と、それを成立させるための決まりについて理解しましょう。
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