抵当権の効力の及ぶ範囲をわかりやすく解説|付加一体物・価値代替物の範囲付き
抵当権は債務の弁済ができなくなった場合に備えて債権者が不動産担保を競売にかけるために設定する権利ですが、その効力はどこまで及ぶのでしょうか。
例えば、土地に生息している庭木や、建物の中にある建具やエアコンなどは抵当権の範囲に入るのでしょうか。また、抵当権が設定されていた建物が火災等で滅失したときには、その抵当権はなくなってしまうのでしょうか。
今回は抵当権の及ぶ範囲を考えながら、抵当権はどこまで効力があるのかを理解していきましょう。
「抵当権の効力」の解説
抵当権は基本的に、目的物(主物)と一体になっている従物に対しても効力が及びます。主物に付いている従物のことを付加一体物(ふかいったいぶつ)と呼びます。
なお建物は土地に付いてはいますが、土地の従物としては扱われません。建物自体に経済的価値があるため、別々に抵当権が設定されるからです。
土地の付加一体物
樹木や庭木、塀、移動することが困難な庭石などです。土砂も土地の付加一体物に含まれます。
担保対象の土地が借地である場合には、借地権にも抵当権の効力が及びます。
建物の付加一体物
建物の内部を構成する部材や設備はすべて建物の付加一体物となります。具体的には建具・畳・床・鴨居などの部材、水道設備・空調設備などが対象です。
移動ができる家具や家電製品などは、建物の付加一体物には含まれません。
抵当権の効力が及ばない範囲
抵当権設定者は抵当権がかけられている担保不動産であっても、その担保を自由に活用することができます。不動産活用によって得られたモノや金銭は抵当権者自身の収益となり、抵当権の効力の範囲外となります。
抵当権の効力が及ばない範囲は、以下2種類に大きく分けられます。
天然果実 | 樹木に実った木の実など |
法定果実 | アパートやマンションを賃貸に出したときの賃料など |
「物上代位」の解説
抵当に入れていた家で火災が発生し、担保である建物が滅失してしまう場合もあります。この場合、建物にかけられていた抵当権はどうなるでしょうか。
建物が滅失した場合でも、抵当権者の利益を守るために、抵当権は消滅しないようになっています。建物にかけられている保険金や賠償金などは、その建物の経済的価値が乗り移ったものとして扱われます。経済的価値が乗り移ったものを価値代替物(かちだいたいぶつ)と呼びます。
抵当権の効力は価値代替物に対しても及びます。担保としていた抵当物の代わりに価値代替物によって弁済することを物上代位(ぶつじょうだいい)と言います。
「被担保債権の及ぶ範囲」の解説
抵当権を設定する債権者は、金銭貸付に伴う利息などの貸金債権(被担保債権)も担保に含めることができます。つまり100万円の貸付をして、仮に利息の合計額が1万円になったとしたら、合計金額の101万円が抵当権設定額となります。
しかし、複数の抵当権者がいる場合、第1順位の抵当権者が利息分まで弁済を受けてしまうと、第2順位以降の抵当権者が弁済されるべき取り分が減ってしまいます。
第2順位以降の抵当権者の利益を守るため、利息などの定期金については元本と、満期となった最後の2年分までしか優先的な弁済がされないという決まりがあります。
「抵当権の効力」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点) 第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第四百二十四条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。↓【改正後】(令和2年4月1日施行)第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。第375条(抵当権の被担保債権の範囲)抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
当該建物に火災保険が付されていて、当該建物が火災によって焼失してしまった場合、抵当権者は、その火災保険契約に基づく損害保険金請求権に対しても抵当権を行使することができる。(平成22本試験 問5より改題)
答え:〇(できる)
解説
抵当権は保険金などの価値代替物に対しても効力が及びます。弁済は建物にかけられていた保険金を物上代位によって支払います。
宅建受験者はここをチェック!
「抵当権の効力」の試験科目
権利関係
「抵当権の効力」が含まれる試験分野
抵当権
「抵当権の効力」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ 確実に押さえておく必要があります
「抵当権の効力」過去10年の出題率
80%
2023年宅建試験のヤマ張り予想
宅建試験ではほぼ毎年出題される抵当権の分野の中でも、効力に関する問題は出題頻度が非常に高くなっています。2022年度の宅建試験においても、出題される可能性が高いことが予想されます。
特に付加一体物の範囲に関する問題や、複数の抵当権が存在するときの利息の取り扱いについては、回答ミスを誘発しやすいので要注意です。
宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。
「抵当権の効力」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 土地建物の抵当権は付加一体物まで効力が及ぶ
- 担保を活用することで得られた天然果実・法定果実に対しては抵当権の効力は及ばない
- 建物が滅失しても価値代替物に対しては抵当権の効力が及ぶ(物上代位)
- 複数の抵当権者がいる場合には元本と満期前2年分利息までが被担保債権の及ぶ範囲となる
最後に
民法における抵当権の効力が及ぶ範囲は、抵当権者と抵当権設定者の双方を守るために考えられています。宅建試験の学習をする上でも、抵当権では抵当権者と抵当権設定者のどちらをどのように守っているのかを見極めることが重要なポイントになります。
宅建試験で抵当権の効力に関する問題が出題されたときには、その抵当権の行使によりどちらにどのような利益があるか、もう一方に対して著しく不利にはならないかのバランスを考えながら解答しましょう。
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