不動産の買戻特約|売買契約で設定する目的と登記方法・注意点まとめ
「買戻特約(かいもどしとくやく)」をご存知でしょうか。
不動産業者になったばかりであれば、この特約に関する業務はまだ多くないかもしれません。しかし、幅広い案件に対応するには、知識として持っておく必要があります。
「買戻特約」は、民法で定められた制約条件が多いうえ、登記上の権利関係においても注意すべき点があります。
そこで今回は、「買戻特約」について、初心者にもわかりやすいようにまとめました。
不動産の「買戻特約」とは
不動産の「買戻特約」とは、売買契約から一定以上経過していても、売主様が売買代金と契約諸費用を買主様に返還すれば、契約を解除して不動産を取り戻せる、という特約です。
本来であれば、売買契約後、「手付解除期日(手付金を手放すことで契約を解除できる期限)」を過ぎると、その後の契約解除は「契約違反」となります。その場合は、売主様は売却金を全額返還するとともに、違約金を支払わなければなりません。
しかし、「買戻特約」では、売主様からの契約解除は違反とならず、違約金もかからないのです。
この「買戻し」の規定は、「民法579~585条」に記載されています。
民法による「買戻特約」の条件
民法に規定された「買戻特約」には、いくつかの適用条件が定められています。
◆「買戻特約」の条件
- 買戻しの目的物が不動産である
- 買戻権を行使できる有効期限は、最長で10年間とする(10年間を超える期限を定めても無効となる)
- 買戻権を行使できる有効期限を定めていない場合は、5年間とする
- 売主様から買主様に返済する買戻金額は、売買代金と契約諸費用を超えてはいけない(ただし、民法改正により任意規定となる)
「買戻特約」を付ける目的
【目的①】融資の担保
「買戻特約」の利用目的のひとつが、融資の担保として付けるものです。つまり、不動産を売却することで得られる代金を融資額とし、それを不動産の買主に全額返還した場合には、不動産を取り戻すことができる、という契約にするのです。
万が一、債務者(売主様)による融資の返済が困難となった場合には、担保としての不動産はそのまま債権者(買主様)の所有となります。
「買戻特約」を融資の担保とする方法は、かつては一般的でしたが、現在では他の方法による担保が主流となっています。
【目的②】宅地開発・整備事業
「買戻特約」の近年における主な利用方法は、自治体や公共団体による宅地開発事業・整備事業での分譲です。
公共団体などは、宅地の開発・整備を計画通り進めるために、分譲する不動産に利用目的などの条件をつけて売り出します。そして、売買契約の際に「買戻特約」をつけておくと、買主様によって条件が守られない場合に、売主である公共団体が不動産を買い戻すことができます。
そのため、買主による転売や利用目的の変更を防止できるのです。
「買戻特約」の不動産登記
売主様の買戻権を守るために
売主様の買戻権を守るためには、「買戻特約」について不動産登記を行っておくことが大切です。
万が一、買主様が「買戻特約付き不動産」を転売したり抵当に入れてしまった場合、第三者による「所有権移転」や「抵当権設定」の登記自体は可能です。
しかし、それより先に「買戻特約」の登記さえしていれば、元の売主様は買戻権を主張できます。
「買戻特約」についての「付記登記」は、通常買主様への「所有権移転登記」と同時に行います。ただ、近年の民法改正で、同時登記は必須ではなくなり、移転登記の後からでも付記登記可能となりました。
「買戻特約」の付記登記内容
買戻特約についての「付記登記」で記載するのは、次のような内容です。
- 売買代金…不動産時価の変動に左右されない
- 契約費用…登記で支払う登録免許税や契約書に貼付する印紙代など
- 買戻期間
- 買戻権者
買戻権の抹消登記
登記簿に記載した「買戻権」は、買戻期間の完了をもって自動的に抹消されるわけではありません。そのため、所有者(買主様)と買戻権者(売主様)が、自主的に抹消登記をする必要があるのです。
公共団体からの分譲の場合、所有者から申請をして必要書類を発行してもらい、法務局で登記手続きをすることになります。
「買戻特約」の注意点
相続税評価額に影響する場合がある
「買戻特約付き不動産」を相続した場合でも、相続税が課税されます。相続税計算のもととなる「相続税評価額」については、特約なしの不動産と同様に評価されます。
ただし、場合によっては買戻金額を参考にする場合がありますので、税理士などの専門家に相談するといいでしょう。
「買戻特約付き不動産」は相続税の物納に使えない
相続税を現金によって納付するのが困難な場合には、相続財産そのものを納める「物納」が認められています。
しかし、所有者である相続人以外に債権者がいる「買戻特約付き不動産」では、物納をすることができません。物納で納められた財産は、換金できるものに限られているからです。
「譲渡担保」とみなされる場合がある
譲渡担保とは、融資を受ける債務者(売主様)が担保となる所有不動産を債権者(買主様)に譲渡し、融資額の全額弁済が完了すると、債務者は不動産を取り戻すという融資・担保の方法です。
万が一、返済ができなくなった場合には、債権者は清算金(不動産価格が融資金額を超える分)を支払うことで担保権を実行します。
「買戻特約」の契約をしていても、売主様の占有状態(賃貸などによる)が続いている場合には、「譲渡担保」とみなされます。その場合は、買戻期間が過ぎても売主様の買戻権は継続され、買主様が担保権を行使するには、清算金が必要となります。
「買戻特約」と「再売買の予約」の違い
「買戻特約」は、買戻可能期間が設けられていたり、金額が決められていたりと、自由度の低い特例です。そのため、より個別のケースに合わせやすい方法として、「再売買の予約」という方法も活用されてきました。
「再売買の予約」とは文字通り、売主様が再び買い戻すことを予約する契約のことです。この契約により、将来の再購入者である売主は「予約完結権」を有します。
一見「買戻特約」と同じようですが、具体的な条件が少々違います。2つの違いをまとめました。
◆「買戻特約」と「再売買の予約」の違い
- 「再売買の予約」では、買戻金額に制約がなく、再売買のときに価格設定される
- 「再売買の予約」では、買戻期間が設けられていない
- 「再売買の予約」では、目的物は不動産でなくてもいい
- 「再売買の予約」では、売主が仮登記できる
複雑な個別案件に正しい知識で対処
「買戻特約」は、権利関係が複雑なため、誤った知識による売買取引・仲介業務は大きな損害へとつながる可能性もあります。
「買戻特約」と「譲渡担保」との違い、「買戻特約」と「再売買の予約」との違いには、特に注意が必要です。買戻権や担保権についての判例を参考に、正しい知識で個別の案件に対応しましょう。
また、民法などの法律は改正される場合があり、基準となる判例も更新されていきます。そのため、定期的に関連法のチェックをするといいでしょう。
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