抵当権の性質とは|成立するために登記は必要か・目的物の範囲を学ぶ
不動産を購入される買主様の多くは、住宅ローンを借り入れして購入資金を得ています。そして住宅ローンを貸付する金融機関は、ローンの貸付をするときに対象物件を担保とした抵当権を設定しています。
ですから、お客様が申し込む住宅ローンと、それに伴う抵当権については、すべての宅建業者が十分な知識を会得しておかなければいけません。
今回は抵当権とは何か、どんなときに・どんな物が対象になるのかを学んでいきましょう。
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「抵当権」の試験科目
権利関係
「抵当権」が含まれる試験分野
抵当権
「抵当権」の重要度
★ ★ ★ ★ ★ 出題頻度トップクラスの重要項目です
「抵当権」過去10年の出題率
100%
2020年宅建試験のヤマ張り予想
抵当権全体の宅建試験の出題率は過去10年で100%です。2020年度の宅建試験でも、当然出題されると思って良いでしょう。
本記事で解説する「性質」「目的物」「成立」に限れば、抵当権に関する項目の中でも比較的出題頻度は低くなっています。ただし、これらの項目も抵当権の概念を知る上では欠かせない内容です。
抵当権は日頃馴染みがない人にとっては難解な内容ですが、不動産売買では必須の知識ですので、しっかり理解し会得するようにしましょう。
「抵当権」とは
そもそも、抵当権とは何でしょうか。
冒頭でご説明したように、住宅ローンを貸付する金融機関は、お客様に金銭を貸付する際に、返済できなくなったときに備えて物件を担保とします。
お客様がローンを返済できなくなった際には、その物件を金銭の代わりに受け取り、競売にかけて金銭を回収します。競売とは「強制的に売却する」という意味があります。
この競売にかけられる権利が抵当権です。
抵当権の性質
抵当権には、以下2つの性質があります。
付従性(随伴性)
債権と抵当権はイコールで結ばれる関係です。何らかの債権がなければ、その回収を確実にするための抵当権も存在しません。
そのため、抵当権は当該債権に付いて従う性質があります。これを付従性、または随伴性と言います。
成立の付従性 | 被担保債権が無効になった(成立しなかった)場合は抵当権も成立しない |
消滅の付従性 | 被担保債権が消滅すると同時に抵当権も消滅する |
具体的に言うと、お客様が住宅ローンを完済した際には金融機関が持っていた抵当権も消滅します。これが消滅の付従性です。
抵当権順位上昇の原則
ひとりが複数人と金銭貸付契約を締結して、複数の債務を持っている場合があります。
本来は複数の債権者が存在するときでも、債権者同士での優劣は存在しません。これは債権者平等の原則によるためですが、債権者の誰かが抵当権を持っている場合には、被担保債権の弁済は抵当権者が優先されるという決まりがあります。
そして、1つの債務に2つ以上の債権者がそれぞれに抵当権をかけることも可能です。このとき1つの担保に対して2つ以上の抵当権がかけられています。
2つ以上の抵当権でどれが優先されるかは、抵当権の登記の先後によって決まります。
そして、片一方の被担保債権が弁済を完了したら、第1順位の抵当権が消滅するため、第2順位の抵当権が繰り上がって第1順位となります。これが抵当権順位上昇の原則です。
抵当権の成立
抵当権を設定するのに登記が必要と思っている人が多いですが、実際には民法上の義務ではありません。
抵当権は抵当権設定者と被抵当権者との合意があれば設定されます。契約書の作成や登記は、互いの意思表示を確認したり第三者に主張するために起こしておくもので、法律的には不要とされています。
抵当権の内容(目的物)
抵当権は農業動産信用法などの特別法による動産抵当を除けば、原則として不動産にのみかけられるものです。
不動産とは土地建物等です。土地に関しては所有権はもちろんのこと、地上権や永小作権にも設定できます。
また、1つの債権に対して2つ以上の目的物に抵当権を設定することもできます。複数の抵当権を設定することを共同抵当と言います。共同抵当の債権負担は、その不動産の価額に応じて按分されます。
抵当権の物上保証
通常の住宅ローンであれば、ローン借入者(債務者)が持っている不動産を担保として提供するので、債務者=抵当権設定者となります。
しかし、債務者が担保として提供できる不動産を所有していない場合には、債務者以外の人が所有している不動産に抵当権設定をかけることもできます。
これを物上保証と言い、物上保証の担保を提供する人のことを物上保証人と呼びます。
「抵当権」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年3月1日時点)
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
AはBから 2,000 万円を借り入れて土地とその上の建物を購入し、Bを抵当権者として当該土地及び建物に 2,000 万円を被担保債権とする抵当権を設定し、登記した。AがBとは別にCから 500 万円を借り入れていた場合、Bとの抵当権設定契約がCとの抵当権設定契約より先であっても、Cを抵当権者とする抵当権設定登記の方がBを抵当権者とする抵当権設定登記より先であるときには、Cを抵当権者とする抵当権が第1順位となる。(平成22年度本試験 問5より抜粋)
答え:〇(Cが第一順位)
解説
抵当権順位上昇の原則により、2つ以上の抵当権を設定した際の順位は登記の先後によります。抵当権設定契約の日時による先後ではありません。
「抵当権」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 抵当権は不動産担保を競売にかけられる権利
- 債務と抵当権はイコールの関係(付従性がある)
- 抵当権設定者は他の債権者に優先する
- 抵当権は登記をしていなくても成立する
- 債務者と抵当権設定者は同一人物でなくても構わない(物上保証)
最後に
抵当権は宅建試験の出来不出来を左右する重要項目です。
過去問題では抵当権順位上昇の原則が問われていましたので、こちらも押さえておきましょう。
不動産業務でも必要な知識ですので、しっかり覚えて確実に得点できるよう理解しておきましょう。
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