【LIFULL×iYell対談】自由な不動産投資を実現する「STO」とは?
株式会社LIFULLの松坂維大さんにSTOの仕組みや活用方法、今後の住宅業界におけるデジタル化の未来についてインタビュー
このような方にオススメ ・住宅業界の最新情報を身に着けたい ・不動産業界の今後の展開を知りたい ・STOを取り入れて他社との差別化を図りたい |
株式会社LIFULLは、2020年より不動産特定共同事業者(不特法事業者)向けのSTO(Security Token Offering)スキームの提供を開始した。
STOとは、セキュリティトークンを発行して、資金調達をすることを指し、このSTOが住宅市場をさらに活性化させる画期的な仕組みとして注目を集めている。
今回は株式会社LIFULLでブロックチェーン関連事業を統括する松坂維大さんにSTOの仕組みや活用方法、更には今後の住宅業界におけるデジタル化の未来について伺った。
(インタビュアー:iYell株式会社 ダンドリテクノロジー部 部長 阿部巧)
不動産業界のチャンスを増やすSTOとは?
ーー現状でも、不動産特定共同事業法に則って、投資を募ることができるわけですけど、あえて不動産投資分野にSTOを活用する理由はなんですか?
「例えば、株式投資は一般的に馴染みもあるかなと思いますけど、株式を証券会社を通してどのタイミングでも取引できているのは二次流通になるわけなんですよね。
株式会社設立時の出資、IPOを経て、誰でも取引できるようになるわけです。
それを踏まえて不動産投資における証券化のような取引は、今もほとんどそうですが、不動産特定共同事業法で行われる不動産クラウドファンディングの一時流通が主流です。
不動産を小口化して、みなさんでシェアしていきましょうというものですね。
今回の不動産STOは、セキュリティトークンというものを発行することによって、不動産クラウドファンディングで比較的簡単に二次流通が可能になります。
この”二次流通”こそが不動産STOを活用する理由ですね。」
ーー不動産STOは二次流通がポイントなのですね。では、二次流通が簡便にできるようになることによってどんな良いことがあるんでしょうか?
「投資家さんにとっては、やはり一度手に入れた持ち分を個人間で取引しやすくなるので、売買のタイミングが増え、投資できる機会が増えると思います。
これを資金調達をする不動産会社さんから見ると、投資家が増えることになりますので、ファンドが成立しやすくなります。
結果的に参入障壁が下がりますから、ファンド側から見ると事業チャンスが増え、投資家から見れば、投資先が多様化します。
不動産投資の業界全体が活性化すると思います。」
ーー二次流通が行いやすいと、とても大きなメリットがあるんですね。
「そうなんです。
しかしこれまでは投資家さんが不動産クラウドファンディングで出資をすると、持ち分をもって、基本的には満期になるまでもしくは、途中で物件が売却されて運用期間が終わるまで持ち続けて、その間の家賃収入を持ち分で割ったものをもらうという形でした。
例えば、ファンドの運用期間が5年とすると、金利は毎年もらって、5年後に元本が還ってくるというものですね。
ただ、運用の満期を待たずに、例えば2年ぐらいが経過して、現金化したいとかポートフォリオを組み替えたいとなった場合に、それができませんでした。
なぜかというと、そもそも出資によって得た権利を取引できる仕組みがないのと、自分の権利を自分自身で証明することができないからです。
例えば、私が出資して権利をもっていて、それを阿部さんに売りますと言っても、本当にそれを持っているのか分からなかったり、お金を払ったら本当にくれるのかという疑念が当然生まれるので、二次流通は現実的に難しかったんですよ。
株式の場合は、証券会社や保管振替機構という仕組みがあることによって、僕らは証券会社の窓口やオンライン証券を使って、不安に思わずに売買できますよね。
それは仕組みによって相手方や自分の権利が証明されているからです。
しかし、それがないとさっきのように、取引は困難です。
じゃあそれなら保管振替機構(ほふり)みたいなものを作ったり、使えば良いじゃんということにもなりますよね。
それを不動産分野で使っている代表格として、不動産投資信託とも言われるREIT(リート)が既にあるのですが、このREITは最低でも300億円くらいの規模が必要なので、数千万の規模が主流である不動産投資での活用はコストに見合わないということで厳しいです。
保管振替機構は、みなさんの持ち分を合わせて信用ある人に預けて、取引の仲介的な立場をやってくれますが、それにはコストもかかるので、規模が小さいもので使うのが難しいというデメリットがあります。
じゃあ他に方法はないのということで注目されたのが、今回の不動産STOを実現するブロックチェーン技術です。
データの耐改ざん性と中立性を兼ね備え、ほふりの代わりを担うことができそうだと。今まではコスト面などがあって、二次流通ができませんでしたが、ブロックチェーンにそのコストを担ってもらえばSTOをもって二次流通が可能になります。」
ーー重要だとわかっていても、二次流通を簡単にできるようにする現実的な方法が今まではなかったんですね。そこを今回STOを提供することで、できるようにしたということですね。
「はい、これで投資家のみなさんが出資するハードルが下がると思いますし、その結果資金調達もしやすくなると思います。」
STOの活用方法!自由な不動産投資を実現
不動産事業者にとってもチャンスが増えるSTO
ーー一般投資家向けに二次流通できますよと案内することによって、出資も増えるし事業者にとってもチャンスが増えるということですね。
「今まで二次流通ができないことで発生していた弊害は、期間の短いファンドしか作られなくなってしまったとうことですね。
不動産は耐用年数が数十年から100年を超えるものもあるくらいなので、それに合わせた期間の長いファンドも選択肢としてあるべきですけど、やはり途中でやめたりできないので長くても3年くらいのファンドになってしまっている現状があります。
不動産事業者にとっても投資家ににとっても、ファンドの期間が数か月とかになってしまうと、そのたびに募集と応募を繰り返すのは負担が大きいです。」
ーー事業体の主体となる不動産事業者さんは、不動産STOを利用することによってその手数料的なもので赤字になるということはないんですか?
「ファンドを組成したときに、大半のお金は物件購入やリフォームなどに充てられるものの、数%程度はファンドの募集コストやシステムコストに充てられますのでSTOのコストはそこで吸収されていくことになります。」
ーー事業者の立場からすると、制度としては既に存在していた不動産特定共同事業法がSTOによってやっと使えるような下地が整ったみたいな感じになるんですかね?
「そうですね。例えると中古品市場がヤフオクとかメルカリの登場によって多くの人に普及したようなものですね。
不動産STOによって個人間でやりとりできるプラットフォームがこれから出来上がるようなイメージをもっていただければと思います。」
ーーこれ本当に増えそうですね。STOを実施する事業者が増えて、一般投資家が株を買うのと同じような感覚で不動産投資が出来そうですし、それによって事業者側も参入するチャンスが大きく拡がりそうですね。
「不動産会社も投資家も、次の世代の不動産投資のあり方を強く意識し始めていると思います。
そして、不動産投資をデジタルでやっていく、不動産STOによって自由度を高めていくというのはその一つのあり方だと思います。」
ーー二次売買は同じクラウドファンディングに参加された方の間でできるようになるんですか?
「二次売買は、クラウドファンディングの参加可否には限らず取引いただけます。
しかし、当然誰でも彼でも参加できるわけではなく、まず発行元でKYC(本人確認)や、ファンドの締結前書面に同意いただいた方のみを対象に二次売買が可能です。
この情報をスマートコントラクトに書き込んでおくことで、セキュリティートークンが資金洗浄などに使われることを防ぐ、AML(アンチマネーロンダリング)の役割も果たします。」
STO実運用の事例「空き家問題の解決を実現」
ーーSTOを用いた投資プロジェクトが初めて実施されたそうですね
「そうなんです。STOの実運用としては第1号となるプロジェクトが実施されました。
不動産投資事業を展開するエンジョイワークスさんにご協力いただいて、神奈川県の葉山にある古民家に対して、STOを用いて出資を募るプロジェクトですね。」
ーー”葉山の古民家宿づくりファンド”ですね。
「空き家となっていた古民家を活用し、宿泊施設として運営することを目的に行われたプロジェクトですが、2020年11月に目標金額1,500万円を達成し、成立しました。」
ーーこれを一般的な不動産会社さんが使ってみようってなったときに、ITリテラシーや利用ハードルは高いものなんですかね?それとも、LIFULLさんに相談すれば、現実的に使えるものなんですか?
「不動産STOを利用いただくには、不動産特定共同事業の認可を取得していることが前提となりますが、利用のハードルはそこまで高くないかなと思っています。
ITリテラシーでいうと、特段高い必要はなくて、そこで断念してしまうことはないという印象ですね。
ブロックチェーンでいうと、それを利用するために自分でプログラムをしなきゃいけないというところもなくUIを通して操作できます。
ただ、最低限、イーサリアム上でトークン発行をすることから、発行時の秘密鍵の署名など、仮想通貨を触ったことがない人には、馴染みがない部分もあるので、サポートさせて頂いております。」
ーー投資件数が11月にかけて増えてますね。実施してみて反響や感想などありましたか?
「エンジョイワークス様からSTO実施の告知をされたタイミングで投資家の方から多くの注目を頂けたようです。
今後はトークン活用によるコミュニティ拡大など、更なる発展のお手伝いをしていければと思います。」
不動産STOによって活性化する不動産投資
ーー不動産STOの導入は、不動産投資のこれからの形となりそうですね
「これまでの不動産投資は、REITだと出資の障壁は低いものの、個別の不動産には投資ができませんでした。
本来、不動産投資の醍醐味は自分で物件をみて「この不動産に投資をしたい」と感じた上で行うことだと思います。
かと言って、現物に投資をしようとすると大金が必要になります。
不動産も自分で管理しないといけませんし、それを管理会社に依頼することもできますが、最終的にはオーナーに責任がかかってくるため、誰でも参入できるものではありませんでした。
その間にあるニーズを埋めるのが、現在行われているクラウドファンディングをはじめとする不動産特定共同事業でしたが、先ほどお話したとおり、REITと違って二次流通がしづらいということが、広く利用されるにあたって障壁になっていました。
STOが導入された不動産特定共同事業によって、投資家のみなさんが多様な不動産投資ができるようになるのではないかと期待しています。」
ーーなるほど。不動産を自分でみて、それがどのように活用されるのかが分かった状態で投資ができるようになるというわけですね。
「そうです。さらにREITの場合は、上場されていて誰もが安心して投資できる反面でマーケットの影響を受けやすく、社会情勢にも大きく左右されるという側面もあります。
特に今回のコロナ禍では、不動産価格が下がっていないにも関わらずREITが暴落するという現象が発生しています。
それに対して裏付けとなる不動産と強く紐づく不動産特定共同事業であれば不動産価格と大きく乖離することはおきにくく、大きなキャピタルゲインは望めないものの、着実なインカムゲインでREITと現物投資の間を埋めてくれるのではないかと思っています。」
住宅業界に新しい当たり前を作るとは
ーーでは最後に、STOを含め不動産テック領域で価値提供する立場として、今後の展望をお聞かせください。
「STOをはじめとする昨今の不動産テックサービスに関して、いまは現場のリテラシーを育てる時代だと思っています。
つい10年ちょっと前を考えてみると、僕らもスマートフォンとかすごく先進的で使うハードルが高いものとして捉えていたじゃないですか。
それが今となっては、なくてはならない存在になりましたよね。STOも同じことだと思うんです。
やってみないとこれって分からないものじゃないですか。
だから、やってみて投資家さんが増えるのかとか、不動産事業者にとってどれだけ価値のあるものなのか実際には分からないです。
なので、今は少しでも多くの方に知っていただくためにも、まず古民家再生などの比較的小規模な取り組みから事例を積み重ねていくしかないと思います。ゆくゆくは不動産投資のスタンダードになることを期待しています。」
◆松坂維大インターネット黎明期より不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」を通して、不動産情報のデジタル化とオープン化に従事。執行役員新規事業開発本部長、グループ会社LIFULL FinTech代表取締役などを歴任。 近年は「ブロックチェーン×不動産」をテーマに活動を続けており、ブロックチェーンを活用した不動産情報共有PoC(2017)、分散台帳技術による不動産情報共有コンソーシアムの立ち上げ(2018)、空き家のトークン化による権利移転PoC(2019)、国内初の不動産セキュリティトークン発行(2020)などを主導。 世界中の不動産へインターネット上で誰もが安心して投資できる未来を目指し、ブロックチェーン技術で「あらゆる不動産をデジタルアセット化する」ことがミッション。 |