2026年6月 保険業法改正 【代理店 体制強化の義務化】 罰則リスクを回避するために知って置くべき3つの選択
投稿日 : 2026年03月20日

2025年6月公布の「保険業法改正」により、不動産・住宅業界の保険販売は大きな転換期を迎えます。2026年春頃の施行に向け、大手損害保険会社のカルテルや不正請求問題を背景とした「体制整備義務の強化」や「不当な利益供与の禁止」が厳格化されます。
特に不動産事業者が兼業代理店として活動する場合、従来の「1社限定の推奨」や保険加入を条件に、通常は有料のリフォーム点検や清掃サービスを無料にするといった「住宅サービスとの抱き合わせ」が行政処分がより厳格化されます。
本記事では、改正の3つのポイントを詳説するとともに、増大する管理コストや法的リスクを回避するための戦略を提示。自社運営・共同募集・紹介モデルのどれを選ぶべきか、実務直結の判断基準を解説します。
Table of Contents
主な改正ポイントと改正の背景
「保険業法の一部を改正する法律案」が2025年6月6日に公布されました。施行日は公布日から1年以内を目指すとされているため、2026年6月1日に施行開始されます。
今回の法改正はどのようなものなのか、解説していきます。

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代理店に対する体制整備義務の強化 |
保険を販売する代理店(保険代理店)に、以下の2つが義務付けられます。
- 内部の管理体制を整える
- 苦情処理・監査体制を整える
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保険会社側の体制強化 |
保険会社自体に対しても、3つのルールが整備されます。
- 顧客本位のサービス提供の徹底
- 不当な利益の提供を禁止
- 保険金の不正請求対策を明文化
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禁止する行為の拡大 |
従来の禁止事項に次のものが追加されます。
- 禁止事項の対象者:
- 保険契約者だけでなく、「密接な関係者」を追加
- 禁止行為の対象:
- 「社会通念に照らして不当な便宜供与」を追加
改正に至った背景

2023年に相次いで2つの大きな事案が明るみになりました。
①保険金不正請求事案
車の修理部門を持つ代理店にて起きた不正事案です。
車の修理部門を持つ代理店にて起きた不正事案です。
不正の内容
- 修理部門が故意に車を傷つけ不要な修理を行い、保険会社に多額の修理代(保険金)を請求
不正の背景
- 代理店側は「修理代」で儲かり、保険会社側は「その代理店が契約数を伸ばしてくれる」という構造ができ、チェック体制に緩みが生じていた
②大手保険会社によるカルテル問題
大企業の保険契約(共同保険)をめぐって、複数の保険会社が裏で口裏を合わせていたことが発覚しました。
大企業の保険契約(共同保険)をめぐって、複数の保険会社が裏で口裏を合わせていたことが発覚しました。
不正の内容
- 複数の保険会社が話し合い、保険料が下がらないように価格を調整(カルテル)
不正の背景
- 契約獲得のため、保険会社が契約企業の製品を不自然に大量購入したり、子会社を優遇したりする「実質的な値引き」が横行していた
これらは業務改善命令等の対象となりましたが、業界全体に広がっていた商慣行が事案の背景にあったともいえます。こうした状況をうけ、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」、「損害保険業等に関する制度等 ワーキング・グループ」での議論を経て2025年5月30日の「保険業法の一部を改正する法律」の成立へと至りました。
何が変わるの?改正ポイントを解説!

①代理店に対する体制整備義務の強化
| 項目 | 改正前の課題 | 改正後ルール |
|---|---|---|
| 組織づくり | 【個人の力量任せ】 店長などが兼務し、組織的なチェック体制は緩かった。 |
【責任者の設置義務】 営業所ごとに「法令遵守責任者」、本部に「統括責任者」を置き、組織として監視する。 |
| リフォーム部門との関係 | 【監視規定なし】 リフォーム部門の見積が適正か、保険部門がチェックする義務はなかった。 |
【兼業業務の監視義務】 リフォーム業等との兼業が保険金支払を歪めないよう、業務を適切に監視する体制を作る。 |
| 販売プロセス | 【ハ方式(特定商品提示)】が主流 代理店が決めた「おすすめ1社」を提示する形が一般的だった。 |
【ロ方式(意向把握)への完全移行】 先に顧客の意向を確認し、複数社から比較・推奨するプロセスを徹底する。 |
| 不適切な取引 | 【物品提供はグレー】 保険料割引はNGだが、高額な備品購入などの「便宜供与」は横行していた。 |
【過度な便宜供与の禁止】 社会通念上、不相当な物品購入やサービス提供(いわゆる裏取引)を明確に禁止する。 |
| トラブル対応 | 【情報の放置・矮小化】 苦情や通報が現場で止まり、組織としての改善に繋がりにくかった。 |
【情報の蓄積・活用義務】 苦情や通報をすべて記録・分析し、再発防止に活かす体制を整える。 |
これまでは、小さな代理店であれば募集に関する最小限のルールしかありませんでしたが、今後は規模が小さな代理店でも大きな代理店と同等の上記の様な義務が追加されます。
具体的にはどのようなことをしなければならないのでしょうか。
不動産事業の現場で「特に意識すべき」実務の変化
①「とりあえずこの火災保険で」が言えなくなる
- 〔改正前〕
- 提携している1社の保険を勧めるだけでOK
- 〔改正後〕
- お客様に「どのような補償を重視するか」をヒアリング
- その意向にあった数社の保険を比較提示
②形骸化していた「抱き合わせ禁止」が、厳格化される
- 〔改正前〕
- 禁止ルールが形骸化し、保険加入とセットでの外構割引などがチェックの網をかいくぐって行われていた
- 〔改正後〕
- 本来の「便宜供与」禁止が徹底され、こうした抱き合わせは即、行政処分の対象となる
➂「リフォーム部門」との間に壁ができる
- 〔改正前〕
- リフォーム営業部門が保険募集を行えていた
- 〔改正後〕
- 営業部門と支払査定部門を適切に分離
- 保険会社により適正に運営されているか厳しくチェックされる
②保険会社側の体制強化
これまで「営業のテクニック」として許容されてきた部分が、改正後は「義務違反」となり、場合によっては行政処分の対象となります。
| 項目 | 改正前の課題 | 改正後ルール |
|---|---|---|
| 代理店への指導 | 【自主性・売上重視】 営業上の配慮により、代理店への管理や指導が不十分になるケースがあった。 |
【体制整備の確認義務】 代理店が責任者を置き、正しく運営しているかの「確認・指導」が義務化される。 |
| 社内組織の在り方 | 【営業と査定の混在】 営業担当が「大口代理店の案件だから」と、事故査定に圧力をかける余地があった。 |
兼業業務の監視義務 営業部門の都合を遮断するため、保険金支払を管理する部門を独立・分離させることが求められる。 |
| 事故査定の基準 | 【代理店見積を信頼】 兼業代理店(リフォーム業者)が出す見積の適正さをチェックする規定が弱かった。 |
【査定の厳格化・監視】 兼業代理店が保険金を水増ししていないか、より厳しい基準で支払査定を管理・監視する。 |
| 便宜供与のルール | 【限定的な禁止】 保険料の割引などは禁止だが、代理店や顧客への過度な物品購入などは曖昧だった。 |
【過度な便宜供与の禁止】 契約欲しさに社会通念を超えた物品・役務を提供することを、行政処分の対象として明確に禁止する。 |
| 監視のタイミング | 【事後対応(不祥事後)】 不祥事が発覚してから調査・対応するのが主だった。 |
【事前・継続的な監視】 不祥事が起きる前から、代理店の体制や蓄積情報をモニタリングする「先回り型」の対応が義務づけられる。 |
保険会社が「実務レベル」で変えること
保険会社は、不動産事業者の皆さまに対して、これまで以上に以下のような働きかけを行うようになります。
①監査(臨店)の強化
- 「売上目標の相談」だけでなく「苦情管理簿」や「内部監査の実施記録」チェックなど、コンプライアンスの点検が訪問の主目的になります。
②不自然な取引の打ち切り
- 実態の伴わない協賛金や物品提供、高額な紹介料など、不透明な利益供与に基づく旧来の商慣習は、コンプライアンス上の重大なリスクとして全面的に禁止されます。
➂「ハ方式」から「ロ方式」への強制
- 単一商品のみを提案する比較プロセスの形骸化は、顧客の意向把握を軽視する行為と見なされます。保険会社側もコンプライアンス維持の観点から、代理店の募集プロセスの透明化を強く要求していきます。
この改正により、保険会社は代理店と「仲の良いパートナー」である以上に、代理店がルールを破らないよう見張る「監督官」としての役割を強く求められるようになります。
➂禁止する行為の拡大
| 項目 | 改正前の課題 | 改正後ルール |
|---|---|---|
| 便宜供与のルール | 【限定的な禁止】 保険料の割引などは禁止だが、不自然な物品購入や役務の提供(便宜供与)は明文での禁止がなかった。 |
【行為の拡大】 社会通念上、相当でない物品の購入やサービスの提供も、禁止される「特別の利益提供」に含める。 |
| 禁止対象の範囲 | 【本人限定】 主に「保険契約者」や「被保険者」本人への利益提供のみが禁止されていた。 |
【対象の拡大】 契約者のグループ会社や関連企業など、「密接な関係を有する者」への利益提供も一律に禁止する。 |
実務レベルで「やってはいけない(NG)」具体例
【行為の拡大(裏取引のサービス)】NG例
- 例1:
- 保険契約の見返りに、顧客が所有する物件の管理用備品(エアコンや事務機器など)を、保険会社や代理店が相場より高く買い取る。
- 例2:
- 保険加入を条件に、通常は有料のリフォーム点検や清掃サービスを、保険会社側の負担で「無料」で提供する。
【対象の拡大(身内へのサービス)】NG例
- 例3:
- 住宅購入者(本人)には割引をしないが、その家族が経営する別会社のオフィス用品を、保険契約のお礼として寄贈する。
- 例4:
- 大口の法人オーナー本人ではなく、その親族が経営する子会社に対して、不当に安い価格で役務を提供する。
「禁止行為」は法律(保険業法第300条)で明確にされた「やってはいけない」ことです。違反した場合、保険会社や代理店は「業務停止命令」や「登録取り消し」といった事業継続に直結する行政処分の対象となります。

不動産会社に迫られる「選択」
違反は即座に契約解除
不動産事業者の場合、以下のケースは非常に危険です。
【改正後の「アウト」な実務例】
①本業との抱き合わせ
①本業との抱き合わせ
- 火災保険に入ってくれるなら、新居のエアコン設置代を無料にする
②グループ会社への便宜
- 親会社と保険契約をする代わりに、その子会社のオフィス清掃をタダで請け負う
➂不適切なリフォーム
- 保険金が下りるよう見積を多めに作るので、その分で別の箇所のリフォーム等を行う
■保険会社は「即座に契約解除」に動く
代理店が禁止行為を行ったことを知った場合、保険会社は自社が連帯責任を問われないよう代理店委託契約を即座に解除する可能性が高いです。
代理店資格を喪失するだけでなく、不動産仲介や住宅販売の本業にも「法令違反の会社」というレッテルが貼られてしまい、大きなダメージに繋がります。
代理店資格を喪失するだけでなく、不動産仲介や住宅販売の本業にも「法令違反の会社」というレッテルが貼られてしまい、大きなダメージに繋がります。
「知らなかった」が通用しない事体となってしまうため、営業担当者が契約を取りたい一心で勝手なサービスを約束しないよう、徹底的な社員教育が必要になります。
厳格な管理体制が求められる一方、規制が緩和されます。この大きな転換期において、保険代理店を兼業する不動産事業者にはどのような選択肢があるのでしょうか。
不動産事業者が「選択」できる3つの手段
今後、火災保険の販売プロセスはロ方式(顧客の意向から数社を比較提案)の徹底が求められます。そのため、代理店を継続する場合には乗合代理店(複数社を扱う代理店)として体制を整える必要があります。
これまでは住宅の契約に付随して「この火災保険で手続きしますね」と一言で済んでいたものが、今後は「お客様の意向を聞く」→「数社を比較提示する」→「選定理由を説明する」というステップを証跡として残さなければなりません 。これにより、1件あたりの成約までの時間が大幅に増えてしまいます。当然、各社の保険を正しく説明するための知識も必要となります。
法改正後の厳しい「体制整備義務」や「販売プロセスの厳格化」を受け、住宅販売事業者が取れる戦略は、大きく分けて「自社でやり抜く」「外部と組む」「撤退する」の3つの選択肢に集約されます。
それぞれの方法について、実務的なメリットとリスクを整理しました。

① 認定・大規模代理店へ
法律に則り、社内に専任の「責任者」を置き、ロ方式(比較推奨)を徹底する体制を自力で構築する方法です。拠点数が多く、保険を収益の柱にしたい事業者にお勧めです。
【メリット】
保険手数料を全額自社の収益にできる。顧客情報を自社で完結して管理できる。
保険手数料を全額自社の収益にできる。顧客情報を自社で完結して管理できる。
【リスク・課題】
非常に高い管理コスト。責任者の人件費やシステム改修費が必要。不祥事時の行政処分リスクを直接負う。
非常に高い管理コスト。責任者の人件費やシステム改修費が必要。不祥事時の行政処分リスクを直接負う。
② 外部専門業者との「共同募集」
専業の保険代理店やブローカーと提携し、募集実務の大部分をプロに任せる方法です。営業の手間は減らしたいが、収益も残したい場合にお勧めです。
【メリット】
自社スタッフの負担(意向把握や比較説明の手間)を大幅に削減しつつ、手数料をシェアできる。
自社スタッフの負担(意向把握や比較説明の手間)を大幅に削減しつつ、手数料をシェアできる。
【リスク・課題】
非常に高い管理コスト。責任者の人件費やシステム改修費が必要。不祥事時の行政処分リスクを直接負う。
非常に高い管理コスト。責任者の人件費やシステム改修費が必要。不祥事時の行政処分リスクを直接負う。
③ 「紹介」モデルへの転換
自社は「募集」を一切行わず、顧客を提携代理店へ繋ぐだけにする方法です。本業の住宅販売に集中し、法的リスクをゼロにしたい場合にお勧めです。
【メリット】
法改正後の重い義務(体制整備)から解放される 。コンプライアンスリスクが極めて低くなる。
法改正後の重い義務(体制整備)から解放される 。コンプライアンスリスクが極めて低くなる。
【リスク・課題】
収益が「紹介料」のみとなり、直接販売する場合に比べて大幅に低下する。
収益が「紹介料」のみとなり、直接販売する場合に比べて大幅に低下する。
「共同募集」と「紹介モデル」どちらがお勧め?
改正に合わせた体制を自社で整えるのは、非常に大きなコストがかかります。多くの兼業代理店を運営する事業者が、「共同募集」か「紹介モデル」へ切り替えることになるのではないでしょうか。
その場合、気になるのは「共同募集」と「紹介モデル」のどちらかがお勧めかという点だと思います。
結論から言うと、「収益を維持したいなら共同募集」、「法的リスクと手間をゼロにしたいなら紹介モデル」がお勧めです。それぞれの特徴を比較した上で、判断基準をまとめました。
| 比較項目 | 共同募集(パートナーシップ) | 紹介モデル(取次・トスアップ) |
|---|---|---|
| 役割分担 | 自社で「きっかけ作り」を行い、提携代理店が「詳細説明・契約」を行う。 | 自社は「顧客を繋ぐ」だけで、募集実務には一切関与しない。 |
| 収益性 | 手数料を提携先とシェア(分配)する。 | 紹介料(情報提供料)のみのため、収益は低くなる。 |
| 法的責任 | 共同募集人として連帯責任を負う。 | 募集を行わないため、保険業法上の責任はほぼない。 |
| 法改正への対応 | ロ方式(比較推奨)や意向把握の共同義務が生じる。 | 体制整備義務から解放される。 |
| お勧めする会社 | 保険収益をある程度確保し続けたい会社。 | 営業担当を住宅販売だけに集中させたい会社。 |
コストを最小限に抑えるなら「紹介モデル」

コストを最小限に抑えたいのであれば、「紹介モデル」が圧倒的にお勧めです。
法改正により、大規模な代理店には「法令等遵守責任者」などの設置が義務付けられますが、紹介モデルに切り替えて「代理店登録を取り消す」または「休止」すれば、以下の「見えないコスト」がすべて無くなります。
法改正により、大規模な代理店には「法令等遵守責任者」などの設置が義務付けられますが、紹介モデルに切り替えて「代理店登録を取り消す」または「休止」すれば、以下の「見えないコスト」がすべて無くなります。
- 責任者の専任化による損失
- 営業トップの人間を「チェック担当(責任者)」に回す必要がなくなり、本業の住宅販売に専念させられます。
- 保険会社からの監査対応
- 保険会社による毎年の厳しい臨店点検(監査)に対応するスタッフの時間的コストがなくなります。
- 賠償責任保険料
- 代理店として負うべき賠償責任をカバーする保険料などの固定費も削減できます。
「紹介だけだと儲からないのでは?」と思われるかもしれませんが、以下の考え方で利益を最大化できます。
- 本業への集中
- 保険の勉強や手続きに費やしていた時間を1件でも多くの「住宅成約」に充てる方が、会社全体の利益率が高まります。
- クリーンな紹介料
- 自社にて募集実務を行わず、提携先から顧客情報提供に対して「紹介料」を受領することは、「過度な便宜供与」にならない適正な範囲であれば問題ありません。
「保険を収益の柱として成長させたい」という強い意向がない限り、今回の法改正を機に「紹介モデル」へシフトし、法的リスクと管理コストを一気に切り離す方が、本業へのリソース集中とガバナンス強化を両立させる、最も時代に即した戦略的選択となります。
まとめ
今回の法改正は、従来の「慣習」や「営業テクニック」が通用しなくなる歴史的な転換点です。特に不動産事業者は、顧客への比較推奨(ロ方式)の徹底や、リフォーム・住宅サービスとの不適切な抱き合わせ禁止など、これまで以上に透明性の高い運営が求められます
今後は、高い管理コストを投じて自社で体制を整えるのか、あるいはリスクを切り離して「紹介モデル」へ移行するのか、経営判断が不可欠です。違反時の行政処分は本業の信頼失墜に直結するため、「知らなかった」では済まされない事態となります。2026年春の施行に向け、自社のリソースと法的リスクを天秤にかけ、最も持続可能な募集形態を選択することが、本業を守る鍵となります。
┃参考資料
- 金融庁「保険業法の一部を改正する法律案 説明資料」




















