知らないと損!外国人顧客獲得を成功させる法的リスク対策ガイド
投稿日 : 2025年06月09日

「外国人購入者との取引は、ハードルが高い」「トラブルが心配」——そうお考えの住宅販売事業者様もいらっしゃるかもしれません。しかし、日本の人口減少が加速する中、外国人材の受け入れは増加しており、住宅市場における外国人購入者の存在感は今後ますます高まることが予測されます。彼らは新たな顧客層であり、ビジネス拡大の大きなチャンスです。一方で、言語や文化の壁、そして日本の複雑な法制度や商慣習 の違いから生じるトラブルは看過できません。
本記事では、自己居住用住宅を販売する事業者様が、外国人購入者との取引において直面しうる法的リスクとその具体的な対策を、国土交通省をはじめとする公的機関が公表している資料等に基づき解説します。トラブルを未然に防ぎ、安心・安全な取引を実現するための実践的な知識とノウハウを提供いたします。
Table of Contents
外国人購入者との契約における法的留意点
外国人購入者との契約は、国内の顧客とのそれとは異なる特性を理解し、細心の注意を払う必要があります。特に、言語、文化、法的背景の違いが、思わぬトラブルの原因となることがあります。
重要事項説明の落とし穴:言語と文化の違い

宅地建物取引業法に定められる重要事項説明は、宅地建物取引士が宅地建物取引業法第35条に基づき、契約前に買主に対して物件や契約内容に関する重要な情報を説明する義務です。これは非常に専門的な内容を含み、日本語に不慣れな外国人にとっては理解が困難な場合が少なくありません。
単なる翻訳では不十分なケース
- 単に専門用語を翻訳するだけでは、その法的意味合いや日本特有の商慣習が伝わらないことがあります。
- 例えば、「根抵当権(ねていとうけん)」や「境界(きょうかい)」といった言葉は、他国の法制度と概念が異なる場合があり、直訳では誤解を生む可能性があります。
専門用語の理解度確認と丁寧な説明の徹底
- 国土交通省は、不動産取引における重要事項説明の工夫について、外国語対応や平易な表現の活用を推奨しています。 説明の際は、必ず「理解度を確認しながら」進めることが重要です。
- 対策:
- 一方的に説明を終えるのではなく、質疑応答の時間を十分に設け、不明点がないかを確認してください。可能であれば、宅地建物取引業法の定める重要事項説明書の要点を、理解しやすい言葉でまとめた補助資料を別途用意することも有効です。
宅地建物取引業法
宅地建物取引業を行う上で遵守すべきルールを定めた法律。消費者の保護を目的としている。
文化的な背景に基づく認識のずれへの対応
- 例えば、日本では当たり前の「町内会(ちょうないかい)活動」や「ゴミの分別(ぶんべつ)ルール」なども、海外では馴染みのない文化です。これらの説明不足が、入居後の近隣トラブルに発展するケースも少なくありません。
- 対策:
- 売買契約書や重要事項説明書には含まれない、地域の生活ルールや慣習に関する情報も、別途多言語で提供する準備をしておくことが望ましいです。
本人確認・資力確認の厳格化

外国人購入者との不動産取引においては、マネーロンダリング対策や、確実な債権回収のため、本人確認と資力確認をより厳格に行う必要があります。
在留カードの確認と在留資格の再確認
- 法務省や出入国在留管理庁など関係省庁は、不法就労対策の一環として、偽変造の在留カード等を行使して就労する事案など、多様化・悪質化・巧妙化する手口への対策を推進しています。これを受け、売買契約締結前には、在留カードの真正性を慎重に確認することが重要です。
- 出入国在留管理庁は、不法就労・偽装滞在の可能性のある失踪技能実習生の取締りなどへ、デジタル化を進め、在留管理情報と外国人雇用状況届出情報のオンライン連携を開始し、在留カード等読取アプリケーションの配布などの情報収集・分析機能の強化に取り組んでいます。これらのツールや取り組みを活用し、可能な範囲で在留カードの真正性を確認することが有効と考えられます。
在留カード
中長期在留者に対して交付される、日本での身分や在留資格などを証明するカードです。
在留カード確認の基本的な流れ(例)
- 在留カードの提示を受ける
- 在留カードの真正性を確認(ICチップ読み取りアプリの活用、目視による確認など)
- 購入希望者の在留資格や現在の状況を確認し、例えば【フラット35】の申込要件など、購入に必要な資力確保のための前提となる在留資格(永住者または特別永住者)を満たしているか確認する
海外送金などにおける資金源の透明性確保(マネーロンダリング対策)
- 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき、宅地建物取引業者は特定事業者として、顧客の本人特定事項(氏名・住居・生年月日など)や取引目的、職業などの確認が義務付けられています。
- 顧客が外国人である場合、その居住地(日本国内に住居を有するか否か)や法人の種類(外国法人か否か)に応じた確認書類(旅券、在留カード、特別永住者証明書、外国政府・国際機関発行書類など)が必要となります。
- 国際的なマネーロンダリング規制の強化に伴い、金融機関は顧客の本人特定事項の確認(KYC: Know Your Customer)を厳格化しており、多額の海外送金による不動産購入の場合、送金元の金融機関や資金の出所について、より詳細な情報提供を求められることがあります。
- 対策:
- 不動産事業者としても、疑わしい取引の兆候を見逃さないよう注意が必要です。疑わしい取引の届出制度は、マネー・ローンダリングを防止し、金融機関や金融システムの健全性及び信頼を確保することを目的としており、2007年3月からは宅地建物取引業者も届出対象事業者となっています。
- 例えば、短期間での転売目的、不自然な高額現金取引、資金源の説明が曖昧な場合などは、疑わしい取引として当局へ届け出る対象となる可能性があります。
国内金融機関との連携による確実な資力審査
- 住宅ローンの審査においては、一般的に、在留資格、永住権の有無、勤続年数、年収、連帯保証人の有無などが重要な判断基準となります。金融機関によって外国人向けの審査基準は異なるため、事前に確認が必要です。
- 住宅金融支援機構の【フラット35】は、長期固定金利の住宅ローンであり、外国人の方がお申込みになる場合の要件として、日本国籍の方、永住許可を受けている方または特別永住者の方である必要があります。
- 申込時の年齢、年収に占める総返済負担率、借入対象となる住宅の要件なども定められています。
- 万一、永住者または特別永住者の資格がなかったことが判明した場合は、借入金を一括して返済することになるため、十分な注意が必要です。
- 対策:
- 購入希望の外国人が、どの金融機関の住宅ローンを利用可能か、またその条件(必要な在留資格、必要書類など)を事前に金融機関と連携して確認を徹底することが肝要です。
売買契約書・各種書面の法的有効性
契約書の言語や内容の明確さは、トラブル回避の鍵となります。
多言語併記や英語契約書作成の可否
- 売買契約書は日本語で作成することが原則ですが、買主の理解を助けるために、併せて外国語(特に英語、中国語など)の参考訳を用意することは有効です。ただし、参考訳に法的拘束力はなく、あくまで「日本語版が正本である」ことを明確に記載する必要があります。
- 対策:
- 司法書士や弁護士と連携し、法的効力のある多言語対応の契約書式の検討や、通訳を介した契約締結時の注意点についてアドバイスを得ることを推奨します。
紛争発生時の準拠法・管轄の明確化
- 国際的な取引においては、紛争が発生した場合にどの国の法律が適用されるか(準拠法)、どの国の裁判所が管轄するか(管轄裁判所)を契約書で明記しておくことが重要です。日本の不動産取引においては、原則として日本の法律が適用され、日本の裁判所が管轄となりますが、トラブルを避けるためにも明確な記載が望ましいです。
トラブル時の弁護士連携の重要性
- 万が一、契約不履行や誤解による紛争が発生した場合、国際法や外国人の権利に詳しい弁護士との連携が不可欠です。早期に専門家のアドバイスを求めることで、事態の悪化を防ぎ、円満な解決に繋がりやすくなります。
関連法規の動向と留意点
日本の法制度は変化しており、外国人による不動産取得に関わる法規制も例外ではありません。特に近年では、国家安全保障に関わる土地取引の規制が強化されています。
重要土地等調査法について
「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査等に関する法律(重要土地等調査法)」は、防衛関係施設、海上保安庁の施設、特定の原子力関係施設や空港(自衛隊施設が隣接し、かつ自衛隊も使用する施設)などの重要施設の周辺(おおむね1,000m以内)及び国境離島等の土地の利用状況を調査し、安全保障上の支障がないかを判断することを目的としています。
- この法律に基づき、調査の対象となる区域として注視区域及び特別注視区域が指定されます。
- 調査では、対象となる土地等の所有者(氏名、住所、国籍等)や利用状況が調べられます。必要があると認められる場合は、所有者等からの報告徴収が行われることもあります(刑事罰あり)。
- 特に、特定重要施設や特定国境離島等の周辺・区域として指定される特別注視区域では、200㎡以上の土地等の所有権移転等の取引を行う場合に、氏名、住所、国籍等を含む事前届出が必要となります。
- この法律に基づき、対象地域内で機能を阻害する利用が行われている場合には、その中止が勧告・命令されることがあります(刑事罰あり)。
日本の不動産に関連する税制
日本の不動産取引に関わる税制は複雑であり、外国人にとって理解が難しい点が存在します。
不動産取得時の税金
- 日本国内に所在する不動産を取得する際には、印紙税、登録免許税、不動産取得税の納付が必要です。これらの税金は、売買の主体が外国人であるか否かにかかわらず、納税義務者が納付しなければなりません。
- なお、非居住者または外国法人が所有する不動産を購入する際、売主に譲渡所得が発生した場合は、買主が源泉徴収をした上で売買代金を支払うことになります。
不動産売却時の税金
- 非居住者または外国法人が日本国内に所在する不動産を売却して譲渡所得が発生した場合は、原則として譲渡対価の10%の源泉所得税を徴収された上で、確定申告を行う必要があります。
不動産保有時の税金
- 不動産を保有する際には、固定資産税や住民税が課税される場合があります。固定資産税は毎年1月1日現在の不動産の所有者に課税される地方税であり、海外に居住する外国人にも納付義務があります。
- 住民税については、所得割は海外に住所を有する外国人には発生しませんが、日本国内に自己の居住目的の家屋敷を所有していれば均等割が賦課されます。
- 固定資産税の納税についても、海外に居住する外国人は納税管理人を選任する必要があります。
賃貸収入にかかる税金
- 海外に居住する外国人が日本国内の不動産から賃貸収入を得る場合、その20%が源泉徴収され、確定申告を行う必要があります。
- 個人が居住目的で借り受けている場合を除き、非居住者や外国法人から日本国内にある不動産を賃借し、日本国内で賃借料を支払う者は、賃借料を支払う際に所得税を源泉徴収しなければなりません。この点については国税庁ウェブサイトで確認できます。
納税管理人の選定
- 非居住者または外国法人が不動産を購入した場合、不動産の保有や売却に係る税金の申告や納税の手続きを本人に代わって行う納税管理人を選任する必要があります。
- 納税管理人は、確定申告書の提出や税金の納付等、購入者の納税義務を果たすために設置されるものであり、納税管理人を定めたときには、不動産の所在地を所轄する税務署長に「納税管理人届出書」を提出します。この届出書の提出以降、税務署が発送する書類は納税管理人に送付されるようになり、購入者は納税管理人を通じて税金を納めることになります。
税務や法務に関する記載事項の詳細については、税務署・税理士、司法書士等の専門家に確認することが推奨されています。 国税庁のウェブサイトにあるタックスアンサーでは、税に関する情報が提供されています。
住宅ローン・金融制度に関する情報

外国人の方が日本で住宅を購入する際、住宅ローンは利用条件や手続きが複雑に感じられることがあります。金融機関の審査基準は、申込者の在留資格や永住権の有無によって大きく異なることが一般的です。
■日本銀行の金融政策と金利について
日本銀行は、2024年3月19日の金融政策決定会合において、これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みとマイナス金利政策を解除することを決定しました。これは、賃金と物価の好循環が確認され、「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断されたためです。日本銀行は、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促すこととし、現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えています。
この金融政策の変更により、変動金利型の住宅ローンの将来的な金利変動リスクへの関心が高まっています。
外国人の方への説明のポイント
- 住宅ローンの申し込みにあたっては、金利変動リスクや金利タイプごとの特性(固定金利型、変動金利型など)について、外国人の方に丁寧な説明を行い、十分な理解を得ることが特に重要です。
- 将来の金利上昇が家計に与える影響を具体的にシミュレーションして提示するなど、リスクについての丁寧な説明が求められます。
- また、不動産取引全般において、日本の制度や商慣習は外国人にとって分かりにくい点が多く、取引時の意思疎通の円滑化やトラブルの未然防止には、こうした丁寧な情報提供が役立ちます。金利タイプの比較表などを視覚的に示すことも理解を助けるでしょう。
■【フラット35】について
【フラット35】は、住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して提供する、最長35年の全期間固定金利の住宅ローンです。資金の受取時に返済終了までの借入金利と返済額が確定するため、長期のライフプランが立てやすいという特徴があります。
【フラット35】の申込要件には、申込時の年齢が満70歳未満であること(親子リレー返済の場合を除く)などが含まれます。外国籍の方が【フラット35】を申し込む場合、通常の申込要件に加えて、「永住者」または「特別永住者」の資格が必要です。これは住宅金融支援機構が定めている要件です。
【フラット35】の外国籍の方に関する主要な申込要件:
- 申込時の年齢が満70歳未満の方(親子リレー返済の場合は除く)
- 日本国籍の方、永住許可を受けている方または特別永住者の方
- 注意事項:
- 万一、永住者または特別永住者の資格がなかったことが判明した場合は、借入金を一括して返済することになりますので十分な注意が必要です。
- 【フラット35】は、申込者本人またはその親族が居住するための住宅が対象であり、第三者に賃貸する目的の投資用物件の取得資金には利用できません。
これらの利用条件は変更される可能性もあるため、常に住宅金融支援機構の最新情報を確認し、外国人の方に正確な情報を提供できるよう準備しておくことが重要です。
フラット35
住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して提供する、最長35年の全期間固定金利型の住宅ローンです。
まとめ
外国人による日本の不動産取引は市場に活力を与える一方、言語や複雑な制度(法・税・金融)対応が課題です。法規制(本人確認、マネロン、重要土地等調査法 等)遵守とトラブル防止には、正確な情報提供と丁寧な説明が不可欠となります。専門家との連携を強化し、重要事項説明、契約、決済、登記、納税管理人、外為法届出のほか、日本の商慣習や生活ルールの説明も重要です。多言語対応や入居後サポートを含む包括的サービスが、信頼獲得と貴社の成長に繋がります。
外国人購入者は、単なる売買の相手方ではなく、日本の地域社会の一員となる潜在的なパートナーです。法的リスクを適切に管理し、信頼性の高い情報と丁寧なサポートを提供することで、貴社は外国人購入者から選ばれる、真に国際的な住宅販売事業者へと進化できるはずです。