【2024年版】不動産契約の電子化がスタート!対象書類や導入するメリット、注意点を解説!

投稿日 : 2022年07月29日/更新日 : 2024年01月31日

電子契約のイメージ
不動産業界では「必要書類が多く、契約手続きに時間がかかる」「書類の保管コストがかさむ」といったお悩みを抱える方が少なくありません。そんなお悩みを解決する手段の一つが「電子契約」です。

2022年の法改正によって、不動産取引の全面電子化が解禁されました。とはいえ、自社で導入するべきか、決めかねている方もいるでしょう。

ここでは、不動産契約の電子化を検討中の方に向けて、電子契約の基本、導入のメリット・注意点、流れまで詳しく解説します。

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電子契約とは

電子契約とは、電子データで作成した契約書を用いて締結する契約です。「電子署名」や「タイムスタンプ」といった技術を利用することで、紙ベースでの契約と同等の法的効力を有します。

紙ベースでの契約との違いについて解説する前に、本来の「契約」についておさらいしましょう。

本来の「契約」は口頭のみでも成立します。とはいえ、「言った、言わない」のトラブル防止のために書面を作成し、契約関係者が内容に同意した旨を記録に残すケースが一般的です。「契約関係者が同意した証拠」の役割を担うのが「記名・押印」や「自署」です。

データで作成した契約書が紙ベースの契約書と同等の法的効力を有するには、「誰が作成したか」や「作成後に改変されていない」旨を確認できるかどうかがポイントになります。

「記名・押印」や「自署」の代わりとなる仕組みとして、「電子署名」や「タイムスタンプ」が用いられています。これらの技術を利用することで、紙ベースでの契約書と同様に正式な文書であることを証明できる仕組みです。

従来の不動産取引では、法律による規制のため電子契約が認められていませんでした。しかし、2022年に宅建業法や借地借家法が改正され、書面交付の電子化が認められました。世間の流れに合わせて不動産業界でも、徐々に電子契約が普及しています。

電子契約が可能となった不動産関連の契約書類

電子契約が可能となった書類とは、宅建業法や借地借家法で交付が義務付けられている書類です。

売買取引・賃貸借取引に携わる方にとって大切な書類が複数あるため、確認しておくことをおすすめします。

賃貸借契約書

賃貸借契約の当事者へ交付する書面です。従来は、宅建士の記名がある書面(紙)交付を前提としていましたが、宅建業法(第37条)の改正により電子データでの交付が可能になりました。

売買契約書

売買契約時に買主と売主へ交付する書面です。賃貸借契約と同様、宅建士の記名に代わる一定の措置を取ることで電子データでの交付が認められます。

重要事項説明書

売買契約時の買主や賃貸借契約時の借主に対して、契約締結までに交付する書面です。宅建業法(第35条)の改正によって、電子データでの交付が認められています。

媒介契約締結時書類

媒介契約の締結時に相手方へ交付する書面です。宅建業法(第34条)の改正によって、電子データでの交付が可能になりました。

指定流通機構への登録を証明する書類

媒介契約時に依頼者に対して交付する書面です。指定流通機構(レインズ)へ登録した際の登録証も、電子データでの交付が認められています。

定期借地権設定契約書

借地借家法(第22条)に定められる「一般的な定期借地権」の契約時に交付する書面です。現時点(2023年)において、事業用の定期借地権は電子契約の対象外となり、引き続き公正証書のみでの契約となります。

定期建物賃貸借契約

定期建物賃貸借(定期借家)契約の締結時に交付する書面です。借地借家法(第38条)が改正されたため、電子データでの交付が可能になりました。

定期借家契約の事前説明書

定期借家契約の締結前に、借主に対して「契約の更新がなく、期間満了で契約が終了する」旨を説明する際の書面です。

電子契約を導入するメリット

不動産取引において、電子契約を導入するメリットは多岐にわたります。コスト削減、業務効率化、お客さまの負担軽減といった観点から、電子契約を導入するメリットを解説しましょう。

印刷や郵送などのコスト削減

電子契約では紙を使用しないため、印刷代や郵送代が不要です。

また、紙ベースでの契約とは異なり、印紙税もかかりません。1件のコストが少額でも、10件、20件と積み重なれば膨大な金額になります。無駄なコストを削減できれば、備品購入や従業員への還元などキャッシュフローの有効活用を実現できるでしょう。

業務効率化

電子契約の導入では、コスト削減だけでなく業務効率化も期待できます。紙の印刷や内容チェック、お客さまへの郵送手続きといった事務作業に時間がかかり、煩わしさを感じている方もいるのではないでしょうか。

書面を電子化すればそういった事務作業が不要になるため、印刷や郵送にかけていた時間を他の業務に充てられます。また、電子データでは過去の書類検索もスムーズです。

電子契約の導入は、職場の労働環境の改善を期待できます。

書類などの管理が容易に

書類をデータで管理すれば、物理的なスペースも必要ありません。紙で管理する場合、過去の書類が膨大な量になるため、外部の保管場所を確保している方もいるのではないでしょうか。不要となった書類整理も大変な作業です。

電子契約を導入すると無駄なスペースがなくなり、保管場所に困ることもなくなります。

契約締結までがスピーディーに

不動産取引では、契約関係者が多くなりがちです。書面(紙)での契約の場合、当事者だけでなく、自社や他社の担当者など複数者間でのやり取りに時間がかかります。電子契約であれば郵送が不要なため、遠方の相手方とのスピーディーな契約締結を実現可能です。

社会的なニーズにもマッチする

ネットショッピングや外食の宅配サービス、在宅ワークが普及し始めている昨今は、人々のニーズも変化しつつあります。何らかの形で「自宅で完結できるサービス」を利用し、利便性の高さを実感した方もいるのではないでしょうか。

そんな社会の変化に合わせて、不動産取引に対するニーズも変わりつつあります。

一昔前は、顧客が不動産会社へ直接相談に行き、物件を探すケースが主流でした。しかし、昨今は不動産ポータルサイトや不動産会社の公式サイトが充実しており、顧客自らがインターネット上で物件を検索するケースが増えています。

賃貸取引においては「オンライン内見」が普及し始めており、お客さまが契約前に来店する回数が減少傾向というデータもあります。法改正で書面の電子化が解禁されたこともあり、今後もこの傾向は続くでしょう。

電子契約を導入するデメリット

電子契約の導入で利便性が高まる一方、複数のデメリットもあります。お客さまの状況や自社の環境によってはトラブルの原因になることがあるため、無理のない範囲での導入を検討しましょう。

高齢の場合には対応できないことも

重要事項説明書や契約書などを電子データで交付する場合、以下の形式が想定されます。

  • メール添付
  • オンラインでのダウンロード
  • USBメモリの送付

インターネットを日常的に使用する方であれば、電子データでの受領に迷うケースは少ないでしょう。しかし、相手方がパソコンやスマートフォンの操作に不慣れな高齢者の場合、電子交付は難しいかもしれません。

双方の同意が必要

各種書類を電子データで交付する場合、「相手方の同意が必要」です。相手方の同意を得られない場合は、従来通り紙ベースでの対応となります。

インターネット環境が必要

電子データでの書面交付やIT重説の実施には、自社と相手方の双方に安定したインターネット環境が必要です。IT重説とは、オンラインで行う重要事項説明です。テレビ会議用のアプリやテレビ電話を利用することで、遠隔地にいる相手方へ説明できます。

「電子契約」といっても、必ずしも全てをオンラインで行う必要はありません。例えば、以下の選択肢があります。

  • 書類を電子データで交付して対面で重要事項説明を行う
  • 書類を紙ベースで交付してIT重説を実施する
  • 書類を電子データで交付してIT重説を実施する

電子契約の導入を検討している方は、自社やお客さまのインターネット環境を考慮しつつ、導入の範囲を検討しましょう。

情報漏洩やデータ改ざんなどのリスクがある

重要書類(紙)の保管場所に鍵をかけるのと同様に、電子データで保管する場合もセキュリティ対策が必須です。また、セキュリティ対策を強化しても、USBの紛失など社員による情報漏洩のリスクもあります。

電子契約を導入する際は、セキュリティ性の高いサービスを検討し、必要に応じて社員の情報管理に対する教育も検討しましょう。

業務工程の再構築が必要

電子契約を導入する場合、場合によっては業務フローの見直しが必要です。お客さまへの説明の仕方や意向の確認方法、電子化する場合の全体フローなど、社内で統一しておきましょう。

「書類は電子データ・紙媒体のどちらで交付するか」、「重要事項説明はIT重説・対面のどちらで実施するか」といった意向を確認するためのひな形も必要です。

電子契約を取り入れる上での注意点

自社の利用するソフトウェアや状況によっては、お客さまへ負担がかかってしまうことがあります。また、イレギュラーな事態を想定しておくことも大切です。電子契約を導入する際の注意点を3つ紹介します。

お客さま側で事前準備が必要なケースがある

電子データで書面を交付する際やIT重説を実施する際は、ソフトウェアやアプリなどを利用します。自社が利用するソフトウェアなどを相手方も利用できる環境にあるかどうか、事前に確認しておきましょう。

例えば、日本で人気の高いLINEにはテレビ電話の機能も付いており、IT重説に用いられるケースがあります。ただし、お客さま側でアカウント設定が必要なため、アカウント有無の確認が必要です。

電子契約中止後の記名・押印漏れに注意

書類を電子データで交付したものの、お客さま側でデータを閲覧できないなどのトラブルが想定されます。原因を究明できない場合は電子データでの交付を中止して、紙ベースでの書面交付に切り替えることが可能です。

電子契約を中止した後に紙ベースで書面を交付する場合の規制は、従来と同様です。宅建業者の記名・押印や宅建士の記名漏れに注意しましょう。

スマホでの閲覧は重要事項を見逃すリスクも

相手方が個人の場合、パソコンではなく、スマートフォンで書類を閲覧するケースが珍しくありません。画面が小さなスマートフォンでは、お客さまが重要事項を見逃してしまう恐れがあります。画面のサイズを考慮してA3サイズではなくA4サイズで作成する、重要事項を強調しておくなど視認性を高める工夫をしましょう。

電子契約を締結するまでの流れ

電子契約を締結するまでの流れを3つのステップで紹介します。

ステップ1 IT重説

相手方の同意を得た上で、IT重説を実施します。IT重説のポイントは以下4点です。

  • カメラの性能(主に宅建業者側)
  • インターネット環境(双方)
  • マイクの性能(双方)
  • 端末の利用状況(相手方)

IT重説では、宅建士証の提示や図面の説明をテレビ電話越しに行うため、相手方がそれらを認識できなければなりません。自社が使用する端末のカメラの性能を確認しましょう。

また、自社と相手方の双方でコミュニケーションが取れるかどうかなど、インターネット環境の事前確認も必要です。

重要事項説明書を電子データで交付した上でIT重説を実施する場合、相手方が使用する端末によっては重要事項説明書とテレビ電話の同時閲覧が難しいケースがあります。

相手方にあらかじめ2台の端末を準備してもらう、紙ベースで出力してもらうといった対応を検討してみてください。

ステップ2 契約書の電子交付

相手方の同意を得ていれば、契約書の電子データ交付が可能です。宅建士が電子署名後に相手方へ交付します。

ステップ3 電子署名

相手方が電子データを受領後、電子署名をすれば契約が完結します。電子データの受領時は、「改変されていないかどうか」を相手方が確認しなければなりません。確認方法について、自社で把握しておくことが大切です。

電子契約サービスの具体的な流れや機能はサービス事業者によって異なるため、各社比較してみましょう。

まとめ

法改正によって、今後も電子契約を導入する不動産事業者の増加が見込まれます。電子契約を導入すれば、無駄を省いて効率化できる、お客さまの幅広いニーズに応えられるなど多数のメリットを享受できるでしょう。

ただし、不動産契約の電子化では、これまで生じなかったトラブルが生じるリスクもあります。「電子契約」といっても対応する範囲によって導入のハードルの高さが異なるため、自社のIT環境に合わせて無理のない範囲で検討してみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。
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