工務店の施工管理がブラックと言われるワケ!業界の課題と解決策を解説
建設工事において重要な役割を担う施工管理は、工務店に欠かせない職種です。
しかし、最近では業界全体が人手不足・高齢化に悩まされています。工務店の施工管理は「ブラック」「やめておけ」と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
ここでは、工務店の施工管理に興味がある方、人手不足に悩む企業担当者の双方に役立つ情報をお届けします。
工務店における施工管理の仕事内容は?
工務店の施工管理は、建設工事を計画通りに進行する上で重要なポジションです。工期・品質・安全性を守るためにPDCAサイクルを回しながら、現場を監督します。
施工管理の具体的な業務は以下4つです。
- 工程管理
- 原価管理
- 安全管理
- 品質管理
4つの業務に分かれるものの、それぞれに関連性があります。
例えば、原価を極限まで抑えれば受注側の利益が増えますが、品質低下のリスクがあるでしょう。施工管理の任務は、4つの管理をバランス良く調整しながら、可能な限り原価を抑えつつ計画通りに完工させることにあります。
工程管理
施工計画書で定められた工期通りに進行しているかどうかを確認する作業です。工期の遅れなど問題が生じている場合は、原因を究明して解決のために調整します。
原価管理
当初の予算と、すでに発生した原価を比較して予算を超えないように管理する業務です。受注側の利益を確保するという観点から、大切な業務といえます。
安全管理
建設現場では、高所作業や重機の使用などによるケガや事故のリスクがあります。安全管理は、現場の環境を把握し、安全に施工できる体制を整える仕事です。
成果物の品質管理
設計図書通りの品質を担保できるように管理することも、施工管理の業務です。良質な品質を保てなければ、完工後のクレームにつながります。お施主様と自社の信頼関係を構築する上で重要な業務です。
工務店の施工管理が「ブラック」と言われるワケは?
工務店の施工管理は激務のイメージが強く、人手不足に悩まされています。ここでは、業界が抱える問題点について解説しましょう。
長時間労働
施工管理がブラックと言われる原因の一つに、労働時間が長くなりやすい点が挙げられます。国土交通省によると、建設業の年間実労働時間は、全産業と比較して90時間長いとのことです。
休日日数で比較しても、全産業の平均よりも少ない傾向にあります。特に、公共工事よりも民間工事を請け負う企業の休日が少なく、約半数は4週5日※以内です。※4週間の中で休日が5日
慢性的な人手不足と高齢化
建設業界全体として、人手不足と高齢化という2つの問題を抱えています。以下のグラフ・表は、建設業界における労働者数の推移と、業界全体に占める職種等の割合を示したものです。
【建設業界全体に占める職種等の割合】
1997年 | 2010年 | 2022年 | |
技能者 | 66.4% | 65.6% | 63.0% |
施工管理 | 5.9% | 6.1% | 7.7% |
55歳以上の割合 | 約24.0% | 約33.0% | 35.9% |
2007年以降、建設業界全体の就業者数が減少しています(青い棒グラフ)。その中でも施工管理の就業者数は非常に少なく、全体の10%に届きません。
また、業界の高齢化も進んでおり、2022年においては55歳以上の割合が35.9%を占めています。一方、若い世代の就業者は少なく、全体の1割程度です。
少子高齢化は日本全体の問題であるため、建設業界に限った話ではありません。とはいえ、社会のインフラを担う重要な仕事であること、一朝一夕で習得できるスキルではないことから、建設業界における高齢化は深刻な問題と言えます。
参考元:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」を加工して作成
ケガや事故のリスクの高さ
住宅の建設現場におけるケガや事故は、脚立や工具の使用、高所作業の多い大工・とび足場といった職種に多い傾向です。それらの職種に対して、施工管理のリスクは高くありません。
とはいえ、現場に出向く機会がある以上、予期せぬ事故が生じることもあるでしょう。
最近では、IT化・機械化が進み、現場の安全性が向上しています。しかし、危険なイメージを抱く方も少なくありません。
教育環境が整っていない
建設業界には「親方の背中を見て学ぶ」という風潮が残っています。現在の熟練者がそうしてスキルを習得してきただけに、後継者にも同様の方法を望むのでしょう。
建築に関する体系的な研修が実施されず、独自のOJTが行われているケースもあります。慢性的な人手不足で教育する側・される側の双方が不足しているだけでなく、教育に費やす時間的な余裕もないためです。
「将来のキャリアアップが描けない」「技術の習得が難しい」と業界を去ってしまう方も珍しくありません。
アナログな業務体制
各業界で最新技術の導入が進む中、アナログな業務体制も課題です。建設業界の中でも設計や見積もり作成など業務効率化が進む職種がある一方、施工管理は遅れをとっています。
アナログな業務体制から抜け出せない理由は、以下のようにさまざまです。
- 作業の特性上、デジタル化が難しい
- 現場での変更が多く、最新技術を導入しても手間がかかる
- 労働者の意識の問題(デジタル機器の使用に慣れていない等)
工務店の人材不足解消に向けてできること
業界が抱える課題をふまえて、工務店の人材不足解消に向けた対策を紹介します。人材不足にお悩みの方、業界の将来性に興味のある方はぜひ参考にしてください。
働き方改革
これからの建設業界では「働き方改革」が努力目標ではなく、義務に変わります。業界関係者の方は、2024年問題への対応が急務です。
2019年4月、改正労働基準法が施行されました。改正法では時間外労働の上限規制が盛り込まれ、上限規制に違反した場合は罰則が適用される恐れがあるという内容です。
労働基準法上の労働時間は、原則1日8時間・1週40時間内と定められており、これを「法定労働時間」といいます。法定労働時間を超えて労働させるには、36(サブロク)協定の締結・届出が必要です。
36協定を締結する場合、時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を定めなければなりません(臨時的・特別な事情がある場合を除く)。
また、臨時的・特別な事情があった場合でも、以下の上限を超えることはできません。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 等
上記の規制に違反した場合は罰則の恐れがあります。
建設業界では、これまで時間外労働時間の上限について適用対象外でした。
しかし、2024年4月からは規制の対象となる点にご注意ください(ただし、災害時の復旧・復興事業など例外の適用があります)。
建設DXの推進
限られた労働力を最大限に活用するには、最新技術の導入による業務効率化も必須です。業務効率化のためのツールには多くの種類があるため、自社に適したサービスを検討してみてはいかがでしょうか。
ここでは、建設業界における業務効率化の具体例を3つ紹介します。
- 高所の点検作業にドローンを活用
→人員削減、安全性の向上 - 熟練職人のノウハウを用いてAIを構築
→技術継承の円滑化 - クラウド型ツールの活用
→大量の現場写真の整理や事務作業の効率化
労働環境の整備
人手不足を解消するには、多くの方にとって働きやすい環境づくりをしなければなりません。例えば、男性だけでなく女性の就業者を増やす、などです。
総務省によると、建設業における女性の割合は約18%となり、同じ第二次産業の製造業(約30%)よりも少数派です。自社の労働環境を見直し、改善できる点がないかどうかを検討してみてはいかがでしょうか。
若手のキャリアアップ支援
建設業界に未来の担い手がいなくなれば、建物の老朽化が進み、街の景観が損なわれてゆくでしょう。将来性の高い業界だからこそ「キャリアを描けない」という理由による退職者を減らすことが重要です。
自社で研修制度を充実させる他、建設キャリアアップシステム(CCUS)を導入するのも手です。
CCUSとは、現場で働く技能者の能力・経験などを適正に評価するために構築された仕組みです。本人の保有資格や社会保険の加入状況、現場の就業履歴などをデータとして蓄積し、技能レベルの見える化を図ります。
保有する資格や経験を証明できるため、技能者が働く現場が変わっても適正な評価を受けやすくなります。システムの利用には費用がかかりますが、将来の担い手を確保するために検討してみるのも選択肢の一つです。
まとめ
工務店の施工管理は、住みやすい街づくりに欠かせない職種です。
しかし、業界では、慢性的な人手不足が深刻化しています。問題改善に向けてさまざまな取り組みが行われているため、少しずつ労働環境が改善されつつあるのも事実です。
政府による働き方改革の推進もあり、今後、さらなる環境改善が期待されるでしょう。