【不動産判例ファイル】地主が印鑑証明を拒否したら…仲介手数料は返ってくる?
投稿日 : 2026年02月28日

不動産取引は人生の大きな節目。しかし、そこには目に見えない多くの落とし穴が潜んでいます。「契約書に書いてあるから大丈夫」と思っていたことが、思わぬ解釈の違いで白紙になってしまうことも……。
本シリーズでは、実際に起きた裁判事例をもとに、不動産トラブルを未然に防ぐための知恵を分かりやすく解説していきます。
本シリーズでは、実際に起きた裁判事例をもとに、不動産トラブルを未然に防ぐための知恵を分かりやすく解説していきます。
シリーズ:不動産判例ファイルとは?
不動産取引における「言った・言わない」「知っていた・知らなかった」の争いを、実際の判決から学ぶ連載記事です。
- 第1回:【不動産判例ファイル】地主が印鑑証明を拒否したら…仲介手数料は返ってくる?(本記事)
Table of Contents
【裁判事例】地主が「実印」を拒んだら契約はパーに
不動産業界の第一線で活躍する皆様にとって、契約書の文言一つ、手続き一段階の重みは日々実感されていることでしょう。しかし、当事者間の「当たり前」が食い違ったとき、最後に判断を下すのは過去の積み重ねられた「判例」です。
今回は、「借地権譲渡の承諾書」における印鑑の種類について。
「書面による承諾」という一見明確な条件が、なぜ契約不成立と報酬返還にまで発展したのか。不動産取引の慣行と法的解釈の境界線に迫ります。
「書面による承諾」という一見明確な条件が、なぜ契約不成立と報酬返還にまで発展したのか。不動産取引の慣行と法的解釈の境界線に迫ります。
事例の概要
不動産の売買、特に「借地権」が絡む取引では、地主さんの承諾が欠かせません。
今回の事件は、その承諾書に押すハンコの種類をめぐって、3,480万円の契約が白紙に戻り、さらには仲介会社が報酬の返還を命じられたという事例です。
今回の事件は、その承諾書に押すハンコの種類をめぐって、3,480万円の契約が白紙に戻り、さらには仲介会社が報酬の返還を命じられたという事例です。
■登場人物
- 買主:X
- 売主:A
- 媒介業者:Y
- 地主:B

契約の命運を握る「停止条件」
平成9年8月に、買主Xは売主Aに手付金200万円、媒介業者Yに報酬金50万円を支払い、3,480万円で借地権付建物の売買契約を締結しました。
重要なポイントは、この契約に「停止条件」がついていたことです。
【停止条件】
平成9年10月末日までに、売主Aが地主Bから借地権譲渡の承諾書を取得すること。
平成9年10月末日までに、売主Aが地主Bから借地権譲渡の承諾書を取得すること。
「停止条件」により、もし承諾を得ることが出来なかった場合、契約は白紙となります。
【承諾が得られない場合】
- 売買契約は白紙撤回
- 金銭の返還
- 売主A→買主X:200万円の返還
- 媒介業者Y→買主X:50万円の返還
ハンコを巡る些細な対立

3,480万円という高額な取引となるため、買主Xは法的にも固い実印での捺印を地主Bに求めました。ところが地主Bは、「認め印で十分だろう」と頑なに実印での押印を拒絶しました。
このハンコを巡る対立は、ずっと平行線のまま期限が訪れてしまい契約は白紙となってしまいます。
ハンコひとつで法廷闘争へ

地主Bから借地権譲渡の承諾書を得られないまま、停止条件の期限が訪れます。
契約が白紙となったことで、売主Aは手付金200万円を買主Xへ返還しましたが、媒介業者Yは「買主Xが過剰な要求(実印での押印)をして、故意に契約を妨げた」として50万円の報奨金の返還を拒みます。
民法130条(条件成就の妨害)の解釈の相違
■媒介業者Yの主張:「妨害である」
- 契約書には「書面による承諾」としか記載がない
- 印鑑の種類の指定はない
➡実印での押印を強要したのは、契約を破棄したい買主Xによる意図的な妨害工作だ!
■買主Xの主張:「正当な権利である」
- 不動産取引の常識として、承諾書には「実印」が不可欠
- 不確かな認め印では、将来の紛争リスクがある
➡契約の妨害ではなく、自己防衛のための正当な要求だ!
東京地裁の判決は?
裁判所は「書面による承諾」という曖昧な表現に対してひとつの答えを出しました。
裁判所の最終判断
■契約書の記載について
「確かに、契約書には印鑑の種類の指定がないのは認める」
「確かに、契約書には印鑑の種類の指定がないのは認める」
■取引慣行の認定
「だけど、不動産のような高額な取引で本人の意思をちゃんと確認するためには実印+印鑑証明書を使うのは普通だよね?」
「だけど、不動産のような高額な取引で本人の意思をちゃんと確認するためには実印+印鑑証明書を使うのは普通だよね?」
■条件成就の妨害の解釈
「3,480万円という高額な取引において、買主Xが実印での押印を求めるのは我が儘でも妨害行為でもなく、正当で合理的な要求。わざと契約を潰そうとしたわけではない!」
「3,480万円という高額な取引において、買主Xが実印での押印を求めるのは我が儘でも妨害行為でもなく、正当で合理的な要求。わざと契約を潰そうとしたわけではない!」
【「書面による承諾」の法的な意味】
「書面による地主の承諾」と書いてある場合、「書面」とは、地主により実印が押捺され、印鑑証明書が添付された書面を意味する。

東京地裁の判決
不動産取引の慣例となる実印押印の正当性を主張した買主Xの勝訴となり、媒介業者Yには報奨金50万円の返還が言い渡されました。
この事例から学ぶ教訓
このハンコひとつで3,480万円の契約が消えてしまった一件から、学べることは何でしょうか。

- 「慣行」に頼らない
- みんな分かっているでしょ?と「書面による承諾」のような曖昧な表現を使用するとトラブルを招きかねません。
- 解釈の余地をなくすよう曖昧な表現は避けましょう。
- 事前の意思確認
- 細かいことこそ最初に決める!
- ハンコの種類なんて後でいいでしょ?と後回しにせず、契約をする前に実印か認め印か確認をするようにしましょう。
- 特約への明記
- 口約束で終わらせず、決めたことは全て書面に残しましょう。
- どんな小さな合意でも面倒くさがらず契約書に一行追加するようにしましょう。
媒介業務・実務チェックリスト
不動産取引の信頼は、日本では「実印」という形で物理的に証明されます。曖昧な準備は取引の崩壊と事業者の責任に繋がります。細部をしっかり詰めることが、信頼のある仕事に繋がります。
参考判例
不動産トラブル事例データベース
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