第2回【イベントレポート】不動産テック協会主催、国土交通省 基調講演「地理空間情報の活用に向けた取組」
2024年6月25日に一般社団法人 不動産テック協会主催の総会開催記念セミナーが開催されました。
今回は国土交通省 情報活用推進課の矢吹氏より、同省が開発した「不動産情報ライブラリ」というプラットフォームを基に「地理空間情報の活用に向けた取組」をテーマとした基調講演が開催されました。
国土交通省 政策統括官付 情報活用推進課(2024/06/25時点)
課長 矢吹 周平 氏
不動産テック協会とは
不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産業界の健全な発展と公共福祉の増進に貢献することを目的として、不動産テック業務に関する調査・研究や情報発信、ルールの確率、ビジネス機会を創出するイベントの開催など、さまざまな事業を行っている協会です。
2018年の発足以降、不動産テックカオスマップの公開や様々な情報発信を精力的に行っています。
不動産テックとは?
不動産テック協会では「不動産テック」を次のように定義づけています。
”不動産テック(Prop Tech、ReTech:Real Estate Techとも呼ぶ)とは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。”
地理空間情報の活用に向けた取組
国土交通省 政策統括官付 情報活用推進課 課長 矢吹 周平 氏(2024/08/05時点)
2024年4月に不動産関連の地理空間データを一元化・公開するプラットフォームである「不動産情報ライブラリ」が国土交通省よりリリースされました。発表まもなくサーバーがダウンするほどの話題となった「不動産情報ライブラリ」について、今回は開発に携わった矢吹氏が登壇され、開発に至る背景や活用イメージなどについてお話されました。
政府の取組み
人口、土地利用、行政区域、公共施設、災害リスク情報などの不動産に関係する位置情報を属性情報と合わせたGISデータ(「国土数値情報」)として整備・無償で提供していますが、近年その利用数が急増しています。引き続き、一定の精度を担保して整備し広く提供していくとともに、ニーズを把握して新たなユーザーを取り込みながら、「開かれた」「より使われる」オープンデータへと転換を進めていく予定です。
不動産情報ライブラリ内でデータ検索と管理を効率化するために物件を一意に識別するための識別子として不動産IDを設定しています。地籍調査、PLATEAU、建築BIM及び国土数値情報といったオープンデータを不動産IDをキーとして情報連携し、さらに官民が保有するクローズデータと紐付けることにより、データに基づく効率的なビジネス展開・行政政策の実施等、多分野におけるイノベーションの基盤になっていくことを期待したいと思っています。
│不動産情報ライブラリ
まず簡単に不動産情報ライブラリについて説明させていただきますと、不動産に関するオープンデータを利用者のニーズに応じて地図上に表示することができるプラットフォームになります。
特別なソフトを必要としないWebGISを採用しており、スマートフォンでも閲覧が可能となっています。特徴としては、ライブラリ上で複数のテーマの情報を重ね合わせて「見える化」することができるという点にあります。表示するデータについては民間事業者とのAPI連携を可能としていて、役所としては一歩前進した新しい取組みとなっています。
掲載情報としては公共施設や学区情報、ハザード情報、用途地域といった都市計画情報、価格情報。面白いところでは、500mメッシュでの2050年までの将来人口推計や駅ごとの1日あたりの乗降客数といった情報も見ることができます。
有難いことにリリースして2ヶ月ほどで670万以上のPV数をいただいている状況です。API利用申請者件数としては1854者。個人の方も多いですが法人の方もたくさんいらっしゃって、不動産事業者の方が多いのかなと予測しておりましたが、保険や物流といった不動産事業でない方々からもたくさん申請をしていただいています。
決して広報をサボっていたわけではないのですが、4月1日に公開した直後はひっそりとした感じになっていました。それが、4月3日にネットニュースで取り上げられると、アクセスが殺到してサーバーがダウンしてしまい、1時間ほどで復旧しているのですがダウンしたこともニュースになるなどかなりの反響をいただきました。
■利用イメージ
一般の消費者だと、子育て世帯においては学区情報、学区は道が1本違うだけで変わってしまいますから、購入等を検討しているエリアの公園やスーパー・コンビニといった周辺環境の情報収集に利用できるかなと思っています。お年寄りであれば、バス停や病院、市役所や災害時の避難施設の場所などの検索といったケースが考えられるかなと。
国土交通省では、「二地域居住」の推進も行っておりますが、土地勘がないエリアの周辺情報はもちろんですが将来の人口推計なども検索できます。自治体の行政が回らなくなってきているという現状から都市のコンパクト化を図る政策も進んでいます。立地適正化計画の情報も掲載されていますから、将来的に地価の落ちない土地選びに活用できるかなと思っています。
API利用という点では約2ヶ月で1000万以上のデータリクエストをいただいているのですが、各事業者さんがどのように活用しているのか、分析をしているのかといったところがまだ見えていないのが現状ですので、これから意見交換を重ねていって、どんなふうに世の中に貢献していけるのかといったところを検討していきたいなと考えております。
■活用事例
2024年4月5日に不動産物件ポータルサイトを運営するLIFULL社が「不動産情報ライブラリから提供されたデータを生成AIを用いて分析するツールを検討し、住所を入力すれば、当該地域の周辺施設や価格情報を解説してくれるGPTsを試作した」と発表されました。
また、LIFULL社と野村不動産ソリューションズ社で共同開発している生成AIを活用した不動産取引相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」において、不動産情報ライブラリの「不動産取引価格情報取得API」と連携した機能を実装したとのことで、データが使いやすい形で出ると、新しい付加価値をつけたサービスが展開されていくようになるのだなと思っています。いろいろなユースケースがありそうなので調べていきたいなと考えております。
複数のテーマの情報を重ね合わせて「見える化」することができるという点が大きな特徴といえる不動産情報ライブラリ。
情報が多いと見にくかったり、稼働スピードが遅かったりといったイメージがありますが、実際に使ってみると「見やすい」「分かりやすい」「スピーディー」といった非常に使い勝手のよいプラットフォームでした。
一元管理された情報をどのように活用していくかは利用者に委ねられるところではありますが、情報を制する者は戦いを制すという言葉があるように、整理された公開データを如何にサービスに活かし社会に貢献していけるかといったところが、これからの企業に求められていくところだと思います。
パネルディスカッション
パネラー:矢吹 周平 氏 国土交通省 政策統括官付 情報活用推進課 課長
パネラー:巻口 成憲 氏 不動産テック協会 代表理事(リーウェイズ株式会社 代表取締役)
矢吹氏:不動産IDについては、日本郵便と連携し同社の保有するデータを活用して建物ごとにIDを附番する情報への見直しを検討しています。
司会:日本郵便さんと連携されるのですか?
矢吹氏:不動産登記でやろうということだったのですが、役所などの未登記物件が沢山あったのと、実証事業をしている事業者さんからも住所と紐づいている方が使いやすいとお声があったので現在調整を進めているところです。
矢吹氏:都市計画の用途が多いですね。市区町村のコードとか。あとは、価格ですね。地価公示・地価調査・不動産取引価格あたりはやっぱり多いなという感じでした。あまり驚きはないですね。
司会:用途地域をAPIでガンガン叩いてる事業者さんってどういったところなんでしょう?
矢吹氏:まだ分からないので、少し落ち着いてきたら調べてみたいと思っています。
司会:巻口さんとしては、どこだと思いますか?
巻口氏:どうでしょうね。今までひとつずつ調べてたところが一箇所で取れるようになったので。今まで調べてた人たちがここに集中しただけじゃないかなと。
矢吹氏:開発は民間のシステム会社に入ってもらっていますが、運営自体は国土交通省で行っています。
司会:UIやUXというのが非常に使いやすい印象だったのですが、デザイン性みたいなものも委託会社の方で考えられたんですか?
矢吹氏:そうですね。そういうところもありますし、こちらの担当者もかなり頑張ってましたね。
司会:せっかくなので会場へのご質問なんですが、不動産情報ライブをいじってみたっていう方はどのくらいいらっしゃいますか?
矢吹氏:1/3ぐらいですかね。
矢吹氏:あんまりなかったですね。
司会:ゼンリンさんなど地図会社さんは事業が被ったのでは?
矢吹氏:背景の地図はゼンリンさんの地図を使っていて協調関係を築けたのかなと思っています。
司会:巻口さんは、民間のテック企業を代表してご意見などありますか?
巻口氏:代表というわけではないですが、うちの会社は同じような形のサービスを提供していますので、まさに民業圧迫だな!と思いながら伺っていたんですけれども。ただ、オープンデータをAPIで出していくというのは正しい方向性なので、それを再活用してより良いサービスを作るしかないかなっていうのが、民間のテック企業の意見ですね。
抵抗勢力などはありましたか?
矢吹氏:抵抗はあんまり。
司会:僕が想像で言うと、金額について業界団体からあまり相場をオープンにするなとか事例を出さないでほしいとか?
矢吹氏:すでにあるオープンデータを集めるという手法なので、そのデータの粒度は変わらないですよ。なので、そこまでの抵抗はなかったと記憶しています。
矢吹氏:苦労話は、 正直、受けるかどうかよくわからなかったところです。役所でずっと考えていると、なんだか当たり前のことな気がしてくるんですよ。すでにあるデータを見やすくしましたって。本当に世の中の人がたくさん見るんだろうかとか、グーグルマップだってあるじゃんとかですね。世の中に良いインパクトが与えられるかどうかっていう のはわからなかったですね。測りかねていました。
矢吹氏:載せる情報の頻度をもっと上げていく、新しい情報を追加するという時に、自治体の仕事はたぶん増えるんだと思うんですけど、自治体でもデータで地図情報を管理すると行政が効率化しますよね、といった良い循環をつくっていきましょう!というふうにはしていかないといけないと思っています。
矢吹氏:いろんなところから 話題になってるねとお話をいただきました。 先月はNHKに取材をしてもらって、インタビューをしてもらったんですけど、いっぱい知り合いから出てたね、と。
矢吹氏:あの時との違いはいくつかあると思うんですけど、あの時は ターゲットが宅建業者さんの重要事項説明に足りうるかみたいなところから入っていって、どうしてもシステム上のタイムラグがあるので、そこがなかなか 乗り越えられなかった。もう一つは世の中のオープンデータがそれほど潤沢じゃなかった。あれから十年でかなり変わってきたので、使えるデータが増えたということと、誰でも(データに)触れられる環境になっていたり。
司会:APIの公表がすごいなと思うのですが、やはり民間からぜひAPIでっていう要望が多かったのでしょうか?
矢吹氏:具体的な要望というよりは、やっぱりデータを見せるんだったら出そうよと。税金で作っているデータはやっぱり反映していきましょうっていうのがやや普通になったってことかなって思いますね。
矢吹氏:まだあまり考えられてないですね。その地域生活圏をライブラリに載せるのにいくつかプロセスがあるんですけど、ちゃんとその場所が確定しているということが大事なのと、それがデータになっているということが大事なのでデータが整備されてきたら載せていきたいなと考えています。
矢吹氏:例えば仲介事業者さんや宅建事業者さんだと、 一般の消費者さんも不動産情報ライブラリを見て店舗に行くことが普通になると思うので、その先の専門家ならでは、地域ならではの助言、アドバイスっていうものを期待したいですね。データを使ってらっしゃる方々は、やっぱりまずは使ってもらいたいというのが一番。こういうデータがあるといいとか使い勝手とかご意見をいただきたい。役所だけのアイデアで良いサービスになることが難しい業種領域だと思うのでぜひご意見をいただきたいですね。
司会:ちなみに巻口さんがテック側として、こういうデータだしてほしいとか、どういうデータがオープンになるといいと思いますか?
巻口氏:昔から言ってますけど、動作も取り組ませるから、ちゃんと使えるものにして出してもらいたいっていうところですね。
矢吹氏:情報のリフレッシュをちゃんとやるということが多分大事だと思いまして、あるとすると災害系の情報で使えるオープンデータがあれば載せていきたいなと思っています。
矢吹氏:自治体で都市計画が変わった瞬間に反映するのが理想的ですが、今できることは「いつ更新されたか」を公表することです。正確性については、どこまでの正確性を必要とされるかによると思っています。
矢吹氏:企画をして、準備して、予算を取って。3年半ですかね3年4年弱ぐらいですかね。
司会:ちなみに開発予算ってどのくらいだったんでしょう?
矢吹氏:3億円くらいですかね。
矢吹氏:犯罪情報も意味があると思って調べたのですが、一部の犯罪データはあったものの全ての犯罪を網羅したオープンデータがなかったんですね。交通事故情報についてもデータはあるものの全国の自治体でデータ様式が違っているので、これからどうしていこうか、考えていこうかなというステージになっています。
司会:犯罪に関しては不動産、行政、その土地の住民から街のイメージに影響するから待ってくれと言われそうですが?
矢吹氏:いろんなご意見はあると思いますけど、(掲載するのは)オープンデータになっているものなので。ただ、税金を投じてどこまでやるのかという議論は必要だと思っています。
まとめ
今回の基調講演は、地理空間データの統合プラットフォームである不動産情報ライブラリの有用性についてのお話でした。信頼性の高いデータを複合的に、誰でも簡単にアクセスできる環境は、一般の消費者の検索利便性を高め、不動産取引の透明性が向上することになるでしょう。
また、効率的にデータを活用できるようになることで行政の都市計画やインフラ整備なども促進することが期待できます。民間企業においては、新しいサービスやビジネスモデルの構築などが進むことになると思います。
不動産情報ライブラリは、多様な利用者に対して幅広い活用の可能性を提供し、日本社会のさまざまな課題解決に貢献する有望なツールと言えます。今後、データ駆動型の社会が実現し、経済の活性化と社会全体の発展に寄与していくことでしょう。
不動産事業に携わる方はぜひ、不動産情報ライブラリにアクセスして、その有用性を確かめてみてください。
│不動産情報ライブラリ
国土交通省が提供する地理空間データの統合プラットフォーム
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/
│PLATEAU
国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト
https://www.mlit.go.jp/plateau/
│AI ANSWER Plus (ベータ版)」
野村不動産ソリューションズ株式会社と株式会社LIFULLが共同開発したチャット型コミュニケーションの相談AIサービス
https://www.nomu.com/answer/