第10回【イベントレポート】不動産CVCナイト

MytePro Technology Japan株式会社 大島 洋 氏
野村不動産ホールディングス株式会社 榎本 英二 氏
東急不動産ホールディングス株式会社 月足 光 氏
が、2025年2月13日に一般社団法人 不動産テック協会主催にて開催されました。
昨今、事業会社のCVC活動への注目が高まっています。DX化が叫ばれるなか企業を取り巻く環境は凄まじい勢いで変化しています。今回のイベントでは、CVC活動を行っている事業者が登壇し、各社がCVC活動で目指すことについてお話されました。
Table of Contents
不動産テック協会とは
不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産業界の健全な発展と公共福祉の増進に貢献することを目的として、不動産テック業務に関する調査・研究や情報発信、ルールの確立、ビジネス機会を創出するイベントの開催など、さまざまな事業を行っている協会です。
2018年の発足以降、不動産テックカオスマップの公開や様々な情報発信を精力的に行っています。
CVCとは

一般的なベンチャーキャピタルが、さまざまな分野のベンチャー企業を投資対象とするのに対し、CVCは投資・支援活動・協業を通して自社事業へのシナジー効果や成長を目的としています。そのため、自社の事業内容と関連性が強い企業や、進出したい領域に強い企業へ投資する傾向にあります。
基調講演:デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社

小池 俊光 氏
挑戦する人とともに未来をひらく
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社はデロイトトーマツグループの社内ベンチャーとして立ち上がったイノベーションファームです。「挑戦する人とともに未来をひらく」をミッションに、スタートアップ支援・大企業イノベーションコンサルティング・官公庁や自治体との連携によるイノベーターの育成支援を軸に、イノベーションを加速させるための事業を行っています。
戦略リターンと財務リターン
自社事業へのシナジー効果や成長など、自社の戦略的目標に対して非財務的な利益や価値をもたらすリターンのこと。
キャピタルゲイン(株式の評価上昇分)やインカムゲイン(利益分配)、投資先企業のIPOやM&Aによる収益といった投資した資金に対する金銭的な収益によるリターンのこと。
CVC全般の統計として、海外CVCは比較的財務リターンが有利か、両リターンを等しく重視する傾向にありますが、日本のCVCは戦略リターン重視のアプローチという傾向があります。
日本のCVCが重視する「戦略リターン」とは、何を指すのか?
- 情報収集目的
- 既存事業の拡大・新規事業の投資
主に、この2つに取り組まれています。
CVCに特化したトレンドも同じような傾向であるといえ、2024年の統計が取り切れていないのですが、おそらく2023年よりも上がるのではないかと思われています。
国内CVCの設立件数は、直近は少なめになっていますが、大きな流れでは伸びてきています。投資トレンドは、投資者数がかなり増大しており、投資額が一定水準を保っているので一件当たりの投資額が小さめになってきているのかなという傾向が見て取れます。
不動産テック分野への投資状況
国内についてはグローバルからだいぶ遅れて投資が増えてきたかなという印象です。2016年、2017年と日本にまだ不動産テックという言葉が浸透していない時期は少ない状況で、2022年頃から急にどんどん増えてコロナの後に注目を浴びた分野なのかなと思います。
括りずらいとこでもありますが、グローバルのリアルエステートテクノロジーの分野ではBtoC領域(生産性向上などに寄与するところ)が金額・件数ともに多くなっています。
日本で同じデータを取ると、ソフトウェアや業務効率化といったDXの延長にあるような分野が特に注目されています。
結果として、皆さん投資先が類似してしまい、特徴が出ずらくなってしまって株価に反映しにくいといった傾向があり、このあたりが課題だと感じています。
MytePro Technology Japan株式会社

大島 洋 氏
革新的なテクノロジーとオープンなエコシステムで不動産業界に力を与える
ディベロッパー、ゼネコン、アセットオーナー向けに幅広く製品とサービスを提供し、投資、建設、マーケティング、運営、管理の分野におけるデジタル変革を促進している同社。
業界のパートナーと協力し、アプリケーションソフトウェア、業界調査、管理トレーニング、デジタルコンサルティング、ソフトウェア開発および運用保守サービスの提供を通して不動産DXの
イノベーション促進を支援しています。
スマートエージェント
スマートとは、「すっきりしている様」「賢い」という意味があります。IT分野における「スマート」は後者の「賢い」という意味あいで用いられています。
■IT分野における「スマート」の特徴
- インターネットに常時接続されている
- リアルタイムで状況に応じた対応や変化が可能
- スマートフォンやタブレットなどの端末と連携し、遠隔操作が可能
- IT関連のコアデバイスとして効率的・高品質なサービスを提供する
<スマートバッチで出来ること>
- お客さま情報の表示
- お客さまとの会話をテキストベースで書き出し
- お客さま情報と会話の内容からベストな物件をAIが提示
- バッチとモバイルが連動しているため、遠隔地にいる上司からの指示も瞬時に連携
全てのデータが自動で残るため、入力の手間がかかりません。究極の業務効率化を実現することができます。
スマートヘルメット
弊社はこうしたスマートエージェントの製品開発・販売を行うと同時に、投資事業も行っており、不動産のデジタル化分野に焦点を当てて累計投資金額10億円を達成しました。MyteProは、日本のProptech企業様と多様な協業モデルが実現できるとおもっています。不動産・建設業界をDX推進するためにも、ぜひパートナーシップを構築していけたらと思っています。
野村不動産ホールディングス

榎本 英二 氏
まだ見ぬ、Life & Time Developerへ
2030年ビジョンとして「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」を掲げており、単に「不動産」を提供するのではなく、そこでの暮らし、働き方や生活の仕方、買い物、スポーツといった様々な生活“Life”や一人ひとりの過ごす時間“Time”を軸として新たな価値創造を目指しています。
デジタルを使って価値を創造しよう!
オープンイノベーションの事例として「Techrum(テクラム)」というものを紹介します。これは、荷主・物流企業の“物流課題解決”のための「企業間連携型 物流DX推進プラットフォーム」で、112社(2025/1時点)の共創パートナーがいます。
株式会社IHIと当社で大規模物流施設『Landport横浜杉田』において、立体自動倉庫の「シェアリングサービス」と自動化機器の「レンタルサービス」の提供をしています。倉庫というのは年間を通して常に同じ物量の荷物が倉庫に保管されているということはなく、MAXの保管量に合わせて借りています。閑散期における未利用分にムダが発生している現状があるので、ここに立体・自動というテクノロジーを入れて荷主さんや3PMの方が”最適”を追求できるようにしています。”最適”を目指すとおのずと自動化機器のレンタルサービスといったものも生まれてきます。これが、ひとつの共創です。
共創と協業
資本提携を伴わないベンチャークライアントモデル。資本提携を伴わなくても、良いサービス・良い思いつき、こういうことをやってみたい、という方と手を組んでいます。プレスリリース済みですと6社ほどありますが、リリースしていない会社とも20社ほど協業をしています。
何を目的に投資をするのかということを社内で議論した時に、様々な意見がありました。結論として、まずは協業をしていきましょう!となりました。協業をした上で、この会社とは戦略的に資本提携した方が良いとなったら、ある程度大きな単位で投資をさせていただきたいと考えています。
当社が投資をする場合、この会社とは本当に資本提携したいという会社についてはIRRが10%あるから、ないから、出口がどうだという話ではなく「やる」と切り替えて投資をしています。
野村不動産ホールディングスは不動産業としてやっていますが、冒頭にお話したように6つの事業がそれぞれの専門の独立した会社があるといった規模感でやっています。同じプロダクトでも、それぞれの分野で活躍させることもできると思います。それぞれの分野で上手くいくように、協業をさせていただきたいなと思います。
東急不動産ホールディングス株式会社

月足 光 氏
価値を創造し続ける企業グループへ
既存事業の改革や新規事業の創出といった新しいビジネスモデルの創出を目指して、1.事業連携、2.CVC活動、3.インキュベーションサポートの3つの機能を元にグループ内外で連携を図りイノベーションを創出させています。
東急不動産ホールディングス、2つのビジネス
そこで、イノベーション戦略としてスタートアップ企業と各事業の橋渡しを行い事業連携を強化させています。この事業連携を加速させる機能としてCVCを位置づけていますが、あくまでも事業連携を作っていきたいという思いでCVCを行っています。
事業連携を目指したファンド
我々は2号ファンドまで組成しましたので、紹介します。
■1号ファンド | |
設 立 | 2017年10月(運用期間10年) |
投資規模 | 50億円 |
投資数 | 37社 |
そのため、業種や業界、投資ステージの縛りというものを設けず、幅広い領域に投資しているというのが特徴となっています。
既存事業の革新というのはもちろん、そこからどれくらい染み出していけるか。いかに新しい事業をスタートアップの皆様と作っていけるかというところが論点になってくるのかなと思います。
DXコンサルやITサービスの自社開発を行っているアルサーガパートナーズさまと業務効率の連携をしました。東急リバブルにおけるSNS投稿業務の効率化に生成AIを導入するというもので、作業時間を約80%削減、SNS投稿件数を4倍程度に拡大することができました。
CVC出資先と新規事業を作った事例です。NFCタグを活用し、街でスタンプラリーやクーポンを配布することで街中でお客さまがどのように動いているのかというデータ収集し「こういう施策を打ったら人はこう動く」ということをデータ化。それを基に次の企画に活かしていこうというものです。サービス導入から新規事業に繋げられた事例となります。
┃協業事例〔3.Nature Innovation Groupさま〕
東急不動産HDが所有する物件を中心に100カ所以上のシェア傘スポットを設置しました。傘のいらない街 渋谷」と題うちまして、サスティナビリティ推進部が連携を進め環境貢献に取り組んだ事例になっています。
■2号ファンド | |
設 立 | 2025年1月(運用期間10年) |
投資規模 | 50億円 |
大前提としてスタートアップ企業とはWin-Winな関係を築いていくことが長期的な関係性を構築していくうえでも重要だと考えています。最終的なゴールとして、スタートアップ企業と新規で何か共同開発ができているとすごく嬉しいなというふうに考えております。
パネルディスカッション

ただ、ベンチャーをやっている皆さんもそうだと思いますけど、IRRが10%もいかない事業に自分の人生をかけるということはないんじゃないのか?と思っています。なので、リターンについてひと言で答えろと言われたら、それは10%となりますね!
大島氏:我々はこれからですが、海外の企業を日本に招待するツアーがあります。そこでいろんな企業との素地ができあがった段階で日本事務所を立ち上げています。
まとめ
日本のCVCは戦略リターン重視の傾向があり、今、不動産テック分野への投資が活発化しています。各社とも「財務リターン」より「協業・共創」を重視し、単なる出資ではなく、Win-Winの事業連携を通じた価値創造を目指す姿勢が共通していました。
不動産×テクノロジーの組み合わせによる新たな価値創造の波が広がっています。各社の戦略的投資と協業から生まれるイノベーションに、大いに期待が高まります。
関連情報
https://retechjapan.org/
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtvs/dtvs.html
https://www.mytepro.com/jp/
https://www.nomura-re-hd.co.jp/
┃東急不動産ホールディングス株式会社
https://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/