外国人との不動産売買契約はトラブル多発?今後の課題や注意点を解説

投稿日 : 2023年07月18日

外国人による日本の不動産購入の需要は増加傾向です。

多様化するニーズに応えるべく、自社での対応を検討している方もいるのではないでしょうか。しかし、言語や商慣習、法律の違いなどから、通常の不動産取引よりもトラブル発生のリスクが高くなります。

今回は、外国人の不動産購入時に生じやすいトラブルとその対策、取り引きの手順など不動産事業者として知っておきたい情報をまとめました。

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外国人による不動産購入の増加

外国人による日本の不動産購入が増加しています。その背景には、大きく分けて以下3つの要因があります。

  • 海外投資家からの注目の高まり
  • 在留外国人の増加
  • 中国系の個人や企業による爆買い

一つ目は、安定した利回りを求める海外投資家からの注目度が高まっていることです。世界的に見ても日本の不動産市場は規模が大きく、人口流入を期待できる大都市が複数あります。特に東京、大阪、名古屋の大都市圏は海外投資家から人気です。

二つ目は在留外国人の人口増加です。2022年末時点の在留外国人は約307万人となり、過去最高を更新しました。

昨今のニュースで大きく報道されている通り、日本の人口は10年以上連続で減少し続けています。その一方で、在留外国人の人口は増加傾向です。国別に見ると、中国が最多、続いてベトナム、韓国となりアジア諸国の外国人が多くを占めています。

在留外国人は賃貸住宅や会社の寮、公営住宅で暮らすケースが多数派ですが、持ち家派も一定数います。また、現在賃貸住宅で暮らしている方の中には持ち家志向の方も多く、将来的な需要も期待できるでしょう。

最後に、中国系の個人や企業による広大な土地の爆買いです。こちらは上述2点とは異なり、日本にネガティブな影響を与えかねません。

従来、日本では外国人による土地や建物の取得、活用に規制がありませんでした。

しかし、安全保障上のリスクが高まったことから、2022年に重要土地等調査法が施行されました。これは、不適切な目的で日本の土地を利用されるリスクを減らすための法律です。

重要土地等調査法の施行によって、一部地域の不動産購入時に届け出が必要になった他、利活用の規制が強化されました。とはいえ、同法律は購入事態を制限するものではなく、一般的な不動産の購入に大きな影響はありません。

以上3つの要因によって、一昔前よりも外国人による売買取引は増えており、今後も需要の拡大が期待できるというわけです。

【参考元】
出入国在留管理庁 令和4年末現在における在留外国人数について
総務省統計局 人口推計(2022年10月1日現在)結果の概要
国土交通省 令和2年度 海外投資家アンケート調査業務報告書

外国人との不動産購入における課題

外国人による不動産購入の需要が高まる一方で、外国人の売買取引に対応している不動産事業者は多くありません。

言語の壁や商慣習の違い、金銭のやり取りなど複数の課題があるためです。ここでは、外国人との不動産購入における課題と対策について解説します。

外国語言語に対応可能か

外国人の顧客に対応する上で最大の課題は、言語の壁です。不動産事業者としてどのように対応すべきでしょうか。

英語や中国語など、世界的に見て多数派の言語で対応することも選択肢の一つです。ただし、日本における在留外国人の実態を考慮した場合、相手に合わせた柔軟な対応が求められます。

例えば、日本で暮らす外国人への対応として、必ずしも英語や中国語がベストな選択肢とは限りません。在留外国人は、韓国、ベトナム、ネパール、ブラジルなど多くの国々から来日しており、それぞれ母国語が異なります。

また、相手によって日本語の理解度はさまざまです。日常会話を問題なくこなせる方にとっては、英語よりも「分かりやすい日本語」のニーズが高いと言えます。外国人=英語、中国語と一括りせず、相手に合わせて柔軟に対応するとよいでしょう。

とはいえ、不動産取引では、日本人にとっても難解な専門用語が用いられます。トラブルが発生するリスク軽減の観点から、通訳を通してコミュニケーションを取るケースが一般的です。

外国語対応のHP作成

日本の不動産購入を希望する外国人の多くは、情報収集に苦労しています。不動産取引に関して、日本語以外の情報が少ないためです。自社の公式サイトを活用して、多言語で情報発信するのもよいでしょう。

ただし、日本の在留外国人は多国籍化しています。全ての言語に対応するのは大変です。日本に住んでいる方が対象であれば、ふりがなを振る、一文を短くするなど、簡単な日本語を用いて情報発信するのも手段の一つです。

海外不動産や金融機関との連携

外国人との不動産取引では、日本との法律の違いや物理的な距離なども課題になります。

法律による違いの具体例として、賃貸借契約が挙げられます。投資目的で不動産を購入する場合、購入後に入居者へ賃貸することになるでしょう。日本の賃貸借契約では普通借家契約が主流ですが、海外では定期借家契約に類似する契約形態が一般的のようです。

普通借家契約では、借主保護のため貸主からの契約解除が容易でないなど、定期借家契約との違いをしっかりと説明する必要があるでしょう。

また、買主が国内に口座を開設していない場合、海外送金で決済します。海外送金は国内送金よりも日数がかかるため、所要期間を確認しておかないと支払い遅延、期日までに登記できないといったトラブルが生じる恐れがあるでしょう。

外国人と不動産契約をする際に起こりうるトラブル

外国人との不動産取引で生じやすいトラブルを把握しておくと、リスク回避に役立ちます。取引の仲介や代理をする際に、事業者として知っておきたいポイントをまとめました。

意思疎通がうまくいかない

母国語や文化が異なる相手とのコミュニケーションは、容易ではありません。こちら側の意思が伝わらない状態で手続きを進めると、「話が違う」などクレームにつながります。対策として以下2点が挙げられます。

  • 通訳を通してコミュニケーションを取る
  • 日本語と併せて相手の母国語で各種書類を作成する(原本は日本語)

言語だけでなく、商慣習や法律の違いについても配慮しなければなりません。相手の理解度に合わせて、ていねいに説明することが大切です。トラブルが生じやすい商慣習の違いとして、依頼時の契約形態の違いや登記に関するものがあります。

日本の不動産取引では媒介での依頼が一般的ですが、海外では代理が一般的な国もあります。媒介と代理の違い、専任媒介と一般媒介の違いなど細かく説明しておくとよいでしょう。

また、日本では土地と建物を別々に登記できますが、海外では建物単独での登記が認められていない国もあります。登記簿上の面積と実際の面積が異なるケースがあり、混乱する方もいるようです。日本の登記制度についても詳しく伝えておくと、トラブル防止につながります。

契約内容の理解度が図れない

母国語が異なる場合、相手が契約内容を理解しているかどうかの判断が難しいケースもあります。あくまでも一例ですが、外国人が混乱しやすいポイントをまとめました。取引を円滑に進めるために、早い段階で伝えておくとよいでしょう。

  • 購入までの全体フロー
  • 媒介と代理の違い
  • 登記の仕組み
  • 購入時、保有時の税金
  • 売買代金以外の費用の内訳や金額
  • 必要書類
  • 専有部と共用部の違い(分譲マンション)
  • 管理費や修繕費の徴収(分譲マンション)
  • 普通借家契約における貸主の留意点

銀行口座開設ができない(非居住の場合)

外国人でも日本の銀行口座を開設できます。ただし、在留カードや運転免許証など本人確認書類の提示を求められるため、日本国内に住所がない方の口座開設は難しいでしょう。

また、口座開設できたとしても、非居住者※による送金は国際送金扱いになる可能性が高いです。外国人による手続きには時間を要するため、口座開設の可否、海外送金時の対応について早めに確認しておきましょう。
※外国に住んでいる方、日本に入国して6ヶ月未満の方など

決済がスムーズに進まない

海外送金の場合、国内送金よりも日数がかかります。引き渡し日の設定は余裕を持たせることが大切です。支払い遅延などを防ぐために、事前に不動産会社の口座に送金してもらい、不動産会社の口座から売主へ国内送金するケースが一般的です。

外国人が日本で不動産を購入する際に必要な書類

外国人が日本で不動産を購入する際の必要書類は、日本に住所があるかどうか(住民票の発行可否)で異なります。場合によっては書類の準備に時間がかかるため、事前に確認しておきましょう。

日本居住、もしくは在留資格がある場合

日本に住所がある方、中長期での在留資格がある方の必要書類は以下の4点です。

  • 本人確認書類(在留カード、運転免許証、パスポートなど)
  • 住民票
  • 印鑑証明書※
  • 印鑑※
    ※ローンを組む場合

特別永住者、中長期滞在者(在留期間3ヶ月超え)の場合、住所がある市町村の窓口へ申請すると外国人向けの住民票を取得できます。また、住民票を取得できる方は、印鑑証明書の取得も可能です。

日本に居住していない、もしくは在留資格がない場合

海外在住の方や中長期での在留資格がない方は、住民票・印鑑証明書を取得できません。その代わりとして、以下2点を準備します。

  • 宣誓供述書(住民票の代用)
  • 署名(サイン)証明書(印鑑証明書の代用)

宣誓供述書や署名証明書は、該当する文書の内容について真実である旨を証明するための書類です。本人が公証人の前で宣誓し、公証人の認証を受ける必要があります。

宣誓供述書は該当文書の住所や氏名などが真実であることを証明する書類、署名証明書は該当文書の署名が本人のものであることを証明する書類です。

書類の取得方法については、本人の母国や来日の有無などで異なります。手続きが複雑になるため、外国人の取引に慣れている司法書士へ相談しておくことをおすすめします。

外国人の不動産購入の流れ

外国人における不動産購入の基本的な流れは、一般的な不動産取引と同様です。

  1. 相談を受ける
  2. 物件の紹介・内覧
  3. 申し込み
  4. 重要事項説明
  5. 不動産売買契約
  6. 決済・引き渡し

ただし、契約手続きを円滑に進めるために、在留資格や支払い能力について早い段階で確認しておくことをおすすめします。また、非居住者の場合は、納税管理人の選定や外為法への対応も必要です。

納税管理人とは、本人に代わって納税手続きをしたり、税務署からの書類を受け取ったりする人です。非居住者の場合、購入時にかかる各種税金や保有時にかかる固定資産税などの管理のために、納税管理人を選任しなければなりません。

また、外為法(外国為替及び外国貿易法)という法律があり、非居住者が日本の不動産を取得した場合は取得後20日以内に「本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」を提出する必要があります。対象の取引は、非居住者による投資目的の購入です。

なお、こちらの報告書は、仲介業者などによる代理での作成・提出も可能です。書式の詳細は日本銀行の公式サイトでご確認ください。

外国人に不動産を売買する際の注意点

不要なトラブルを回避しつつ、取引を円滑に進めるには事前の情報収集が必須です。外国人に不動産を売買する際の注意点を3点紹介します。

本人確認は念入りに行う

宅建業者には、マネー・ロンダリングやテロ資金対策として、売買契約の締結、代理、媒介を行う際に顧客の本人特定事項を確認する義務があります(犯罪による収益の移転防止に関する法律より)。余計なトラブルに巻き込まれないためにも、本人確認を念入りに行いましょう。

保証人などを付け、滞納対策を行う

日本の銀行口座を開設できない方が分譲マンションを購入する場合、管理費・修繕費の滞納トラブルが生じるリスクがあります。滞納を避けるために保証人を確保するなど、事前に対策をしておきましょう。

通訳を依頼する場合は、不動産取引実績がある人を雇う

日本語での意思疎通が難しい場合、説明の大部分を通訳に依存することになります。不動産事業者の意図や契約内容を正確に伝えてもらうために、不動産取引に知見がある方へ依頼しましょう。

また、トラブル防止の観点から、契約書などへの各種署名は、顧客だけでなく通訳にも依頼しておくと安心です。

まとめ

外国人による不動産の購入は、今後も高い需要を期待できます。顧客の幅広いニーズに対応するために、情報収集やワークフローの確認などをしておくとよいでしょう。

顧客が外国人の場合、日本語の理解度や日本での住所の有無などによって、対応の難易度が異なります。必要に応じて、通訳や司法書士、市町村の担当者などと連携しながら進めることも大切です。

この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。