「委任者」とは誰のこと!?|受任者・代理人との違いや権利義務について紹介
今回は、宅建試験の試験範囲である「委任契約」について解説します。
委任契約は、不動産取引においてよく用いられます。宅建業者が行うお客様の「代理」や「媒介」でも、お客様と委任契約を結びます。そのため、宅建士の業務には必須の知識です。
しかし、試験分野としては、例年それほど重要度は高くありません。ただ、2020年の民法改正に関わる箇所のため、出題される可能性も考えられます。
試験勉強としてもスキルアップとしても有益な知識ですので、効率よく学習しましょう。
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」の解説
委任契約とは
裁判での弁護や不動産登記などの専門的な知識が必要な行為を、個人で行うのが難しい場合に専門家に依頼し、代わりに行ってもらうことがあります。
このように、本来は本人が行うべき事柄を、他者に依頼して代わりに行ってもらうことを「委託」と言います。法律行為の委託を「委任」と言い、委任をする人を「委任者」、委任される人を「受任者」と言います。
委任は、委任者と受任者の間で交わされる「委任契約」により成立します。委任契約は、宅建業者がお客様の代理や媒介・仲介をする際にも交わされる契約です。
委任契約は、当事者同士の意思表示のみで成立するため、書面による契約は必須ではなく、口頭による約束で足りるとされます。
また、法律以外の事務処理の委託を「準委任」と言います。
・委任と代理の違い
代理は、本人が相手方のいる法律行為を行う場合に代理人を立て、代理人が本人に代わって相手方とやり取りすることを指します。つまり、本人・代理人・相手方の3人の当事者が前提となります。また、法定代理のように、必ずしも本人の委任を前提とする関係ではありません。
一方、委任とは、本人の依頼する意思が前提であり、ある行為を頼む人と頼まれる人の2者のみの関係を指します。
・委任と請負の違い
委任と請負の違いは、仕事の完成義務があるかどうかです。
委任は、委任者が望む行為を受任者がその通りに行えば、委任者の望む結果が得られなくても義務を果たしたことになります。例えば、弁護士に裁判での弁護の代理を依頼するのは委任契約となりますが、弁護士がたとえ敗訴しても弁護士報酬は支払われます。
一方、請負には仕事の完成義務があります。例えば、ボールペン500本の製造を請け負った場合、受注者はボールペンを500本納品して初めて、発注者から代金を受け取る権利を得ます。
委任者・受任者の権利義務
委任契約の当事者である委任者・受任者の権利義務は、以下の通りです。
委任者の権利義務 | 受任者の権利義務 | |
報酬 | 特約がなければ、受任者に報酬を支払う義務はない | 特約がなければ、委任者に報酬を請求する権利はない |
事務処理の費用 | 事務処理にかかる費用を受任者に支払う義務がある(後払いなら利息も含む) | 事務処理に必要な費用の前払いを委任者に請求できる。後払いなら利息も請求できる |
注意義務 | 特になし | 委任者の意向に応え、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(善管注意義務) |
報告義務 | 特になし | 委任者の請求があるときや委任終了後に、事務処理の状況や経過・結果を報告する義務を負う |
損害時の賠償義務 | 受任者に過失なく事務処理について損害が生じたとき、損害賠償義務を負う | 委任者に引き渡すべき金銭を自己のために消費したときは、消費した日以後の利息を支払わなければならず、なお損害があるときは賠償責任を負う |
委任契約の終了
委任契約は、両当事者がいつでも解除することができ、解除理由は問われません。
ただし、相手方に通知するか相手方が解除の意思を知っている場合でないと、解除は認められません。それまでは、委任契約上の義務を負います。
また、以下の場合には、解除を申し出た者は、やむを得ない事由がない限り、相手方に生じた損害を賠償しなくてはいけません。
◆解除した者が損害賠償すべきケース
- 相手方に不利な時期に委任を解除した場合
- 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)を目的とする委任を解除したとき
◆解除以外の契約終了条件
解除以外に当事者による委任契約が終了するのは、以下の場合です。
- 委任者または受任者の死亡
- 委任者または受任者の破産
- 受任者の後見開始
※委任者が後見開始となっても、委任契約は終了しない
委任契約は、当事者同士の信頼関係の上に成り立っていることから、これらの事由が終了条件となります。
ただし、委任契約が終了していても、差し迫った事情がある場合には、受任者は委任事務が完了するまで必要な処理を続けなくてはいけません。
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」に関連する法律
この項目に関連する法律は以下のとおりです。
民法 (令和2年4月1日施行)
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。 2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。 3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。 二 委任が履行の中途で終了したとき。
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。 2 第六百三十四条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。 二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。 |
実際に過去問を解いてみよう
問題:
民法上の委任契約に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
- 委任契約は、委任者又は受任者のいずれからも、いつでもその解除をすることができる。ただし、相手方に不利な時期に委任契約の解除をしたときは、相手方に対して損害賠償責任を負う場合がある。
- 委任者が破産手続開始決定を受けた場合、委任契約は終了する。
- 委任契約が委任者の死亡により終了した場合、受任者は、委任者の相続人から終了についての承諾を得るときまで、委任事務を処理する義務を負う。
- 委任契約の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、相手方に対抗することができず、そのときまで当事者は委任契約上の義務を負う。
答え:3.×
解説
1.○(民法651条)
2.○(民法653条)
3.×(民法653条)委任者の死亡をもって委任契約は終了するので、相続人の承諾がなくても、委任された業務の処理義務は残りません。
4.○(民法655条)
宅建受験者はここをチェック!
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」の試験科目
権利関係
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」が含まれる試験分野
委任
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」の重要度
★★☆☆☆ 不動産仲介業において行う契約のため知識として必須
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」過去10年の出題率
0%
2023年宅建試験のヤマ張り予想
この分野の問題は、ここ10年出題されていませんが、2020年の民法改正点が含まれるため、出題される可能性は例年より高くなります。
ただ、今回の改正は変更点がかなり多いため、他の重要な改正点が優先され、委任に関しての出題は見送られる可能性もあります。
また、過去に出題された問題の傾向を鑑みると、出題方法のバリエーションは狭く、基礎知識だけで得点しやすい分野です。
そのため、試験時期が近づいてきたら何度か目を通しておく程度で問題ないでしょう。
宅建士を目指している方は「目指せ!宅建士への道」を参考にしてみてください。
「委任契約の概要/委任者・受任者の権利義務」ポイントのまとめ
この項目で押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 委任とは、本来は本人が行うべき法律行為を代わりに行うよう他者に依頼することである
- 法律以外の事務処理の委託を「準委任」という
- 受任者は、特約がなければ、委任者は報酬を請求する権利を有しない
- 委任者には、事務処理にかかる費用を受任者に支払う義務がある
- 受任者は、委任者の請求があるときや委任終了後に、事務処理の状況や経過・結果を報告する義務を負う
- 委任契約は、両当事者がいつでも解除できる
- 委任者または受任者が死亡または破産した場合、委任契約は終了する
最後に
今回のテーマである「委任契約」についての知識は、宅建試験の試験範囲としてはそれほど重要ではないかもしれません。
しかし、宅建士になったら日々の業務で日常的に取り扱うことになるため、大事な知識です。自分が宅建士として業務にあたるところを想定しながら勉強すると、習得が早いでしょう。
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