第3回【イベントレポート】不動産テック協会主催「不動産テックカオスマップ 最新版(第10版)発表セミナー」

投稿日 : 2024年09月23日

2024年8月28日に一般社団法人 不動産テック協会主催の不動産テックカオスマップ最新版(第10版)発表セミナーが開催されました。また、株式会社NTTデータ経営研究所シニアマネージャーである 川戸 温志氏も登壇され、この1年間で不動産テック業界のトレンドがどのように変化したか、またこの先どのように変化していくのかといった講演が行われました。

登壇者
株式会社NTTデータ経営研究所シニアマネージャー  川戸 温志 氏
不動産テック協会代表理事  巻口 成憲 氏(リーウェイズ株式会社 代表取締役)
不動産テック協会理事  浅海 剛 氏(株式会社コラビット 代表取締役社長)
不動産テック協会代表理事  滝沢 潔 氏(株式会社ライナフ 代表取締役)

 

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不動産テック協会とは

不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産業界の健全な発展と公共福祉の増進に貢献することを目的として、不動産テック業務に関する調査・研究や情報発信、ルールの確率、ビジネス機会を創出するイベントの開催など、さまざまな事業を行っている協会です。
2018年の発足以降、不動産テックカオスマップの公開や様々な情報発信を精力的に行っています。

不動産テックカオスマップとは?

日本の不動産テック業界の全体像を視覚的に表現したもので、不動産テック協会が毎年作成し、業界のトレンドや新しいサービスの登場を把握するツールとして親しまれています。不動産関連のテクノロジーサービスが各企業のロゴとともにカテゴリーごとに配置されており、それぞれの分野でどのような企業が活動しているかが一目でわかるようになっています。

第10版不動産テックカオスマップ

登壇者
不動産テック協会代表理事  巻口 成憲 氏(リーウェイズ株式会社 代表取締役)

同協会代表理事である巻口氏が登壇され、第10版となる不動産テックカオスマップについて世界のトレンドも交えてわかりやすく解説されました。

第10版不動産テックカオスマップの傾向や特徴

第10版不動産テックカオスマップでは全体で499のサービスが登録され、前年の463から増加しています。第9版との差異として特徴的な方針は以下の通りです。

  1. 「物件情報メディア」カテゴリーを削除
  2. 「リフォーム・リノベーション」カテゴリーを削除
  3. 「物件情報」・「メディア+不動産情報」を統合し、新たに「不動産データベース」カテゴリーを作成
  4. リフォーム・リノベーション関連のサービスの一部を「マッチング」カテゴリーに統合

特に注目すべきは「不動産クラウドファンディング」のサービスが81に増えており、前年の60から大幅に成長しています。数が多くなったこともあり「不動産クラウドファンディング」は、本体から切り離し「不動産テックファンディングカオスマップ」が作成されています。

セミナーでは第9版から第10版への変遷におけるポイントが解説されました。

■不動産データベース
第9版での掲載数が16であったのに対し、第10版では59とだんどつの伸び率でした。これは、「物件情報」・「メディア+不動産情報」の統合により再整理されたことが要因のひとつでもあります。

■不動産クラウドファンディング
新規参入とサービス停止の入れ替わりが激しいカテゴリーではあるものの、掲載数69から81へと急激に成長しています。

■業務支援系
業務支援は設計・施工の前工程のものと契約・決済の後工程のものと2つに分類されています。前工程は63から78、後工程は73から81とどちらのサービスも大きく成長しています。

その他、VR/AR、スペースシェアリング、可視化査定カテゴリーの掲載数は微減。ローン・保証カテゴリーは横ばいといった状況です。
「全体の傾向としては成熟し安定したマーケットとして伸びてきているという印象があります。」と語る巻口氏。第10版のカオスマップについて次のように総括されました。

データの重要性が高まっていると思います。大きく4つのカテゴリーで説明します。
「技術的革新とその影響」
生成AIのような新しいサービスと技術的な革新がひとつのブレイクスルーになってきていると思います。今までのデータ分析より一段階上のレイヤーに上がっていった。それによって、データの分析ニーズが高まっていくだろうということで市場分析や顧客行動分析といったものの活用が考えられると思います。
「顧客体験の向上」
データ分析の活用が顧客体験向上に繋がっていきます。今よりも利便性の高い、よりカスタマイズされた顧客対応ができるオンラインプラットフォームの普及により、新しい顧客体験が提供できるようになってきています。
「データ活用とプライバシー」
アメリカと違って日本は個人情報に関して非常に厳しいので、プライバシーの責任といったところもしっかりと管理していくといったところが課題になっています。
「新たなビジネスモデル」
新たなビジネスモデルは出尽くした感があり、新たに生まれにくくなってきているという状況が不動産テック市場にはあると思います。今後は、異なる分野との連携によって差別化を図り、プラットフォームとしての価値を市場に届けることがトレンドになると考えています。
矢野経済研究所の「不動産テック市場に関する調査を実施(2024年)」にもあるように、今後伸びていくことは間違いないですが、どのような伸び方をするかというのが重要なポイントになってくると思います。各社が個別に戦っていると淘汰されたり差別化が難しくなっていくので、より連携が重要になってくるだろうということと、AIの活用やデータの活用がより重要になる時代になってくると思います。

世界の不動産テックのトレンド

アメリカの不動産テック市場では、近年AIやチャットボットなどの先進的なテクノロジーを活用したサービスが多く登場し大きな盛り上がりを見せており、この傾向は日本市場にも波及してくると思われます。また、世界的な不動産テック(PropTech)スタートアップの動向としては、これまで急成長を遂げていた中国の不動産テック市場に減速が見られました。一方で、ヨーロッパとアメリカは継続的な成長をみせています。世界の不動産テック市場は、地域によって多少の差はあるものの全体としては成長を続けており、今後もイノベーションと投資の機会が豊富に存在すると考えられます。
「Impact of the Top 10 Technology Trends & Innovation in 2025」によると、世界の不動産テック市場の中で最も多いサービスはAI関連で26%。次いでVRやARなどのイマーシブテクノロジーが12%となっています。IoT関連のサービスが11%で、3番目に大きなシェアとなっています。上位3つのトレンド(AI、VR/AR、IoT)を見ると、ソフトウェア(AI)とハードウェア(VR/AR、IoT)の組み合わせが重要になっていることがわかります。上位3つを合わせると約50%と全体の半分を占めています。これらはすべてデータを生成し活用するサービスであり、不動産テック業界がデータ駆動型のビジネスモデルにシフトしていることを示しています。
巻口氏は、日米の不動産テックの歴史を振り返りながら今後の傾向について次のようにまとめます。

アメリカの不動産テックはインフォメーション革命から始まりました。今まで消費者が得ることができなかった情報を、素人がインターネットを通じて得られるようになった、情報革命です。そのあとは「シェアリングエコノミー」で、宿泊の体験といったような新しいことができるようになりました。次に「i Buyer」でオンラインで不動産売買ができる、トランザクション革命が起こりました。ファイナンスも付けよう!ということで次いで「Power Buyer」、オーナーシップの革命が起こりました。
今、何が起こっているかというとインフォメーション・トランザクションときたら次は「オペレーション」です。オペレーションにジェネレーティブが加わってコミュニケーション革命が起こっている。というのが今のアメリカ全体のトレンドの流れになります。CAGRでいうとアメリカは、2023年から2032年の予測期間中に16%成長する見込みであると言われています。
日本はアメリカに遅れること10年くらいですね。AIの分析ができるようになってきたところです。ジェネレーティブAIは2009年くらいから出てきましたが、アメリカのマーケットで現実的にサービスが実現できるようになってきたのは2020年以降。日本では去年くらいからインフォメーション革命とトランザクション革命が並行して逆輸入のような感じで起こってきており、そんな中でアメリカと同じようにオペレーションの革命というものが起こっている最中という状況になります。
企業も生成AIを使うようになってきて、そこに蓄積されたデータを上手く利用できるようになってきています。インフォメーションとジェネレーティブを使ったアナリティクスサービスといったようなものが今後出てくるだろうというのが、今の全体の傾向ですね。

生成AIと不動産ビジネスの行方

登壇者
株式会社NTTデータ経営研究所シニアマネージャー  川戸 温志 氏
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/

不動産テック協会の顧問を務められる川戸氏。株式会社NTTデータ経営研究所では、不動産・スマートシティ・小売・物流等のDXやTech系ビジネス、ビッグデータ、AI、ロボットなど最新の技術分野に関わる事業戦略立案、新規事業開発やアライアンス支援等に取り組まれ、“不動産”と“テック”の両面に加え、戦略的視座や他業界視点からコンサルティングをおこなっているとのこと。
今回は、「生成AIと不動産ビジネスの行方」ということで不動産ビジネスを俯瞰した視点でお話くださいました。

生成AIについて

今、ChatGPTに代表される第4次生成AIブームがきているといった状況です。生成AIは「AI」「マシーンランニング」「ニューラルネットワーク」「ディープランニング」といろいろな言い方がされておりますが、生成AIとは何なのか?皆さんも既に把握されているところだと思いますが、教師なしのマシーンラーニングを用いて、テキスト、画像、音声など様々な形式のデータをマルチモーダルにインプット、創造的に新しいコンテンツを生成することができる。これが生成AIということだと思います。
ChatGPTも4.0に至っては既に人間の頭脳を超えるようなところまで来ているのかなと言われています。例えば米国司法試験や米国医師資格試験については正解率90%を超えるということで人間よりも優秀な結果を出しているといったところになります。
世界最大のアクセラレータ Y Combinator で採択されたAI関連スタートアップにおいては、2023年は全体の53.6%。2024年も約50%以上がAI関連となる見込みです。

世界最大のアクセラレータ Y Combinatorのお話はAI分野が急速に成長し、スタートアップの中心的なテーマとして位置づけられていることを示していますが、生成AIを活用していくうえでリスクはないのでしょうか。

有名なのはハルシネーション(無意味または誤った内容が真実であるかのように生成される)というものがありますし、ディープフェイクといった有害利用の問題もあります。あとは、セキュリティのリスクですね。プライバシー侵害、個人情報・機密情報の漏洩といったところがあります。権利に対するリスク、自動的に作られていくものではありますが、元々ある著作権をどう守っていくかといったところが課題となっています。

不動産領域における生成AI

不動産領域において、生成AIがどのように活用されているのか?TRooTech社の調査結果を用いて解説されました。以下、一部抜粋したものを記載いたします。

  • 不動産エージェントの 62% は、生成AIが 3年以内 に不動産に大きな影響を与えると考えている。
  • 生成AIは、タスクの 45% を自動化し、費用を30% 節約する。
  • 自動化により、不動産エージェントの生産性が20% 向上する。
  • 企業の 71% が2年以内に生成AIへの投資を計画している。
  • 生成AI は不動産価値の評価精度を最大 25%向上させる。
  • 企業の76% が、不動産価値の評価精度とマーケット分析が向上すると考えている。

(参考)TRooTech社の調査結果 (https://www.trootech.com/blog/generative-ai-in-real-estate)

不動産領域において、生成AIがどのようなシーンで活用されているのかについて考えてみました。生成AI活用の方向性としては〔用地取得〕〔企画開発〕〔建設・施工〕〔売買・賃貸〕〔管理〕に分けられると思いますが、例えば〔用地取得〕〔企画開発〕〔建設・施工〕では社内での資料検索や情報収集といったところでChatGPT等を使っているのかなと思います。価格の推定・予測等マーケットデータ分析では生成AIを使っているか分かりませんが、昔からAIが使われている領域かと思います。建築プラン、ゾーニング、空間デザインは最近ホットな分野で、画像生成を使うようになってきた領域かと思います。どの分野でも共通して使われているものとしては、契約書等書類作成・書類チェック・書類管理でもAIが活用されています。
不動産領域としては仲介の領域から盛り上がってきたといった背景もありますので、よく使われているところで、〔売買・賃貸〕のリード顧客の生成・育成ではパーソナライズされたメールの自動作成やお客様管理といったところで生成AIが活用されています。物件情報掲載支援では画像にキャッシュを付けたり画像から物件の特徴を読み取ってテキストを付けるといった使い方をされています。顧客・住人の対応支援では主にチャットボットがよく使われています。〔管理〕においてはニーズ・インサイトの分析やパーソナライズドコンテンツといったところで利用されていますが、どちらかといえば通常のAIが活用されていると思います。

生成AIが広く普及・浸透することによる変化

ここまで生成AIと現状についてのお話でしたが、未来はどのようになっていくのでしょうか。生成AIが広く普及・浸透することで業務はどのように変化していくのか?川戸氏は3つのポイントからお話くださいました。

■社会の変化
今後、生成AIが広く普及・浸透すると業務レベルでは何が変わるのか?というと大きく3つ変わると言えると思います。
一つ目は、自分たちが手を動かしてやってきた作業が、今後は(AIが)アウトプットしたデータを利用し編集・監督する仕事の仕方に変わっていくと思います。メール・議事録・イラスト等、自分たちで作成してきたものが自動的にアウトプットされてくるようになり、それをチェックして出力・編集するというような仕事の仕方ですね。知見のある人を集めたブレスト・アイデアの壁打ちもAIがやってくれるようになります。
二つ目は、これまでのIT化ではルーティンワーク業務が効率化されるといったものでしたが、これからは非定型な仕事も効率化していくようになります。
三つ目は、初めて業務をやる人のハードルが下がり、立ち上がりが早くなります。これまで業務を行うには何かしらの専門的な知識やノウハウが必要とされてきましたが、そこも生成AIを活用するとそこまで知識を身につけていなくても人並み程度の仕事がこなせるようになります。レベルアップも同様で覚え方が変わってくるので、当然業務スピードも上がっていきます。会社もトライ&エラーがしやすくなり、未知の分野・業務への新規参入がしやすくなっていきます。
■不動産ビジネスの環境変化
不動産ビジネスとしては大きく4つ変わっていくと思います。

  1. ビジネスライフサイクルの短縮化・スピード化です。これは前述した通りとなります。
  2. 品質の底上げ、同質化・コモディティ化し、各社のサービス品質・レベルが一定化するようになってくると思います。
  3. パーソナライゼーションの進展ということで、AIが自動的にお客様に合わせた高度なパーソナライズをするようになります。自動化により手が空くため、その空いた時間をどう活用していくのかが重要になってくると思います。ある意味で時代の需要が逆行し、Face to Faceでの丁寧な接客やコミュニケーション品質の向上といったところが求められるようになると思います。
  4. データの重要性が高まり各社がデータを集めるようになるので、「自社だけが持つデータ」の価値がいっそう高まっていくようになります。

■生成AIが広く普及・浸透する世界における不動産ビジネスの勝ち筋
MITのアーノルド教授らによって提唱された企業の戦略策定のためのフレームワーク「デルタモデル」というものがあり、これは主に3つの戦略が柱となっています。

  1. ベストプラクティス
  2. トータルカスタマーリレーション
  3. システム・ロックイン

先ほど「不動産ビジネスの環境変化」で挙げた4つの変化が、このデルタモデルへどのように影響するのか。

  1. ベストプラクティスにおいて、ビジネスライフサイクルが短縮化・スピード化されてくると思います。不動産は足の長いビジネスモデルで、高額な商品が特徴ですが、ここのサイクルが短くなっていきテックやAIをフルに使うと提供スピードの優位性が一種の武器になってくると思います。
  2. トータルカスタマーリレーションにおいては、生成AIによって大部分の業務が自動化されるため、空いた時間で人間は何をしますか?という話になってきます。お客様対応、ホスピタリティが重要となり、ある意味では街の不動産屋さんが復権するといったようなことになるかもしれません。
  3. システム・ロックインではデータカンパニーへの傾倒が進んでくると思います。今まではデータベースの中にテキストや数字データしかなかったと思いますが、これからは音声・画像・動画・センサーデータといった様々なデータを持つことが強みになってきます。

生成AIにおける一番の問題は、色々なサービスが同質化・コモディティ化してしまうことで、差別化をどうしていくかといったところになっていきます。どのような差別化があるのか考えてみたのですが、模倣が困難な「ビジネスモデルの独自性」、生成AIでは作れない「デザインの独自性」、信用・信頼といった「ブランドの独自性」、人間らしい温かみや優しさといった「ホスピタリティの独自性」が挙げられるかと思います。
つまり、生成AIによって品質の底上げ、同質化・コモディティ化が加速する世界における差別化の要素は「目に見えないもの(非データ要素)」となり、それが今後の勝負の分かれ道になってくるのではないかと考えています。

パネルディスカッション

登壇者(写真左から)
株式会社NTTデータ経営研究所シニアマネージャー  川戸 温志 氏
不動産テック協会代表理事  滝沢 潔 氏(株式会社ライナフ 代表取締役)
不動産テック協会理事  浅海 剛 氏(株式会社コラビット 代表取締役社長)
司会:不動産テック協会代表理事  巻口 成憲 氏(リーウェイズ株式会社 代表取締役)

 

不動産テックカオスマップを見て、2024年はどんな状況だったと振り返りますか?

浅海氏:私は業務支援の領域を担当したのですが、不動産は多種多様な領域があり新規サービスも含めて数としては増えております。

滝沢氏:クラウドファンディングですが、新規サービスを始めたと聞くことも増え非常に盛況なんだなと思う反面、危うさも感じています。クラウドファンディングは本来お金を集めて不動産の利回り収益を分配するという発想が健全かと思うのですが、今は土地の値段が上がってきているせいもあって土地の仕入れ転売、土地ころがしのためにクラウドファンディングが使われているケースも出て来ています。クラウドファンディングの基準である利回り3〜4%くらいというのが、1〜2年後には上がっていると思うんです。消費者も儲かるのでお金が集まりやすくなっていますが、不動産価格が下がりはじめたら…何の事故もなくいくのかなと。大量の訴訟と信用失墜のようなものが起きるのではないか。「いつか来た道」を思わせる感じがします。

巻口氏:そのために不動産クラウドファンディング協会でもちゃんとチェックをして不動産クラウドファンディングデータベースというものを発表しています。「いつか来た道」にならないように協会としても活動をしています。

川戸氏:普段大手企業のコンサルティングをしていて感じるところは、業務支援領域のサービスが各社当たり前のように入ってくるようになったという点です。一方で、色々なサービスを導入するものの、違う企業のサービスなので一気通貫ではないというところが新たな課題として出て来ています。

差別化の方向性としていかにデータを活用していくかが焦点となりますが、データ整備が十分ではない日本の現状でどうすればデータ連携をはかっていけると思いますか?

浅海氏:公共機関が持っているデータが表に出るようになってきて、ベースは少しずつ整ってきていると思います。川戸さんが仰っていたサービスの分断というのは企業側のデータの問題ですが、連携を企業間で行うのかユーザー側で行うのか。そこを連携させるサービスというのもこれから出てきそうだなと思っています。

巻口氏:領域ごとにデータの使い方は違うと思うのですが、BtoB・BtoC両方のビジネスをやられている滝沢さんは、その点どのようにお考えですか?

滝沢氏:データの価値が飛躍的に上がるのは外部データと組み合わせるところですが、ほとんど出来ていないのが現状です。一番の原因は不動産(住所)の表記揺れが大きいところだろうと思っています。例えば、不動産属性のデータと消費のデータ、他事業のデータを上手くかけ合わせることで新しい価値が出てくるだろうと思っています。

川戸氏:不動産データとそこに住んでいるお客様のデータを紐づけて管理すると新しい価値が生まれるいうのは前から叫ばれていますが、実際は進んでいない。理由としては、社内のお客様データがしっかり管理できていない。不動産情報ライブラリなど公的データも整ってきていますが、社内のデータと連携する口というものもない。そこをやりきる体力や社内調整といったところのヴィジョンが描けていないのかなと思います。コンサルティングをしていく中で推進を呼びかけてはいますが、企業ごとに事情もありなかなか突破できていないのが現状です。

不動産情報ライブラリや全国道路基盤地図等データベースなど行政も色々な取り組みを行っていますが、行政に対して感じていることやご意見はありますか?

川戸氏:客観的に見て、昔と比べてかなり頑張っていると思います。不動産情報ライブラリやPLATEAUなど使えるものを出してくれて、いよいよスタートラインに立ってきたなという印象です。あとは、皆さんがいかに使っていくかということろかなと思っております。

滝沢氏:不動産IDの話でいうと、はじめ謄本の不動産番号を基にIDを付けようと方針を決めて走ってみて、これではダメだと結論が出た後に日本郵便の保有する不動産IDを利用してリリースをしました。方針転換をしたな!というのがすごく印象的でした。不動産情報ライブラリに関してもAPIのアクセス数やダウンロード数、ユーザーの使い方などをチェックしていて、テック企業っぽい見方で、そのプロジェクトが国民に喜ばれているのかを気にしているというお話をされていたので、素晴らしいなと思いました。一方で、PLATEAUが一部の都市だけでなかなか進んでいないんです。なぜかというと、1市区町村をPLATEAUで3Dモデル化するのに数百万かかるらしいのですが、希望した市区町村が予算を付けて実施しています。市区町村が挙手しない限り、モデル化していないとのことなので、国としてデジタルにかける予算の思い切りみたいなところで諸外国に比べてまだまだ足りないのだと思います。

浅海氏:石の上にも三年。というように、デジタルの上にも3年。ようやく温まってきたところなので、これからもっと良くなっていくのだろうと信じています!

不動産テック市場は来年・数年後どのようになっていくと思いますか?

浅海氏:これから数年、私が担当している業務支援の領域でもかなり数が増えると思います。新規も増えるでしょうし、細分化もされていき数多のサービスが世の中に出てくると思います。

巻口氏:連携の部分は進まなそうですか?

浅海氏:正直、連携は進まないと思っています。各社が制覇したいと思っているので他の会社と組むというのはレアなケースになるのかなと思います。

滝沢氏:クラウドファンディングでいうと不動産価格はまだ上がっているので、もっと増えていくだろうという気がしています。来年、業務支援系の数が増えるというよりは使っていく企業が増えていくだろうと思っています。一方で、内覧予約などは東京ではすごく普及しましたが今でも地方では内覧予約が不要で、仲介さんが見たい時に勝手に見るというカルチャーは変わっていません。文化が変わるには時間がかかるのだなと思いました。

川戸氏:あるサービスとあるサービスが組み合わさり新しいサービスが生まれるということが今後も増えていくのだろうということと、純粋な不動産領域(仲介やテック)以外の不動産テック系のサービスが増えて来ているのを実感として感じています。

巻口氏:不動産テックマーケットが拡大している中で色々なサービスが出て来ているというのが今の不動産テック市場です。伸びている中で生き残っていく必要があります。今、一番課題となっているのがデータマネジメントの整理といったところになるだろう、というのが今回のパネルディスカッションの結論になるかなと思います。

まとめ

第10版不動産テックカオスマップの発表をもとに、今後の不動産テック市場についての予想について語られました。生成AIといった技術の発展もさることながら不動産情報ライブラリやPLATEAUに代表されるように公的機関のデータ公開も行われるようになり、不動産テック業界は成長の一途をたどっています。同時に、ハルシネーション・プライバシー侵害・セキュリティなど解決すべき課題があります。新しいサービスが続々と生まれて市場は活発化していきますが、サービスのコモディティ化も進んでいきます。今後の生き残りを考えるとき、必要となるのは原点に立ち返った「人間らしさ」となるのかもしれません。

関連情報

│不動産カオスマップ(不動産テック協会)
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/

│株式会社NTTデータ経営研究所
https://www.mlit.go.jp/plateau/

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