譲渡担保についてわかりやすく解説|質権・抵当権との違い

投稿日 : 2022年07月28日/更新日 : 2023年04月10日

譲渡担保の権利書

債権者からお金を借りる際、返済を保証するために何らかの「担保」が求められることが一般的です。

万が一、返済ができない状態になった場合、債権者は担保を換金することで債権を回収します。担保に関する権利としては「抵当権」「質権」のほか、「譲渡担保」も利用可能です。

そこで今回は不動産に関する「譲渡担保」について解説します。

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譲渡担保とは

譲渡担保とは

 

譲渡担保とは、債権者が保有する物(動産または不動産)を債務者から債権者に譲渡し、債務を全額弁済すると同時に債権者から担保を買い戻せる制度のことです。

所有権が債権者に移るものの、占有権は債務者に残すことができます。担保に入っている期間、担保になっているものを債権者から債務者に賃貸も可能です。

ただし、債務が弁済されない場合は担保が債権者に譲渡されます。

有効に利用できるケースは、「お金では弁済できないが、それ以外の不動産は持っている」といった場合です。

債権者と債務者の間で、とりあえず担保として債権者に譲渡するという形をとり、約束した日までに弁済できれば債務者が所有権を買い戻すことができます。

そもそも「担保」とは何か

「担保」とはお金を返せなくなった場合に備えて、代わりに渡す物のことです。金銭による返済ができないときは、返済にかえて債権者に権利や物を渡すことで弁済が行われます。

ひとくちに担保といっても物的担保・人的担保の2種類に分かれます。人的担保は保証人や連帯保証人など、申込者本人が返済不能になった場合に代わりに返済する人のことです。

物的担保は返済を保証できる物のことで、返済できない時はその物を換金することで債務を返済します。

担保は物的担保を指すことが一般的で、今回紹介する譲渡担保も物的担保の一種です。

不動産も譲渡担保の目的物

譲渡担保の目的物は大きく分けて「動産」「不動産」「債権・財産権」に分かれています。

不動産は質権や抵当権でも目的物にできますが、質権や抵当権を実行するためには民事執行法に則った煩雑な手続きが必要です。

質権・抵当権では手間がかかる分を加味して価格を低く見積もりされることがあります。

一方、譲渡担保では担保を売却する際に法的な手続きは必要ありません。

譲渡担保を設定するメリット

メリット

ここでは、譲渡担保ならではのメリットとして、以下の2つを紹介します。

  • 債務者のメリット:担保物をそのまま利用できること
  • 債権者のメリット:私的実行ができること

債務者のメリット:担保物をそのまま利用できること

債務者のメリットは、担保を債権者に渡す必要がないことです。

譲渡担保契約を交わした債務者は担保の所有権を債権者に譲渡することになりますが、担保物を従来のように使い続けることができます。

債権者のメリット:私的実行ができること

債権者にとってのメリットは、「私的実行が可能である」ということです。

抵当権・質権などの法的担保では担保権を実行する際に裁判所が関与する手続きが必要です。契約者同士で自由に行うことができないうえ、少なくない費用も発生します。

一方、譲渡担保は非典型担保とされていて、民法でこれといった決まりがありません。判例や実務上の慣習的に認められているため、裁判所を介さずに担保権を実行できます(私的実行)。

法的担保と比較して、債権者にとって有利な性質を持っているといえるでしょう。

譲渡担保と抵当権の違い

抵当権 ローン

担保権のうち、譲渡担保と抵当権の違いをまとめると以下のとおりです。

譲渡担保 抵当権
所有者 債権者 債務者
占有権者 債務者 債務者
対象 不動産・動産・債権など

※およそ譲渡可能なものなら何でも可能

不動産
担保権実行 私的実行が可能 法律の定めに従い、裁判所を介した競売手続きが必要

抵当権とは債権者が住宅ローンなどで融資を行う際に、債務者の不動産に設定する権利のことです。

債務者が返済できなくなった場合は、債権者が担保として設定した不動産をもって弁済を受ける権利があります。抵当権を設定した不動産が返済のために競売にかかる場合、抵当権者はほかの債権者に優先して弁済を受けることができます。

抵当権は所有権も占有権も債務者が持ち続ける点が特徴です。一方、譲渡担保は債務者が使用を続けられる点は同じですが、譲渡担保では所有権が債権者に移る点で異なります。

また万が一、債務者が返済できなくなったケースでの担保権の実行について、譲渡担保は私的実行が可能です。

譲渡担保契約の注意点

所有権は移っても現物を債務者の手元に残せることは譲渡担保ならではのメリットです。しかし、「手元に残せる」という点が新たなトラブルを生む可能性もあります。

ここでは譲渡担保契約を行う前に知っておきたい注意点を解説します。

  • 債務者が担保を譲渡する可能性がある
  • ほかの債権者が担保を差し押さえてしまう可能性がある

債務者が担保を譲渡する可能性がある

譲渡担保は所有権が債権者に渡る一方で担保はそのまま利用し続けることができますが、債権者が債務者の担保をずっと監視することは不可能です。

目を離しているあいだに債務者が第三者に担保を譲渡したり、第三者に重ねての譲渡担保設定をしてしまったりする可能性もゼロではありません。

第三者が担保を譲渡するようなケースに備えて、債権者は譲渡担保契約と同時にすでに担保設定がなされたことを公示する「対抗要件」の手続きを行わなければいけません。

不動産であれば対抗要件は「登記」です。譲渡担保保存登記もありますが、債務の存在が登記で周囲に知られてしまうことから、一般的に所有権移転登記で行われます。

ほかの債権者が担保を差し押さえてしまう可能性がある

ほかの債権者がいた場合、譲渡担保契約で担保に設定された物について差押手続きが行われる可能性もあります。

差し押さえられた場合も登記で対抗要件を備えておくことで取り戻すことができます。

まとめ

今回は不動産に関する「譲渡担保」について、特徴やほかの担保権との違いを解説しました。

譲渡担保は「所有権は債権者に移る」「債務者は引き続き担保を持ち続けられる」という点が特徴です。

債務者にとっては担保を手元に残せる点がメリットであり、債権者にとっては万が一返済がされなかった際に私的実行が可能な点でメリットがあります。

この機会に譲渡担保の特徴や抵当権との違いを把握し、不動産取引に活かしてみてください。

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この記事の監修者
小林 紀雄
住宅ローンの窓口株式会社代表取締役・iYell株式会社取締役兼執行役員
2008年にハウスメーカーに入社し営業に従事。2010年からSBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)に入社し、累計1,500件以上の融資実績を残し、複数の支店の支店長としてマネジメントを歴任。2016年にiYell株式会社を共同創業し、採用や住宅ローン事業開発を主導。2020年に取締役に就任し、住宅ローンテック事業の事業責任者としてクラウド型住宅ローン業務支援システム「いえーる ダンドリ」を推進し事業成長に寄与。